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神様の悪戯で異世界では白目を剥いている  作者: 豚肉の加工品
英雄症候群 —— 異世界への来報 ——
2/14

幸福の始まり

――――「どうだった?」


その優しい声音が鼓膜から意識まで澄み渡ると同時に覚醒した。

真っ白な空間、見上げれば星々が散りばめられた天上、そして――――一人の男性が立っていた。

糸目で柔らかい笑みが特徴の優男と言ったところの印象…………その彼は、どうしてかこちらを見つめている。


「最後は自分らしく、果てに華々しく…………これは、君からして最高の結末だったかい?」


まるで全てを見ていたかのように語る男は、また笑っている。

それもどこか嬉しそうだ。

どうして嬉しそうなのかは置いといて「最高の結末」というのには頷けた。

あの日常で、まるで非日常のように人生に幕降ろしたのだ。流石に警官の早とちりで殺されるとは思ってなかったが、それでも親友と呼べる者の〝幸せ〟と〝命〟を救えたと思えば一人の人間の命など安いものだ。


そう心の底から思っているからだろう……――――


「あぁ、もちろん最高だった」


マイナスな感情が一切ない笑みで答えられたのは。

自分でも偽善的だったと思うし、余計なお世話だったのかもしれないと考えるが、これからあの二人が生み出す幸せの代償が自分ならば喜んで差し出せる。

それが大人という社会に縛られる者と学生という無責任に何でも出来てしまう者の違い。


「でも、君の家族は泣いている。当たり前だがあの二人だって涙を流しているだろう。君を間違って取り押さえた警官らだって体調に影響が出てしまうくらい苦悩しているし、君知る全ての人間の感情はずっと下り続けてる。君の勇気には誰も喜んではいないよ?」


それはそうだ。

俺が生きていた場所はファンタジー世界ではない。何もない普通の世界なのだ。

人の〝死〟に対して喜ぶなんて、よほどのことがない限りありえない。

あり得るはずのない確率ではあるものの確実に〝死〟と隣り合わせに生きていることに対して、勇気と正義を持って〝死〟に向かっていくことで喜ばれるなんて一般人ではありえないのだ。


「両親には誤って済む話じゃない、親友にはとてつもない後悔を与えてしまうかもしれない。俺と同じクラスだった皆は気まずくさせるよ…………それでもこれから(・・・・)を守れたなら問題ないと思っている。申し訳ないけど、俺よりも理想な死に方はないだろ? かっこいいだろ? めちゃめちゃ痛かったし、怖かったけど…………自分の人生を終わらせたのが自分なんて男として最高の誉れだろ」


ふざけるな!! きっと父さんがいたらぶん殴られているだろう。

自分勝手すぎる!! きっと母さんがいたら泣かれていたかもしれない。

はいはい……きっと巧翔がいたらため息交じりに流していたであろう。

そんな無責任な戯言を最高だと言えてしまうのは『限りある二次元要素を味わう』という目標があったからなのか、それとも中学の頃からの医者にも治せない不治の病なのか。

だが、黒谷結人という人物はその両方を極めた収束の果てに華々しく散ることが出来たのだ。


「言い切るね……生きるという責任感が一切感じられない言葉だ。普通は神様を前にして言わないよ?」


「…………神様(・・)?」


「あぁ、そう言えば自己紹介がまだだったね。僕は修羅を潜りし者のみに現れる武神――――色々な呼び方をされているけど地獄にいるときは毘沙門天、君の所で言えば武御雷(タケミカヅチ)、外の世界では三眼(シヴァ)とも呼ばれている総称だ。今君といる場所は僕の世界だから好きに呼んでいいよ」


「…………――――あぁ、それじゃ武神様って呼ばせてもらいます」


危うく思考がショートしそうになりつつも、これまで患ってきた病気がある程度の耐性を付けてくれていたのが幸いした。

今の状況を無意識に飲み込んでいた自分が恐ろしく感じる。

いつの間にかこの状況が当たり前だと思っていたことが、武神を目の前にする前の自分と今の自分の考え方が一致しないことが、少しずつ変わってきている自らの状態にようやく違和感を感じた。


「いいねぇ……それ(・・)。やっぱり君を拾って正解だったよ」


優しい笑みとはまた違うどこか狂っている口角の上り方を見て理解した。

目の前にいる優男は、本当に異常な存在なのだということを実感させられる。


「拾ったって…………?」


「僕の所にはね、闘争の記憶がある者しか流れてこない。つまり喧嘩とかだよね。たいていはチンピラとかガラの悪い奴か凶悪犯罪者くらいの狂人だけなんだよ。でもね…………そんな時に一人の少年の魂が流れ着いたんだ。記憶を見るに友を守って命を落としているじゃないか、そして思ったんだよね。こいつは面白い奴だって」


