【第3章1】16歳の
「陛下、わたくしめが本日より名誉ある陛下御一家の外出及びお勤めの際の護衛となりました
ビリー・ヘンリルで御座います。なにとぞ御命令をお下し頂きますよう。」
リオンは偽名を名乗って、マルス王にひざまずいていた。マルス王はヒーディオン国王だ。
「ほぅ・・・。そなたが’ルーキーの癖に生意気で才能に恵まれて性格がお調子者の’ビルか。」
「おや、陛下。それはわたくしめの陰口で御座いますか。どなたからお耳になされたのかは存じ上げませんがその名で呼ばれますと、大変面倒でございますのでただのビルで宜しいかと。」
「はっはっはっは・・・・・・。噂通りの口ぶりじゃのぅ。キャラン、こやつは噂どおり面白いの。」
マルス王はキャラン王妃に笑みを浮かべた。といってもほとんど口ひげで笑っているかどうか
定かではなかった。
「そうですわね、あなた。これで外出時に飽き飽きしなくて済みますわ。移動の際に声をかけて頂けますとわたくしたちも安心できますわ。ウェナ、ビルさんにご挨拶を。」
「はい、お母様。」
そういって、国一いや東大陸で一二を争うぐらいの美少女が自分の座から立ち上がった。
「ビルさん、心から歓迎いたしますわ。母が言ったように、わたくしたちはいつも孤独を感じております。そこへあなたがいらっしゃって、とても嬉しいですわ。わたくしがウェナ・ヒーディオンで
御座います。どうぞ親しくして頂けますように。」
ウェナ王女はにっこりと微笑んだ。まさしく絶世の美女とは彼女を指す言葉なのであろう。
「では、これで失礼させていただきます。」
リオンはそういって深々と礼をすると立ち上がって、謁見の間を後にした。
謁見の間に続く廊下にはジアスがいた。壁に寄りかかってリオンを待っていたのだ。
「よう!リオン・・・・・・じゃなくてっビル。」
「あのさぁ、いい加減慣れない?ジアス。王女様がすっげぇべっぴんで興奮してたのを
一気に冷めさせるのやめてくんない?お前はバケツに入った水かっ」
「ごめーん。お前の目見てるとリオンって感じがビンビンするんだしさ。」
「まあ、いいよ。大声で叫ばなかったらね!・・・・・・それよりさ、この大佐とか着てそうな服重いんだけど、脱ぐの手伝ってくんない?」
「おまっお前まさか此処で着替えるつもりじゃないだろうな?!」「えっ・・・ああ、ここ俺の部屋じゃないんだっけ。あちゃー。」
「部屋の前にここ廊下だしw」
ジアスはため息をついて手を額にあてた。そしてふと、1年と50日前のことを思い出していた(2章)。
『えっ、お前がり・・・オン?』
『どうして先生が俺を選んだかは知らねぇ。』
『でも、俺は驚かないよ。』
『何で?実力的にジアスとかブランとかシェイさんとかのほうが上なんじゃないの?』
『もう、遥かにお前の方が上だよ。お前の努力は皆以上だったし、天性の才能もお前はちゃんと
持ってる。だから、皆のなかではお前が一番いいなって思ってたんだよ。』
『ジアス・・・・・・。俺もお前も強くなっていつか___。』
リーディアでは葬式は1年と50日経った日に行われる。遺体は早いうちから燃やして灰にして
壺に保管し、葬儀の時までなくなった人の部屋に置いておく。丁度今日が葬式で、陛下ご一行
はその葬儀に参列する為に護衛が必要だった。
リオンの部屋まで来た。リオンは豪華な紋章やらなんやらが付いた服をジアスに手伝ってもらいながら脱いだ。今度は黒い軍服に着替えた。ジアスはもう着ていた。というか普段身につける
軍服だったからである。しかし、ジアスは護衛としてついていけなかった。
「先生の葬式が護衛として出る羽目になるなんて思っても見なかったな。」
「いいな、リ・・・じゃなくてビルはさあ。俺葬式出れないし。それに王の護衛って結構出世したなあ。」
「でも、これ以上は出すぎたまねはしない。出世もしない。」
「リオンが生きる意味ってやつ?」
「そう。それを常に意識してないと『真理の剣』は握れない。」
「あと、行く先でどんな奴でも血まみれにするなよ。」
「人をあやめるのは最小限にする。それと、『魔鈴の絆』の鈴の音、これ小さく出来ない?」
「俺から離れる以外にだったら無理!」
『魔鈴の絆』は互いの距離が有る程度はなれるとリンと音がし、離れるにつれて音は小さくなる。戦闘や危険が近づくと凄い勢いでシャランッシャランっとと大きくなる。
「ああ、そうですか。ジアン・マクシアくん。」
無表情でぶすっとした声でリオンは言った。名前はジアスの偽名だった。
フェブリーヤの名だけで出世してしまうため、偽名を使った。
なんだかんだいっても、その名は有名で、出世すればするほどその名は重みを増してきて
