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神様の悪戯で異世界では白目を剥いている  作者: 豚肉の加工品
〈コールランド〉 —— 〝セフィロトの樹〟 ——
6/14

力の代償  2

既にフラグは建てたぞ!!


「あぁ…………すげぇ」


「やっぱりここは異世界なんだな」。そう思う出来事の連続に心身ともに引き裂かれた、数時間前のことを思い出しながら燦燦と輝く星を見上げて呟いた。

色々な発見と生前ではぶつけられたことのない感情、〝いつでも他人を攻撃できる自由〟という理不尽の極みのようなルール。

この世界に学歴や年齢など関係がないことを身をもって知れたことが良いことだったと言えるだろう。

だが、力こそが全てあるという心理は知りたくはなかった。

〝皆と違うことが悪い〟ことだとは知りたくなかった。


「思った以上に殺伐としてるよなぁ、俺の中にある全てが覆されたぜ」


どれだけ望んでも手に入るはずのなかった夢の生活は急展開を見せて、一瞬にして地獄と化す。

魔法が存在していることに内心が踊った、人間以外の種族がいることに楽しみが増した、体の損傷を代償にするが《武神の加護》という力には感謝もしたし興奮もした。

想像だけで終わっていた回復薬が、治療するのに一年は要する怪我を瞬く間に治してしまうという想像を遥かに超えた回復量だったことには嬉しかった。


だが、全く幸福(・・)ではない。


誰かがイチャイチャしている姿を見たい。

誰かが誰かにデレデレな姿を見たい。

いや、もうなんか誰かが照れている姿が見たい。

俺が唯一拝むことの出来た二次元のような恋愛…………そう言えば、あいつらは幸せに過ごしてるのか?


「めちゃめちゃ気になるな……」


「――――何がだ?」


夜の美しい闇に散りばめられた星々の輝きにも勝る〝輝き〟を靡かせながら、軽い足取りで距離を縮め隣に座った。


「…………もう、体は大丈夫なのか? ヴァーリエ」


「ユイトほどの怪我じゃない、心配はいらないよ。逆にそれはこちらのセリフだろう? どうだ、体に違和感とかはないか」


「やたらと体が熱くてね。こうして夜風に当てられて冷ましてるところだ」


何事に代償というのは必要である。

体を異常な速度で再生させたということは、体の中で異常な速度で細胞が活性化させられたということ。

加えて異世界の物を体内に取り込んだことで体を無理やりに適応させようとしているのだろう。

限界まで無理をさせた体に対して限界まで回復しろと言うもんだから、体の全てが働いているというわけだ。


「そうか。なら何も言う事はない…………いや、言う事がありすぎて何から伝えていいのか分からないな。ひとまずは助けてくれたこと、ありがとう」


指を編んで頭を下げる姿…………これがエルフ流の感謝の表しなのか、謝罪の表しなのか。

もう二回目(・・・)だった。

俯いて表情が見えにくいものの今にも泣きそうな顔、声を出す度に体が小刻みに震えて、その震えを抑えるように手を合わせる。


「いいんだよ、当然のことをしただけだし。それにあの時の俺は何かおかしかったんだ…………人間は極限な状態に陥ると、女の子一人くらいは守れるんだよ。それに勝手に家に上がって回復薬探しで部屋を荒らしたしお互い様にしようぜ? 寧ろ、服も食事も用意してもらってるんだ。俺の方が貰いすぎだ」


血塗れのエルフを抱えた、ボロ雑巾の男。

しかもその男は一心不乱にダースで詰まれた回復薬を探し回り、部屋中を荒らしまわったのだ。

回復薬を探すという名目を知らない者が聞いたら完全に凶悪犯罪である。

自分にとって全てが肯定できることでないからこそ、真摯な思いが籠った感謝を受け入れることが出来ないのだ。


「いや、これだけは絶対に伝えなければならないことだ。つい先ほどまで互いに何も知らなかった者同士だからこそ、助けてくれたことに感謝しなければならない。それにまだまだ自己紹介が残っているだろう? 完全に体が冷える前に中に入れ、夜は冷える」


「…………分かったよ」


ヴァーリエの背中を追うように、いや正確には見つめていたいから後ろをついて行っているのかもしれない。幸せの欠片も感じなかった最初の出会いから、急に接し方に丸みを帯びた。


「(なんだか……素直すぎない?)」


もちろん、ヴァーリエのことをどうこうしようとは思ってもいないし、どうするかなど考えられるはずもない。それは結人がクワトロクロスと呼ばれるこの世界について何も知らないからだ。

互いに素性は分からない状態で、ただ救われたという理由で何から何まで世話をしてくれるヴァーリエの姿に心の中で〝疑い〟がかかる。


どうしてここまでしてくれるのか?


