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第12話 野盗の正体

「さて、どうしようかな」


 裏庭に積み上げられた倒木の山を前に、俺は倒木の使い道を考えていた。

 硬い木だし燃やしてしまうのも勿体無いよな。

 

「アレフくん、ありがとう。今年はもう遅いが、来年からは麦を育てる事が出来そうだよ」

「これ位は朝飯前ですよ」

「お礼をしたいのだが、何かリクエストはあるかい? 私に出来る事なら何でも応えるよ」


 んー、リクエストかー。

 これといって欲しい物は……

 あっ!

 そうだ!


「じゃあこの裏庭の一画を貸して下さい。当分の間で良いですから」

「あぁ、それぐらいは構わないけど……どうするんだい?」

「実は泊まる宿が無いんですよ。倒木がたくさんあるので、丸太小屋を建ててしばらくはそこで寝起きしようかと」


 宿代の節約になるしね。


「今から建てるのですか? じきに日が暮れてしまいますよ」

「モニカの言うとおりだよ。今日のところはうちに泊まると良い」

「いえ、作業は明日にやります。今日は昨日お世話になった人の所に戻るつもりです。泊めてもらったお礼もしていませんし」

「そうか。今からファノスに戻るのなら気を付けてな」

「大丈夫ですよ。暗くなる前に着きますから」


 走って戻ればそんなに掛からないだろうしね。

 

