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第1話 破門されました

初投稿です。よろしくお願いします。

 森の中に一軒の古びた家が建っている。

 そのこじんまりとした家には屋根裏部屋があった。

 ベッドと机の他には衣類や小物を詰め込んだ木箱があるだけのシンプルな(物の無い)俺の部屋だ。

 そこで俺は――


「あー、またダメか」


 魔術を失敗していた。



 そう、魔術。

 ここは人里離れた森にある魔術師の工房だ。


 俺の名はアレフ・ツヴァイ。多分14歳くらい。姓は無い。ツヴァイは弟子としての名だ。

 赤ん坊の時に魔術師に拾われ、それ以来魔術師の工房で魔術を学びながら育った、言わば生粋のエリート……ではないんだよね。


 基本的な魔術は使えるようになったし、魔術の同時発動も出来る。

 でも肝心の上級魔術が上手く出来ないんだ。


 基本的な魔術には催眠術や回復魔術等も含まれるけど、代表的なのが火や風といった自然現象を操る魔術だ。

 お師様が言うには、これは意外と多くの人が使える魔術だそうだ。と言っても、その多くはカップ一杯程度の水を生み出したり、カーテンを揺らすそよ風を吹かせたりといった程度らしい。

 もっと力のある人は大きな街へ行き、大量の水を操って洗濯したり、浴槽に溜めた水をお湯に変える商売をしているそうだ。

 だから基本的な魔術は生活に便利な魔術なので生活魔術とも呼ばれている。

 

 一方、上級魔術。

 空間や時間、魂等を操る魔術だ。

 これは使える人がかなり少ない。

 今取り組んでいるのは空間転移魔術だ。


 空間転移魔術は、遠くまで一瞬で移動出来るのはもちろん、見た目より多く収納出来る魔法袋(マジックバッグ)の作成にも使われる上級魔術だ。


 この魔術をお師様に言われて練習してるけど、一向に上手くならない。というか成功しない。全敗だ。


「術式に間違いはないはずなのになぁ」


 魔術に必要なのは魔力(マナ)と術式。

 頭の中で術式を組み上げて、そこに魔力を流すんだ。


 今回は姉弟子のアイン姉に頼んで、術式を教えてもらったんだけど見事に失敗した。


 アイン姉は、赤ん坊だった俺を拾って育ててくれた、親代わり姉代わりの人だ。一言で言うと、物静かな優しい人。でもってもの凄い美少女。

 淡い若草色の髪を腰まで伸ばしていて、風になびいている姿は幻想的なんだ。肌もシミ1つ無い透けるような白さだし。

 思わず守ってあげたくなるような可憐さだけど、アイン姉は物凄く強い。

 魔術は俺なんかと違って掛け値無しの天才だ。魔術だけじゃなく武器の扱いも上手く、こちらも天才だと思っている。

 最近思うところがあって、アイン姉に戦闘の訓練をつけてもらっているんだけど全然勝てそうにない。

 更にアイン姉は工房の家事全般もこなしている。まさに才色兼備の美少女で俺の自慢の姉だ。


「アイン姉がっかりするだろうな」


 術式を教わった時に、楽しみって顔をしてたからな。今度こそ上手くいくと思ってたんだろう。


 失敗した瓶を手に取る。


 中に入った銅貨を空間転移で取り出す練習だが、俺がやると、銅貨は瓶と同化してすり抜けてしまう。

 魔改造が得意なせいだろうか。

 魔改造は魔術の応用スキルだ。

 魔術を掛け合わしたり、モノを変形させたりする事が出来る。

 お師様が言うには、歴史上使い手が少ない伝説のスキルらしい。

 簡単に出来るんだけどね。


「問題は術式じゃなくて魔力(マナ)か」

 

 こればっかりは個人の性質なんだよね。


「ツヴァイー! グランドマスターが呼んでるわよー!」


 階下から俺を呼ぶ声が聞こえた。この声はファルだ。


「わかったー、今行くー!」


 急いで後片付けにかかるけど、慌てていたせいか銅貨を床にばら撒いてしまった。


「うわ、やっちまった」


 しゃがみ込んで銅貨を拾い集める。集めた銅貨はとりあえずポケットに入れておこう。


「何やってるのよ!!」

 

 怒声と共に後頭部に衝撃が走った。振り向くと炎のように赤い鳥が飛んでいた。

 こいつがファル。アイン姉の使い魔だ。


「人を待たせて何遊んでるのよ、ツヴァイのくせに!」


 ファルは口が悪い。


 お前は人じゃなくて鳥だろうと言い返したくなる。しかし言い返したら何倍にもなって返ってくる。

 だから我慢だ。聞き流そう。


「ほらさっさと研究室に行く! ……全くツヴァイは私が居ないとダメなんだから」


 いちいちうるさいファル。

 アイン姉は物静かで優しい人なのに、なんで使い魔のコイツはこうなんだか。

 ファルに構ってないでお師様の研究室へ向かおう。


「お師様、ツヴァイです」


 ノックして声をかける。すると、扉の向こうから女性の声で返事が返ってきた。


「ツヴァイか、中に入れ」

「失礼します」


 研究室に入る。扉を閉めると闇に覆われたような気分になった。


 壁の棚には薬品や何だか判らない生き物の標本が並べられていた。他にも良く判らない結晶や革、分厚くて古びた装飾の辞書なんかが転がっている。


 その奥でランプの灯りは、美女の姿を浮かび上がらせていた。


 20代後半といったところの、ミステリアスな雰囲気を漂わせた美女だ。机に向かい、何らかの結晶を天秤で測っている。


 この無造作に伸ばした金髪を邪魔そうに後ろへ手で梳かしている人こそお師様だ。


 絶世の美女なんだよな……外見は。


 口調は乱暴だし、研究に篭もりっきりで滅多に外に出ないし、服装も無頓着で今もローブを着崩している。久々に足を踏み入れた研究室も、年単位で掃除をしていないから乱雑だった。


