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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
序章 『M』の想い
2/65

【序章】ひと時の平和 ♯

以下の登場人物、国、団体などは架空の存在です。実際のものとは関係がありません。ご了承ください。

(平和だ……)

 そう思う青年の姿にはどこか影があった。とある屋敷の門の柱にもたれかかる彼は、めぐるましく変わっていく空を見上げる。風で押し流された空の雲は、取り残されることはなく風下へひたすらに運ばれる。ふと、青年が視線を下にやると丁度一人の男が入ってくるところだった。

 屋敷が面するここは、白いタイルを一面敷かれた村の中央広場である。そこに入ってきた男は、薄いマントの下に簡素な鎧を身に着けていた。注意深く見れば、腰の剣に手が置かれていることに気づいただろう。

 青年は男に気がつくと、すっと体を起こしてちゃんと立った。そして、男の方が気づかないので、青年は苦笑をしながら歩み寄ることにした。


 青年が一歩前に踏み出し始めると、数人の子供がにぎやかな足音を立てて、広場に駆け込んできた。子供たちは一直線に男の下へ走りよっていく。はしゃいだ声を上げて男の周りに集まる。

「わーい、おじさんだぁ!」

「あはははっ」

 子供には気づいた男は、笑顔で笑いかけようとしたが『おじさん』という言葉に口元が引きつっていた。

「おじさん、何やってるの? ヒマなの?」

 近づこうとしていた青年はピタリと止まって、何の準備やら両手を口をふさぐように当てた。青年の顔はきっとニヤけていたに違いない。

 男は一息吐いてから、すぅっと息を吸い込んだ。

「俺は『おじさん』っていわれる年じゃねえんだよっ! いい加減『お兄さん』って呼びやがれえっ!!」


 たかが七、八歳の子供に真剣に怒鳴る男こと、ヒア・マクシアン。

「ぶっ……あっはははははははっ! 老け顔! ボクより年下なのに!」

 そして、ヒアの言葉に大笑いしている青年こと、モデラン・グランデ。その口をふさいでいたはずの両手が意味を成していなかった。


 高らかな笑い声で、やっと気づいたヒアは驚くような速さで人差し指をつきつけた。

「おまっ、モデラン! 笑うな童顔二十五歳!」

 モデランは今の発言をも笑いの種として、さらに大きく肩を震わせもっと大きい声で笑う。二十五歳、二十五歳と呟いては時々ぷくくと口角をあげていた。それが少し落ち着くと、モデランはヒアに言った。

「しっかたないでしょう、ボクが童顔なのは昔から。ヒア君が老け顔なのも昔からなんだし」

 さっきのようなツボにはまった大笑いでなく、内に含んだいたずらっぽい笑顔で言うモデランに、ヒアは深い深いため息をつく。この人はこうだから、どうしようもないともう諦めているのだ。

 ちなみにモデランはヒアよりも背が低くて、なおさら若く見えるが子持ちの父親である。


 子供に囲まれているヒアとモデランは、その後毎日の日課のような会話を交わした。その様子を何度も見てきた子供は、決まった会話の終わりが見えてくると一人が口を開いた。

「なぁなぁ、おじ……じゃなくて『おにーさん』」

 『おじさん』と言いかけて、『お兄さん』に直すところが子供ながら賢明だ。そうしなければ、また『お兄さん』が叫びだすところだった。

「なんだ?」

 ヒアが聞き返すと、子供は大きな頭を横に傾けた。

「いちばんはじめのリオン・フェブリーヤってどんな人だったの?」

「はぁ!?」


 リオン・フェブリーヤとは、この世界リーディアにおいては、名前を知らない人などいないと言われるほど有名な人物である。

 彼はリーディアで起こった大戦争の功労者で、戦争をやめさせ世を平和へ導いた人であるといわれている。だが、当時の詳細を記した書物等は残っていないため、その真偽は分かっていない。

