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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
第五章 兄妹
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【第5章】兄妹

【第4章10】魔法講座 下のあらすじで予告しましたように、リオンたちではない登場人物が現れます。(もしいるのならですが;)リオン等のファン(本当にいるのですかね?)の皆さま、5章が続く間ちらりとしか出ませんのであしからず。

しかし、5章は短い・・・と思います。ではお楽しみくださいませ。

 ヒーディオン国北東部、魔法王国ネイロの国境付近。大陸中をまわる旅芸人の団体がテントを張り、野宿の準備をしていた。小さなテントの一つから、銀色の髪を後ろで軽く束ねた少女が出てきた。彼女の名はルテーナ・ダジリス。ルテーナは向こうの山に沈んでいく赤い夕日を見ていた。

(あと・・・12回日が沈んで、11回日が昇れば年が明けるわ。年を越す為に色々と忙しいこの時期におばば様はなんの御用かしら?)

ルテーナが呼ぶ、おばば様とはこの旅芸人の団体の中で最も古株のオゥンのことだ。オゥンは老いているも、魔術師ウィザードとしての勤めや予知能力に優れていたので団長にもたよりにされていた。きっとこの時期に呼ばれるのは何かの予知のせいだろう。

ルテーナはオゥンが使っている大きめのテントの垂れ布を持ち上げながら入った。

「失礼します、おばば様。ルテーナ・ダジリスです」

「ルテーナ!おばば様ではなくオゥン様とお呼びしろ」

その声にぎくりとした。ルテーナは呼び出されたのが自分だけだと思っていたからだ。テントの中を見渡すとテントの奥の中央にオゥン、その手前に団長、その斜め手前両方に団員が2人、いたのだ。

「だ、団長まで呼ばれていたのですか?」

「そうじゃ。わしが呼んだのだ。ルテーナ」

ルテーナはハッとしてその場にかたひざをついた。

「遅れてしまい申し訳有りませんでした。お・・・オゥン様」

「うむ、こちらへ近こう寄れ」

オゥンは自分の隣に来るよう手招きした。

「はっはい」

腰を上げてオゥンの隣に行った。此処からは団長や団員の顔が良く見える。テントの天井につるされたランプのオレンジの光を受けて彼らの顔や服がオレンジ色に見えた。

「して団長。もう年が明けてしまうまで、此処は離れてはいかん。離れようならば大きな災厄に引き合わされん」

「オゥン様の仰せのままに」

団長は返事をするとそれを他の団員に伝えるべくテントを出た。団員2人がスッと前に出る。

「してエンヴィ、コルド。お主らは伴侶と2週間分の食料を持って団を出よ。年が明けるまで団に戻ってはならぬ。さすれば子が授かるであろう」

「喜んでそうさせて頂きます」

「有り難う御座います、オゥン様」

エンヴィとコルドという男達は喜びに顔を火照らせテントを出て行った。


 「してルテーナ。もうすぐこの付近に旅人が現れん。そ奴らが来るまでにお前を本当の魔術師ウィザードにせねばならん。そ奴らが来るのは今日を数えず、日が空を2回駆けたらじゃ。2日でお前を魔術師ウィザードにす。明日の夜明けにまた此処へ。あとポルディノに伝えよ、2日後までに旅の準備をせよと」

(?どうして兄様に旅の用意なんかさせるのかしら・・・・・・。それに兄様をここに呼べば伝言を伝える事もないのに?)

思いは心の中だけに留めておいた。

「はい。分かりました、オゥン様」

それが悟られぬよう、曖昧に微笑むとルテーナは立ち上がってオゥンのテントを出た。

しばらくテントの中に居ただけなのに外の空気が新鮮に感じられる。大きく息を吸って口から吐いた。

「よしっ」

ひとりごとのように呟くと足取り軽く、テントが並ぶ辺りへ足が進んだ。


 ポルディノはルテーナの4歳年上で18歳の兄だ。容姿的に似ているのは肌の色くらいのものだが、雰囲気が良く似ていた。彼は他の団員と一緒にテントを使っていた。なので男の団員に声をかけた。

「あのぅ、すみません」

「ん?なんだいルテーナちゃん」

「ちゃんづけしないでくださいよっ。恥ずかしいですから。兄様はどこにいるか知ってますか」

ルテーナは白い肌をほんのりと赤く染めた。ちゃんづけされることを恥ずかしがっているのだ。

「テントだろ」

「ありがとうございます」

にこやかに笑って頭を下げると、目的のテントへ向かった。

(よかった。お客さんへの宣伝で居ない事が多いから。まあ、こんな国境の近くじゃあんまり人は入らないだろうし、お・・・じゃなくて・・・・・・オゥン様が言ったようにここを年明けまで動かないのなら、きっといるだろうと思ったけどね)

