【第3章4】魔法の影響力
ジアスは突撃部隊の人と共に村についていた。
人気が無いので、1人でジアスは村を見回っていた。まずは役場に向かうつもりだった。
春だというのに冬の寒気がする。そのうち、前方に人影が見えた。村人かと思って駆け寄った。
「あの・・・」
「おっお前・・・・・・!?ジアスじゃないか!」
「えっあっ?シェイさん?」
「お前がなんで此処に?」
「せっ先生の葬式――でしょう?だから・・・・・・」
シェイはちょっと呆れ気味にため息をついた。
「ジアスー。ちょっといいかな〜?お前さぁ、ビル並みに上手く嘘つけない?」
「え、バレてます?ていうかビル来てるのも分かってたんですか?」
「ああ、聞いたよ。ビルから。でも、お前が来てるってのは聞いてないが。」
「ビルに伝えたい事があって来たんです。」
「そうか。あいつなら、丁度先生の屋敷に入った頃だろう。」
「え――――」
その言葉を聞いた途端、寒気が走り視界が闇に包まれた。
闇の中ではなぜか走っていた。自分の体は言うことが聞かない。走っているのなら足音が聞こえるはずなのに音は聞こえない。走るうちにジアスが伝えたかった――つまり会いたかった相手が見えた。
そのうち体が止まった。
『なんで、お前が・・・!?』
『ビル、お前に伝えたい事がある』
思わず口から言葉がこぼれ出た。
でもリオンはジアスの言っている事が聞こえづらいらしい。
『えっ?何だって?』
『お前に危険が近づいているんだ』
『危険?』
『鈴の音がい・・・』
言いかけた時にはもう暗闇が遠のいていき、だんだん元の背景が視野に入ってきた。
「大丈夫か?ジアス、体調でも悪いのか?」
シェイが心配したような表情でジアスの顔を覗いている。
「え?あれ、俺気ぃ失ってたんすか?」
「ああ。それより、ビルが先生の屋敷にいるって聞いた途端、顔が青ざめていったんだが何かあった?」
「なぜか・・・なぜか・・・・・・寒気がしたんです。嫌な予感がします。」
ジアスは立ち上がった。そして、走り出した。
「おっおい!どこ行くんだ?」
「屋敷です!先生の」
「待ちなさいっ!そうはいかないわ」
誰かが呼び止めた。その誰かの声は絶対的な命令のようでジアスは固まった。 そして何処かで聞き覚えが有った。
「王女殿下・・・・・・?」
「ご名答ですわ。ジアン・マクシアさん?」
乗馬用の服を優雅に着こなしたウェナ王女が現れる。ブーツが地面に当たる度にコツコツと鳴る。
「なぜわたくしめなどの名を?」
「・・・帝国においての危険分子又は帝国において益が多い可能性の人だからですわ。」
「ウェナ王女、いやリスベス帝国の裏スパイ訓練場の成績優勝なスパイの子供で王夫妻の養子・・・・・・ リスベス帝国の
スパイの頭領!」
「おほほほっ、見事に調べましたこと。わたくしたちのセキュリティはリーディア一なのにそれをかいくぐれた事は評価いたしますわ。」
「ま、それを教えてくれたのはビルだが。」
「あら、そうなのですか。丁度いいわ!彼ならちょうどいいところの真っ最中のはずよ!」
「なにっ!?あんたら、ビルを罠にかけたな!」
「そんな汚い言葉で表現いたしかねない事はしておりませんわ。まあ、あなたがここにいるというのは想定外ですが。」
美少女はその顔に似合わないほど腹黒かった。今やどの顔が本物の彼女か分からない程に――。
「おい、ジアス。聞いてるとお前やビルの立場やばくね?」
シェイは少々戸惑い気味ながら声をかけた。
「ビルの方がヤバイですよ、シェイさん。まんまとこいつらの思惑通りに動いてますからねぇ〜。」
ジアスはシェイにのうのうと答える。ジアスは元々自分の事で緊張した事などないのだ。
「なにをそうのんきにしてられるかなぁ・・・。まあ、土壇場でがちがちになるのよりはマシだが。」
シェイは安心したように苦笑いした。
「おや、となりに居るのはシェイというのですか。手合いの様子を奴に聞いてみると、シェイとやら相当腕が立つようですわねぇ。」
「少々腕が立つだけであって、リスベス帝国の戦力にはなりませんよ、王女陛下?」
シェイは少し皮肉交じりに言った。
