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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
第四章 何が隠れる、陰の底
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【第4章4】平和の章

「そろそろ、俺達も決着をつけようか」

リオンが静かに言う。アルファスはもう正気に戻っていた。

「それなら、ここは狭すぎないか?」

「元々、この部屋を選んだのはお前達じゃないのか?」

「いや。お前が気絶するなんていうことは予定外だったからな。お前がリオンであるかの確認のためにここに入らせたんだぜ」

「っ!?この部屋にかかっている魔法も知っていたのか!」

「結構面白いんだな。見る見るうちに部屋には埃が積もり、紙は黄ばみ、血痕は乾いて消えていった。お前がリオンだと言う事は間違いなく確証された。あとは・・・・・・」


そのとき、衝撃が奔った――――――。


(これは!誰かが魔法を使った・・・・・・?ジアスが言っていた中に魔法が使える奴が・・・もしかしたら魔術師がいたんだ!)

「なんてこった・・・・・・」

リオンは呟いた。

「何やってやがる。計画をぶち壊しやがって・・・。操り人形の癖に・・・」

アルファスは言いながら、リオンのことを忘れたかのように出口へ走っていった。

「あっ、おい!待てよ・・・・・・」

リオンは声を上げたが届かなかった。


声が聞こえる。

『どうして・・・・・・俺に魔法が?俺は前簡単な呪文を唱えても何も起きなかった―――のに?』


ジアスの声が聞こえる。リオンはバロシオンのほうを向いた。彼は微笑んだ。

「バロシオン、どういうことですか?」

<あなたがたの間は僕が手を貸さなくても強力な信頼によって繋がっています。ある程度の思考なら手に取るように分かるはずです。思考を相手に聞かせたくないと考えられる事は小声で呟く事をお薦めします>

彼は笑顔ひとつ崩さずに言った。

<あなたとの絆を持つ者に魔法が伝わったのは絆のせいかと、思われます。糸電話(もちろんの如く、リーディアでは科学と言う物は発達していません。ただ、コップに糸をくくりつけて言った言葉をあてあう遊びの時の呼び名です。あくまで、科学は発達していません。)の要領で声が伝わるのと同じように、あなたの魔力が彼に一部とどいたと思われますね。>

リオンは知りたい事は分かったというように頷くと、ジアスに返した。


『きっと、それは俺のせいだ』

ジアスは結構驚いているようだった。

(へえ、これくらいの思考は読み取れるんだ)

『っていうか自由自在に通信できるわけ?』

『なんというか・・・・・・お前の声が聞こえるからちょっと返事をしてみたら通信してるって感じだよ』

『お前の声は聞こえないのに?』

『意識すればっていうか小声で喋れば・・・たぶん聞こえない。』

『そうか。でどういうこと?”お前のせい”って』

『俺達は普段、肉眼じゃ見えない紐のようなもので繋がっている。それに俺の力が伝わってお前に影響を及ぼしたんだ。』

『ん~むしろ及ぼしたっていうか、その影響で助けられたんだけどね~。じゃ、切るよ』

彼はこれを切る方法を身につけたようだ。


リオンは部屋を見渡した。埃はたまっているものの、ほとんど変わっていない。彼女がいない以外。

「そうか、先生!」

彼女の部屋を出ようとした瞬間、気配を感じた。ゆっくりと流れる古く強い魔法の力を。

リオンは振り返った。そして吸い寄せられるかのように、机に近づいた。机の上には分厚い本が置いてあった。リオンは剣を2本とも鞘に収めると、本を手に取った。知らない文字だった。

魔法が使えると知ってから、古代語なども勉強していたが、こんな線のいっぱい入った文字は知らなかった。

しかし、内容は分かる。なぜだかそれは分からない。『平和の章』。この本の題名だ。

(題名にしては『~の章』なんて似合わない。本内の章名なら疑いようも無いんだけど・・・)

<勝手に後ろを失礼致します。15代目、そちらはわたくしたちの剣と同様、代々のリオンが受け継いできた物です。>

(アポシオン、どうしてこの本は『平和の章』という名なのですか?)

<もともとはこれは”章”でしたから>

(もともと、が章・・・・・・?)

<その話は2代目から聞いただけなんですけどね>

(2代目?1代目でなくて?)

