7. 王子様の嫁になりました。
どういうことなのか、といえば。
あの舞踏会の夜、あたしを追いかけて、でも追いかけきれなかった王子は、『シンデレラ』のストーリー通りにガラスの靴を回収して戻ったところで。
「男子に、いえ。一国の王子たるものに」 と、エリザベート姫に詰め寄られたそうだ。
「二言はございませんわよね……っ!?」
「え……っ」
確かにエリザベート姫と結婚する気の無かったライツェント王子だけれど、それとこれとは別。
「えええっ!?」
姫からの逆宣言が、とってもショックだったのだそうだ……バカだなぁ。
それをあたしに言っちゃうところとか、特に。
別に、なんとも思わないけどねっ! ふんだ。
それはさておき。
「衆前でわたくしの名誉を棄損なさった罪。帰国後、父に詳しく申し上げることにしますわ! 両国間の平和もこれまでですわね」 と、畳み掛けられて青ざめた王子は、それに続く。
「困るでしょ? 困るわよね?」 に1も2もなく同意し。
「だったら、わたくしに協力なさい!」 と、それからしばらく、エリザベート姫の犬……いやもとい、手足同然に使われていたそうだ。
「そんなわけで遅くなってしまった! すまない!」
なんて、王子は潔く謝ってくれるけど……
紛 れ も な い バ カ だ。
それに、まだあたしには気になることがある。
「この前、エリザベート姫の結婚式だったって……」
王子と結婚したのじゃないの?
「ああ!あれは!」 王子は爽やかな笑顔で教えてくれた。
「隣国王家の家令のパンツァと結婚したんだ!」
「はいぃぃぃぃ!?」 思わず聞き返す。
だって、家令っていったらこの世界では 『召使頭よりちょっとだけ偉い』 くらいの認識だよ!?
それと王女様が、どうやって……っ?
「おかげで色々と走り回らされて大変だった……!」 ふっ、と遠い目で振り返るライツェント王子。
「隣国王の説得に、両国の恒久平和条約とついでに通商協定の締結、そして尻込みするパンツァの説得に、ニセ心中未遂事件の後方援護……」
「た、確かに……」
大変だったね、それは!
身から出た錆ではあるけど、ね!
可哀想になって、王子のオデコにチュッとキスしてあげた。
王子が頬にキスを返してくれて、あたしたちは目をみあわせて、にっこりする…………
…………って。
どぉしよぉぉぉ! 物凄く恥ずかしい、バカップルだぁぁぁっ!
なのに、幸せだぁぁぁぁっ!
うううう……悶絶、しそう……!
「お二人とぉも♡ そろそろお時間でぇす♡」
なぜだか今は侍女に変身しているランプの魔神さんが呼びにきてくれた。
ついに来た! これから、あたしと王子の結婚式なのだ。
立ち上がって王子の腕をとるあたしの足には、なぜだかあたしがはくと自動でサイズ調整される、魔法のガラスの靴(履き心地も見た目に反してふんわり柔らか!)。
靴があたしにだけフィットする、その理由は……
この靴が入らなくなった時に、教えてもらえるんだそうだ。
★★★
こうして、無事に結婚式も終えてしばらくの時が経った。
今日は、お城のお庭でガーデンパーティーだ!
青空の下に広げられた、テーブルクロス。
その上に次々と並べられる、『ザ・王子の嫁の特別メニュー』。
豆ごはん(土鍋炊きお焦げつき)、ふわふわオムレツ、鶏肉のコショウたっぷりソテーにスズキのポワレ、鰹と昆布のダシのお味噌汁にトロトロシチュー。
新鮮なラプンツェルのサラダ!
ランプの侍女スタイル魔神プレゼンツ!干し葡萄入りライスサラダ!
デザートも、ばっちり。
前世風インスタ映えするパンケーキだ!
それらの前で、あたしはツェント王子と腕を組んで、召喚する。
「よっといで~! 1人ぼっちの、寂しい子たち!」
ぼわんぼわんぼわん、とキラキラ光る煙が立って、それが晴れると……
わらわらわらと集まってくるたくさんの子供!
みんな、歓声をあげて料理を食べて、笑顔を見せてくれる。ありがとう! 幸せ!
……と。
ひとりぽつんと離れて、ずっとうつむいている男の子が目に入った。
手に持ったお皿はからっぽ。
「好きなものをとってもいいよ。どんどん食べてね」
声を掛けたら、黙って下を向いて、首を横に振られた。
わぁおぅ。重症。
なんだか知らないけど、重症。
「なにか、悲しいことがあったのかな?」
「……そんなものじゃないです……」
ううん。ややこしいところに首つっこみたくないぃ(対応できる自信がないから)!
けど、せっかく来てるのだから、もっと楽しい気持ちになってほしい!
「でもさ、今は忘れて! ぱーっといきましょうよ!」
「…………忘れられません」 うつむいたまま、ぷい、と背を向けられた。
「もう放っといてください」
あら。
そんなこと言われたら、あたしだって凹んじゃうよ!
でも、放っとかない。
あたしのパーティーは、1人ぼっちで寂しい子が、それでも生きていけるようにするために、開くんだもの!
「ねぇねぇ! これ美味しいよ! これもだよー! おねーさんがイイ夢見させてあげるよ! 魔法で!」
あたしはその日、その男の子に1日付きまとい続けた。
そして、そんなあたしをツェント王子は、優しく見守ってくれていた。