 子供がよく聞く昔話に登場する英雄は、あらゆる敵をなぎ倒す剣士だったようだ。そんな夢みたいな人物が存在するならば、ヒアだって一目みたい。


 だが、本人はすでに故人。何百年も前に生きていた人物であるからして、ヒアがその人柄を知っているはずもない。

「おい、誰だよ。俺が何百年も前のリオン・フェブリーヤと知り合いだって、言った奴は!」

「あの子に決まってるじゃん」

 誰か、と言われて即座に答えたのは、子供たちではなくモデランだ。

 彼が『あの子』と示すのはただ一人しかおらず、ヒアは顔をげんなりさせる。うすうすヒアにも分かっていたのだが、実際に断言されるのは気がめいるのだろう。


 はぁ、と大きくため息をつかざるを得ないヒアは、子供たちに一応言っておく。

「あのなあ、まず考えようぜ? まともに考えて、俺がそんな大昔に生きていられるわけがないだろう?」

「えー、だってジュディアちゃんは次のリオンだもん。それなのにジュディアちゃんが間違ってるっていうの?」


 『あの子』の友達らしき少女がヒアに噛み付いたが、ヒアは学習した。一々相手にしていたらこっちの身が持たない、と。

「いいや置いとこう、モデラン。今日はどうするんだ?」

 かるーくスルーしたヒアはモデランに別の話題を振った。決して、『あの子』なる少女の話題から逃げたいわけではない。

 子供たちはもう『お兄さん』が構ってこないと察して、わいわい騒ぎながら広場を出て行った。

「そうだねえ、ボクは特に案をもっていないよ。けど、そうだ。そろそろヒア君がこの村に来てからしばらく経つし、ボクらと戦っちゃう?」


 しかし振った話は、ひどく大きな攻撃となってヒアに返ってきた。彼はひどく消沈した様子で、後悔の格好。がくんと膝が落ち、四つんばいになった状態で絶望の叫びを上げる。

「なぜだ……神よ! あなたは死をお命じなのか!」

 とてつもなく陰鬱な表情を見せ、ヒアは大地へ空へ訴えかける。だがそれを聞き届けるべき神は、次期リオンの少女でもなく、背の高い二十五歳の男でもなく。

「それはいいな。俺もそろそろ、ヒアの実力が知りたかった頃だ」

「やったぁ! ヒアはどれぐらい強いかなあ~」


 ヒアの必死な訴えに、ではなくモデランの思い付きによる提案への反応。新たな声の登場に、自分の世界に行っていたヒアは、顔をすぐさま上げた。そしてそれぞれの持ち主が分かると、上がった顔は見事に青色に染まる。

「なぜだ。なぜ、俺はこんな目にあわねばならないのだ!」

「それは、ねぇ? もちろん「「鍛えがいがあるから」」に決まってるでしょ」

 そう言うと、自然とモデランの口元に笑みが浮かんだ。声が揃った三人で顔を見合わせ、同じく嬉しそうに意気込む仲間を認める。

(平和だ……)

 明るい日差しが広場に降り注ぐ。眩しい光がまだ人をあたためていた。風は小さくそよぎ、いい訓練日である。



 ――これはいつの日か忘れられた、平和なひと時だった。





                                   続

10’10’25

修正を始めました。すごい遅いですが、ちゃんと直していきたいですので、よろしくお願いします。修正分とも内容が合うように新話も書き進めたいので、がんばります。

えっと、『読者の皆様へ』をお読みいただいていなければ、そちらの方も読んでいただけますと幸いです。では、また。


11’10’29

 追記。二十三日の活報を書いてから、たったの六日で手を出します。序章の癖に設定が地の文にあって、ごたごたするので、説明口調っぽくない台詞で。入らなかった部分は、一章の改稿(およびそのまた修正)にて入れたいと思います。


13’7’7

 お久しぶりです。気分転換に加筆修正しました。

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