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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
第四章 何が隠れる、陰の底
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【第4章9】魔法講座 中

 (ふう・・・。本当に消えなくて良かった――――?消えなくて良かった・・・・・・・・・だって?どうして呟いただけで本が視界から消えた・・・んだ?おかしいだろ!?)

リオンはそう思った。とりあえず、背後に移動した本を再び机の上へ置き、『初級から上級までの呪文集』をパタンと閉じた。少し興奮した息遣いが部屋の中に小さくこだまする。

(魔法が使えるなんてことはありえない・・・・・・。剣を使えるだけで精一杯のはずなんだ。それに魔法まで使えるという事態になるなんて、あるはずがない)

本を持ってもとの棚に入れようと椅子から立ち上がろうとした。ふらつきながらも、椅子から立てた。しかし、歩こうと足に力を入れても入らない。無理に手で動かすと前につんのめって倒れた。

ドサッ

手から本が離れ、本が開いた状態で落ちた。

「どう・・・して・・・・・・?こんなに疲れて・・・いるんだ?」

思わず声が漏れた。体力の状態は、全力疾走で休まずに村を走り回っている感じだった。

床に手をついてよつんばいになり、そこからゆっくりと立ち上がってみた。足の筋肉が痙攣したように震える。近くにあった棚をつたって何とか立ち上がれた。まだ頭がくらくらするが、何とか歩けそうだった。腰を曲げて本当にゆっくりと床に落ちた本を拾った。本を閉じてやり、もとにあった場所へ返した。握っていた手を開いて赤い光を受けて輝く鍵を見つめた。

(だんだん・・・・・・、そう走った後に座って休んでいたときのような感じで、体力が戻ってきた。どういうことなのだろうか。・・・・・・2人に聞いてみようか)

リオンは再び鍵を握り締めて保管部屋を出た。部屋の扉に鍵を掛け、自分に与えられた部屋へ向かった。部屋は保管部屋がある棟と繋がっている棟にあった。その部屋は個室ではない。相部屋だった。同じ頃に入軍した人と一緒の部屋であった。といっても年齢は5歳前後違っている。その人はまだ部屋にいなかった。きっと食堂で夕食を食べているんだろう。しかし、体力が消耗していても食欲は湧かなかった。


 リオンは粗末なベットの下に手を入れた。そこには『真理の剣』と『信頼の剣』が隠してある。同室人の人にこの宝剣を見られればいいことは無い為である。そして宝石に手をかざして2人の精霊を呼んだ。

<どうされました?十五代目>

(アポシオン、バロシオン、俺・・・・・・どうなっていると思いますか?)

<えっ?!十五代目、どうされたんですか?事情をお話ください>

(ちょっと・・・・・・ね)

先程のことを手短に話した。2人は魔法を使ったということに気づくと目を輝かせた。

(え?ちょ、2人共何をそんなに感動してるんですか・・・・・・)

<いえ、・・・ちょっと。十五代目も魔力の度合いが濃い方でらっしゃったんですね!>

(度合いが濃い?それに、十五代目ってどういう意味です?)

<2代目の母上は上級魔術師トップウィズでした。そのため、2代目は少なからず度合いの濃い魔力を受け継いでおりました>

(まっ待ってください。魔力についてなんて何も知識はありません。話についていけません)

<あら、そうでしたか・・・。で――――>

リオンはそのとき気配を壁沿いに感じたのでさっと2振りの剣をベットの下に入れた。


 少しして扉が開いた。同室人が入ってきたのだ。彼らは名乗りあっていなかった。

「初めまして、ビリー・ヘンリルといいます。宜しく御願いします」

リオンが先に名乗って頭を下げた。

「おう。こちらこそ。俺はヘック・カーロンだ」

同室人、ヘックは片手を上げて軽く受け流した。

「ところで、おめーはメシ食ったのか?食堂で見かけなかったが」

「いえ・・・、仕事のせいで食欲湧かなくてですね。あ、ちなみに俺は文献処理です」

「俺は装備管理だ。しっかし、なんで結構いい装備でも埃にまみれてるんだ?俺だったら絶対に手入れを怠らないんだが・・・」

「ここ最近で大きな争いはありませんでしたし、正式な軍兵は皆さん自分のを持ってますから軍のものは使わないんでしょう」

「やっぱり、金持ちばっかりだもんな~。金持ちは入軍と同時に訓練期間に入るからな」

「そうですね・・・・・・。あっ!文官さんに呼び出されてたんでしたっけ。行かなきゃ!」

リオンはそういうと部屋を出て、足早に宿舎の屋上へ向かった。もともと、古い宿舎なので屋上に人影や気配はほとんど寄り付かないのだ。


 リオンは屋上の欄干に寄りかかると、手で2人に話すように促した。2人は頷いてバロシオンが口を開いた。

<では、魔力について説明します。魔力は本来、どんな人間にもある力です。しかし体外に出る事はほとんど有りません。魔力の度合いが濃いというのは、魔力が体外にでる性質だということです。それが分かるのは20歳までで、誕生日を迎えたときまでに魔力がなんらかの形で体外に出なければ、その人は魔力の度合いが薄いということになります。

