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神様の悪戯で異世界では白目を剥いている  作者: 豚肉の加工品
英雄症候群 —— 異世界への来報 ——
1/14

プロローグ  生前

これは誰も知らない俺の英雄の物語。



シリアスとはこういうことを言うんでしょうね。


「なぁ……巧翔(たくと)


「ん? どうした?」


「異世界転生がしたい」


「…………またその話かよ」


友人がいやいやと聞いてくれる、部活後の汗臭い部室。


「いいから聞いてくれ、俺は大真面目なんだ」


「いや。お前は着替え終わってるからいいけど、俺はまだ防具着てるからね?」


「なら着替えながらでいい、聞いてくれ。俺は異世界転生がしたい」


そう考えるようになったのは生きている環境のせいなんだろう……としみじみと思う。

――――中学から高校へと進学して青い春がやってくると淡い期待を持っていた一年前のこと。

共学の生徒数が最も多い地元の高校へと受験し見事合格した俺は、とあることを胸に抱いていた。


それは現実では限られている二次元要素のありとあらゆる出来事を体験するということである。


流石にアニメや漫画のような出来事は起きるはずがないのは重々承知のことである。しかしながら諦め切れないのが、誰にも言えない心の叫びというやつだろう。

幼馴染と運命の再開を果たしたら。

曲がり角でパンを咥えた少女とぶつかったら。

幼い頃に結婚の約束をしていた者との再会を果たしたら。

ある出来事から恋愛へと発展していき幸せのひと時を味わえたら。

絡まれている美少女を助けて恋に発展したとしたら。

考えることと人それぞれの淡い妄想の数々。

何よりも、最初に思いつくのは屋上で昼食をとるという二次元への第一歩だろう。

だが、現実はそれら全てを悉く破壊していくのだ。

こんな妄想をしている男子高校生に待っている現実というのは、思っているほど運命というモノを感じない。

幼馴染はだいたい男だし、パンを咥えて走る少女は何故か大体運動神経が良い人が多くぶつかったりしないし、小さい頃に結婚の約束をしていた人はそんな思いで忘れている。そもそも覚えているのは大体男性側だし、恋愛に発展する出来事なんて大層なことは起きるはずもなく、絡まれている美少女に出くわしたとしても助けるのは自分ではなく息を切らして走ってくる来るその子の彼氏。

屋上は危険だからという理由で生徒だけでは使用できないことになっている。


「おかしいと思わないか? せめて屋上で飯を食わせてくれよ!!」


「いやいや。普通に危ないだろうが」


着替え終わりプロテインを飲む友人からの至極真っ当な意見。

反論しようもないので、別の話題を振るも……――――


「いや俺の彼女は幼馴染だし……。付き合った経緯もガラの悪いチャラ男に絡まれてたのを助けただけで、これと言って変わったもんでもないだろ。同じ学校に来てたことを知ったのは駅の階段を踏み外して上から降ってきた女の子を抱き留めたらって感じだ」


いつも少し照れた表情でこう供述する。

そう、こいつは二次元を望む者からすれば存在が罪なのだ。

だが毎度毎度こうも幸せそうな表情で惚気を聞かされる友人という立場から見ても、このカップルは未来が明るいと思わせるほどに幸せを歩んでいる。


「……毎回聞いても幸せそうな顔しやがってコノヤロー」


「えぇ? そ、そうか?」


「まぁ実際にお前らカップルを見てると応援したくなるしな。俺は友人の一人として少なからず応援してるぞ、寧ろ結婚してくれないと反応に困るレベルだ」


「…………なぁ、結人(ゆいと)


「ん?」


「たまには一緒に帰ろうぜ? ちょっと話したいこともあるしさ」


そう言いながら、二人分の鞄を肩に乗せて部室の扉を開いた。


「……ん? どうしたんだ、そんなに改まって」


そうして二人は『剣道部』の部室から帰路につくのである。

体育館から校舎に戻り、下駄箱から上履きと外靴を取り換え――――


「あれ? 今日はもしかして彼女さん(・・・・)とは一緒じゃないの?」


普段通りならこの瞬間に現れる巧翔の彼女。

狙いすましたかのようなタイミングで現れるという理由から、最初はストーカーかと思ったがそれは杞憂に終わったが「す、ストーカーか?」なんて彼女に対して言ってしまったことで出会うことが気まずくなってしまっている。