◇ ◇ ◇ ◇


 ローレンスさんの屋敷に着いたのは太陽が隠れる少し前だった。


「お帰りなさいませ、アレフ様。冒険者ギルドへの登録は無事に終えられましたか?」

「あ、アレフお兄様。おかえりなさい。冒険者ギルドはどうだったの? 冒険者に登録出来た?」

「聞いたぞアレフ。冒険者ギルドに登録に行ったそうじゃないか」


 屋敷に入るなりアリサ達に質問を浴びせられた。

 たまたま玄関ホールで立ち話をしていたらしい。

 アリサにエリス、それにセリカまで聞いてくるのか……


「あはは……条件が合わなくて登録出来なかったんだ」


 レベルが1だったからとは恥ずかしくて言えない。


「……えぇ!?」

「何で?」

「アレフ程の凄腕を見抜けないとはな。冒険者ギルドともあろう組織が情けない」


 三人三様の反応が返ってきた。セリカは買いかぶり過ぎだよ。


「ではアレフ様はこれからどうなさるおつもりですか?」

「この街では何かしらのギルドに加入していないと、宿を取るのは難しいぞ」

「そうだ! アレフお兄様もこの屋敷で暮らすのはどうでしょう?」

「や、宿が取れないんじゃ仕方ありませんわね。ちょっとお兄様にお願いしてきますわ」

「ちょっと待って!」


 3人の間で話が進んでいったので慌てて止める。


「何とか泊まれる場所は見つかったんだ」

「……残念でしたね、お姉様」

「エリス!」

「どんな所に泊まるんだ? ……まさか裏路地のいかがわしい宿だったりしないだろうな」


 エリスに聞こえないようにだろう、小声でセリカが問い詰めてきた。


「いや違うよ。郊外の農家さんの庭先を借りたんだ。それでローレンスさんに話があるんだけど、屋敷に居るかな?」

「お兄様なら執務室におりますわ。セリカ、アレフ様をご案内して差し上げて」

「私が案内するよ。アレフお兄様、こっちだよ」


 エリスちゃんが俺の腕を引っ張って歩き出す。

 本当に元気だよな。

 これで体が弱いとは信じられないよ。


 エリスちゃんに腕を引かれていくと、立派な扉の部屋に着いた。


「ここがお父様の執務室です……お父様、アレフお兄様をお連れしました」

「ありがとうね、エリスちゃん」

「じゃあ私は戻りますね」


 頭を軽く撫でてあげると、スキップしながら戻って行った。


「失礼します」

「やぁ、アレフ君。良い所に来てくれた。丁度書類仕事に飽きてきた所だったんだよね」

「大変そうですね」


 ローレンスさんの机には書類が山と積まれている。

 俺なら逃げ出してる量だ。


「一応曲がりなりにも領主だからね。で冒険者ギルドはどうだった?」

「レベルが低いので登録出来ませんでした。まぁそれは別に良いんですが、その後トラブルがありまして……」

「トラブル?」

「ギムガス商会とちょっと」

「奴等か。細かく話をしてくれないか」


 朗らかだったローレンスさんの表情が、苦虫を噛み潰した顔に変わった。

 名前を聞くのも忌々しいみたいだ。


「土砂崩れで困っている農家に復興費用を貸していました。その事自体は問題は無く、利子も条件も良心的でしたが……」

「問題が起きたと」

「はい。工事をどの業者も請け負ってくれず、借金を返そうにも返せなくなっています」

「それが奴等の手口なんだよ。裏から手を回して借金を返せなくし、借金の形に欲しい物を奪い取る。大抵は土地か娘だね。場合によっては借金をしなざるを得ない状態に手を回す事もある」


 ひどいな。

 自作自演のマッチポンプじゃないか。


「取り締まる事は出来ないんですか?」

「金を貸した先の全部が全部トラブルを起こす訳じゃないんだよ。殆どは何事も無く返済している。それに裏から手を回したという証拠が無いからね」


 表じゃ普通の金貸しをしていて、裏では……って奴か。


「それに恥ずかしい話ギムガス商会は私の死んだ母の実家でね。父の代の時に相当な権勢を誇っていたんだ。父も母も死んだ今もまだ力が残るくらいにね」


 現領主の母方の親戚で街一番の商会か。

 ローレンスさんもやりにくいだろうな。

 悪い奴等だから何とかならないかと思ったけど難しそうだな。


「私は奴等の利権を壊してきたから恨みを相当に買っていてね。どうやら暗殺者を雇ったらしい」

「暗殺者って親戚なのに?」

「親戚だからだよ。言う事も聞かず敵に回ってるから余計に腹立たしいんだろう。南方で悪名高い毒蜥蜴という暗殺者がこの地に移動してきたそうだ」


 ローレンスさんは書類の山から一枚の紙を取り出した。


「暗殺者というより暗殺も請負う野盗だな。それも金目の物を奪うだけじゃなく、女子供まで襲って殺している凶悪な野盗だ。リーダーは毒を使う風魔術師で対人戦闘に長けている」


 ローレンスさんから紙を受け取る。

 どうやらその毒蜥蜴の手配書のようだ。

 そこには毒蜥蜴メンバーの似顔絵と特徴と懸けられた賞金が書かれているが……


「こいつ等はアリサ達を襲っていた野盗ですね」

「何!?」

「リーダーのこのハゲは間違えないです。毒と風の魔術も使いましたし」

「そうか……おそらく私を脅迫する為にアリサを誘拐しようとしたのだろう。アレフ君には本当に感謝するしかないな」

「そんな頭を下げなくても良いですよ」


 困っている人を助けただけなんだから。


「それよりこの賞金を貰うにはどうすれば良いんですか?」

「死体か首をギルドに確認してもらうんだけど、死体は持ってないよね」

「持ってませんよ、そんな物。という事は賞金は貰えないんですか?」


 あいつらの死体は街道を綺麗にした時に燃やして灰にしたし。


「まぁ賞金全額とはいかないけど私から報奨金を出そう」

「ありがとうございます」


 お金を稼ぐ方法が無いからありがたい。

 本当何か仕事を考えないといけないな。


「話を戻すけど、アレフ君はその農家を助けたいんだよね?」

「はい」

「ギムガス商会をどう思う?」

「許せないですね」

「じゃあこういうのはどうかな?」


 ローレンスさんがどこか楽しげに作戦を教えてくれたのだぅた。

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