「まあ、こちらにつきなさいとは言ってもむだのようですわね。だって、ビル・・・いいえ15代目と言った方がよいかしら?彼の元にいるんですもの。でも、その立場を利用してそれなりの報酬で雇ってあげますわ」
「雇われる気はありませんね。そうだろ?ジアス。」
「はい。王女陛下、先に言っておきますがあなたの背後にいる護衛の方ではシェイさんには勝てませんよ。それに、俺達が2人だと思わないことが懸命ですね。―――――そうでしょう?マクシアン隊長」
「おうよ。どーも、王女様初めましてですねぇ〜。いやぁ、この辺血筋やら裏金やらで出世した奴らばっかりだからあんまりお目にかかってないですよねぇ。」
「なっ・・・・・・!?なぜこやつ等がっ?」
ウェナ王女の背後からヒア隊長を先頭にやってきた突撃部隊はほぼの護衛を倒してきた。
「ほら、ジアス。用あって来たんだろ?早く行け。」
「有り難う御座いますっ!」
ジアスはその場で敬礼を突撃部隊とシェイに向かってすると、くるりと踵をかえし屋敷へ向かって行った。
ジアスはこれまでに無いくらい全力で走った。遠くの方で剣と剣が受けあう音が聞こえる。
「はぁっ・・・・・・はあっ・・・・・・くそっぉ!」
(こんくらいで息が切れてる俺が情けない・・・・・・。ビルならこのくらい楽に俺の倍の早さで行けた。)
肩で息をしながら歩き始めた。だんだん歩調を速めながら進む。すると、
シャランッシャランッ
と前よりも激しく鈴がなる。これは鈴が予測した危険に今立ち向かっている事になる。
リリンッリンッリオンに近づいていく。
屋敷が見えてきた。ジアスは駆け寄った。屋敷は手入れされていない様子で寂れている。
鉄の門を押し開けると背筋がぞくっと逆立った。
(――!?この感覚なんだよ?まるで俺よりもはるかなる高見から大量の剣が降って来るみたいな殺気と、
怖気づいてしまいそうな力量は・・・・・・まさかビルがっ?!解放したのかっ?いかなきゃっ)
無我夢中で敷地内へ入り、離れに入り、あの部屋へ向かう。
「ビルっ!」
「ジアス!?丁度いいや。逃げないように逃げ道塞いでくれる?」
「えっ?ああ。」
14代目の部屋は廊下の突き当たりにあるのでジアスがその場を通らせなければ、逃げることはできない。壁をぶち破らなければ。
「アルファス、お前間違ってたな。ジアスは俺の仲間で、親友で、絆を持つ者だ。あと、リブシアも間違ってるぞ。ジアスに聞いてみろ。」
リブシアは気まずそうにジアスの方を向いた。
「あの、ジアスさんはどうして村を出て行ったんですかっ?」
「父さんの考え方が嫌だった。だから、口論になったんだ。で、家を出た。けど家出っつっても行く宛ないからどうしようか迷ってたら、ビルに会った。そこで軍に入らないかって誘われたからそうした。」
「家出だって・・・・・・!?僕は、僕は、僕は・・・・・・どうしたらいいんだ。なんのために僕は今日までこんなことをしてたんだ?先生が報われる為に裏切り者を探して倒す為に今までやってきたのに――。」
リブシアは床にへたり込んだ。
「アルファス、お前だろ。リブシアに偽りの憎しみを植え付け、自分の計画に上手いように利用した。」
リオンはキッとアルファスを睨みつけた。その目には怒りがこもっていた。
「ふふっははははっ、やはりお前はまだ子供だな。自分の利益の為に息子を利用して何が悪い?俺が裕福になれば息子も裕福になるのは当たり前だ。息子の為にもなるんだぞ」
「お前の息子――だって!?リブシアの苗字は母方の苗字だったか・・・くそっ!情報が上手く集まってなくて腑に落ちないのはこういうことだったのかっ!」
リオンは悔しげに顔をしかめると、目を閉じた。すると、ジアスの頭の中で声が響く。
『聞こえるかジアス?』
『えっ?―――ああ。』
『これは精霊の力を借りて絆を通して喋っている。頷くだけでいい。俺に従ってくれ。』
ジアスは自信強く頷く。
『これから強力な魔法を使う。屋敷ごとぶっ壊れる程の物だ。だが広場には届かない。広場に皆を集めてくれ。』
『ビル・・・?』
『なんだよジアス。』