香澄(かすみ)なら来るぞ? なんなら――――」


「もういるんだよねぇ……」


下駄箱の影からゆらりと現れたことに一瞬だけ体から力が抜ける。


「な、なんだよ。いたなら声をかけてくれよ、そんじゃ……俺は先に帰らせて貰おうかな」


「待て、結人。俺から……というか俺たちから大事な話があるんだ。だから今日くらいは一緒に帰ろうぜ? 頼むよ、俺と一緒に帰ったのって部活入りたての頃くらいだろう?」


「私からもお願いしていいかな?」


夕焼けに焦がされた校庭から反射した赤色の輝きに照らされた二人の影からフワリと漂う「今回は逃がさない」という意思が、いつもなら断るはずの口を開かせない。


「そんなに大事な話なら…………分かったよ」


「よしっ、それじゃ帰るか」


初めての三人(・・)での下校に違和感を感じているのは結人一人だけなのだろう。

普通ならこの幸せな空気に入ることなんて許されていいわけがないのに、やたらと二人は一緒に帰ろうとする。

「どうして?」なんて聞いても今回は意味をなさないだろう。

確かに少ない二次元の限りを味わおうとしているが、流石に誰かの恋愛に首を突っ込もうとは思っていないし、こういうのは外から見ているのが他人視点からの一番の幸せなのだ。


「なぁ……これはおかしいだろ?」


ただでさえ気まずいカップルとの下校に加え、今の結人の状態は第三者から見ても「?」となる状況だった。


「こうでもしない変な理由付けて帰りそうだからな、お前」


「ホントだよー、毎回私がいると帰るでしょ?」


「いや……だからって、二人して俺の腕を掴むことないだろ」


掴むというよりは、関節をきめられていると表現してほうがいいのだろうか。

一歩でも後退すれば肘が折れそうになり、一歩でも先に進もうとすれば肩が外されることは間違いないだろう。何よりも巧翔の彼女である香澄自身もがっちりと関節をきめていることに薄っすらと恐怖を抱いている。

しかも仲良く腕を組んでいると見せかけていることが、何よりの恐怖だ。


「巧翔が容赦ないことは分かってたけど、彼女さん(・・・・)までとはなぁ……」


夕暮れに染まる帰り道、周囲には誰もいない。

だから結人の呟きはやけに響いた。


「…………結人はさ、もしかして香澄のことが嫌いだったりするのか?」


「はぁ? どうしてそんなこと思うんだよ」


周りに人がいないからなのか、巧翔は真剣な表情で会話を切り出してきた。

だがその内容はただただ結人を困惑させるだけの質問だ。


「確かに第一印象は最悪だった。出会い方が結人にとって(・・・・・・)一番酷いものだったりな、でもそれから何回も会ってるだろ? どうしてそこまで彼女さんって呼ぶのか気になるんだよ。それに一緒に帰ってくれないことも気にくわない」


「…………もしも私のことが嫌いだったら、ハッキリ言って欲しいなぁって思ってる」


空が暗くなってきているからなのか、それとも二人の雰囲気が落ち込んでいるから薄暗く見えてしまっているのか、要員はどちらか分からないが三人で並んでいた足並みが止まった。


「あ、あのだなぁ……」


「正直に言って欲しい」


「何をそんなに重く考えてるのかは知らんが、俺はただ二人の邪魔をしたくなかっただけでな?」


「それであんなに避けるか? 正直に言ってくれって!」


「いや、本当に。…………なかなか恥ずかしいんだけどよ、俺は二人の並んでる姿とか笑い会ってる姿が好きでさ。その……なんだ、あぁ、二人の幸せな形を眺めるのが好きなんだよ。俺は」


「「…………」」


「い、いやほら! 巧翔には俺の下らない妄想に付き合って貰ってるし、俺の数少ない親友だしな。もっと二人の幸せの形ってやつを見ていたかったんだよ……。だから俺が混じると俺が見たい光景じゃなくなってさ、なんか嫌だったの! 俺がお前の彼女のこと馴れ馴れしく名前で呼ぶのも俺のイメージとは違うし」