星たちが映る、まるで宇宙そのものが投影されているかのような天上に記憶が映し出される。

それはかつて自分が行ってきた記憶だった。

護身術とは言い難い技術を祖父と父に教わって血塗れになっている光景。

早朝に走っていた時によく見ていた光景。

初めて漫画を手にした時の光景。

友達と呼べる者がいなかった小中学校のころの光景。

そして高校の入学式の時、隣に座る巧翔と喋っている光景。


「最後は鮮明に思い出せるだろう? こんなに窮屈な十代がいるかい? 話す奴はいても友達とは呼べない、家族との記憶は楽しいことよりも辛いことの方が多い、君の羽休めは創作物に縋るだけ。おかしいよね…………こんなにつまらない日常を過ごしている人物がいるかい?」


そう言って映し出されたのは、きっとここに流れ着いた他の人の記憶だろうか。

無数に投影された記憶は自分のとは違い、周りに必ず誰かがいて笑っているものがある。幸せそうなものがある。


「まぁ、よそのことだしな。俺がどうこう言っても何かあるわけじゃないだろ? それが俺にとっての普通であり日常だっただけのことだ」


「でも、他の人たちに迷惑をかけてる奴には恋人がいて、赤の他人を大量に殺した奴には家族があるんだよ? けして誰かのために働いたわけでもない奴が幸せになっているのは羨ましくはないかい?」


「いや? 俺は本当に幸せそうにしている人たちを見るのが好きだったし、他の人がどうとか比べたことないから分からないな。俺はあれで良かったし」


「…………あぁ、なるほどね。君はそんな部分も変わってるんだねぇ」


「ん? どの部分?」


「普通の人なら羨望と嫉妬を感じることに、君は全く何も感じない。というよりもあんまり嫉妬とかしたことないんじゃないの?」


「あるよ、普通に」


「例えば?」


「漫画とかの話しだけど……俺も異世界に行きたいなぁ、とか?」


「それは無理じゃん。君が生きて来た世界で羨ましく思うことじゃないでしょ? 思ったところで行けるわけないんだからさ…………って言っても、今は違うんだけどね」


パチンッと指を鳴らすと、天井が元に戻った。

そして武神の手のひらに強く輝く何かが生み出される。


「君には行って貰いたい世界があるんだよね。もちろん君以外ではありえない、君じゃないと成し得ない、君だからこそ頑張れる世界だ。少し時間がないから急ぐけど……聞きたいことは?」


「ない。また夢が叶うなら、それだけで嬉しいし」


「それならまずは(武神)の加護を渡しておくよ。戦うために必要な全てが詰まってるから引き出すのは難しいけど修羅場を潜ってる君ならきっと大丈夫なはずだ。それと今から幕開ける世界の必要最低限の知識と資金。容姿は少しだけ髪の色を変えさせて貰うね? それから収納魔法(アイテムボックス)の中に道具入れておくけど、魔法は練習しないと使えないから注意ね。あと――――」


「ちょッ、ちょっと待ってくれ。それじゃ魔法が――――」


「あぁ、なら魔法使える種族の地域に転送するから問題ないよ。道具って言っても資金と地図くらい出しね。……あぁ、時間がない――――それじゃ、最後に」


あまりにも突然にタイムリミットが始まったのか焦り始めた武神は笑っていた。

だが、不思議だ。

今回はその笑みの意味が全く読めなかった。


「僕にとって君が初めての転生者だから色々と奮発しちゃったんだ。だから少しおかしいと思うことがあるかもしれないけど気にしないでね?」


「え――――――?」


パッと今まで見えていた視界が真っ暗になった。

それでも微かに武神の吐息が聞こえる。

まだ、目の前にいるのか?



「じゃぁ、武神から言うのもなんだけど幸せ(・・)にね?」



最後の表情は分からない。

もしかしたら本当に幸せを願っているかもしれない、それともあの狂気的で邪悪にも見える笑みを浮かべているかもしれない。

それでも叶うはずがないと割り切っていた夢を叶えてくれた『恩』を含めて、最後には信じて暗闇に身を任せた。





「――――行ったね」


先程までの優し気な笑みとは裏腹に、それはもう嬉しそう(・・・・)笑っていた。


「あぁ……きっと君は助けてしまうんだろうなぁ。助けたいと思ったら命を捨ててまで、どこまでも真っすぐに」


これから彼が施されるはずだった幸福というのは膨大なものだった。

それもそうだろう。意識もせずに数々の人間を救っていたのだから。

自分でも分かっていない内に誰かの幸せを守っていた者の人生に幸福がないわけがない、世界は因果応報で結ばれる。



「さぁ…………君の幸福(修羅)を、存分に味わってくれよ? 本物の輝き――――先天性の英雄症候群、確か君の世界だと厨二病とか言ったっけ?」


神は口元を隠したまま――――わらう(・・・)


意図しない幸せを、貴方は心から喜べますか?

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