6. ガラスの靴が合う娘を探しているようです。
開け放った窓から気持ちの良い風が入ってくる。
ででぽっぽー♪ ででぽっぽー♪
召喚してるうちにすっかり仲良くなった、頭の良い鳩さんたちも窓枠に仲良く止まって歌ってくれている。
「まーどをーふーきましょお、むーすめーさんー、ほっほー♪」
あたしも歌いながら、きゅっきゅと窓拭きをする。
うーん爽やか!
ピカピカになった、ちょっとでこぼこでちょっと曇ったガラスに顔を映してニッコリしてみる。
よし! 今日も美人だ! いいね!
前世が超絶地味子だったから、それだけで嬉しい!
それに、今日は待望の『前世メニュー堪能パーティー』!
イェェェイ!
(今日のお1人様夕食メニューはスズキのポワレ♪)
もう誰かを召喚することはないけれど、ツェント王子が 『美味い!』 って言いながら食べてくれたメニューを入れるって考えただけで、ほら♪
胸がぽかぽかお腹がぐぐぅ、とっても、幸せっ♡
「どーしてお腹がすぅくのぉかなっ♪ シンデレラになってもすぅくのぉかなっ」
歌いながら、桟に残った埃を丁寧に拭う。
「白雪姫になぁってもすぅくもん……?」
ご機嫌の歌が、ふっと止まったのは。
窓の外、家の前の道に、なかなか立派な行列が見えたから。
王家の旗とか、掲げている。
ええええ!?
これは、前世の『シンデレラ』っぽいお話通りならば。
『悲劇! 靴1コで嫁探しさせられる家来たち』 の列っ……!?
えーでもでも!
王子はエリザベート姫と結婚するんじゃないのっ!?
「そぉいえば先日、エリザベート姫の結婚式でぇしたぁね♡」
ぼわん。
召喚してもいないランプのフツメン魔神が、慌てる私の背後に現れて言った。
「え……?」
じゃあ、それならば、つまり、これは。
『嫁』ならぬ、『側室』探しっ……!?
ひゅううううっ! 鬼畜ぅっ!
さすが、顔 だ け バ カ 王 子 !
……………………。
……あたしに、どーしろっていうのよ……
迷っている間にも、行列の先頭が我が家に突入。
どうしよう……!
み、見つからないようにしなきゃっ……! でも……っ!
「気になぁるならぁ、階段の上からちょっと覗いてみたら、いぃかがでぇすかぁ♡」
魔神……というより、悪魔っ!
そんな誘惑されたら、あ、あたし……っ、……あたし……っ……
「ちょっとだけ。ちょっとだけだから……」
自分自身に言い訳しつつ、そっと覗いてみれば、階下では、すでに側室探しが始まっていた。
「いや、あなたじゃないからやめといた方がいいですよ」
義姉その1に向かって爽やかに言う、家来のお兄さん。
階段の上からだと、額から上からしか見えないな。
どことなく声が、王子に似てる気がするけど……家来だから、似ることだってありそうだよね!
「そんなの、切ってみなきゃわからなくってよ!」
噛みつくように対抗する、義姉その1。
「我が王家に血だらけの足の花嫁は要りませんね」
「くぅぅぅぅっ!」
義姉その1はハンカチ噛んで悔し涙を流してるが、グッジョブだよ!
未然に流血を止めてくれた家来のお兄さんに拍手っ!
と、思う間もなく、今度は義姉その2が包丁と包帯を握っている……っ!
「あ、あたくしは……ち、ちゃんと止血もいたしますから大丈夫ですわ!」
「そういう問題では、」 ありません、と家来のお兄さんが言う前に、義姉その2が包丁をその頑丈そうな足に振り降ろす……!
「おっと危ない」
難なく義姉その2の腕をひねって、包丁を取り上げる家来のお兄さん。
いいぞっ! 顔は見えないけど、かっこいいっ!
内心で激しく拍手しつつ、夢中になって見ていると、ふと、家来のお兄さんが顔を上げた。
目があった。
……すんごく嬉しそうに、にっこりされたその顔は……
その顔は。
思わずうっかり叫ばずにはいられない、キラキラエフェクト付きの超絶イケメン顔。
すなわち。
「顔だけ鬼畜バカ王子ぃぃぃっ!?」
呆然とする、あたしに向かい。
「いえ。一介の家来のお兄さんです!」 超絶イケメン顔が 『ドヤっ』 と言わんばかりに崩れた。
「おや、汚れてはいるが、よく見ればなんと美しい……!」
言いながら、軽快に階段を登ってくる、自称・一介の家来のお兄さん、本性・どう見ても顔だけ鬼畜バカ王子。
逃げなきゃ、と思うんだけど。
久しぶりに会ったのが嬉しすぎて。
気づいたら、ぎゅうっ、と抱きついちゃってた。なにそれ恥ずかしすぎるよ! 我ながら、情けないっ!
今度こそ、逃げる!
いくら好きでも、懐かしい匂いがしてなんだか嬉しくなっちゃっても、側室だなんて、イヤだからねっ!
決意を固めて離れようとしたあたしの足元が、不意に下から掬われる。
ふわり、と身体が浮く感覚……これは!
かの有名な!
「お、お、お、お……っ」
「こちらの靴を、はいてみられますか?」
お姫様抱っこヤメテ、とか当然言えずに口をパクパクさせつつ、バタバタさせるあたしの足に、器用にガラスの靴をはかせて。
ライツェント王子は再び、物凄く嬉しそうに笑ったのだった。
「花嫁はあなたですね、間違いない」