「な、なら苗字で呼んでくれれば――――」


「だって巧翔は苗字で呼ばないだろ? それに俺から彼女のフルネーム聞くのもキモいだろう」


「え、っと…………つまりは? どういうことだ?」


「いやだからッ! お前ら二人の尊さを密かに噛み締めていたかったんだよ俺は! なのに二人してどうしたんだよ、なに!? 俺のこと辱めたいの!?」


出来ることなら気絶したい。

叶うならいっそ死にたい。

そう思えるほどには恥ずかしい言葉と思いを告げてしまった結人の表情は、先ほどの夕焼けと肩を並べるほどには真っ赤になっていた。


「い、いや。お前がそこまで俺たちを思ってくれてたとは驚いてさ、思わず思考停止しちゃった」


「いや停止するなよ」


「なんだぁー、良かったぁ」


「何が…………、そんなに俺を辱めたことが気持ちよかったですかねぇ」


「いやいや、嫌われてなくてさ。たっくんがさ、毎日のように結人君のことを話すんだよ? そりゃ気になるでしょ? でも実際に会ってみるとどこかよそよそしいからさ……嫌われてるのかなって」


「そもそもおかしいぞ、何で俺が巧翔の彼女を嫌うんだよ。俺は巧翔が幸せならそれで良いし、加えてあんた(・・・)も幸せそうなら倍々だろ?」


「ゆ、ゆいとぉぉ!!」


「うぉぉお!! 痛いッ、痛いッ!! 関節きめてんだから力をいれるんじゃねぇよ、この馬鹿野郎」


「お、おれ、今めちゃめちゃ感動してるぞ! 俺はお前に出会えて最高に嬉しい!」


「はいはいありがとねー、ほら後ろから車来たから脇によるぞー」


背後から照らす光に反応して、何やら異常に感動している二人を誘導するように道の端に寄っていく結人は背後を確認することも忘れない。

安心してはいけないのだ。もしかしたらというのは、世界にいくらでも転がっていると信じているからこそ全てを見て考える必要がある。


「(大丈夫か……)」


法定速度を守りながら三十キロ以下での走行、正面からでは分かりにくいが時速十五キロ前後といったところか、何よりも運転席に座っているのはどこかの主婦だろう。見た限りでは四十半ほどで特に様子のおかしいところはない。少しばかり道に迷っているのか、周りを確認しながらゆっくりと運転している。


「ねぇ、たっくん」


「あぁ……ッ」


「ん?」


二人は結人の腕を話すと前に並んだ。


「結人にはちゃんと言っておかないといけないなって思ってさ」


「私たちはね、高校卒業と同時に結婚を約束したの!」


「…………マ?」


「大マジだ。なんなら婚姻届はもう書いてるし」


「両親からはもちろん承諾得てるもんね」


どうしてだろうか。

相手はこうも二次元らしいことをしているのに羨ましさを一切感じない。

なんて言ったらいいのか――――寧ろ、感謝しないといけないかもしれない。


「そうかぁ、そうなのか。おめでたいことを聞いた…………。なんだろ、今日のメシは美味くなりそうだわ」


「おう!」


親友のあまりにも高水準な主人公補正が眩しくもある時があった。

それを羨ましがると同時に、近くで見守るのもいいなと思ってしまった自分がいた。

やはり最初から〝普通〟であることを前提に二次元を味わうなんてことは不可能だったのだろう。

どうやっても一学生の力では環境は変わらずに、当たり障りのない平凡な日常がループする。


「――――それじゃ、俺たちはこっちだから」


「ばいばい結人君。また明日もね」


初めて巧翔と二人で帰った時に分かれた薄暗いT字路が、やけに明るく見えるのは気持ちが晴れたからなのか。


「あぁ、お前ら気を付けるんだぞ? 変な人とか、車とかに気を付けるんだぞ?」


「なんだよ、お前はいつから俺のお母さんに――――」


キャァァアアア!!!!


