【第4章5】それぞれ
やっと協会が見えてきた。
ジアスは走るのをやめた。そこで止まって、肩で息をする。
「ここで何をしてるのだ?」
ハッと振り返る。ヒーディオン国の紋章の入った銀色に輝く鎧。いかめしそうな顔。
「ここの村人だな?」
「・・・・・・えっ?あ・・・・・・ああ、そうです」
「ふむ・・・しかし、さすが!」
「なにがです?」
「さすがはフェブリーヤ出身の町!その足並みは剣士だろう?」
「・・・・・・いえっ、その、基礎を習っただけですよ」
「謙遜するな。その動きは基礎を習っただけでは身に付くはずも無い。名でも教えてはくれんか?」
ジアスはどうしようか迷った。
(どうするか・・・。こいつがスパイその――――いや数えるのはやめよう――――リスベス帝国の一味だったなら、軍で使ってる名前はやばいだろ。本名もしかり。また偽名をつくる余裕ないしね。ジアンかジアスかなら・・・)
「――リオンジアス・フェブリーヤです・・・・・・」
「フェブリーヤ!?15代目かっ!?」
「・・・役場からの知らせを聞きませんでしたか?15代目がいないから葬儀が出来ないんですよ」
「ああ、なるほど。ところで、時間が有れば手合わせを願いたいんだが」
「はぁ!?」
*
(もう慣れた・・・と思う。いいよ、話して。バロシオン)
<了解しましたー。では、始めましょうか。僕達がリオンに仕えてきたのは2代目の頃からだといいましたね。そのためこの話も彼から聞いた話なんです。不十分な点は分かりませんがおおよその話になります。
僕達を剣に宿らせたのは2代目でしたが、その剣を鍛えたのは1代目です>
(1代目?・・・それにしても、剣に精霊を宿らせるにはかなりの魔術師でないと無理があるんじゃ?)
<2代目は剣士とあると同時に魔力も有していました。あなたのように。2代目の母親は魔術師だったのでそれは不思議ではありません。彼は一人でやってのけました。しかし、それが仇となって彼は日に増して弱っていき、2代目は・・・パロネは・・・・・・>
いつも快活なバロシオンは目線をどんどん下げてしまった。明るい金髪も悲しげな表情を語っている。
(――――ごめん。変なこと聞いてしまった。話を元に戻そう)
リオンは目を伏せた。リオンは『平和の章』を手に持ったまま、椅子をひいてそこに座った。そして2人に手で座るように勧める。2人は無言で誘いを受けた。
<・・・・・・はい。僕達の剣は1代目が息子のために作ったものだったんですが、ご子息、つまり2代目の父上は元々病弱で剣を握っていると思えば熱を出して倒れてしまうことも多かったようで・・・、2代目がそのまま名前を祖父から受け継ぎ、剣とその本をもらいうけたのです>
(なるほど・・・・・・)
シャランッシャランッ! ガタッン!
「ジアス!」
頭の中に聞きなれたくない鈴の警告音が鳴り響く。驚きと共に反射的に椅子から立ち上がった。
<<待ってくださいっ!>>
2人の声が重なった。一拍遅れてそれに気づいた2人は顔を見合わせたが結局アポシオンが喋った。
<『魔鈴の絆』はいわゆる予知も能力のうちです。今から行っても危険を回避できると思えません。ですから、こちらはこちらしか出来ないことをしましょう。14代目の体を捜しに行きましょう?>
(そうだね。この予知は回避できないからね。先生を捜そう)
*
シェイとヒアとその一行は――――。
ようやく広場に着いた。広場に着くなり、疲れきった人たちはどかっと広場のタイル敷きの道に座り込んだ。シェイはヒアとリコールに挨拶をした。
「では、マクシアンさん、サージュさん、御願いしますね」
「おう。そっちも疲れてるだろうが頑張れよ。シェイ!今度軍に引き入れてやろうか!?」
「隊長殿、無責任なことは言わない方がいいですぞ」
「まあまあ。リコール、そう固いこというなって」
「ハハハハハ」
場違いのような笑い声が響く。それは広場中にこだまして、広場の全員が笑っているようだった。
シェイは役場の方へ向かった。
ノックをして扉を開ける。そこには沢山の大人が集まっていた。
人が多くてシェイが入ってきたことに気づかない。誰かが演説をしているようだった。
「・・・であるからして、15代目がいないとなればこれは大事である。もう碧眼のリオンと言う象徴がなくなってしまう。ではどうするか?それは・・・」
演説しているのはシェイの父親だった。シェイは人の間をぬって通り抜け父親の元へ行った。
「父さん!何をしてるんだよ」