〝分からない〟。

最初に理解することが出来たのはヴァーリエの〝嫌な部分〟。

全身から伝わってきた悪に対する躊躇ない敵意であった感情、〝悪〟であるという決めつけからきた先入観によって全てを信じようとしなかった態度は、記憶に新しかった。

だが一歩でも受け入れてしまえば、礼儀正しく面倒見の良いお姉さんに変貌した。〝良い部分〟が全面に見える、なんならそれしか見えないまである。


「(どうして俺に不安を覚えないんだ? 俺って結構怪しい奴だと思うんだけど……しかも、二人っきりだぞ? いや、確かに()をするなんて度胸ないけど…………警戒心なさすぎない?)」


いや、彼女いない歴=年齢とはよく言ったもんだ。足し算よりも簡単で分かりやすい方程式なのは確実だろうな…………いや、悔しくなんてないよ? 

まだ十五歳の自分が、そして恋愛の一つもしたこともない自分が恋愛に関しては大人ぶってると思うが、それでも慎ましく愛を育み続けるカップルの幸せな姿を見ることが何よりの幸せだ。

自分のことなんてどうでもいい、俺は一人で生きていくんだ。

というか、どれもこれもラブラブな両親と祖父母が悪いんだ。あの四人の姿を見て育ってしまった俺は、誰かの嬉しそうな表情を見ることが幸せになってしまったんだ。

ある意味、歪んだ性癖みたいなもんだ。だから、俺はそう納得している。


「どうした? ユイト」


変な思考に走った自分を我に帰す澄んだ声が耳元で響き、ハッとなった。

いつの間にか下を向いて深く考えこんでしまってヴァーリエに違和感を覚えさせてしまったらしく、とても訝し気な表情でこちらを覗き込んでくる。


「ち、近いよ」


ヴァーリエの方が身長が大きいため上から圧力的に覗き込まれるのはいい気分がしない、というよりも怖い。


「(それにしても随分と濃い青だな…………)」


藍色とまで行かず、濁りのない澄んだ青。

視界に映った少ない情報の中で一番目を向けてしまったのが、その碧眼だった。


「まぁ、これから色んなことを語らうんだ。もちろん私がお前を理解するまでな…………いいか? 私に誤魔化しは通用しないからな、全部正直に話すんだぞ? ユイト」


「あ、あぁ…………もちろんだ」


イイ笑顔してやがる、母さんにそっくりだ。父さんが夜遅くに返ってきた時と同じ顔をしてる。

……一体、互いを理解するのに何時間かかるのやら――――――





「――――――つまり、何だ? ユイトは神からこの世界に送られたということか?」


あれから一時間…………


「そう言う事になるな……というか、よく信じれるな。こんな馬鹿げた話」


「最初に言っただろう? (エルフ)には嘘が分かる。どの種族よりも魔力に長けているからな、些細な魔力の動きが伝わってくるんだ。まぁ、私の場合は特別でな……魔力がなくとも、心の色が見える」


「…………それって、遠回しに俺に魔力が無いって言ってるよね?」


「いや、おそらくは魔力が発生していないだけだろうな。そもそもエルフ族の大陸には魔力が漲っているからな、魔力が無い者が長時間滞在すれば簡単に魔力に酔わされる」


「なら、まだ希望があるな」


素直な性格だからなのか、結人が説明した〝この世界に送られて来た〟理由をすんなりと納得した姿のヴァーリエが隣に座っていた。

暖炉に火を灯し、部屋全体が温まっている心地の良い空間。

温かく花の香りが心地いいお茶を飲みながら、ゆっくりと会話した。


「それにしても不思議なこともあるものだな。異世界からの来訪者か、ユイトは私に事情があるのは何となく理解しているだろう?」


「まぁ、何となく」


「……だからあまり世界の情勢に詳しくはない。だが、一つだけ。人族の王が何やら(はかりごと)をしているというのは世間では(もっぱ)らだ。確か――――〝勇者降臨(リ・レジェンド)〟だったか? とんでもなく強い人間をどこからか呼び寄せているらしい」