彼女や団員が所属するこの集まり、旅芸団『青鷺団』で様々な人が助け合って、働きあって暮らしを支えている。ダジリス兄妹きょうだいはとても幼い頃から居たのだが、それぞれの仕事は違っていた。ルテーナは魔力の度合いが濃く、幼い頃から大量の魔力が体外に出ていた。そのため、物心がつくとオゥンのもとで魔法の技と才能を磨き、見せ物ようの魔法が自由に扱えるようになると『青の鷺団』で『ちびっこ魔法少女ルテナ』として客に披露した。ポルディノは、(いまのところ)魔力が体外に出ていないし、小さい頃からあまり集中力がなく小柄だったため芸人としての仕事は与えられなかった。しかし、口が上手く相手の心理を透き通して視える・・・かのように振舞う為、客集めや宣伝を仕事として与えられていた。また、しばらくの間客を集めたり呼び込んだりする必要がなくなると、(本人はあくまで)趣味として弓を使って食料を調達したりしていた。

「あの、兄様いますか?」

ルテーナはポルディノと同じテントを使っている団員を見つけて捕まえて聞いてみた。すると、

「え?ポルディノ?そういえばさっき弓と矢筒もってテントから出て行ったよ」

「え、ああ。また行ったんですね。有り難う御座いました」


                           *


 ポルディノは矢筒に残った最後の矢を弓につがえ、宙に目標を決めると手を離した。

ぴゅうっと矢が狙い通りに飛んでいく。

「よしっ」

どことなく呟いて、小さくガッツポーズをとる。

すると、向こう側の木立が少ない辺りから、ポウッと暖かな光が現れた。その光はところどころ止まって上下しながら近づいてくる。

(あれは・・・・・・ルテーナだ。あれ?もう日が沈んでいる――――)

空を見上げながら思うと、落ちた矢を拾いに光のほうへ向かった。

一本の矢を拾うごとに矢筒に入れていくと、拾う事に集中してルテーナの存在を忘れていた。

次の矢を拾おうとポルディノが手を伸ばすとそれよりも早く矢は誰かに取られた。

「あっ・・・・・・・」

その矢を取ったのはルテーナだった。ルテーナはクスリと笑うと彼女が集めた矢をポルディノに渡した。

「兄様?ランプも持たずに弓の練習なんてやめてっていったのにね」

「そういうルテーナこそ、僕に‘様’をつけないでっていったのに変わらないね」

ポルディノは矢を全て矢筒に収めると、にこりとルテーナに笑いかけた。それにルテーナは気づくと、同じように笑みを浮かべてポルディノの手を取って握った。ポルディノは手が握られるのを感じるとぱっとルテーナの顔を見たが、ルテーナはさっきと変わらぬ笑顔だった。そこにいっぺんの不安や迷いのない笑みを見つけると、ため息をついて声をあげて笑い始めた。ルテーナもそれにつられて笑い始めた。

 笑い声がかすれて咳が出てくると、さすがに笑うのをやめた。兄妹はお互いの顔を見合わせた。

「ケホッ・・・あ゛、あ゛、あ。どうしたの?ルテーナ、いつもだったらもう少し遅い時間に来るだろう?」

「ん゛、ん。オゥン様から兄様に伝言を頼まれたの。2日後に旅人がこの辺りに現れるから、それまでに旅の用意をしときなさいだって。きっとその旅人と旅に行けって事かもね」

「旅?!どれくらい放浪する事になるのか聞いているか?」

「いいえ・・・。具体的なことは何も聞いてないわ」

「そう。でも、それだと準備のしようがないんだけど・・・・・・」

会話が途切れた。2人はとてつもなく長い距離を離れた事がなかった。せいぜい、ポルディノが街へ行っていて、ルテーナがそこと反対側にある森林にいた、ぐらいのものだ。ポルディノが旅に出るとなれば、かなり長い事、かなりの距離でひとりなのだろう。

「ねぇ・・・・・・兄様。これまで私たち兄妹はあんまり離れたことなかったよね」

「うん。そうだね・・・・・・。どうなるんだろうね。長いことルテーナに会えなかったら、僕は僕を忘れてしまうかもしれないね」

「そんなことになって欲しくないわ。兄様に会えなかったら、私は私を忘れるなんて・・・。兄様、それは例えなのでしょうけど私は怖いわ。1人が自分を忘れるよりも、1人きりになってしまうことが怖いの」