<はい。わたくしたちを剣の精霊の任につかせたのは、彼ですから>

アポシオンがそういうとリオンの目の前に映像が現れる。


人懐っこそうな顔立ちの青年が本を抱えながらアポシオンの前に立っている。

『よぉ!アポシオン』

《・・・・・・2代目、あなたがもっているその本は?》

『これ?僕のおじい様の残した本だよ。ねえ、君の精霊として生きてきた中でこんな文字読める?』

2代目は本の表紙を見せた。

《・・・?見た覚えさえありませんわ。どこの言葉ですか?》

『これ見てくれる?』

2代目は本を開いて羽根ペンにインクをつけた。

『これからここに’あ’って書くよ。・・・・・・よく見てて』

羽ペンを持つ手に力が入る。

サラッ

ペン先が本の紙から離れた瞬間、インクが乾いてもいないのに文字が複雑に線が入り混じった形に変形し始めた。

《!これは、・・・・・・どんな魔法がかけられているんでしょうか?》

『それが僕にも分からないんだ。一応、魔術師の端くれなんだけどね』

《これは読めないんですか?》

『読めるんだよ。不思議な事にね。題名は『平和の章』という』

《章・・・?ということは元々は一つの本だったのですね?》

『うん。父上が話してくれた事によると、おじい様は戦争を止めただろう?そのときに5ヶ国がそれぞれ魔術師を集めて一つの本を作り、それぞれの代表に”各章”を与えたんだって。そして平和をもたらしたとされるおじい様に・・・』

2代目の言葉をアポシオンがつぐ。

《この本が、・・・いえこの章が本として整理されてこう渡ってきたのですね》


「すごい・・・!これが2代目!」

おもわず声が漏れた。

<正確には、映像がわたくしの記憶を具現化したもので、2代目の声は・・・>

<僕が吹き替えましたー♪>

「のん気にいってる場合かっ」

<まあ、落ち着かないと。15代目、焦りは禁物ですよ~>

バロシオンはさっきよりもはじけた笑顔でわらった。

リオンはため息をつくしかなかった。

(それで、なぜ彼の声は具現化できないんですか?)

<死んだ者には事実のみしか残らない――――。知っていますか?1代目と同時期の魔術師の言葉です。>

(チェイヌですね。死んだ者にとって記憶はあいまいな感情の一部でしかない。事実のみ死んだ者に残る。)


チェイヌ。その名はリーディアにいる者なら知らぬ者はいないとされる魔術師。魔術師ギルドを振り切って大革命を起こしたとされる。大革命を起こす前、死んだ人が沢山いるんだぞというギルドメンバーに言い放った言葉が


”何を言っている?彼らが死んでしまったから何というのだ?そのとき、何を決意して行動を起こしたかは知らないが、死んだ者にとって生前の記憶など、吐いて捨てる程に価値がないだろ?

ただ死ぬ前に何をしていたかっていう事実だけが重要だろう?

俺は死んだ事がないからそういうことはわからないが、今、俺が死んだらそう思うはずさ。

だから、俺はやりたいことをやる。死んだあとに後悔しないためにな”


だそう。長い言葉がよく残っていたものだが、この言葉を言われた人には印象的だったらしい。



<彼がいうように、死んでしまった者は記憶は価値がないのか、生きている者が死んだ者の記憶を具現化すると事実しか具現化できないんです>

(事実・・・)

<今やったのでは、彼がわたくしと会って話し、彼が本を開いて本の不思議な現象を実証した、という事実しか残っていませんでした。彼とわたくしの会話の内容は特にしょうもないのか事実として残っていません。ですのでわたくしの記憶しか元がありません。

・・・ちょうど、過去の話題も上がったことですしわたくし達の剣の過去もお話しましょうか。バロシオン>

アポシオンとバロシオンが片手を上げて2人で手をパチンと鳴らす。まるで、現代のスポーツで選手交代をするように。

<<選手こうたぁ~い>>

2人が同時に言う。

(・・・・・・真面目にやってもらっていい?)

思わず、こぼれた愚痴。

<お、やっと敬語崩しましたね、15代目。新記録達~成!>

(2人共、いや、特にバロシオン。あの頃から随分とキャラが変わったように思えるのは俺だけかな?)

<気のせいじゃないです。あの頃はまだ猫かぶってましたから>

リオンは大きなため息をついた。ハァ・・・。

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