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第4話 魔獣が出た!

 2人の側に歩み寄ると、女騎士は苦しそうにしながらも俺に頼んできた。


「……少年、会ったばかりの君に頼むのもなんだが、アリサ様をファノスの街まで連れて行ってくれないか……?」

「セリカ! 何を言っているの? 貴女がいるでしょう!?」

「いいえ、アリサ様……私はもう……お守り出来そうにありません」

「そんな……」

「ちょっと触るよ」


 返事も聞かずに傷口にそっと触れる。

 骨まで斬られてるけど、内臓までは達していないみたいだ。

 傷が深いので魔改造で《回復》と《成長》の術式を合体させる。

 術式が混ざり合って複雑なんだけど、いつもよりスムーズに構築する事が出来た。


「何を……?」

「回復魔術だよ」


 手から放たれた淡い光が傷口を包む。

 すると女騎士を赤く染めていた血は消え、傷口は盛り上がるように塞がっていった。

 魔術が終わると、そこには傷一つ無い白い肌が現れていた。


「傷が消えた……これは一体」

「これで良し。って、わっ、ごめんなさい!」


 傷口に触れてたつもりが、直に胸に触れてしまっていた。

 鎧ごと斬り裂かれた痛々しい傷はもう無い。

 その代わりに結構な大きさの膨らみに桜色の先端が見えてしまった。

 女性の胸を見るのは昔アイン姉と一緒に風呂に入ってた時以来だ。

 俺は慌てて目線を逸らした。


「良かった、セリカ! 痛いところは無い?」

「はい、あれだけの深手でしたが、今はなんともありません」


 お嬢様が飛び付くように女騎士さんを抱きしめている。


 そろそろ落ち着いたかな。


 そう思った頃、お嬢様は丁寧に頭を下げてきた。

 肩まで届く栗色の髪がふわりと舞い上がる。


「命の恩人に御礼も述べず、大変失礼いたしました。私はアリサ・ファノス。ファノスの領主ローレンスの妹です。こちらは私の騎士のセリカ」

「私はセリカ。アリサ様に使える騎士だ。貴方には命を救われた。この恩はいつか必ず返すと誓おう」


 女騎士が背筋を正して頭を下げる。

 服の大きな裂け目は閉じて隠してある。

 別に残念じゃないからね。


「アリサさんとセリカさんね。お礼とか気にしなくていいよ。俺はアルフ・ツヴァイ。通りすがりの冒険者……志望かな」


 まだ冒険者ギルドに登録していないからね。自称冒険者よりは冒険者志望でいこう。


「先程セリカを癒やしてくださいましたが、アルフ様は魔法使いですか?」

「さっきのは魔法じゃなくて魔術だよ。俺は魔法と言われる上級魔術は出来ないんだ」


 まぁ、魔術と魔法はそういう区別があるってだけなんだけどね。

 ちなみにお師様が研究してる魔導は、魔力や魔術の起源を解明するというお師様独自の研究だ。 


「セリカを癒したあの力で上級ではないのですか。魔術とは凄いのですね。ところでアルフ様は通りすがりと仰られましたが、どちらへ向かわれる予定なのですか?」

「それが……」


 お師様に破門されたこと、知らない場所に転移されたこと、街へ行こうにも場所が判らないこと、冒険者になろうと思うけどどの街に冒険者ギルドがあるか判らないこと。

 思い付くままに話していた。


「という訳で、まずは町か村がありそうな方に行ってみようと思ってるんだ」


 話し終えるとちょっとスッキリした。

 自分では気にしてないと思ってたけど、色々思うところがあったみたいだ。

 黙って俺の話を聞いていてくれたアリサさんには感謝だ。


「でしたらアルフ様、私達と一緒にファノスに参りませんか?」

「それはいいですね。ファノスはこの地方最大の街です。アルフ様の求める冒険者ギルドも大きな支部があります。改めて御礼もしたいので、同行してもらえませんか」


 アリサさんとセリカさんが誘ってくれた。

 右も左も分からないし、迷わずに街まで行けるのならお願いしようかな。


「それに……騎士達が亡くなりましたので、セリカだけでは手が足りないのです。図々しいお願いですが、ファノスまで私を護衛していただけませんか? 勿論護衛料はお支払いします」

「良いよ。困ってる人には力になれと言われてるし、道が判らない俺も助かるからね」


 所持金が銅貨8枚だから懐も助かるし。

 しかし助けたお嬢様を護って旅をするって物語みたいで良いな。


「ありがとうございます!」


 アリサさんが手を重ねてきた。

 女の子に初めて手を握られた(アイン姉除く)から気恥ずかしい。

 それにしても細くて綺麗な指だな。


 その後簡単に騎士達を葬った後、馬車は街道を西へ進み出した。


「ファノスまで何日ぐらいかかるんですか?」


 御者台で手綱を握るセリカさんに聞いてみる。

 客車の中には俺とアリサさんがいた。

 美少女と二人きりで緊張する……なんてことは無かった。

 初めて乗った馬車に感動していた。


「ここからだと、大体あと2日といったところですね」

「結構近いんですね。何故護衛を付けてまで旅をしているんです?」

「私の母のお墓参りです。お母様は私を産んだ後体調を崩してしまいました。実家で療養したのですが亡くなってしまったので、こうして年に1回命日にお墓へ参りに行くのです」