ポルディノはルテーナのつやつやとした銀色の髪をなでながら言った。

「僕もだよ。君が居なくなるのはきっと耐えられないよ。でも、僕が死んでルテーナが1人きりになってしまうことのほうが耐えられない。だから、僕は君を守るよ」

ルテーナは先程の笑みよりも寂しげな表情で微笑んだ。

「兄様・・・・・・、どうして孤独ひとりは辛くて怖くて耐えられないのかしらね」

「人が孤独ひとりをそう感じるから――かな」

「私はね、兄様。孤独ひとりの時が一番大切な人にいてほしいけどいないからだと思うの」

「そうかい。ルテーナ、でも今は孤独ひとりじゃないよ。兄妹ふたりだよ」

ポルディノは小さく震えるルテーナの肩をきゅっと掴んだ。

「僕のために歌ってくれるかい、ルテーナ?」

「歌うわ。孤独ひとりじゃないから」

ルテーナはそういうと息を吸った。


  君が思う心のそこに 海があると信じれば

  きっとどんな私でも 君はすくってくれる


  貴方を包む優しさに 空があると信じれば

  私は翼に抱かれて 空に抱かれて


  うつむく私に差し伸べた光 あれは貴方が照らしたの?

  今は孤独ひとりじゃないと 感じられるわ

  貴方が優しくて大きいから 私は貴方を感じられる

  どうして貴方の手は温かいのでしょう!

  私の両手は凍ったように真っ白なのに!

  どうして貴方の心は温かいのですか?

  私の心は凍てついた氷柱つららだというのに...


                            *


 その夜が明けようとした頃――――。

ルテーナは同じテントを使っている団員を起こさぬように、そっと寝床を抜け出すと物音をなるべく立てないようにオゥンのテントへ向かった。テントの近くまでくるとなにかとても柔らかい壁というか、とても厚い空気の層のようなものが自分を包んでいるような感覚になった。

(これは・・・・・・オゥン様が作り出した“結界”?音や何かを防ぐ物かしら)

ルテーナはオゥンのテントの垂れ布の前まで来た。垂れ布を上げようとしたがとても重いので、魔法を使う事にした。

「ギットゥラ エフィ 重さよ 変われ」

そう囁きながら垂れ布をなでた。わずかに手元がきらめくのを見ると垂れ布を持ち上げた。すっと上がるほどの軽さに変わり、そのまま中にはいれた。

「来たか。ルテーナらしいの。重さを変えるとは」

ルテーナはクスッと笑うと答えた。

「前は垂れ布を消滅させちゃって、新しい物にしなくちゃいけなかったんですもの。でも毎回私らしいって言ってません?」

オゥンもこれには笑った。

「そうじゃったかの?まあ、よい。座れ」

「はい」

オゥンは前に居た時よりも手前で、テントの中央らへんに座っていて。天井につるされていたランプは床に降ろされて置かれている。ルテーナはオゥンが指し示した場所よりも遠めに距離をとって座った。


 「2日でお前を本当の魔術師ウィザードにせねばならん。本当なら1ヶ月以上かけて教えてやりたいが、時の刻がそれを許さん。ああ、なんたる惜しい事か」

「オゥン様はいいわ。未来が読めるもの。私がどんなことに会うかわかっていらっしゃもの。そして運命が変わらない程度に私たちの行動を動かしているのでしょう?」

「いいや、もう未来は見えん。わしの能力よりもお前の能力の方があこがれるわい。なにせ歌を歌う事で星霊を呼ぶことができるのだから。・・・・・・『星の詩歌シャオールペンセル』よ」

星の詩歌シャオールペンセル』と呼ばれた途端、冷たい針で頭を貫かれたような感覚に陥った。それにおびえ、肩を少し震わせながら尋ねてみた。

「そっ・・・それは何ですか?そしてこの感覚は?」

「これはお前の魔法名だ」

「魔法名?」

「魔法名は魔術師ウィザードの特性に合わせて師匠に名づけられる名だ。魔術師ウィザードにしか付けられない。ごくたまに魔法使マジシャンにも魔法名がある者もいるが、それはきっとその者が体を鍛えるに終わった者だ。そして、魔法名は魔術師ウィザードの最大の弱点なろう。そのため、魔法名は人に教えぬほうがよい。その名を呼ばれただけで悪寒が奔るのだから、敵対者に魔法名を使って、『星の詩歌シャオーペンセル』よ、消えよ、と唱えられればお前が存在していたこと事態消えてなくなるほどの影響力はわかるじゃろう?」

「シャオーペンセル・・・」

自分でその名を呟いてみるとなんともいえない満足感が広がった。

(もうすぐ魔術師ウィザードになるんだ・・・!『星の詩歌』ってなんて素敵な名前だろう!)