その響き渡る女性の声に巧翔と香澄は鼓動が止まったかのように体を固まらせた。

これぞ正しく思考停止というやつだろう。

いち早く目を覚まさせるために二人の頭をぶつけ合って目を覚まさせる、少し強引だが一瞬だけでも恐怖と緊張が薄れるだろう。


「いっつ……ッ!」


「いったぁー!!」


「しっ、二人とも黙って俺の言う事に従え。すぐに走れとは言わないけどゆっくりで良いから帰り道を進んでけ…………俺は大丈夫だから」


大通りを通らない、言わば裏道といった場所。

道は狭いし、もう少しで夜ということもあって周りは暗い。照らしてくれるのは街灯と集合住宅から漏れる明かりだけ。

恐怖が相まって閉鎖間が押し寄せてくるほどに息苦しい場所だが、結人は酷く冷静だった。


「いやッ――――」


何を言ってんだ、お前!?

そのセリフは恐怖で締め付けられた喉奥から出ることはなかった。


「いいから! お前は大事な人を守ることだけ考えてろ、巧翔。俺なら大丈夫だ」


叫び声が未だに聞こえる誰もいない空間。

獣にも似た女性の絶叫は駆ける音と共に徐々に近づいてくるのは、

怖いだろう。

苦しいだろう。

理解出来ないことに無意味に絶望したくなるだろう。

それでも結人だけは冷静さを持って対処していく。


「俺はこんな時に役立つ戦い方を鍛錬してる。それでも二人を守りながらは無理だ」


「…………何言って――――」


「心配すんな、明日また学校で会おう。俺は皆勤賞を狙ってるんだ」


ここは団地。

きっと誰かが警察を呼んでいるだろう…………なんて甘い考えは捨てた方がいい。

以外と意識していないと外の音というものは耳に入ってこないのが人間の聴覚だ。それこそこの叫び声も、どこかで赤ん坊が泣いているとしか思われている可能性が高い。


「すぅ……はぁ、いけるな」


ああああぁぁぁ!!!!

誰かッ、誰か……――――ギャァァア!!