 お母さんの墓参りか。

 大変だなぁ


「やっぱりお母さんが居ないと寂しかった?」

「いえマリアが世話してくれましたし、セリカが居ましたからね。お兄様達も可愛がってもらいましたし、寂しくはありませんでした」


 マリアというのはセリカさんの母親だそうだ。

 その縁でセリカさんとアリサさんは幼馴染であり、今は主君と騎士だけど昔は姉妹同然の仲だったそうだ。

 ちなみにアリサさんは俺と同じ14歳で、セリカさんは3歳年上の17歳とのこと。


「それよりもアルフ様、私の事はアリサとお呼びください」

「いや、雇い主を呼び捨てにする訳にはいかないよ……むしろ俺こそ呼び捨てにして欲しいんだけど」


 様付けで呼ばれると、慣れないせいか、何だか背中がムズムズしてしまう。


「いいえ、アルフ様は恩人です。その方を呼び捨てになんて出来るはずがありません。雇い主としてのお願いです。私を呼び捨てにしてください」


 うーん、雇い主からのお願いかー。

 となると仕方がない……かな?


「わかったよ、アリサ」

「はい!」


 嬉しそうに返事をするアリサ。

 お嬢様だから呼び捨てされる事が新鮮で嬉しいんだろう。


「私は呼び捨てさせてもらおう。私のこともセリカで構わない。よろしく、アルフ」

「こっちこそよろしく、セリカ」


 お互いの呼び方が決まったところでお客さんだ。

 念の為展開していた《探知》の魔術に反応が現れた。

 この反応は人間じゃないな。


「セリカ、馬車を止めて。魔獣が出た」

「私はどうすればいい?」

「俺が相手をするから、セリカはここでアリサを護っていて」

「任せた」  

「お気を付けてください」


 後ろ手にアリサに手を振りながら馬車を降りる。


「さて、どんな魔獣が出るかな」


 俺の《探知》だと人と魔獣の違い位しか分からないんだよね。

 アイン姉になると種族やステータスまで分かるって言ってたけど……才能の差だよな。


 そんなことを考えていたら、草むらから大きな獣が現れた。

 5メートル位はある大きな鹿だ。頭の角は凶々しく鋭い。

 明らかに草よりも背が高いんだけど、なんで見えなかったんだ? 《隠伏》の魔術?


「エビルエルクだ! 《草渡り》という厄介なスキルを持っているから注意してくれ」


 エビルエルク。

 そういえば図鑑に載ってたな。

 草原限定で高レベルの《隠伏》を常時発動するスキル《草渡り》を持つ魔獣だ。

 凶暴な性格に厄介なスキル、さらに風属性の魔術も使うことから、危険度はAランクと書いてあったっけ。


「この草原って良くエビルエルクが出没するの?」

「《草渡り》があるから分からない。街道は草原の端を通っているが、出会ったという話は聞いたことがないな」


 生息する場所が草原なので常時《隠伏》が発動しているので、目撃例が少なく幻の魔獣だそうだ。

 その幻の魔獣はこちらを睨んでいる。

 向こうは戦闘準備完了みたいだ。


「角や毛皮が高く売れると良いなぁ」


 アリサ達を送り届けるまて所持金銅貨8枚だもんな。

 現金収入の方法を考えておかないと。


 戦闘に入る前にアリサ達が距離を取ったのを確認する。雇い主を戦闘に巻き込ませる訳にもいかないからね。


 エビルエルクに一歩近付く。

 すると突進して頭突き、いや巨大な角を突き刺しにきた。

 角の周りには風が渦巻いている。


 風の魔術だ。


 角が当たらなくてもダメージを受けてしまう。

 大きく間合いを取って避ける。《肉体強化》を掛けているから余裕だ。


 そのまま踏み込んで短剣を振るう。

 あっさりとエビルエルクの首が転がった。


「避けてしまえば頭突きなんて、首を落としてくださいって言ってるようなものだな」


 これで当分の食料は何とかなるかな。


 首無しの胴体に近付く。足首に大きな傷を付けると、水の魔術を発動させた。


 傷から足首の動脈に高圧の水を流し込んで、体内に残った血液を押し出すんだ。

 エビルエルクの首から勢い良く血が噴出している。

 

「うわ、これは何をしてるんだ?」


 スプラッターな光景に近付いてきたセリカが眉をひそめる。

 一緒について来たアリサも顔色が悪くなっている。

 街道一帯が血に染まってるからなぁ。


「血抜きだよ。これをやった方が美味しく食べられるようになるんだ」

「血抜きは知っている。私も狩りでやったことがある。だが普通は吊るしたり水に漬けておくものじゃないか」

「こうやった方が綺麗に血が抜けるからね」


 そう言ってる内に吹き出している血が透明になってきた。どうやら血を出し切ったようだ。

 水の魔術を止める。


「しかしこれだけの大きさだと馬車には載せられないな。勿体無いが持てるだけ持って後は捨てよう」

「大丈夫、全部持っていけるよ」


 血抜きした胴体と頭部は、アイン姉お手製の魔法袋(マジックバッグ)に収納した。

 これで持ち運べるし、腐りもしない。


「……魔法袋? あの大きさであれだけの物が入る?」

「……これ程の魔法袋(マジックバッグ)が存在するのか」


 2人が呆然としていた。

 数分後、正気に戻った2人に聞いたところによると、魔法袋は作れる職人が少なく貴重品だそうだ。

 中でも高性能な物は、遺跡で発掘されるだけなので、かなりの高額になるらしい。

 

 工房じゃ普通に袋として使っていたんだけどな。

 どうも工房と世の中では大分違いがあるみたいだね。

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