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神様の悪戯で異世界では白目を剥いている  作者: 豚肉の加工品
英雄症候群 —— 異世界への来報 ——
4/14

武神覚醒

プロット一切書かない男、物語の中で勝手にキャラが動くことによって話が進まない。

最初は、こんな感じではなかったんだがなぁ……

「……はぁ、ダメだ…………分からん」


木々の隙間に作られた獣道を歩くこと十五分程度。

脳内に思い浮かぶ地図を歩いているものの、一向に緑が視界から消える様子はない。

喉も渇き、空腹で頭は回らない。

時間というものが食への渇望により、一層鬱陶しく感じてしまうのは初めての体験である結人は、これまでにないほどの閉塞感に囚われていた。


「せめて距離が分かれば…………いや、あのエルフがもっと優しければなぁ」


埋め込まれた知識のおかげもあって自分のいる場所は何となく分かるものの、正確な知識ではないことで正しい距離が把握できない。

心の中では「多分そろそろだろう」と区切りをつけて歩き続けているが、体に必要なものが不足している今の状況だとただ不安が募っていくばかりだ。

そして、考えうる不安の数々のほぼ全てが敵中しているだろうと思えてくるのが、また精神的体力を削っていく。


「魔族もエルフ族と一緒で人族のことを良くは思ってないだろうな、食料は分けて貰えそうになさそうだ。もしかしたら見つかった瞬間に攻撃されたりして…………あれ? 詰んでね?」


悪態を吐きながら歩いてきたのは良いが、希望も何もないのでは?

そう考えついた途端に自動的に動いていた足がピタリと止まった。


「うん、もう引き返そう。そもそも白銀のエルフに見つかってなきゃ、良い感じに事が進んでいたかもしれないんだ。もう十分以上経ってるし、流石にもういないだろ」


居た堪れない孤独感と閉塞感、それが希望ですらない希望に縋ろうとしてしまっているのは火を見るよりも明らかである。

ゲームで言えば『混乱』している状態なのは間違いない、もっと言えば『錯乱』状態にもなっているかもしれない。それでもこの〝渇き〟がどうしてもと胸の内で騒ぎだす。


「うしっ! もうどうにでもしてやる、土下座で…………何とかなるだろ」


なんの根拠もない「大丈夫」に鼓舞された結人は、即座に踵を返し来た道を駆けだした――――





「…………完全に気配がなくなった。探知魔法の外には出たか」


結人が立ち去って数刻が経過していても、その場で警戒を続けていた白銀のエルフ族。

名をヴァーリエ・シルバ・スクリーム。

人族で言う所(・・・・・・)で十六になったばかりの若き精霊の民だ。


「さて、私もいないほうが良さそうだ。帰る――――」


突然と探知魔法に引っ掛かった三つの魔力に体を引き締めた。


「これは……新選組の魔力か?」


対応があまりにも早い。

そして移動速度も尋常ではない。

強い気配と成熟(・・)された魔力の波動がどんどん近づいてくるのが、肌で感じられる。


「浮遊魔法…………空か」


ヴァーリエが上を見上げようとした途端、視界の端に立っていた大木が吹き飛んでいく姿を流し目で見つめると空中から、地面から、続々と姿を現したエルフの男女の魔力剣がヴァーリエの体で寸止められた。


