【第2章2】信じるよ
リアンビルは『真理の剣』と同じく、剣の柄にはめ込まれた赤い宝石に手をかざした。
すると、今度は20代くらいの美男子が現れた。金髪に金色の瞳で顔が整っている。
<僕は信頼を担う精霊バロシオンです。・・・・・・ええ、15代目よ。焦らずとも僕にだって
アポシオンにだって分かっておりますとも。
まず、信頼は誰のためにあるのかですね。それは自らの為です。信頼は自分と相手を
信じる事ができなければ一方的に信じるだけになってしまいます。簡単に例を挙げますね。
あなたが自我を持った剣を手にしているとしましょう。己のみを信じていれば、自我を持った剣はまさしく両刃の剣です。自我の剣はあなたの意のままに振るう事ができなくなります。
今度は、ほとんど可能性が低いのですが挙げておきましょう。己はいまいち信じる事が出来ないが、剣は強いので信じているのであれば、今のうちは自我の剣はあなたのいうとおりに動かすことが出来ますがいつの日か剣はあなたを裏切ります。
そしてお互いが信じあっていれば、一時はあなたに任せ一時は剣に任せるといった良い連鎖へと繋がっていきます。>
バロシオンは一気にほとんど息継ぎをしないで話した。リアンビルはよく意味が分からなかった前半部分だが、例を挙げてくれたので分かる事ができた。
(バロシオン、ではどうすれば信頼できますか?)
<ある程度の間、一緒に過ごしていれば個人差はありますが信頼はできます。旅をするなど、
一緒に闘うなど、修練を共にしたりしても、絆は深まりますよ。>
(・・・・・・リオン先生は絆を信じるためにあんな事をしたとアポシオンは言っていましたが、 それってどういう事なのですか・・・・・・・・・・・・?)
<きっとそれはあなたを今までの先代達を超えるリオンであって欲しいからではないでしょうか。リオンという名前の称号は戦えなくなるか、戦士を引退するかでしか代を変えることができないのです。だから、自ら・・・・・・。>
「だから、何だって言うんだよ!?俺に譲る為に命捨てなきゃなんねぇ称号なんか要らないんじゃないのかよ!第一絆とか信頼とか、戦いに何が関係してるんだよ!?」
リアンビルは、いやもう15代目リオンは自分があっちへ逝くか老いて剣が握れなくなるまで
リオンとして生き続けねばならないことを叫びとは裏腹に悟っていた。
<15代目、それは戦う時の心の支えとなり、助けとなり、本来の実力を発揮できない時の
頼みの綱になります。仲間も信頼できる友も部下も肉親も捨てた、何もかも捨ててしまって
負けてもどうにもならない相手がいるかもしれません。相手は何も守る必要など無いから、と
言っていて果てしなく強く、あなたが挫けそうになるかもしれません。しかし、あなたに絆が、
信頼が、誰かとの間にあるならばあなたはこの世で最強の戦士となりうるでしょう。>
バロシオンがそういうと、幻影は消えた。リオンはひどく混乱していた。
「・・・・・・どういうことなのか、さっぱり――。」
言いかけた時、武器庫に誰かが駆け込んできた。――――リオンジアスだった。
「おい、なんでリアンビル。ここにいるんだ?」
「えっ・・・・・・ああ、リオンジアス。先生に剣を持っていきなさいって言われたんだよ。」
言い訳にほぼ近かったが、事実だった。
「何処に?」
「旅へ・・・・・・出るんだ。」
これは間違いなくウソだった。
「何でまた・・・・・・旅に出るんだよ。」
「強くなる為さ。心も身体も強くなって、鍛え上げてリ・・・・・・」
リオンは’あっ’と思い自分で口を塞いだ。
(鍛え上げてリオンの名に恥じない生き方をするんだ、といいそうになっちゃった。リオン先生 や精霊たちにはそんな事言われてないけど、リオンジアスには、村の人には朝知ってもらった方がいいに決まってるさ・・・・・・。)
「鍛え上げてリ・・・何?」
「リ・・・オン先生に負けないぐらい・・・えっと、まあ強くなりたいって事だよ」
苦笑いしながら答えた。リオンジアスは特に気にはしていなかった。
「あっ・・・・・・ねぇ、それよりリオンジアスは何で此処に?」
「えっ・・・あっ、まあ・・・・・・そのあれだよ___。そのー家出。」
「へぇ、珍しいね。理由は?」
立場が逆転した!
「・・・・・・ん、そのだな。血の濃さだけで軽蔑するのが嫌になったんだよ。お前に関することだしさ、何かその・・・・・・言いづらかった。特権がリオンの名を子孫につまり血縁にしか譲れない様にしたのは偽の奴が現れない為なのに・・・さ。」
その後は聞かずとも分かった。それがリアン(疎遠)を嫌う理由だから。
「いいよ、ジアス。俺は、お前の言葉信じるよ」
「ビル・・・・・・!ありがとうっ。そう言ってもらえて俺、嬉しいよ。」
ジアスは瞳に涙の粒をためながら、自分の手荷物から小さな紐の付いた鈴を2つ取り出した。
「それは?」
「これ、ルーンマスターっていう魔導師がアイテムに魔法をかけて、あるいは魔力を込めた
ルーンアイテム。この鈴は『魔鈴の絆』っていうんだ。」
「魔鈴の絆・・・・・・?」
「鈴を口の中に入れて同時に舌で鳴らしてみてくれないか?そうすれば俺達の間に絆が
出来上がる。俺の手を握って。」
リオンは無言で従った。手渡された鈴を口に入れて、ジアスの手を握った(握手するようにでは
なく腕相撲をする前に机無しで握り合っているみたいな・・・)。そしてアイコンタクトで2人は同時に鈴を鳴らした。
リリンッ
握り合った手に真っ白い光が集まり始めた。ぱあっと光がはじけると握った方の手の親指に
紐の跡のようなものが残った。
「この跡みたいのは何?」
「これは絆の証。もし、俺を裏切るような行為をしたらそこから壊疽するよ(笑)」
「え・・・・・・。ね、ね、ぜってぇ裏切らないから外してくれない?」
「あははははっ、無理だよ。いますぐなんて、さ。少なくとも心で信頼してれば、スパイとして
動いてたって壊疽しないから安心して。」
「んなこたいったって・・・・・・。」
2人の距離はぐっと近まったようだった。
「ジアス、行くあてあるのか?」
「え、ああ。親戚ここに住んでるから、放浪するかもね。」
「だったらさぁ・・・・・・ヒーディオン国の犬になるか?」
「え、軍兵に?」
「実は先生から軍の世話になれって言われてるんだよ。」
「いいよ、付いてく。ビルよろしく。」
ジアスはリオンに手を差し出した。リオンはためらうことなくその手を握った。
その時、離れのほうがボウッと火が上がった。(燃えているのは離れの近くの花壇だろう)
「リオン先生・・・・・・。」
「どうして・・・・・・?」
「俺、実はリオン先生が・・・こうなる事知ってた―――。」
「どうして、止めなかったんだよ!?」
「止めたさ。けど15代目を信じるためにこうするんだって言っていた。」
「15代目は誰なんだよ・・・・・・?」
「―――俺だよ」
リオンの青い瞳が一層深まった。
続