第7話 初めての大浴場
メイドさんが呼びに来たのでお風呂に向かった。
「大浴場って本当に大なんだな……」
そこはさっきまでいた部屋が2つは入りそうなくらい大きなお風呂だった。
床も柱も浴槽も全部大理石で出来ている。
柱は彫刻で飾られていた。
「流石領主様の屋敷だなぁ」
何だか汚してはいけない気分になってくる。
汚れを落とす場所なのに。
とりあえず体を軽く流してから浴槽に入る事にした。
「あああぁぁぁっ」
思わず声が出てしまう。
全身が湯に溶けていく感じだ。
工房のお風呂と違って手足を思いっきり伸ばせるのがまた素晴らしい。
水が良いだけあって湯ざわりも柔らかいね。
「贅沢だな……癖になりそう」
大きな窓からは夕焼けに染まった空が見える。夜になると星空が見えるだろうな。
リラックスしていると、脱衣場から声が聞こえてきた。
「ほらセリカ! 早く入りましょう!」
「待ってください。早く体を洗いたいのは分かりますが、タオルを巻かないと」
大浴場に現れたのは一糸まとわぬ姿のアリサとタオルを巻いたセリカだった。
ほっそりとした体付きなアリサは胸も控え目だ。
違う。見ちゃダメだ。
アリサと目が合った。
合ってしまった。
「きゃああああっ!!」
「ご、ごめん!」
両手で前を隠すとその場にしゃがみ込むアリサ。
その顔は真っ赤だった。
きっと俺の顔も真っ赤だろうな。
慌てて視線を横に向ける。
「アレフも入っていたのか。悪いが横を向いてくれないか? タオルを巻いているとはいえ恥ずかしいからな」
頬を少し染めてセリカが立っていた。
タオルでギュッと抑えられた胸が妙に艶めかしい。
手足は程良く筋肉質で健康的な色気があった。
「ごめん、わざとじゃないんだ」
背中を向けて謝る。
あー、びっくりしたー。
「お風呂が用意出来たと聞いて入ったんだろう? 先に誰か入っているか確認しなかった私達のミスだ」
「とりあえずもう上がるから向こう見ててくれない?」
「い、いえ。ここは広いですから、端と端に別れて入れば大丈夫ですわ」
「そうですね。アレフが不埒な事を考えないのなら私は問題ありません」
不埒って……考えないよ。
「そんな事考えないって。じゃあこうすればどうかな」
《水操作》で湯気を白くて濃い霧に変化させる。
これなら近付かない限り見えることは無いだろう。
「俺が脱衣場に出たら元の湯気に戻すから。転ばないよう気を付けてね」
しばらく湯に浸かって芯まで温まったところで、洗い場に移動して体を洗い始める。
「アレフ様、お背中流しますわ」
「アリサ?」
近くから声がしたと思ったら背中に布が当てられる。
「いや、流さなくてもいいよ」
「いいえ、やらせてください」
断ったのにアリサは背中を洗い始める。
仕方がないので気が済むまで洗ってもらおう。
力は弱いけど一生懸命さは伝わってくる。
その後背中を隅々まで洗い終わったのにアリサはまだ手を止めない。
もういいよと言おうとしたら、アリサが口を開いた。
「本当にありがとうございました。もしアレフ様があの時現れませんでしたら、セリカは殺され、私はきっと生きているのも辛い状況になっていたのでしょう」
想像してしまったのか、アリサの声は震えている。
「こうしてファノスに帰ってきて気が付いたのです。助かって喜んでいる自分に。騎士達は亡くなったというのに……私は私の幸運を喜んでいたのです。彼等だって生きていたかったのに!」
「アリサ……」
背中に温もりが押し付けられる。
温かい滴が濡らしているのはアリサの涙だろう。
アリサは声を殺して泣いていた。
「上手く言えないけどさ。騎士達は笑ってるアリサを護りたかったんだと思うよ。だからアリサが騎士達の事を考えて泣くのは、嬉しいけど困ってると思うんだ」
「……」
「アリサが変わらず笑っている事が、きっと彼等の望んでいる事だと思う。それはアリサの心を護れたという事だからね」
「……心」
「そう、心。だから彼等の事を想うなら、今までと変わらない生活を過ごせば良いと思う。難しいけどね」
「今まで通りは難しいと思います。でも……」
アリサが蚊の鳴くような声で囁く。
「私がアレフ様に再び助けを求めたら護ってくださいますか?」
「あぁ、もちろん」
悩まず言い切ると背中から温もりが消えた。
「約束ですからね」
頬に柔らかな感触が触れた。
え?
何、今の感触!?
「ふふっ、護衛料の先払いです」
混乱しているとアリサの楽しげな声が聞こえる。
冷めていく背中とは違い、頬の感触は熱くなる一方だ。
「では私達は先に上がりますね。湯冷めしないようゆっくり温まってください」
脱衣場へ向かう足音が聞こえる。
俺も上がりたいところけど今脱衣場に出る訳にはいかないよな。
大人しく浴槽に入ることにした。
「落ち着くまで入ってるか」
結果結構な長湯になってしまい、のぼせかけてしまった。