シェイの一言に室内は静まった。
「何って・・・見ていればわかるだろう?」
「15代目は存在するよ。本人に確認してきたし」
「なっなにぃ?なぜそれを黙っていた?」
「そうだ。そんなビッグニュースは初めて聞いたぞ?!」
「俺も知ったの今日ですから。で、その15代目から伝えられたんですが、全住民を広場に集めていただけますか?」
「「全住民?」」
「はい。そうでないと危険にあうかもしれないといってましたが、どうしますか?役場が動かないのであれば元『剣術の習い』生徒として生徒全員だけでもそれを行いますが・・・。役場が動いてくれるのならかなり楽になります。できませんか?仮フェブリーヤ頭首さん?」
最後にはある意味の嘲笑と皮肉とが混ざっていて、言われた本人は苦々しい顔をしていたが、今の役場を動かしているのは彼なので答えは彼に委ねられた。彼は14代目の叔父なのだ。
「・・・・・・」
「15代目の伝言に従わないということは、フェブリーヤから独立するということですよね?村が。そんな状況で村が運営されるか心配ですが・・・。では、失礼します」
シェイは軽く会釈をして誰にも視線を合わせることなく、扉に向き直った。
「ま、待て!」
「なにか?」
くるりと反転して声の主を見た。仮フェブリーヤ頭首だった。
「15代目は誰なんだっ?!」
「フェブリーヤから独立される方々には関係の無い事だと思いますが?」
「っ・・・・・・」
足音を床に響かせながら扉に向かった。無言で扉を開き、外に出ると無造作に扉を閉めた。
バンッ!
「おいおい、一応自分の村だろう?」
「もう村じゃなくなりました」
シェイはぶっきらぼうに答えた。その態度から怒りの気持ちがありありと表れていた。
「は?どういうことだ?」
「村は頭首を捨てました。いくらこの村に剣の素質がある青年がいくらいようとも、碧眼のリオンがいなくなった――――いや、リオンを捨てた――――村は今までのように生計を立てることが難しくなるはずだとわかっていながらも。でも俺はあいつを捨てません。フェブリーヤ一族でないけれども俺はあいつを、ビルを信じます。例え、身近な奴があいつを嫌味嫌っていても、信じてやります。自分が自分を信じることが出来る限り」
「・・・・・・俺達もあいつを、まあ意味はちっと違うが、信頼してるさ。あいつの周りにはあいつを信じれる奴がたくさんいるんだ。ただそれに、鈍感なだけさ」
「そうです。隊長殿も、隊員も、あなたも、そしてこのわたしも、ビル殿を信じているはず。いまさらどうこういっても、信じることのできない者どもが愚鈍なのですぞ」
ヒアとリコールが続けて言った。
「2人共、有り難う御座います。聞いてもらえてちょっとすっきりしました。・・・では、行きます」
シェイは2人に深く礼をして村人の住宅が集まっているほうへ歩き始めた。
ギィィィィィ~
懐かしい鉄の門が開く音がして思わず振り返った。門を開いたのはリブシアだった。
「リブシア!?おまっ・・・どうしてそこに?」
「シェイさん・・・?」
リブシアがシェイのほうに駆け寄った。
「色々ありまして・・・」
「おい、シェイ。そこの子、誰だい?なんかどっかで見た顔がする・・・」
*
「あの~、どういう経緯でこういうことをしなければならないんです?」
ジアスは腰に帯びていた剣を抜いて相手と向き合っていた。
「いや、お互いの時間つぶしになるじゃないか。君は神父さんに聖書を借りて、祈りをささげたいけど神父さんがいないからできない。わたしは村役場から使者がくるまでここにいなければならない。まあただの試合だ。緊張することもない」
「・・・はあ。あなたのお名前をお聞かせ願えますか?」
「ヒーディオン国軍千人隊長統括官パロネ・バクネスだ。それではいこうか」
ご丁寧にも位も付け加えたパロネも剣を抜いた。どちらも真剣である。
「ルールは簡単。相手に致命傷を与えない、それ以外ならだいたい何をやってもいい。だが今後の生活に障害をもたらすような怪我は与えない。そしてどちらかが降参するかこれ以上続けられないと思うまでやる」
「このメニューはあなた自身が考えたんですか?」
「・・・?まあ、そうだが。普通、この場合は“あなた”を“軍”に替わってるんだが・・・」
(しまった・・・!ついつい、軍に無いなーと思ってたのが思わず口に出たかっ)
「ふむ・・・・・・そういえば君の顔どこかでみたような――――?」
なんか今回はころころ人が変わりました。まあ、そうしないと話が進まないんですがね。