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第18話 新メニュー開発

 魔法樹の自宅で迎えた初めての朝。

 シーツはまだ買ってないので、マントに包まって寝たのだけど目覚めは最高だった。


「俺だけの場所だからかな?」


 工房だと自分だけの場所は屋根裏部屋だったからな。

 ローレンスさんの家に泊まった時は部屋が豪華過ぎて落ち着かなかったしね。

 顔を洗って身支度を整えてから、隣のモニカさん家にお邪魔する。

 朝ご飯に呼ばれているんだ。


 モニカさん家に入るとカレンちゃんと出会った。

 どうやら寝起きみたいだ。


「……おはよう」

「おはよう、カレンちゃん。ラルクさんは何処にいるかな?」

「……こっち。付いてきて」


 ふらりふらりと揺れるカレンちゃんの後を歩く。

 眠いのかな?


「カレンちゃんは寝不足?」

「アレフさんの……あんなの初めて……凄かった……」 

「ちょ、何言ってるのよカレン!」


 途切れがちなカレンちゃんの言葉に、通りすがったセシリアちゃんが泡を食っている。


「? セシリアは初めてじゃない……?」

「わ、私も初めてに決まってるじゃない!」

「……本当に……凄かった……ムクムク……大きく……いっぱい出て……濡れた」


 カレンちゃんはまだ眠気に襲われているのか、いつもより更に言葉が短かった。


「すご……いっぱ……濡れ……って朝からなんて事を言い出すのよ!」


 そんなカレンちゃんにセシリアちゃんは顔を真っ赤にして首を揺さぶる。


「ん?……魔法の話。アレフさんの魔法は凄かった。魔法を見たの初めて。木がムクムクと大きくなって、水がいっぱい湧き出て、ダレン達と水遊びして濡れた」


 揺さぶられて目が覚めたのか、カレンちゃんがもう一度繰り返した。


「へ? そ、そうよね。凄かったよね……わ、私朝ご飯を手伝ってくる!」


 更に顔を赤くしたセシリアちゃんが走り去っていった。


「何だったんだろう?」

「さぁ……? でも本当に魔法は凄かった。私も使えるようになりたい」

「魔法じゃなくて魔術だよ。適性があれば出来るんだけど俺は調べ方知らないからなぁ」

「そう……残念」


 あまり残念そうに感じない口調だ。


 カレンちゃんについて歩くとリビングに着いた。

 テーブルにはラルクさんが座っている。

 もう朝ご飯を済ませてお茶を飲んでいる。


「おはようございます」

「おはよう、アレフ君。昨日は大変だったね。領主様に呼ばれたり、領主様が来られたりするだなんて思いもしなかったよ」


 またラルクさんの顔色に疲労顔色出ているけど、これは精神的疲れだな。

 この先こういう機会は増えると思うから、頑張って慣れて欲しい。


「昨日ローレンスさんと話してたんですが、魔法樹は地下から出入りする事になりました。物置かどこか地下室を作っても良い場所はありませんか?」

「納屋があるけど中はかなり散らかっているよ。それでも良いかな?」

「構いませんよ」

「じゃあ朝食の後にでも案内しよう」

「芋ばっかりだけどたくさん食べてね」

「ありがとうございます」


 今日の朝食は芋のパンケーキだった。

 初めて食べるけどモチモチした食感が良い。

 クラリスさんはアイン姉程じゃないけど料理が上手いな。

 

