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第11話 死の森

「へぇ、モニカさんは5人姉弟の一番上なんだ」


 俺は屋台を引いてファノス郊外に続く道を歩いていた。

 隣にはモニカさんがいる。

 彼女は最初は謝ってばかりだったけど、今は普通に話をしてくれている。


「妹が2人に弟が2人です。皆元気なのは良いんですけど、弟達はヤンチャで困っています」

「きっとお姉ちゃんに甘えてるんだよ」


 モニカさんが優しいのはすぐに分かった。

 甘えたくなる弟の気持ちは良く分かる。


「でもスカートめくりは困りますね。あ、ここが私の家です」


 平野の外れ、森が近くまで迫ってきた所に大きな煉瓦作りの家があった。

 簡単な柵で囲まれているが、周りに家が無いせいか敷地は結構広い。


 家の前では男の子が2人走り回って遊んでいる。

 すぐ近くの木の根元では男の子より少し年上の少女が編み物をしていた。


「あ、モニカ姉ちゃんだ! おかえりー!」

「おかえりー! 隣の兄ちゃん誰だ?」


 こちらに気付いた男の子達が騒ぎ出した。

 あ、よく見たらこの子達同じ顔だ。双子なんだろう。


「もう、父さんがまだ居るんだから姉さんが帰ってくる訳が無いでしょ?」


 少女が編み物から顔を上げる。モニカさんと似ているから妹だろうね。


「ただいま、ダレン、ディーン。セシリアも二人を見ていてくれたのね。お疲れさま」


 笑顔のモニカさん。

 やっぱり姉弟だったみたいだ。


「えっ、大変! お父さんお母さん! 姉さんが彼氏連れてきたー!?」


 大声をあげて家に駆け込む少女。

 どうやら俺をモニカさんの彼氏と勘違いしてるみたいだ。


「お前なんかに姉ちゃんは渡すもんか!」

「帰れ帰れ!」


 勘違いが感染ったのか双子も騒ぎ始めてしまった。

 うーん、どうやって誤解を解こうか。


「こらー! アルフさんはお姉ちゃんを助けてくれた人なの!」


 両手を上げて双子を叱るモニカさん。

 その姿はさっきの少女とそっくりだ。


「おかえり、モニカ。こんな時間に帰ってくるとは、街で何があったのか?」


 その声に振り向くと、玄関には男の人が立っていた。

 40歳程の優しそうな体格の良い人だ。

 しかしその表情には疲れの色が出ていた。


「ただいま、お父さん。ちょっとギムガス商会の人が……」

「またか。怪我は無いか? そこの君は?」

「芋を落とされただけだから怪我は無いよ。この人はアレフさん。助けてくれて屋台も運んできてくれたの」


 モニカさんの言葉に合わせてべコリと頭を下げる。


「そうか。娘がお世話になったな。ありがとう。私はモニカの父、ラルクだ」

「アレフです。モニカさんが困ってたので、放っておけなかったんです」

「しかし助かったよ。貧しい農家だがお茶位は出させてくれ。私は畑を片付けてくるから、モニカ、彼を案内してあげるんだ」


 そう言うとお父さんは家の裏へと歩いて行った。


「さぁ、アレフさん。こっちですよ」


 モニカさんに腕を引っ張られていく。

 振り解く訳にもいかず、そのまま家の中へ連れ込まれて行った。


 案内されたのはリビングのようだった。

 掃除は行き届いていて綺麗だが、家具は最小限の物しかない質素な部屋だ。

 こっちの方がアリサの家より落ち着くな。

 工房と似たような雰囲気だからかな。


「いらっしゃい。お茶菓子は無いの、ごめんなさいね」


 女の人がお茶を持ってきた。

 モニカさんをそのまま大人にさせたような感じだ。

 一瞬お姉さんかと思ったが、モニカさんが長女なのでお母さんだろう。


「しかしモニカったら、ウフフ、お芋を売りに行って何をしていたのかしらねぇ」

「お母さん! 私とアレフさんはそんな関係じゃないの!」

「あらあら、怖い怖い。後は若い者におまかせして年寄りは退散しましょう♪」


 明らかに面白がっている。モニカさんをからかっている感じだ。


「何をやってるんだお前は」

「あら、あなた。畑の片付けは終わったの?」

「道具はな。死の森の木は硬くて手に負えん」


 ラルクさんは椅子に座るとため息を漏らした。


「死の森って物騒な名前の森ですね。アンデッドが出るんですか?」

「まさか。アンデッドなんか出ないよ。死の森はこの先に広がる大森林の事なんだ。森の奥深くには、世にも恐ろしい魔獣が棲んでいるという伝説があってね。そこから死の森と呼ばれているんだ」


 へぇ、どんな魔獣が棲んでいるんだろう?

 冒険者ギルドで調べてみようかな……って俺は冒険者じゃないんだよな。


「まぁ森の外れに近いこの辺りには魔獣も出ないから安心してくれ。ただ森の中は魔力(マナ)が濃くて、生えている木がとても硬いんだ。おかげで畑の片付けが全然進まなくて……」

「お父さん……」


 肩を落とすラルクさんにモニカさんが寄り添う。

 硬い木が邪魔をしてるのか。


「その片付け、俺にやらせてくれませんか?」

「それは構わないけど、鉄の斧では傷付かない硬さの木なんだ。多分無理だと思うよ」

「ちょっと試してみたいんです」


 ラルクさん達と一緒に家の裏の畑に行くと、大量の木と土が畑を埋めてしまっていた。

 聞くと何ヶ所かある畑の大部分がこの状態らしい。

 どうやらかなり大きな土砂崩れがあったみたいだ。

 木の無い場所で何とか芋を育てている。


「この有り様なんだ。この木さえ何とか出来ると良いんだが、ミスリルの斧でもないと歯が立たない」


 ラルクさんが憎々しげに木を睨む。

 火で燃やすには数が多いし危ないな。

 こんなごちゃごちゃした状態だと風の魔術が向いているかな。


「じゃあやってみます」


 風の魔術を使ってつむじ風を起こすと、周囲に風が集まっていく。


「きゃっ!」


 モニカさんが風にめくりそうになったスカートを抑えている。


「この風は……アレフくんは魔術師なのかい」

「落ちこぼれですけどね。まずはかまいたちで切れるか試してみます」


 つむじ風からかまいたちを飛ばす。

 人の胴体程の太さの幹がスパッと切れた。


「おぉっ!」

「うーん。切れるけど一本一本やるのは面倒だな」


 魔力(マナ)を集めてつむじ風を強化する。

 するとつむじ風はむくむくと大きくなり、もはや竜巻と呼べる程のものに膨れ上がった。

 風を操作して物を吸い込むように魔改造する。


「どうするんだい?」

「とりあえず一つにまとめる事にします」


 竜巻が倒木を土ごと吸い上げていく。

 みるみる竜巻が茶色に染まっていく。


「……」

「裏庭にちょっと置かせてもらいますよ」


 言葉も出ないラルクさん。

 目が白黒しているね。


「……あ、あぁ」


 許可を貰ったので風を弱めて木を落とす。

 隣には土も落としておく。


「他の畑もやってしまいましょう。場所を教えて下さい」

「すまない。こっちだ」


 ラルクさんの案内で次の畑に向かう。

 竜巻は出したままだ。

 傍から見たら竜巻に追い掛けられながら平然と歩いてるように見えるだろうね。知らない人が見たら驚くだろうな。


 次の畑でも倒木を土砂と一緒に竜巻に吸わせては、その辺りにまとめて置いていった。

 そして2時間程で全部の畑を綺麗にしたのだった。

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