 断言しよう。お師様は見事なまでに残念な美女だ。


「ツヴァイ、よく聞け。お前に魔導を極める才能は無い。才能の無い奴がこれ以上修行しても無駄だ」


 お師様の残念さを心の中で断言していたら、お師様から残酷な通告を受けてしまった。


「やっぱり才能は無いんですか」


 普通ならショックを受けるところだろう。

 だけど自分でも才能の無さに気が付いているからか、すんなりと飲み込む事が出来た。


「無いね。何百年かけても魔導という深淵の極致へは至れないだろう……くくっ、偉そうに言ってる私も未だ至る事が出来ないんだがね」


 そう言ってお師様は自嘲気味に肩をすくめる。

 お師様みたいな天才でも出来ないのなら、俺には到底無理なのも納得だ。


「という訳でお前は破門だ。まだ14歳だし、好きな道に進むといい」


 正直、魔術は、工房育ちだから、と取り組んでいた部分もある。そんな動機だからか、諦めることに未練は無かった。

 基本的な魔術が使えるから上等だ。


 好きな道か。


 パッと頭に浮かんだのは、子供の頃憧れていた冒険者だ。


 魔術の才能の限界を感じた時から、将来の選択肢として考えていた。アイン姉に戦闘訓練をお願いしていたのも、冒険者としてやっていく為だったりする。

 

「では冒険者を目指します。覚えた魔術も活かせますし」


 生活魔術しか使えない魔術師でも、冒険では重宝されるよね。

 仲間を集めて、未知の秘境やダンジョンに挑んでみるのも面白そうだ。


「良いんじゃないか。小さい頃のお前は、冒険者や勇者ごっこをしていたしな」


 あの頃は、よくアイン姉やファルを相手に遊んでたっけ。


「そうだな。冒険者を目指すのなら餞別代りに装備をやろう」


 お師様が指を鳴らした。

 すると俺は淡い光を放つ魔法陣に囲まれてしまった。


 光が消えた時、俺は短剣とマント、グローブを身に付けていた。


 短剣には見覚えがある。

 昔勇者ごっこをする俺の為に、アイン姉が作ってくれた玩具の剣だ。小さい子が怪我しないように、全然斬れない所がアイン姉らしい。でも斬れないんじゃ、役に立たないよな。

 他の2つは初めて見るな。


「アインの作った短剣は心配は無用だ。魔力を通せば使えるようにしておいた」


 武器として使えるのなら、戦闘訓練で使ってたひのきの棒より良いかもね。


「マントは、昔お前がダメにした革で作った物だ。素材は弱体化しているが、捨てるのも勿体無いからな。防具の代わりにはなるだろう」


 あー。

 そういえば小さい頃、キレイな革で遊んだ覚えがある。

 くしゃくしゃにすると、革の色が変わって面白かったんだ。

 あれって、魔改造で革を合成してダメにしてたのか。


「グローブは、お前の魔改造を補助する魔道具だ。対象と魔力を繋げやすくなる」


 グローブは、白い革で出来た、指先の無い指ぬきグローブだ。手の甲の部分には、蒼い結晶が嵌められている。

 なんだろう、どこか心の奥底に訴えてくる意匠だ。

 

「これだけあれば何とかなるだろう。後、これを渡しておこう」


 お師様から、指輪を通したペンダントを渡された。指輪には大きな傷が入っていた。


「お前を拾った時につけていたペンダントだ。装備者の状態を伝える、簡単な魔術具になっているな。状態と言っても生死が判る程度だが。あとお前の名前はそこに彫られてある名前から名付けた」


 指輪に彫られた文字を読む。読み書きはアイン姉にしっかり教えられているから問題無い。


「アレフまでしか読めませんね」


 文字の後ろ半分は傷で削られて読む事が出来なかった。面倒になってそのまま名前にしたようだ。


「お前を拾って13年。狭い工房の中が世界の全てではない。外へ出て学んでくるのだ。その時、今まで覚えた魔術が役に立つだろう」


 俺を見つめてくる紅い瞳には、慈愛が満ちていた。


「お師様……」

「だから、ここを追放されても大丈夫だ。目立たないよう人里離れた僻地に送ってやる」

「え?」


 足元に再び魔法陣が現れ、輝きを放っている。


「つ、追放? って今すぐ? ……ちょっ、お師様!? せめてアイン姉にお別れぐらいさせてよ」

「お前が死ななければ、またいつか逢えるさ。あぁそうだ。工房内ではレベルは存在しないからな。お前のレベルは1のままだ。注意しろよ」

「レベル1を追放するなんて酷くないですか!?」

「お前の好きな物語の勇者もレベル1で旅に出るじゃないか。大丈夫、レベルが絶対ではないぞ」

「子供向けの物語と現実を一緒にしないでください!」


 お師様に食ってかかる間にも魔法陣の光は強まり、視界が白く染まっていく。それに連動して不安も強まっていった。


「お師様の鬼〜〜〜!!」


 こうして俺の旅立ちは絶叫と共に始まった――

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