◇ ◇ ◇ ◇


 手早く朝ご飯を済ました後、ラルクさんに納屋へ案内してもらった。

 裏庭の外れにある建物だ。

 隣には鶏小屋があって鶏の鳴き声が聞こえてくる。


「中に入っているのはもう使わない物ばかりだから好きに使っていいよ」


 そう言ってラルクさんは畑に行った。

 許可を貰ったので扉を開ける。

 長い間開けられなかったのだろう。

 軋んだ音を上げながら扉が開くと、中では埃が舞い上がっていた。


「ゲホゲホ……ちょっと酷いな」


 魔術でそよ風を起こして埃を集めて1箇所にまとめる。

 改めて中を見ると木箱や空き樽が積み上げられていた。


「まずは地下室の入口を決めないとな」


 とりあえず魔法袋(マジックバッグ)に放り込んでいく。

 床が見えるようになると、壁に掛かった農具が目に入った。

 錆びて朽ちかけた草刈り用の大鎌やピッチフォークが、何とも俺の心に訴えかけてくる。


「格好良い……何か使えるかもしれないから貰っておこう」


 魔法袋の中に仕舞っておけばこれ以上ボロボロにはならないしね。


 良いモノを見つけてテンションが上がったところで出入り口作りを再開した。

 まずは地下室だ。

 土の魔術で倉庫にもなりそうな広い空間を作ると、そこから魔法樹に向けて通路を掘り進める。

 勿論崩れないように壁も天井も強化しておかないとね。

 通路が魔法樹に届いたところで今度は魔法樹側の作業だ。

 とはいえ地下階を作って通路が届いたところと繋げるだけだけどね。

 後は納屋に木箱や空き樽を戻してカモフラージュして完成。


「思ったより早く終わったな。モニカさんの屋台の新作メニューでも考えるかな」


 モニカさんを探すと台所で芋を茹でていた。


「それは今日売りに行く分の芋?」

「そうですよ」


 塩味の茹で芋か。

 芋本来の味が判って芋好きには堪らない美味しさだけど、芋を敬遠しているファノスの人達には受けないだろうね。

 何か良い方法は無いかな……そうだ!


「ちょっと芋の料理を考えたんだけどその茹で芋使ってもいい?」

「良いですけど、どんなメニューですか?」

「手持ちに肉があったからね。どんな料理かは出来上がってからのお楽しみだよ」


 魔法袋からエビルエルクの肉を取り出す。

 脂身の多いバラ肉が良いな。


「それは何のお肉ですか?」

「エビルエルクの肉だよ」

「えぇっ、超高級品じゃないですか!?」

「この前仕留めたからいっぱいあるんだ」


 いくら傷まないと言っても使える時に使わないとね。

 バラ肉を包丁で細かく叩くのは面倒なので、風の魔術で細かく刻んでいく。

 

「玉ねぎを貰うよ」


 皮を剥いた玉ねぎを肉とは別に刻んでいく。

 玉ねぎは肉ほど細かくする必要は無いかな。


「魔術は料理にも使えるんですね」

「お師様が言うには、料理に魔術を応用するのは良い練習になるらしいよ。細かい調整が難しいんだって。結構簡単に出来たんだけど」


 薪火の代わりに火の魔術でフライパンを熱くする。

 十分熱くなったところで細かく刻んだ肉を入れる。


「油はその壺ですよ」

「脂の多いバラ肉を使ってるから、火力に気を付ければ油は必要無いんだ」


 木べらで混ぜながら炒めていくと肉から脂が大分出てきた。

 そこに玉ねぎを入れて更に炒めていく。

 玉ねぎが透き通ってきたら塩で味を付けて火の魔術を止めた。


「ちょっと塩が多くありませんか?」

「芋を混ぜるから塩はちょっと強めで良いんだよ」


 今度はメインの芋の番だ。

 火傷防止に風の魔術で手の周りに空気の層を作ってから、茹で上がった芋の皮を剥いて潰していく。

 芋を潰したら炒めた肉と玉ねぎを入れてよく混ぜる。

 小分けして楕円形に丸めたところで気が付いた。


「モニカさん、パンってあるかな?」


 何度かモニカさん家でご飯をご馳走になっているけど、主食は芋でパンは見かけないんだった。


「最近は芋を食べているのでパンは無いんです」


 まいったな、この料理にパンは必要なんだけどな。

 試作してから売りに行こうと思ったけど仕方が無いか。

 ぶっつけ本番で売る事にしよう。

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