「ひっ」


耳を塞ぐようにその場で蹲る香澄の手を握った巧翔は、自分らの前に立つ一人の男の背中を見た。

完全に切り替えられた意識は、いつものふざけた態度は微塵も感じられない親友の姿。


「…………警察は呼んでおくから、あとで夜に連絡するからな」


その言葉に手を挙げて短く返事した結人は叫び声の元へ歩いて向かっていく、そしてその足音とは逆方向へと走り去っていく二人の足音をしっかり聞いた。

大丈夫。

二人はいない。守るための大切な人はここにいない、俺はあの二人さえ助けられればそれでいい。

何よりもあそこまで二次元の加護を受けている者をこんな適当な異性転生テンプレみたいなもので殺されてたまるものか。


カサッと服が擦れる音が目の前で聞こえた。


「(あぁ、そう言えば女の人の叫びは聞こえなくなったな)」


もうすぐ、もうすぐだ。

姿を見た瞬間にやりきれ、最悪殺して(・・・)も正当防衛が成立する範疇だろう。


はぁ……ッ、はぁ……ッ

シャク。シャク。

酷く荒い鼻息と延々と続く研ぐ音似たものが鼓膜に近づいて――――


「――――ッ!?」


その光景に異常さを隠し切れずに息を呑んだ。

血溜まりに浮かんでいるようにも見える女性の体に淡々と男が包丁を突き刺し続けている、およそこの世界の出来事とは思えない非現実的な光景。


「はぁ……ッ、ふぅーッ!! ハァぁあ…………――――あ?」


男がこちらをギョロリと振り返った。

その狂気に当てられて、背筋がビクビクと痙攣する。


「…………ッ!!」


ゆっくりとした足取りから、徐々に……徐々にと足音が加速していく。

心なしか鉄の匂いが風に乗って鼻腔を刺激する。

汗がまつ毛に乗っかって落ちる。


そして、気が付いた時には男の姿が目の前にあった――――


その血に塗れた包丁を持つ手がやけに鮮明に映る。

フードの奥から見えるギラギラとした瞳が、俺を見ている。

人生という長いようで短い一生のうちに味わう事のないであろう〝殺意〟というものが、体を突き抜けていく。


「…………イメージ通り」


それでも黒谷結人(・・・・)は、非道(ひど)く冷静であった。

焦りと共に加速していく思考に体が追い付けなくなることもなく、いつも通り習った通りに力強く握られた包丁を蹴り払う。


「ぁッ――――!?」



一瞬だけ足が止まった男の手首を掴み内側へと押し込み、握力を分散させたのちに武器(包丁)をディザーブしフードを掴んで地面へと叩きつける。


「次は…………」


倒れた男の指を目掛けて踏みつけ指をぐしゃぐしゃに圧し折り、暴れる体に向かってサッカーボールを蹴るような無慈悲の蹴りを叩きこむ。


「次は…………」


肺から空気が逃げ呼吸すら困難になった男。

端から見れば、男から狂気はなくなっていた。

あるのは〝恐怖〟

それもきっと、これから味わうことのないような感情のない恐怖だ。


「や、やめッ――――」


フードを外して、少年の表情を微かに視界に入れた瞬間に容赦ない蹴りが顔面に突き刺さった。

砂利を見つめる視界が歪み、脳みそがぐらぐらに揺れた。

そうして男は意識を手放した。





「ふぅ……、ようやく動かなくなったな」


少年は力無く倒れ伏している男性を見下ろしながら、まるで仕事をようやく終わらせたサラリーマンの一言のように呟いた。


「ん? サイレンが聞こえるな、誰か呼んでくれたのか?」


フォーン!! と甲高い音が複数。

いつの間に真っ暗になってしまった世界を彩るように赤いランプがキラキラと光っている。

ガチャ、ガチャと扉を閉める音とザッザっとシャリをける音が周囲から聞こえた。


「おいッ!! そこ動くなッ!!」


思わず顔を背けるほど眩い明かりを向けられ、結人は体を動かした。


「動くな!!」


ジリジリと近づいてくる足音。

周りから何人かの警官が詰めてきているのだろう。


「おい、おいおい、まさか……――――」


「えぇ……血塗れの少年が一人、近くには血塗れの包丁と女性の遺体を発見。足元には運動服の男性が昏睡している状況。取り押さえます」


真下に倒れ伏す男性の狂気とはまた違う殺伐とした感情を突き付けられ、思わず目を見開いた。


「ちょッ、待って――――」


まるで全てを自分のせいだろうとする視線。

訓練された戦闘集団が襲い掛かるという恐怖。

暗闇という視界の悪さ。

何よりも自分の話しを聞く様子のない、ただ〝悪者〟として扱われた精神的圧力が凄まじい。

抵抗をすることもなく…………否、抵抗空しく、瞬く間に四肢を拘束されると地面に押さえつけられてしまう。


「少年確保!!」


力任せに叩きつけられた体は気を失った男性に乗っかった。

だが、ここにいる警察は誰も知らないのだ。

血溜まりに伏せる女性を殺害した者を、殺されてしまいそうになった自分が抵抗したことを。


「…………ぅ」


一瞬で後ろ手に錠をかけられた結人は聞こえてしまったのだ。

男性の肺から空気が漏れ、微かに声を発したことを…………


「な、なぁ!! 犯人は俺じゃないんだッ、聞いてくれ!!」


「大人しくしろ!! 今は話している時間じゃない!! 話しなら署で詳しく――――」


ぬるり体を抜いて立ち上がった男性に、警察の視線が動いた。

だがその時には既に遅かったのだ――――


「ああぁぁぁ!!!!」


雄叫びを上げながら拳を振り上げ、握りこぶしを鈍器のように振り下ろし結人の頭部を直撃する。

もちろん止めようとした警官はいただろう。

男性の異常性を目にして押さえつけようと試みただろう。


「――――ッ!?」


何か叫んでる。


「あああぁぁぁッ」


体が揺れる。でも、揺り籠で揺らされてるみたいだ。


「――――ッ、――――!!」


顔が熱い……でも体が冷たい。変な感覚だ……あっ、そう言えば爺ちゃんと鍛錬してる時に一回だけ同じ感じになったっけな。

瞼が重くなって、何も考えられなくなって、熱くて、冷たくて――――

あぁ……ダメだ。眠たくなってきた。



最後に聞こえたのは耳を劈くような甲高い高音と鼓動の音。

普段なら耳を塞ぎたくなるような耳障りの音でも脳裏で反復するにつれて、徐々に心地よくなっていく感覚に囚われる。

こうして黒谷結人は深い眠りについた。








次回!! 


主人公、神様に出会って転生特典を貰うが…………

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