【第6章2】事実
『・・・そうだ。今日はお前に真実を教えに来た』
レギオスはまた姿を消した。リオンは動く限り辺りをみたが白く無限に続く世界が広がっているだけだ。
『真実だと・・・?それは、俺がコントローラーっていう・・・・・・?』
『お前もそのうち気づくだろう。自分自身のではない力が疼くのに。お前は二人月の天使と悪魔の間にいる絶対的巨大な力の操り手、調節者だ』
リオンはぴくりと眉を動かした。
二人月とは何か――――――?それはジアスから伝えられた時に必死に考えるのを抑え付けていた問いだ。
(ジアスの言っていたパロネのいっていたことは本当だったんだ・・・。だが、エンジェルとデーモン?)
『二人月とは何のことだ?天使と悪魔?俺になぜそれを教える?』
『教えるのはまたの機会でいいだろう。今度会うのは年末だな』
『はっ?どうやったら皇帝のお前と会うことなんか・・・』
『年が明けるまでに我がヴェルターラ城へ来い。さもなければ・・・・・・』
白い世界に低く暗く不気味な声が響く。
『リーディアの平和は保障できないぜ?』
最後の言葉と共に笑い声が反響し、気がついた。
<どうかしました?十五代目?>
「えっ?」
今度は気絶していなかったらしい。目がちかちかしてあまり色が識別しにくい。
「えっと・・・ああ。消しておかなきゃ。アドル 消えよ」
並べられた遺体は音もなくかすかな残像を残して消えた。リオンはホールのカーテンと窓を開けた。
窓から入ってきた光でまた目がちかちかし、慣れるまで何があるか分からなかった。部屋の隅に置かれた物に気づくとすぐさま駆けつけた。
「先生っ!?」
その体を抱き起こした。穏やかな日の光に照らされた顔は微かに微笑んでおり、頬にはうっすらと涙の痕があった。リオンはジワリと瞳に涙をにじませた。
そのときバロシオンの鋭い声が飛んできた。
<十五代目っ!床が光ってます!>
「くそっ!」
リオンは彼女の体を担ぎ上げると、大きく跳躍して入口まで戻ろうとしたが見えない壁にぶつかってしまった。
「発動し始めてるぞ、これ?誰がこれを仕掛けたんだよ?!」
*
「村人、でしたよね?」
「えっ!?」
突然背後で声がしたのでとびきり驚いて反応が遅れた。声をかけてきたのは先程まで遠くからジアスを観察していたエゴーシスだった。
「このような地震はよくあるのですか?・・・訳知り顔のようだったようにわたしには思えたものですから」
「今の・・・・・・地震ですか?初めてですよ。地面が揺れるというよりも、体が揺さぶられている感覚でしたがこれが地震というのですか?」
ジアスは少し話題をずらした。それを内心で気づいたエゴーシスは片方の眉を吊り上げて見せた。ジアスはふと村人を広場に集めなくてはならないことに気づいた。
(そういえば。そうだったけ・・・なんだかんだで忘れかけてた。シェイさんに一応頼んであるけど、誰も移動したようには見えない。今の衝撃を利用して・・・うん、そのほうが効率いいな)
と、勝手にやる事を少し変える考えに至った。
「あの、さっきのは地震なんですか?!本当に?」
ジアスは目の色を変えてエゴーシスに詰め寄った。
「地元の方が分からないならどうしようもないが・・・」
ジアスはエゴーシスの言葉を無視し、また言った。
「地震なら皆を避難させなきゃ・・・。そうだ!避難と葬儀をいっぺんにやれば、安全に且つ楽に終わりますね」
ジアスはそして、大きく息を吸って人家周辺に声を張り上げた。
「皆さーん!!聞きたい事が・・・山程あると思うけど、後で全部説明するのでっ、広場に集まってくださーいっ!」
ある人家の中・・・。あの衝撃は村の中心部から離れていても十分に伝わっていた。例え、魔法に触れた事のないものも、魔法の存在を頑なに否定している者も、魔法を伝説のように感じている者も。
「今の・・・何かしら?地震?」
「子供の頃からここに住んでいるが、地震なんて起こったこと無いぞ?」
「そうねぇ。じゃあなんなのかしら・・・」
そのとき外から大声が聞こえる。
『皆さーん!!聞きたい事が・・・山程あると思うけど、後で全部説明するのでっ、広場に集まってくださーいっ!』
家の中に居た2人の夫婦は顔をはっと上げた。
「あの子の声だわっ!?」
「どうしてこんな時に・・・!?」
「聞く為には、広場に行かなければならないわよ、あなた。それに行けばさっきの揺れが何か分かるかもしれませんよ」
「むう・・・。まあ、いくか。メリッサ」
*
「おーいっ!大丈夫か、シェイ」
「・・・ああ、なんとか」
シェイは自力で起きると周りを見渡した。広場に血塗られた剣と、地面にうつぶせに倒れて毒々しい赤いモノがじわじわと広がっているアルファスの姿を見つけると不思議そうに首をかしげた。
「アレは一体何方が?」
「「えっ」」
その場に居た護衛の兵や特攻部隊隊員は驚きの声を上げた。
