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第14話 ゴミ掃除

「ふぅ、生きた心地がしなかったよ」

「私も……」


 ギムガス商会からの帰り道。

 様子を探りながら大通りを歩いていると、ラルクさんもモニカさんも足取りが重くなっていた。

 2人とも精神的に疲れているようだ。

 後ろを尾けてきている連中が居る事は言わない方が良いね。


「でも本当にこれで良いんですか?」

「うん、計画通りだよ。とりあえず俺はまだ用事があるから、2人は先に帰ってて」

「用事ですか? 私達も付き合いますよ?」

「1人で行くから大丈夫だよ」


 正門前の公園広場で2人とは別れる。

 その姿が門に消えるまで様子を見ていたが、彼女達を尾けていく奴は居なかった。


「まぁ奴等が狙ってくるなら、まず俺からだろうしな」


 モニカさん達の安全を確認したところで公園から離れる。

 大通りから裏路地に入り、更にいかがわしい酒場や売春宿が集まった一角に足を踏み入れた。

 そこには、普通の人なら近寄る事を嫌がりたくなる雰囲気が漂っていた、。


「おい、そこの坊主!」


 この地区には珍しいマトモな酒場の前を通ると、ダミ声に呼び止められた。

 声の方を向くと、背が低くてずんぐりむっくりとした髭面のおじさんが立っていた。

 その右手には小さな樽を持っている。


「なんかガラの悪いのがお前さんを尾けてるぞ。悪い事は言わん。もっと明るい道を歩くんじゃな」

「知ってますよ。そいつらを釣り上げる為に裏路地を歩いてるんです」


 土地粥が無いから襲われやすい場所が分からなくて困ってるけど。

 どこか囲まれるのに適した場所があると良いんだけどな。


「なんじゃ、気付いておったのか。要らん世話を焼いたかのう」

「いえ、ご忠告ありがとうございます」

「ふむ、そこの路地は行き止まりになっておるから、待ち受けるには都合が良いのう……ゴクゴクコク、ぷはぁ! しかしこのシードルという酒、ファノス名産だけあって泡立ちも爽やかで美味いのう。じゃが酒精が弱いのが難点じゃな。水みたいに幾らでも飲めてしまう。蒸留でも試してみるかのう」


 手にした樽を飲み干すと、ブツブツ言いながらおじさんは歩いていった。

 あの体格に酒好きな所からドワーフなのかな。

 ドワーフは鍛冶と酒に生命を賭けている生物だってお師様が言っていたし。


「この路地が良いって言ってたな。どうせだし行ってみるか」


 路地の先はドワーフのおじさんの言った通り、袋小路になっていた。

 ゴミ捨て場に使われているみたいで、ゴミが山と積まれている。

 壁には汚れだか血痕だか判らない大きな染みがあった。

 いかにも、といった場所だ。


「居たぞ!」

「馬鹿が、袋のネズミだぜ!」

「二度とファノスを歩けなくしてやるぜ」


 後ろからチンピラ風の男達が大声を上げながらやってきた。

 3人か。

 身のこなしから喧嘩が得意な一般人といった感じだ。


「はぁ、甘く見られてるな」


 この程度ならすぐに片付けれるけど、あんまり力を見せ付けるのもなぁ。

 まぁいいや。

 魔術は使わずに相手しよう。


「オラァッ!」


 男が殴りかかってきた。

 凄い大振りだ。

 あっさり避けると、無防備な背中が目の前にあった。

 蹴飛ばして頭からゴミの山にダイブしてもらう。


「野郎、ふざけんな!」


 次の男が掴み掛かってきた。

 バックステップで軽々と避けてみせる。

 動きが単調で読み易いな。


「このっ、くそっ、テメェ」


 何度もかわし続ける内に男の足がフラついてきた。

 足を払ってバランスを崩す。

 倒れそうになった所を蹴飛ばして、またゴミの山にダイブさせた。


「構わねぇ、ブッ殺す!」


 最後に残った男がナイフを取り出す。

 振り回しながら突っ込んできた。

 構えも何も無い単なる突進だ。

 ナイフを持つ手を掴むと、突進の勢いを利用して投げ飛ばす。

 投げる先はやっぱりゴミの山だ。


「ぎゃっ!」

「ぐむぅ!」

「ぐはぁ!」


 起き上がろうとしていた男達を巻き込んでゴミの山に埋もれる。 


「ちゃんとゴミはひとまとめにしないとな」


 風の魔術で散らかったゴミを袋小路の一角にまとめておく。

 男達も一緒になったけどまぁいいか。

 社会のゴミみたいなものだし。


 ゴミ掃除を終えて袋小路から出ると、ドワーフのおじさんが待っていた。


「観ておったが、坊主なかなかやるのう。どこで修行してきたんじゃ?」

「育ったところが変わったところでね」


 ローレンスさんから、工房の事は公言しないように言われたので、適当に言葉を濁す。


「そうか。ところでお前さん、モノ作りに興味は無いかの?」

「う~ん、あまり興味は無いかな」

「残念じゃな。見所があるから弟子にしようかと思ったのじゃが」

「破門されたばかりだからね。当分弟子になるのは遠慮するよ」


 傷付いた訳では無いけど自然に苦笑いが浮かんでくる。


「坊主を破門するとは見る目の無い奴じゃな。まぁいい。ワシはゲン。見ての通りのドワーフじゃよ」

「俺はアレフ・ツヴァイ」

「変わった名字じゃな。まぁいいわい。ワシはしばらくこの街に滞在するから、気が変わったら声を掛けてくれ。どこかの酒場に居るじゃろう」


 そう言うとゲンさんは裏路地の奥へと歩いていった。

 変わった人? ドワーフ? だなぁ。


「さて、ギムガス商会に喧嘩も売ったし、さっさと戻って小屋を建てよう」


 当面の宿にするから、立てる小屋はしっかりした造りにしないとな。

 俺は小屋の間取りを考えながら郊外へ足を向けたのだった。

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