バレやすく、打ち明けにくくなっていく。出世すれば一国に加担する→平和を世界に求める割に世界征服なのか→世界戦争勃発→何年も戦争は続き反戦争派が反乱→各国内は大荒れ状態、国境近辺は他国との小競り合い・・・と負の連鎖が続いていく。
なので偽名なのだ。
フェブリーヤ家が集まりに集まった故郷の村はコードメモリア城とそうは離れていなかった。
馬で駆けて行けば数時間程度で、ただ人の出入りや活気が少ないので村だった。
コードメモリア城は王が住まわれる城で最も装飾が多い。
陛下御一家はコードメモリア城を御出になられた。
「陛下、この先道が荒れておりますゆえお気をつけ下さい。」
「隊長、そんなこといっても対処しようがありませんよ。」
「そうはいってもだな・・・ビル。そういうのが決まりなんだ。」
「それじゃ堅苦しくて飽きてしまいますねー。ねぇ、陛下。」
「ほぉっほぉっほぉ。これなら余も楽しい旅路になりそうじゃのぅ。」
陛下御一家はにこやかに笑っていた。ビルも冗談ではなさそうな面白そうといった目つきをしていた。ほかに護衛としていた者と隊長は苦笑いするしかなかった。
(これが噂のビリー・ヘンリルか。コイツと手合わせした騎士たちの間ではコイツはリオンだとかいう噂も流れているらしいが・・・・・・。この性格と商売上手そうな口調でリオンは務まるのか。
それに、リオン・フェブリーヤであるならばなぜ一国に加担するのだ?リオンは平和のために
生きているそうだが・・・・・・。やはり謎は解けん。早くコイツの正体を明かしてレギオス様に
お伝えしなければ・・・・・・。)
マルス王御一家の護衛についていたアルファス・メーギストはヒーディオン国の敵国リスベス
帝国の間諜だった。いわゆるスパイだった。アルファスの仕事は王家御一家のニュースを
調べる事と、軍の中の危険人物を調査・あるいは潰す事だ。今はビルについて調査を主にしていた。
しばらくして村の門までたどり着いた。門には黒幕が張ってあった。門を抜けるとリオンは念じた。
(村の人が俺を見てもリアンビルだ!って叫びませんように。ジアスのお母さんがジアスは何処にいるのよー!って俺の肩を揺さぶりながら泣きじゃくりませんように。)
村は静まり返っていた。本当なら、王家を歓迎する人が何人かいるはずなのだが・・・。
「陛下、どうしましょうか。人気がありません。」
「むぅ・・・。」
「あの、陛下。実は・・・・・・わたくしはこの村で生まれ育ったので、様子を探ってきましょうか?」
そう言ったのはアルファスだった。リオンは目が飛び出そうになった。
(まっまさか?アルファスさんは知らない苗字だけど・・・・・・。俺も付いていくか。)
「あ、俺もついていっていいですか?」
「いいじゃろう。のう?ヒルトン隊長。」
「ええ、まあ・・・・・・。では村の代表と話をつけてこいよ。」
「はっ。」
2人はビシッと敬礼をすると村の中心部へ向かった。
「最強とよばれるリオンの弔いか・・・・・・。」
マルス王は1人でつぶやいた。
「あのぅ、アルファスさんって本当にここで生まれ育ったんですか?」
リオンは嫌味に聞こえない程度の声で聞いてみた。
「ん?あれ?本当の事を言うと・・・・・・。」
アルファスは声を小さくしてリオンの耳元で囁いた。
『うそ』
「そうなら、なぜ?」
「ある奴を調べる為さ。」
「15代目を?それとも誰かの勧誘?」
「・・・・・・気づいていたのか?俺がリスベス帝国のスパイだって。」
「ああ、自分でばらしちゃったか。そう気づいてたさ。それくらいも出来なきゃ名が廃る」
「そんなに高貴か?お前の名前。」
「誰の名前だってそうさ。ただひとつ誇れないのは何も出来なかった頃の名だな。」
「ふっ・・・・・・まあいい。それよりお前が相手した奴らでどんな噂があるか知ってるか?」
「言えば?」
「お前の圧倒的強さの秘密は、お前がリオン・フェブリーヤ15代目だからっていうな噂だよ。」
「そんな訳あるわけ?俺の瞳は青色じゃないだろう?」
「今はそうさ。だが、門番の奴が言うにはお前が今持ってる2つの剣を握るとお前の目が深い
青色に変わるそうだ。」
「なっ!?誰がそんなでたらめを?!」
「誰がっていう話じゃないさ。で、お前は何者なんだ?」
「それは自分で掴んでもらうしかない。さ、村の代表を見つけましょう?アルファスさん。」
「・・・・・・ああ。」
リオンの口調がガラリと変わったのに戸惑いながらアルファスは歩みを速めた。
村の中央広場にある14代目の屋敷の向かい側に村役場があった(というかリオンがそこへ仕向けた;)。役場へ入っていくと会議をしている様だった。
「14代目の遺体をどうやって部屋から出しますか。」
「そもそも15代目は誰なんだ?」