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誰が為のその力  作者: 魚太郎
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引きこもり、出会う。

 遊ぶ。食べる。寝る。人生において必要なのはその三つだけだろう。決して友人や、ましてや恋人など必要ないのだ。

 そんなことを考えながら、彼、エルア・ユークリオッド(引きこもり)は今日も親に与えられた暗い部屋の中で親に与えられた食べ物を食べながら魔法論文の掲載されている雑誌である「国編・魔法使いの友(略称:コクトモ)」を読み漁っていた。

 その雑誌は国内の多くの上級魔法使いの愛読書であり、また初心者でも扱いやすい簡単な魔法が多く掲載された魔法使いの入門書でもある。

 コクトモのヘビーユーザーである彼は、見慣れているのだろうか。そこらの論文には目も止めない。

「よく見るなぁ…こんな感じの理論。見飽きたんだよね。」

 呟きながら、彼はひたすらにページをめくり続ける。

 不意に、彼は雑誌をめくる手を止めた。どうやら気になる魔法理論を見つけたらしい。

「使い魔の召喚…この論文は面白いなぁ。僕でも使えるかな?」

 そう一人呟くと、彼は座っている机に取り付けている引き出しから魔力のこもった羊皮紙を取り出して、その羊皮紙に使い古した羽ペンで魔法陣を描き始めた。

 その魔法陣が完成すると、手を上にかざして続けて呪文を唱える。

「『精霊よ、我が魔力と引き換えに、姿を此処に現し、その小さき力を振るいたまえ』!!」

 呪文を唱え終わったところで羊皮紙が青い炎に包まれ、羊皮紙にかざしていた手を飲み込む。

 その瞬間、暗い部屋が一瞬青い光に包まれ………


 …なにも起こらなかった。


「まあ、知ってたけどさ…」

 そう。最初からわかっていたはずなのである。学校でも魔法の実技の成績がダントツに低い、この国で生きることを諦めてしまった落ちこぼれがまともに魔法を使えるなどあり得ないのだから。

 この、「魔法がうまく使えない」というのはこの国では致命的だ。

 なぜ致命的なのか…それについては、建国時の話まで遡る必要がある。


 少しだけ昔。この国があった土地には、現在この国の9割の人口を占める人種である「リデア人」によるスラム街が形成されていた。おそらく、隣国であるスリザリア公国に深く根付いているリデア人差別から逃れた人々が、まだどの国の土地でもなかったこの土地に流れ着いた結果なのだろう。

 まあ当たり前の事なのだが、国の体裁をなしていないために経済など存在しておらず、まともな医療・工業技術も持ち合わせていなかった。しかし、スラム街なのにもかかわらず治安はとても良かった。

 その秘密は、当時のスラム街の実質的なリーダーであった、レアラドⅠ世の使用する魔法にあった。

 今でこそスリザリア公国以外の国が活発に使用している魔法だが、当時は魔法の使い手はどの国もまともな人材がおらず、スラムの人間が使えるなど異例中の異例だった。

 そう聞くと、当時の人々にとって魔法という力がどれだけの脅威だったのかがわかるだろう。

 そんな強大な力一つでこのスラム街をまとめあげたレアラドⅠ世は、あることを決意する。

 あることとは、「魔法技術の一般化」である。

 具体的にいうならば、レアラドⅠ世自らが魔法塾を開き、魔法技術をスラム街の未来ある十五歳以上の青年に教えようとした。ということだ。

 現代の考察では、「スリザリア公国の脅威からスラム街を守るため」だといわれている。

 そんな思惑がレアラドⅠ世にあったのかどうかは定かではないが、実際にそんな考えを持っていたのだとするならばその考えは上手く行ったといえる。

 魔法の力を手に入れた青年たちは、警察、病院などの通常の国にあって然るべきの施設、機関を次々と作り上げて、最終的にはレアラドI世を王に据えた「リアレイド王国」をその地に建国する。

 そうなると当然、魔法という強大な力を持つ国にスリザリア公国も迂闊に手出しはできなくなるのである。

 そんな建国時の出来事や、スラム街時代の慣習が今もこの国に根付いているため、魔法というものがこの国においては重要なのだ。

 エルアは15歳になって魔法学校に入学し、必死に勉強した。しかし、どうしても魔法がうまく使えなかった。そのため、この国に生きるプレッシャーに耐えかねて引きこもっているのだ。それが現実逃避であることを心の奥底では理解しながらも。


「ああ、僕ってやっぱり才能が無いんだな」

 改めて突きつけられた現実にうちひしがれていたとき、不意に母親の声が聞こえてきた。

「エルア?お客さんが来てるわよ?部屋に入れても良いかしら?」

 こんなダメ息子の僕を養ってくれている母の言葉だ。yes以外の言葉はないだろう。

「いいよ、母さん」

 そう閉じられた扉に向かって話しかける。すると、少しの足音の後に扉が開け放たれた。


 ____その瞬間、僕の体が固まってしまう。無理もない。何故なら、扉の向こうに立っていたのはおよそ半年振りに見る母親以外の女性。しかもとても美しい女性だったのだから。

 いや、落ち着け、エルア・ユークリオッド。相手は只の人じゃないか、何を慌てる事があるんだ。

 ...完璧に童貞の反応だった。

 あわあわしながら沈黙するエルアに、入ってきた女性もあわあわしながら言葉を浴びせる。

「ええと...私、アウレア。アウレア・アンレット。学校の用事で来たんだけど...」

 バキバキの童貞であるエルアは、最早言葉を返すことも不可能だった。







物事の文章での表現に対する違和感、誤字脱字等の指摘があれば是非していただけると幸いです!


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