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神様の悪戯で異世界では白目を剥いている  作者: 豚肉の加工品
〈コールランド〉 —— 〝セフィロトの樹〟 ——
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力の代償  3

人間は一人の方が強いですか?

大切な存在があった方が強いですか?

無い方が強いですか?

複数人いた方が強いですか?

たった独りの方が強いですか?


最強になるためには何を捨てなければいけませんか?

それとも何を必要としますか?



皆の〝強さ〟を教えて欲しいです。

あれは淡い光だった。

寝息を立てて眠るその姿から滲み出るほど純粋な強い光……

体の奥から溢れ出しているその輝きに嘘は無く、全てを真摯に物語っていた。

光は(まこと)を表し、輝きは真実を伝える。

これは精霊の民であるエルフ族ならば誰しもが知ることである。

だからこそ嘘を吐くことがどれだけ愚かであるか、その人物がどれだけ信用できるのか、その人物の心の中が分かってしまうエルフ族を前にして虚実を語る者はいない。

それなのにも関わらず、私は……私の感情でユイトを拒絶した。


ほぼ全ての同胞から否定された私にとって正義とは自らの思いであり、それ以外の全てが〝悪〟である。

だが…………その決めつけが、一度だけユイトの心を揺らした。

私に向けていた希望の光が一瞬にして消えさり、湧き上がるような嫌悪感と失望の光が点火される。

喉の奥が熱くなり苦しくなった。

私は何をしているんだろう、何も悪くないユイトを拒絶してまで。

ユイトにとって私が希望であったのならば、私にとっての希望がユイトであったかもしれないのに。


……そう、心の中から思えたからなのかもしれない。

エルフ族を守護する精霊騎士を誤魔化してまで、ユイトの存在を隠し通そうとしたのは。

意味もない。ユイトに利益もない。ただ自分の中にある罪悪感のようなこびり付いて離れない〝負〟の感情を拭いたいだけの勝手な罪滅ぼし。

分かっていたんだ。同じエルフだからこそ、この感情が伝わってしまうことが。

だから罰を受けた。

同族同士の殺し合いを良しとしない精霊様は一つの誓約を交わしている。

それは――――エルフがどの種族よりも秀でている魔法での攻撃は、同族である私には効果はない。

皆が平等に与えられた加護がある限りは魔法による攻撃で傷がつくことはない。代わりに魔法が関わらないものでの攻撃では傷がつく。

それが分かっているからこそ、肉体をもってして徹底的に痛みを与えられた。

忌々しい白銀に染まった長い髪を千切られ……

白い肌が赤く染まるほど殴られ、顔面がボコボコと腫れあがるほど地面に叩きつけられた……


だが――――神は私を見放さないでいてくれたのだろう。

私は、私が拒絶したはずの相手に助けられていたのだ。

どうやって精霊騎士を退けたのかは分からない。ただその身を盾にして守ってくれたことは、意識が回復した時に床で横たわっているユイトを見て分かった。

その瞬間、不覚にも笑みを溢してしまった。

あぁ……私は助けてもらったのだ。

あぁ……私には助けてくれる人がいたのだ。

あぁ……私に守るほどの価値があったのだ。

酷く、異常で、そして歪んでいると思う。


それでも〝嬉しく〟思ってしまった。


周りに何もない、たった独りの私にはまだ希望があった。

その人物は得体の知れない。だけどどうして脅威的ではない。

心が不安定にならず、体が緊張しない……私に緩やかな時間(とき)をくれる人なのだと。

だから盛大にもてなそう。

食事も、ズタボロになった衣服も、その傷だらけの体も、その全てを私が補おう。

出来るなら私の隣にいてもらおう。

この〝嬉しさ〟という麻薬にも似た依存性のある思いに浸っていたい。

短くてもいい、だからせめて一日では終わって欲しくない。