『スパイがしゃしゃり出てきた。突撃部隊の皆が撃退してくれそうだけどそれごと?』
『この村にいる人間全てだ。王とかアイツに洗脳されてて居なさそうだけど一応神父様の家も見てくれ』
『わかった』
ジアスが同意すると通信は切れた。
「ジアスっ!」
「わかってるってば。リオン!お前の力に押しつぶされないようにするから、お前は・・・死ぬなよ。」
「もちろんだっ!」
*
「いいのです?わたくしには剣など通用しませんわよ。」
「くっそぉ・・・・・・。お前、魔法が使えたのかよ―――――。」
シェイと特攻部隊はウェナとの戦いに苦戦していた。
彼女は体術の他に魔法も会得していたのだ。彼女が物理的攻撃に対抗するシールドを半径1ポア(約50cm)の面積で体の周り中に張り巡らせている為、剣や体当たり、頭突き等その他もろもろ掠りもしないのだ。
「まあ、こんな悠長な事をやっている暇はありませんわ。一気に片付けさせて頂くわっ!」
ウェナは念には念を入れて、本当なら唱えなくても発動できるのだが詠唱付きで魔法を発動させる。
ジアスは大急ぎでさっきいた所へ戻る。同じ距離のはずなのに、今のほうが断然早く軽く走れる。
だんだん前方に幾人かの人影が見える。そして微かに詠唱を唱える声も。
「我、彼の精霊の故郷に生まれ育つ力を得なり。彼の精霊との血の契約により、ここに発動したまえ。眼前でも見えぬ速さを持つ光の熱よ、我の敵をその力によってこの世から消えさせたまえ。」
ジアスははっ、とした。
(この詠唱・・・ビルに見せてもらった呪文集に詠唱魔法の言葉の意味がのってたけど。光の熱?つまり―――――雷だ!誰かが・・・っていうか絶対ウェナだろう・・・敵つまりシェイさん達を焼死させる気だっ!ヤバイだろっ!?)
段々人影がちゃんとした人に見えるくらいに近づいた。そして、ウェナが叫ぶ。
「偉大なる精霊ナズスよっ!我が敵に死によっての制裁をっ!クラクトル ドーシェ、雷よ舞え!」
勝ち誇ったようにウェナは空に指を突きつける。その瞬間、ジアスはいきなりダッシュして叫んだ。
「テクト オブ、守りの結界っ!」
ゴロゴロ・・・・・・ズギョーンッ! バシッバシッ
雷が落ちた。落ちた所には無残にも焼けた残骸が所々に―――――――なかった。
「な・・・なぜ―――――――?私の魔法は完璧だった。それを護ったですって・・・・・・?!」
ウェナは放心のあまりシールド魔法が解けた。シェイたちも呆然としている。
それはかけた本人さえもびっくりしている。
『どうして・・・・・・俺に魔法が?俺は前簡単な呪文を唱えても何も起きなかった―――のに?』
『きっと、それは俺のせいだ』
ジアスはぎょっとした。突然通信が入ったからだ。
『っていうか自由自在に通信できるわけ?』
『なんというか・・・・・・お前の声が聞こえるからちょっと返事をしてみたら通信してるって感じだよ』
『お前の声は聞こえないのに?』
『意識すればっていうか小声で喋れば・・・たぶん聞こえない。』
『そうか。でどういうこと?”お前のせい”って』
『俺達は普段、肉眼じゃ見えない紐のようなもので繋がっている。それに俺の力が伝わってお前に影響を及ぼしたんだ。』
『ん〜むしろ及ぼしたっていうか、その影響で助けられたんだけどね〜。じゃ、切るよ』
そうして自ら通信を切った。
ジアスはシェイ達に駆け寄った。皆、疲労困憊のようだ。
「ビルからちょっと頼まれたんだけど、広場に集まってくれませんか?」
「広場?なぜ?」
「彼が屋敷で強力な魔法を発動させるんですが、想定外の場所に人がいると危険が及ぶらしいんです。だから一まとめに敵も味方も関係無しに広場に集まって欲しいと。」
「ん〜、敵もっていうのが・・・あれだが。ひとまず休憩のために行くとするか。シェイ、といったね。案内してくれるか?」
シェイは頷いた。
そして、ジアスのほうを向いて言った。
「お前はほかの住人達を集めるか?それとも違う方?」
「ちょっと彼から個人の頼みごともあってですね。習いの生徒に頼めますか?」
「ああ、気をつけてな」
2人は反対方向へ歩いていった。