地面に座り込んでいたリブシアはゆっくりと立ち上がった。顔は伏せたままだったが、はっきりと言った。
「シェイさんはそのショックのせいで自分が『殺した』ということは忘れてしまうんですよ。毎回ね」
「俺が『殺した』だって?」
「気にしないで下さい。もう・・・・・・いいです」
「あっ!そうだ、みんなをここに集めなきゃいけないんだっけ」
「集める?」
「ああ!リブシアには話してなかったか」
『はい、そうです。彼は・・・かなりの魔法を放ったと思われます』
ウェナは集まりから離れた所でちらちらとそのほうを見やりながら頭の中で呟いた。すると違う声が響く。
『・・・・・・それはこちらでも確認済みだ。ついでに報告もな。他に何かあるか』
『はい・・・・・・えっと、彼の友人でしょう・・・シェイという者は自分が殺した記憶を忘れるそうです』
『フフッ・・・・・・』
『あの?どうかされたんですか。エンドラー様?ご報告する度、お笑いになるので気になって・・・』
『黙れ、操り人形め。無駄なことは一切口にするな。お前はただ従えばいい。無駄なことを知ろうとするならば、すぐさま斬り捨ててやろう。代わりなど幾らでもいる』
『もっ申し訳有りません・・・』
彼女の本当の名は『操り人形108』。ある強力な精霊魔術師が呼び出した精霊を人間の姿として一般人にも見えるようにした、精霊だ。この姿で人間でいう致命傷をくらったならば人間と同じ傷を受ける。姿は人間で肉体も人間のようになり、思考のみが精霊自身のものとなる。
(なぜ私が操り人形となどと呼ばれなくてはならないのだ?全ての元凶はあやつ・・・。紅き髪の精霊魔術師のせいぞ。そもそも、有限の命しか持たない者に罵声を浴びせられるとは何事か!?)
「・・・そうなんですか?でも僕はビルからジアスを追えって言われたんですけど」
「そうなのか?じゃあ・・・協会へ行きつつ村人をこっちに来させてくれ。あと、そっちの方向に住んでる奴らを反対側へ向かわせてくれるか?」
「分かりました。それと・・・・・・」
「なんだ?」
リブシアはあまり目をそのほうに向けないように顎をしゃくった。
「一応、僕の父さんなんで・・・皆が来る前に埋めておいて貰えますか」
「わかった。それは俺達隊員がやろう」
ヒアが口をはさんだ。
「有り難う御座います」
リブシアはぺこりと頭を下げると足早に協会の方向へ続く道を行った。
*
「あっ?!」
彼女は何かにひかれたようにばっと振り返った。けれどそこに見えるのは何の変哲もない人混みだけ。
(何か落としたのかしら?)
と、彼女レベッカは懐やポケットなどものを入れていた所をまさぐりはじめた。市場の人通りのいい・・・というより激しい交差点のど真ん中で立っているレベッカは大変な迷惑の種となった。周りの視線も気にせずに、レベッカはふと首から提げていた質素で小さなペンダントを手に取った。彼女の瞳と同じ色の緑色の宝石に縁取られた金細工にひびが入っている。もっとよく見ようとそれを顔に近づけた途端ひびが細工全体に入り、割れてしまった。宝石がペンダントからはずれ手のひらの上でコロンと転がった。
(このペンダント、結構気に入ってたんだけどな・・・)
そのペンダントは彼女の大切な人から送られたものだった。それゆえ、貰った日から肌身離さず大切にし仕事の邪魔になってもならなくても身につけていた。この宝石を見つめていると血の繋がった家族が脳裏に蘇える。
(リブシア、父さん・・・。仕事上会いにいけないって訳じゃないし・・・・・・会いに行こうかな)
レベッカは密かに決意し、仕事仲間の溜まり場へと向かう。それは真昼間から開いている酒場『銛突き』の隅のテーブル。
「よお、ベカ。依頼、受けに来たのか?」
レベッカは仕事仲間にはベカと名乗っていた。
「ううん・・・ちょっと少しだけ休業しようかな~って思ってさ、皆に挨拶よ」
「休業!?最近あたりがいいって言ってたのに?」
「うん・・・。ちょっと家族の顔が見たくなっちゃって」
「そうか、でも足洗うって訳じゃないよな?」
仲間の一人がジッとレベッカの目を見つめた。
「違うよ?だってこの仕事、楽しいもの。やめたくなんかないわ。しばらくここを離れるだけよ」
「なら、いい。だがなるべく早く戻ってこいよ」
「ええ、わかってるわ。・・・じゃあ、みんな行って来るから」
お読み頂き有り難う御座いました。年末は執筆もする・・・でしょうが更新は来年となります。夏の終わりに突然現れた新参者(ww)ですがここを読んでいただいているというのは↑ここまで読んだという意味ですよね?
約4ヶ月、この場で書かせていただき、皆様に読んでいただき、有り難う御座いました。来年も続けていきたいと思っておりますので、その際はどうぞ宜しく御願いします。それでは、リーディアはまだ年が明けませんがww、良いお年をお過ごしくださいませ。12/30午後11時前