「…………ぁ、ユイト?」


生い茂る木々の隙間から差し込む陽光が、カーテンのない窓を通して部屋を薄暗く照らす。

木材で造られた家だからこそ常に自然を感じられる、エルフにとっての最適であり快適な空間なことは言うまでもないだろう。

だが、ヴァーリエの表情には少しだけ不満が浮かんだ。


「私よりも早く起きるなよ……」


そう。昨晩、結人のことをしっかりと抱き締めたまま眠ったのだ。

彼の生前の物語を事細かく聞いてから、少しでも異世界に来た感覚とやらを味わって欲しくて、ユイトにとっては初めてのエルフであるヴァーリエは静かに奮闘したのだ。

ユイトの心が語った異世界での妄想(テンプレ)を体現したにも関わらず、既に隣にユイトの姿はない。残っているのはベットのシワと匂いだけ。

当の本人はというと、


「まだ陽が昇って間もないのに、既に汗が滴るほど鍛錬しているのか」


風を切るほどの速度で拳を振るっていた。


「……あれが型無しの戦闘術、確か戦武術(いくさぶじゅつ)だったか?」


静動一体の型の無い殺人拳。

時には柔らかく力の流れに逆らわないように、時には激しく荒々しく連続的に。攻守一体を当然とした相手の体を破壊するために、その力の全てが向かっている。

端から見ていれば何をしているのか分からない。

身体中を柔らかく使って柔軟をしているようにも見える、足運びは複雑で見たことのない舞い踊りかたをしている。

結論から言えば遊んでいるようにしか見えないのだが、本来なら使うはずのない力。


「まぁ、見ているのもいいが朝食の支度は終わらせておくとしよう。一日はこれからだ」


生活のほぼ全てが魔法によって潤滑されたエルフは、何をするにも魔法で解決する。

火を起こす、水を出す、風を吹かせる、その他諸々の生活に必要な魔法を〝生活魔法〟と称している。

文明に差はあれど、どの種族も特徴を生かして最高峰で平等な生活を送っているいえるだろう。

野生には家畜も存在するし、草木の種類を知っていれば調理に生かすこともある。

とある魔法で〝保存〟しておくことも可能だ。


「パン、肉、汁物……は昨日の残りで足りるか、それから野菜。豪勢にするのは夜でいいだろう。食料はたんまりとあるし、これから困ることと言えば――――」


ユイトが片付けた精霊騎士であるあの三人。

きっと街に行けば大問題になっていることだろう。

虫一匹すらも索敵してしまうほど精密なエルフ族の探知魔法、その感じている空間を歪ませてしまうほどの存在が結人である。


「エルフ族の者が押し寄せる可能性くらいか……いや、今は考えたくないな。せっかくの朝食が美味しくなくなってしまう」


悩み事をつらつらと並べているうちに朝食の用意が終わった。

その中でも大皿三枚ほどの大量のサンドウィッチを見て真顔になってしまったことは言うまでもないだろう、ただ少しだけ張り切り過ぎてしまっただけだ。


「……残ったら昼食だな――――さて、呼びに行くか」




戦武術と呼ばれる戦い方、それは他の戦い方とは完全に異なるものであった。

どの瞬間でも、どの体制でも、それこそ攻撃している時でも、防御している時でも、常に戦える状態を作るという戦い方。

それに型は無く、故に自身の体の全てを使いこなすことが出来なければいけない。

体の柔らかさは勿論のこと関節すらも自在に操れなければ、本当に体を使えるとは言えないのだ。

しなやかであることで力は伝わりやすく、肉体を鍛えたからこそ出来上がった硬さが衝撃を与える。

全ての〝武〟を自由自在に使いこなすために編み出された人間には必要のないまでの次元に昇華された力、それは非道なものである。


「よし、身体の調子は良いな。これまでにないくらいだ」


《武神の加護》で再現された結人の脳内で再生(・・・・・)される想像の一部。

魔法という未だ理解が追い付かない存在を跳ね除ける力。

まさに人間の限界値とまで言える速度で繰り出された連撃に耐えきれない体。