「なんだぁー、お前か」


「危ないわね。そこに突っ立ってるんじゃないわよ、間違って殺しそうになったでしょ?」


「いいじゃん? 別に。こいつなら誰も文句は言わないっしょ?」


色白く、そして美しいブロンドの髪を揺らす……誰しも見惚れてしまうエルフ族の騎士。

黄金の羽織が特徴的の武装で、手に握られている自身の魔力で造られた剣。

その胸元には精霊騎士の証であり、精霊を祀る『宝樹ユグドラシル』の紋章が刻まれている。


「…………これは精霊騎士様たち。どうかなされましたか?」


未だ剣を突き付けられているのにも関わらず、ヴァーリエは眉一つ動かさずに平然と言葉を返した。


「ここにさぁー……とんでもない〝力場〟が出現したんだ。お前なんか知らない?」


まったりとした口調で聞いてくるエルフの男は首に突き立てていた魔力剣を霧散させると、耳をほじくりながらヴァーリエに尋ねた。

その姿には申し訳なさの欠片も感じない。それは他の二人のエルフの女にも同じことが言えた。

ただ平然と、悪気もない様子でつまらなそうに周りを見渡している。


「つい先ほどまで人族の男がいました」


「それで?」


「特に何もありません。水が欲しいとは言ってましたが…………」


「それで?」


「追い返したところ、《ヴァビロニア》の方へ歩いて向かっていきました。今頃は森で彷徨っているころだと思いますが」


「それで?」


「…………それだけです。特に申し上げることはありません。それでは――――」


一礼してその場を去ろうとした瞬間、興味なさそうに話しを聞いていた二人の女の魔力剣が首元で交差した。


「隊長が聞きたいのはそういうことじゃないでしょ? どうして貴方のような外れ者(・・・)が勝手に独断で決めているの」


「拘束くらいしとくっしょ、普通。これだから…………外れ者は――――」


〝外れ者〟という言葉に嫌でも反応してしまい、少しだけ眉間に皺が寄ってしまうヴァーリエの反応を見逃さずに、


「生意気すぎんだろ…………」


明らかに口調が変わった一人の女が、ヴァーリエの髪を乱雑に掴みそのまま地面に叩きつけた。

ブチブチと髪が抜ける感覚と何回も地面に叩きつけられたことで鼻から大量に血が流れる。


「ていうか、〝力場〟が出現したって言ってるっしょ。それぐらいヤバい奴だってのに、なに逃がしてんだよ。オメェみたいな雑魚がイキって判断してんじゃねえよ」


「……あ、…………ッぐ、息がッ!!」


「精霊騎士を待たずの独断専行、これは十分な罪。全く、何も知らないってのも可哀そうなものね。まぁ、取り合えずコレは置いておいて…………隊長どうします?」


何回も何回も地面に叩きつけられ気を失い体が痙攣しているヴァーリエの上に乗り無常に髪を千切る女。

白銀に輝く髪が宙に舞ってそこら中に散っている、それを汚物を見るように見つめた女。

そして先程の大木を吹き飛ばした時についた汚れを払っている隊長と呼ばれている男。


「探しに行くかぁー、それとも《ヴァビロニア》に向かったと報告するかぁー。どっちにしても俺たちの利益にはならないなぁ……。一番良いのは――――見つけて捕縛だな」


「なら即行動ですわね。ほら、行きますよ?」


「ん、もう髪の毛千切るのも飽きてきたころだったし」


だが、その三人は気が付いていなかった。

餓えた獣が唯一縋ろうとした希望を足蹴にしているなどと、一切気が付いていないのだ。

理性をほとんど失いかけ、ただただ食に対しての激しい渇望を滾らせている――――神からの歪な贈り物に…………


「じゃぁー、まずは《ヴァビロニア》までの道を行きますか。警戒は怠るなよ、相手は〝力場〟を出現させるほどの存在だ。ただの人族じゃないからな」


「んでも隊長さん、流石に私たちなら余裕じゃん?」


「いくら精霊騎士になったばかりと言っても、そこらにいる魔族や人族に後れを取ることはないでしょうね。力に対して注いできた年季が違いますから」


「それでもだー、予想外ってのは戦いでは当たり前。しっかりと警戒はしとけ」


そういう隊長は欠伸を噛み締めながら、ぼんやりとした表情を一向に崩さない。

そう、彼らは心のどこかで安心してしまっていたのだ。

人族の代表的な力の象徴は魔力と科学を合わせた〝兵器〟が主であり、人間自体が強いわけではないことを戦いの中で知ってしまっているからだ。

勉学、研究が主であり、ほとんどの兵士は基礎的な戦い方以外は学んでいない。

もとより〝強さ〟という基準が肉体(・・)ではなく造られた兵器(・・)に偏っている。

だから――――――――



「おっ、戻って来れた」



突然、目の前に現れた一人の少年の〝強さ〟を見誤ってしまうのだ。


「…………ッ!? 人間!?」


「まぁ、待て。――――少年、どこからやってきた?」


即座に戦闘に入ろうとした女を止め、冷静に結人に声をかけたのは真剣な表情に変わった隊長だ。


「い、いやぁ…………森から」


まるで「無害です」と言わんばかりの低姿勢に三人共が怪訝な表情をした。

それもそうだ。黒い軍服のような見たことのないデザインをした服は枝や葉で解れてボロボロになっているし、態度では平然としているがエルフ族を見た瞳からは一瞬圧倒されてしまいそうになるほどの圧力を感じでしまった。


「その状態で? しかも一人で? 武装もしていないようだけど?」


「…………」


「おい、隊長さんの問いに答えろよ。人間」


「…………」


「黙ってねぇで、何とか言ってみたらどうだ?」


「ちょ、待ちなさい」


一人のエルフ族の女が結人へ歩いて行くのを静止させようとしたが――――それは既に遅かった。

やはり精霊騎士といったところ。どの種族よりも長寿であることで鍛錬の歴が他とは違うエルフだからこその力。

魔法と武術を掛け合わせた特殊な技法で、結人の目の前へ一瞬で移動する…………。


「…………短気だな、随分と」


「うるせぇよ、いいからさっさと答えろや」


「なら、先にこっちからの質問に答えろ」


先程の弱者の雰囲気からは考えられない程の、明らかなる〝殺意〟が体を通り抜けていく。


「大木をぶっ飛ばしてきた奴は…………どれ(・・)だ?」


「…………僕だね」


「そうか。おかげで色々なこと(・・・・・)が分かった、ありがとう。助かった」


全力で走っている最中に、槍の如く速度で大木が飛んで来た時は流石に焦った。

だが、そのおかげで武神から貰った〝力〟がどういうものなのか理解出来た。〝戦うための力〟というものがどういう意味であったのかを知れたのは、この異世界という場所で生きていくには非常に大きいことだ。