「勇者を呼び寄せる……ね。面白い計画してるな」


「なんだ? ユイトはそれに当てはまらないのか?」


「さぁな…………でも、俺は残念ながら勇者ではないな。言っただろ? 俺は武神とかいう優男に加護を渡されたって」


「あぁ……」


「なら、俺は強いはず(・・・・)なんだよ。魔法だって最初からスゲェの使えるし、スゲェ武器が手に入る展開があってスゲェ強い敵を一瞬で倒して…………とにかく、最初からクライマックスの強さなんだよ。でも、俺の武器は〝体〟だ!!」


突然、大きな声を発した結人の気迫に、ヴァーリエの体がビクっと反応した。


「なッ…………どうしたんだ?」


「いいか、ヴァーリエ。勇者って何でも出来ないとダメなんだよ、でも俺はどうだ?」


「ま、魔法が使えないな」


「それだ……それなんだ!! 俺だって魔法したいんだよ! 炎出して、水出して、風吹かして、考えればキリがない…………な? 俺、全然勇者とかじゃないんだよ」


「あぁ、なんだ。まずはその情緒を治せ、一回落ち着け。とにかく魔法が使いたいって気持ちは伝わったから、な? 明日の朝にでも魔力の使い方を教えてやるからな? 元気出せ」


そう言って、淹れたての温かいお茶を結人に渡す。


「それにな、そもそも最初から強いなんてことはおかしいことなんだぞ。それに最初から何でも出来てしまったらつまらないだろう? 何事も積み重ねが大事なんだ。そう考えるとユイトの力は素晴らしいものだ。体一つで強くなれるんだぞ、鍛錬しがいがある」


「…………鍛錬」


祖父、父、二人は散々な目に合わされてきた。

今でも思い出す自らの黒歴史にも等しいだろう。


『じいちゃん、父さん。俺を鍛えて欲しい。何があってもいいように力が欲しいんだ』


小学三年、仮面ライダーに憧れて道場に通い始めた。

最初に理由は可愛らしいもので、快く引き受けてくれた二人であったが、教え方は徐々にエスカレートしていったのは言うまでもないだろう。

それから四年間、中学に入学するころには二次元に憧れた。

人を簡単に殺せる世界、魔法が存在する世界、異世界という誰しもが行きたいと願う世界。

これら全てに憧れを抱いたが「それは二次元過ぎる」と完全に割り切って考えられるほどに、どこか冷めた部分もありながら、中に籠る熱が願ったものは現実に存在する限りある二次元を味わうことだった。

だから〝体〟を鍛えた。

何があってもいいように、何をされてもいいように、血を流した。


『いいかい、結人。これから教えることは普通の人に使ってはいけないよ』


『戦うために力を与えるわけではないが…………これからの人生、何が起こるか分からんしな』


きっと、普通に生きている人は決して味わうことのない恐怖。そして痛み。

本当に何が起きてもいいように鍛えられた。


〝現実に存在する限りある二次元を味わう〟ために体の使い方を知り、戦い方(・・・)を知ったのだ。


「――――一から鍛え上げるしかないよな」


いつまでも何も分からないままではいられない。

可能性を知って、練習して、反復して、習得する。

当然でいて、最も辛い鍛錬である基礎的なものも見直さないといけない。


「うん、いい顔になったな」


「目が覚めた。まずは強くならないとダメらしい、色々考えたけどそれが一番必要なことだ。何で俺がここに送られてきたのか分からないけど、それを知るためにも自由が必要だしな」


「強くあれば自由が手に入るというのは同感だ。一人で生きていくなら一番必要だな」


「簡単には力は得られないしな…………でも、何となく《武神の加護》ってのは分かった。この世界だからこその力の付け方が必要だ」


大体の武具があるだろう……。その中でも刃と銃が素手で戦う者からしたら危険であることは明白。

魔法も弾くことが出来るのは分かっているものの、一回で拳が引き裂かれては話しにならない。


「…………まぁ、強くなれるまで(・・・・・・・)は世話をしてやる」


「あぁ! ありがとう、ヴァーリエ。これから少しだけ世話になる」


だが、フラグを回収するまでが長すぎる。


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