筋肉が裂け、脳が焼け落ちるほど熱くなり、武器とも言える体は本来ならば再起不能と思われるほどの重傷を負った。


「回復薬ってのはスゴイわ、一瞬だもん。これで重傷(・・)じゃないって……どんどん成長するわけだ」


破壊されたら、更に進化して再生する。

人間の内側で起きる神秘であり、人間はこれを進化と呼ぶ。


「少しだけ怖いなぁ、これは。もしかしたら俺は普通じゃない成長をしてるかもしれない……ってことは人間を辞めてるかもしれないしな。ん? てか、人間って進化すると何になるんだ?」


現実では治すことは出来ないであろう。

そして、この世界で再構築された。

つまり、この体の中では生前の因果と異世界での因果が混じり合ったということになる。

あちらでは〝ナシ〟だったことが、こちらでは〝アリ〟になるのは当然のことだ。

だが今のところはその事実がない。

体がいつもより軽い、だから攻撃の速度が上がっている。

全力ではないのにもジャンプ力は凄まじいことになっている。正確な数値は分からないが五メートルは飛んでいるだろう。

そして一番は――――――


「…………おっそいよなぁ」


見える世界がゆっくりと流れることが一番の変化だった。

元より意識の切り替えということにおいて、戦いを知る者として普通ではないと自覚している。

もちろん戦いと日常ではまるで生活が違うからだ。

だが、これは明らかに異常な世界。


「これ……俺が持ってるから腐ってるけど、父さんとかが持ってたらヤバかったんじゃ……?」


視野の広がり、気配の伝わり方、鮮明で精密に見切れる物体。

そよ風に音が鳴る木々の揺らぎすらも、葉っぱ一枚一枚を確実に捉えることが出来る。

もはや全てが遅くなったのではなく自分だけが加速したかのような感覚。

間違いなく父や祖父ならば……――――正確に人体の弱点を攻撃し必ず殺す技となっていたであろう。


「常に戦いに身を置く、まるで戦争だな。意識すればするほど振るえない暴力が自分に襲い掛かってくるし、遊びで使っていいものではなさそうだ」


血液が激しく流れる。

脳に送られる酸素が足りない、異常なまでの不自由さが暴君を解き放とうとしてくる。


「これが《武神の加護》……。随分と恐ろしいモンを笑顔で渡されたぜ」


「おい、ユイト! 朝食だ、切りの良い具合で終わりにしろ」


少しの興奮ともしも(・・・)という恐怖を感じているとヴァーリエの声が耳に届いた。

どうやら朝食はウッドデッキで食べることになっているらしく、遠くからでも分かるほどの大量のサンドウィッチが並べられている。

だが、どうしてか上手く返事が返せない。

その詰まってしまう理由は結人が目を覚ました時からのことに遡る……――――


「へ、平然としてる……いや、ヴァーリエが覚えていないだけか?」


あれだけ体を密着させ、解きにくいくらいに強く抱きしめられた腕を解くにも、逃がさんと言わんばかりに絡められた両足も、朝から大変な目にあったというにも関わらずヴァーリエには一切の変化はなし。


「こっちがどんな思いで目を覚ました――――「早く来い! 朝食が冷えるぞ!」


いつも通り…………と言うには、まだまだではあるものの。

どこか呼吸が合い始めた異世界初めての知人は、朗らかな様子で茶を入れている。

これからお世話になる白銀のエルフの表情は、最初の出会いとは比べ物にならないほ輝かしくて、どこか不思議と雰囲気も明るくなっている気がする。

文字通り金とも銀とも捉えられず、光に照らされれば金や銀に勝る白へと輝く不思議な髪を靡かせて。


「わ、分かった。今行くよ……」


今日も一人の少年へと想いを募らせている。


力の代償というサブタイ、分かってくれましたか?


そうなんです!!

少しだけ愛情が重いヒロインが…………!!!!


まぁ、それだけの意味ではないんですけど。

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