「そ、そうかぁー。そりゃ、良か――――――」


それがもしも喉が潤った状態だったら笑い話で許していただろう。

それがもしも満腹の状態だったらもっと感謝していただろう。

それがもしも後ろで伏せている白銀のエルフであったらもっともっと感謝を伝えていただろう。

だが、不運なことに結人の体は限界に近い、一番勘に触られるのが嫌な状態であった。


「だけど…………俺はまだ聞きたいことがあるんだけど、いいよな?」


体が熱くなるほどに血が巡り、それでいて物凄く静かに相手を見ていられる。

そのエルフの男が緩ませている表情を見た瞬間、その隣にいる女がまるで汚物を見るような視線を向けている間、目の前で酷く苛立ちを露わにしている女が立っている状態。

常に戦いを意識(・・・・・)している。


「…………ッ!!」


その渇き切った喉から辛うじて発せられた声が届いたのか、それとも別の意味で捉えたのか、男の目が見開いたように見えた。


「俺はお前らの後ろに倒れているエルフに用事があったんだ、お前ら…………もちろん、何か知ってるよなぁ? 知らないなんて言わせねぇぞ?」


目の前で睨みつけるエルフの女の指の間に絡みつく白銀の髪。

生前(・・)から鼻の奥にこびり付くむせ返るような血の匂い。

それらが余計に戦いを感じさせられる。

これはある種の恐怖のようなものだ…………生と死の狭間、いつどのタイミングで戦闘が始まるのか、それはここにいる四人の誰もが想像していないだろう。


「はっ! イキってんじゃねぇよ、人間!! 私たちとアレの関係なんて、お前に関係ねぇだろうがッ!! それとも何だ? オメェがこいつに絆されたってか? 気色わりぃこと考えてんじゃねえよ!!」


「…………」


「どうした!? ビビッて声も出せなくなっちまったか!? しょうがねぇよなぁ!! オメェもあのゴミクズも、私たちのところでは汚物同然なんだからよ!!」


「お、おい…………」


「気味悪い銀髪に、魔法も碌に使えないザコ、私たちと同年代で唯一の精霊騎士落第者。いくら人族でもエルフの髪が〝ゴールドブロンド〟なのは知ってんだろ? アレはもはやエルフですらねぇ、何者でもない異端者だ!! そんなのに絆されたオメェも同じだよ!!」


歪んだ笑みを浮かべたまま、侮蔑と嘲笑を荒げる姿。

これが精霊騎士であることも、そして結人の中で夢見た二次元の象徴でもあるエルフだと思うと、落胆以前に失望が先にくる。


「いいか? こんな辺境に人間が一人…………殺されたって誰も気が付きやしねぇ、死にたくなかったらさっさとお家にでも帰るんだな!! いい加減、オメェの戯言に付き合うのも我慢の限界だ」


「…………それで?」


「あぁ?」


「お前の〝殺し合い〟ってのはいつから始まるんだ?」


「……オメェ――――」


その先の言葉は言わせない。

これ以上ストレスが溜まったら、自分が何をしてしまうのか自分ですらも分からない。

だから、せめてもの想いを込めよう。


「俺は既に始まってるぞ?」


唐突に木々が揺らぐほどの突風が吹き荒れた。

それも乱雑に、横風だったり真正面からだったり…………それはもう通常ではあり得ないであろう風の吹き方であった。


「…………あぁ? 風?」


「風なんて吹いてねぇよ、それは俺が振るった拳の軌跡(・・・・)だ」


「は――――――」


未だに頬を凪ぐように吹く風、まず感じたのが柔らかい感触だった。

心地よくはなくとも違和感のない…………何の変哲もないそよ風。

だがどうして――――乱雑に吹いているのか、考えることすらしなかった。


当たり前だ。その風が、既に直撃した拳の軌跡だと言っても誰も信じてはくれないだろう?


「安心しろ。女だからって手加減は一切してねぇ、これが今の俺が出せる全力だ」


「何を…………あれ? しか、いが……歪む?」



「あぁ…………何発か、顔面に叩き込んでやったからな」



歪んだ笑みを魅せていた表情からメキメキと骨が軋む音が聞こえる。

ただ立っていた隙だらけの胴体には一筋の拳の跡が刻まれており、恐ろしいことに全てが体の中心線を抉っている。


「あ、れ…………痛い、痛い、痛い痛い痛い!!!!」


バキバキと骨が砕ける音が、体から聞こえていることに他の二人は唖然として見ているが、即座にたった一人の少年に視線を送った。

ゆっくりとした足取りで近づいてくる少年の背には絶叫を上げる仲間の姿――――――


「な、何者だぁぁああ!!!!」




「…………武神の生まれ変わり、まぁ――――そんな感じだ」



主人公、吹っ飛んで来た大木によって覚醒する!!!!

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