「オゥン様、有り難う御座いますっ!私、2日で立派な魔術師ウィザードになりますっ!」

「ほほほ。威勢がよいことのよぉ。では、4句だけの歌で星霊を呼び出せるようにならねば。誰でもよいから歌ってみなさい」

ルテーナは頷くと胸に片手を添えた。


  私の生まれた星座の精よ アクアンよ

  聖なる聖水を掬わん水瓶手に 私の目の前へいざ現れん


 するとルテーナの目には青く波打つ長い髪をした女人が現れた。しかし、オゥンには見えなかった。

<ルテーナよ、星の精を呼び出す技術はまた向上したの。しては、何か用かえ?>

(アクアン・・・、オゥン様にも聞こえるように貴方の星座にまつわる逸話を話してよ)

アクアンはちらりとオゥンを見やると、近寄って耳に触れた。オゥンもそれは感じたようでびくっと肩を震わせた。精霊には一般的には肉体を持たないが、精霊魔術師フェアラウィズなど精霊を見たり、呼び出す能力を持つ者によって地上に呼び出されることによって半分だけの肉体を持つ。半分だけの肉体には完全な死は伴わない。地上で出せる限界の力まで出し切ってしまえば精霊界に戻り、それが回復するまで呼び出すことは出来ないのだ。精霊界は水だけのような空間で、人間はそこにいることはできない。

<では話そう。むかしむかしあるところに小さな村があった・・・>

その声はルテーナにしか聞こえないはずなのに、アクアンがオゥンの耳に触れた為オゥンにも聞こえていた。

<その村には小さな井戸があったがそれは枯れ気味で、往復に2時間かかる川まで行かなければまともに水が無かった。あるとき、その村に何人か旅人が訪れた。午前の時間に村に付いたのは国をまわって視察をしていた使者だった。使者は水がろくにない場所ばかりを通ってきており、とても喉が渇いていた。使者は村人に水を求めたが、村人は貴重な水を分け与えようとはしなかった。使者は顔を赤くして権威を振りかざして強引に水を搾り取った。そのとき、修道士のような格好をし頭巾を頭まで被った旅人が村にたどり着いた。その旅人は村に着くなり、倒れてしまった。突然の事に驚く使者はあたふたとしていたが、こういうことが良く起こる村人達はすぐさま旅人を介抱し始めた。村人の一人は使者を睨みながら言った。『このような緊急事態でなければ、水はお分けしない事になっています』と。さらにもう一人が『あなたがお奪いになった水を返していただけますか?』と声に怒気を含ませて言った。使者は何も言う事ができず、そのままにしていた。村人が介抱して1日が過ぎた頃、旅人は快復しとこから立てるようになった。旅人は全快すると村人達に礼を述べ、小さな瓶を差し出した。『これはきっとあなた方の役に立つでしょう』そういうと、旅人は村を去っていった。瓶にはたっぷり入った水があり、村人は有りがたくそれを使った。しかし、その水は絶えることがない。それを知った使者は村人達が眠った隙に水瓶を盗むとこっそりと村を出た。『これで喉の渇きで死ぬ事はない』早速、水を飲もうとした途端水瓶から水が溢れ出した。使者は手で止めようとしたが、水の勢いに負けて止められなかった。水は量を増し川となって、瓶は割れた>

「ありがとう。アクアン、とっても面白かったわ」

<いや、お前はいつもそういうがの。ありふれた話じゃのうて、わらわが作った話をしたいものじゃ>

ルテーナとアクアンは笑いあい、静かに精霊だけ還っていった。


 「おばば様・・・?」

オゥンはその小さな目から涙をしたらせていた。ルテーナはそっとオゥンの脇に行き、オゥンの肩を抱いた。

「おお・・・・・・おおぉ・・・・・・!」

「おばば様・・・私は『星の詩歌シャオーペンセル』でしょうか?」

「おお・・・!そうだとも。ルテーナよお前は立派な――――」               続

12/12更新いたしました。

もう次は6章です(はやw)

誤字脱字・感想評価などをいただけましたら、きっと飛び上がるでしょうww

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