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エピローグと、新たな始まり

「いや~風乗りの力ってすごいわね」

 北の大地では感じることのなかった、強い日差しを受けたアイラが、伸びをしながらそういった。

「驚きですよね。行ったこともない場所を、地図を見て正確に飛ばすとは……」

「あの子はちょっと力が強すぎる気もするけど」

 

 レオとアイラは、ディーに頼んで、次の旅の行き先へと風乗りの力を使って飛ばしてもらったのだった。あまりに遠い距離だったので、失敗したらしたでいいと笑っていたのだが、まさか成功してしまうとは思わなかった。

「どうですか、北の大地から脱出した感想は?」

「暑いわね。それに、太陽がまぶしいわ。太陽って、こんなに強い光を放てたのね」

 アイラがしみじみとそういうと、先ほど買った傘をぱさりと開いた。雨や雪をよけるためではなく、ここら辺の地域では太陽の強い日差しから肌を守るために指すようだ。

 ルトス王国の北にあったブレイハ領も、アイヴェサ王国も、同じぐらい寒くて冬が長い地域だ。夏というのは穏やかな太陽を楽しみながら冬への備えをする期間だった。当然、傘の用途は雪から身を守るものであって、太陽を遮ろうなどという発想はない。


「まさか、アイヴェサから、ルトスを超えて、南国イースネシアに一気に来るとは思いませんでしたからね……」

「イースネシアでは、鮮やかな色の果実が有名なんですって。作物が豊かに育つって素晴らしいわよね」

「ブレイハ領じゃ、じゃがいもぐらいしかまともに育ちませんからね」

 人の往来が多い市場には、レオとアイラが見たこともないような色の果物がたくさん売っていた。アイラはそれらに目を取られながら、慣れない傘を持って歩く。

 時折、アイラが誰かにぶつかりそうになるのを見て、レオはため息をついてアイラの肩をつかんだ。そして、アイラから傘を取り上げると、アイラの方に傾ける。

()()()、もう少し前を見て歩かないと、人にぶつかりますよ」

「お嬢様、ねえ……」

 アイラはそういうと、市場のど真ん中で足を止めた。

「アイラって、あの時みたいに呼び捨てでもいいのよ?」

 無邪気にそういった彼女に、レオは彼女がなぜそう言っているかに思い当って、頬が熱くなるのを感じた。

「あれは、緊急事態で……!」

「ふふ。でもね、私はもうお嬢様じゃないわ。レオのことも、従者だと思って連れ歩いているわけじゃないし。私もほら、口調を間延びさせるのはやめたのよ」

 確かに言われてみれば、久しく彼女があの口調で話しているのを聞いていない。

 それはそれでなんだか寂しい気もしたが、このアイラも、あの口調ののんきなお嬢様の、どちらだってアイラには変わりがない。

「……アイラ」

 囁くようにその名を口にしたというのに、この騒がしい市場でも、アイラの耳には届いたようだ。

 彼女がにっと口角を吊り上げて笑った。

「レオ。ついてきてくれるんでしょう? 私の()として」

 友という響きは新鮮だった。

 レオとアイラは最初は(かたき)を打たれる相手と打つ関係であり、徐々に真の主人と従者になり、そうしてあの日を境に、二人の関係性は曖昧なものになった。主人と従者ではないながら、その延長線上のような、不安定な関係性に。

 アイラはあえて友という関係性をつけることで、過去の関係性を上書きしたいのだろう。友と呼んでよいのかはやや微妙だが、恋人ではないならば、そこに着地をさせるのが一番だ。

「そうですね。()として、着いていくと決めましたから」

「友なら、口調も直しなさいよ」

 せっかく友という関係性を認めた言うのに、わがままなお嬢様だ。

「分かった、分かったから。ああ、もう、違和感しかないな」

 ずっと敬語でしゃべってきた相手を呼び捨てにして、敬語もなくすというのは不思議な感じだ。

 でも、たぶん、この一歩を踏み出さなければいけないのだろう。そうでないと、アイラが不安になってしまう。

 アイラはきっと今でもなお、レオのこの選択について、レオが本当に心から望んでいるのか、疑っているのだと思う。レオが口で伝えたとしても、アイラはずっと引け目を感じているのだ。

「ほら、そこに突っ立ってると邪魔だよ。こっち」

 気恥ずかしさやらなんやらで、ややぶっきらぼうな口調で言うと同時に歩き始めたというのに、アイラは嬉しそうに笑って、レオについてきた。


 まずは、友でいい。

 少なくともお嬢様と従者でなくなることが大事だ。

 レオは隣でのんきに笑っているアイラにちらりと視線をやると、小さな決意をした。


 この当てのないの旅が、いつ終わるのかはレオにもわからない。

 しかし、この旅が終わっても、レオは絶対にアイラの傍から離れられないだろう。だからこそ、それまでに確固とした関係性を気づいておかなければいけないのだ。


「ねえレオ! あれ、飲んでみたい!」

 アイラのはしゃいだような声にレオは呆れながらも小さく笑みをこぼした。

「……さよなら、お嬢様」

「え? 何か言った?」

「いや、何も。ほら、前を見て」

 市場の喧騒に消えたレオの言葉は、決別だった。

 レオが愛した「愚鈍姫」との。


これにて「愚鈍姫ぐどんひめと烈風の風巫女」は完結です。

風巫女であるディーの成長を絡めつつ、レオとアイラの関係性の変化を書いたこの物語ですが、

この物語の後、シリーズで続きを書きたいなーと思っていたら、なんだかしまったようなしまってないようなエピローグになってしまいました。


しばしこの物語からは離れるかもしれませんが、いつか、シリーズ立てをして、続きを書ければなと思っています。

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