魔力は身体・精神の状態と深く関わっています。精神が不安定になれば魔力は減りますし、身体に大きな怪我や障害を抱えることになれば大きな魔法が使えなくなります。しかし、身体と精神を強くすることによって魔力を増大させる事が可能です。魔術師ウィザード魔法使マジシャンの素質かある者、またその職業である者があなたと同じように戦士の鍛錬を積めば、魔力は増します。ですが、その素質が無い者、つまり魔力の度合いが薄い者が戦士の鍛錬を積んでも、魔力は増しません。ただ一つ、実証されていないのですがあなたのように、魔力が体外に出るのが遅い――――ほとんどは幼少期にでてくるのですが――――者が度合いが濃いということを知らずに、戦士と同じまたは戦士を目指した修練を積んでいればどうなるのか、わかりません。

最初にあげた例の魔法使マジシャンというのは魔力の増大を極限まで求める者の職です。あなたはそれに近いかもしれません>

(つまり・・・・・・、俺の場合はどうこうしようにも試行錯誤で手探りしかないということですか)

<・・・・・・はい。なかなか、あなたの年齢でリオンになることは少なかったですし、武芸の血筋の方が濃いので魔力の度合いが濃い方はほとんどおりませんでしたから>

「どうするべきだと思いますか?軍は魔法を使える奴は首根っこ掴まれて、魔法王国ネイロの国境に放り出されますよ」

<魔法が使えるということは隠すのが一番です。2代目もそうでしたから>

<はい。僕はでも魔法の鍛錬も必要だと思いますよ。あと、絆を持つ彼にも教えておいたほうがいいかもしれません>

「そうですね・・・。明日はついてきますか?仕事場に」

<<ええ、是非!>>

2人は声を揃えて言った。もう薄暗い空がほんのりと暖かかった。


 翌日。リオンは宿舎1階の食堂で朝食を食べると一旦部屋へ戻った。保管部屋の鍵と2振りの剣を取り出し、精霊を呼んだ。剣を同じくベットの下に隠した。

(行きましょうか)

鍵を握り締めて部屋を出た。2人がついてくるのを確認すると足早に保管部屋に向かった。

保管部屋の鍵は意外にも開いていた。扉を開けて中に入る。

「おはよう御座います」

文官は入口横のカウンターのような所で本に読みふけっていた。リオンの挨拶が耳に入ると顔を上げただけだった。すぐに視線を落として本を読み始めた。リオンは部屋の一番奥の棚まで行くとそこにあった本を抜き始めた。ほとんどの本が装飾がされていないシンプルなもので、いずれも古くぼろぼろだった。1冊抜くたびにどちらかの精霊に渡し、精霊は中身を見て魔法に関係したものとそうでない軍事的なものとどちらにも関係しないものに分けてもらった。ひとつの棚が終わると、分けた結果を見てみた。

<圧倒的に軍にも魔法にも関係のないものが多かったですね>

<はい。逆に軍事的本が一番品薄ではありません?>

(こんなに差が開くなんて・・・・・・)

<次の棚行きましょうか>

そうしてどんどん本を分けていくうちに差はどんどん広がっていった。分けたものの8割が何にも関係しない本で、1割が軍事的本、残りの1割は魔法関連の本だった。

(すごい差ですね・・・・・・。残りの棚は俺がやりますから、本を調べておいてくれますか?)

残りは入口から見える棚で、リオンが宙に置いた本がそのまま移動して積み上げられた本の上にのる、というのが文官に見られれば、ネイロの国境行きである。

<はい。了解しました>

2人は快く承諾してくれた。


 一人で残りの棚をやるというのは結構な重労働だった。高い段にある本は背伸びしないと届かず、本を分けておくときに腰を曲げねばならず、しばらく床で寝ていたくなった。

「いつぅ・・・」

うめき声は背伸びするたびにで、本を置く時に長いため息を吐き出さなければならなかった。

しかし、それに耐えられなければ3ヶ月の訓練期間は乗り越えられないと思うと最後の1冊までやりきる気力が湧いてきた。

「ふぅ・・・・・・」

(何か新しく分かった事ありますか?)

<そうですね。分かったというか、思い出したことがあります>

アポシオンは一呼吸置いた。

<2代目は魔法を使えたと、先日お話しましたね。2代目は母上から教わった事を後代のためにわたくし達に教えてくださったのです。それをあなたに話さねばなりません>

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