4. ガラスの靴を手に入れました。
それから、あたしは時々、ツェント王子を召喚して一緒に食事するようになった。
時々、っていうのは。
やっぱり王子って暇じゃないからね!
でも、困ったことに。
なんか、どんどん、会いたくなってくる。
やばい。これは……
(愛が重い、って引かれるパターン!)
今時の流行りは、男などいなくても軽やかに楽しく過ごせる自立した女性のはず。少なくとも前世ではそうだった。
なのに、あたしときたら。
「はぁぁぁぁ……」 サッサカサッカと、魔法をかけたホウキに床を掃いてもらいつつ、深いタメイキ。
ツェント王子に会いたい。
会ってまた、エサ……失礼。豆ご飯をお口にあーん、としてあげたい。
一緒に、つまんない話をして笑いたい。
そんなあたしに詰め寄るのは、義姉その1だ。
「最近あなた、様子がおかしいわよ!? 何か隠し事とか、してないでしょうねっ!?」
「えっ……」 これはこれで。ドキドキする。
なんかあたし、心配されてるっぽい!?
うん、表情とかで分かる!
ツンを装いつつ、実は心配してくれてる!
「1のお姉さまぁぁぁっ!」 思わず、ぎゅうっと抱きついてしまった。
「嬉しいですっ! 心配して下さってるんですねッ」
「な、な、何をっ……!」 思いっきりキョドる、義姉その1。
「し、心配なんてっ、するものですか!」
早く掃除を終わらせなさい、次は床拭きよ、なんてツンケンと指示を出して去っていく背中を、ニマニマしながら見送る。
……なんか、幸せだなぁ……っ!
よし、お掃除頑張るぞ!
だけど……ツェント王子……次はいつ、会えるかなぁ……。
はぁぁぁぁぁぁ……。
あたしが大きなタメイキをつくと、サッサカ勝手に動くホウキも、一緒にちょっとうなだれてくれた。
こうして、また、義母と義姉たちが出かけたある晩。
「今日はね、和風みそ汁にしてみたよ! ちゃんと昆布と鰹でダシをとったんだ」
ツェント王子が召喚されてくれて、嬉しさMAX、ニコニコご機嫌で料理の解説をするあたしに。
「あー……そうだな……うー……」 と、いまいち乗り気でなさそうなツェント王子。
「どうしたの?」 心配になっちゃうな。
「病気?」 オデコをコッツンコして熱を確かめる……ちょっと熱い?
でも、平熱の範囲内、かなぁ?
首をかしげていると、いきなり、ツェント王子の指先が、胸に追突した。
「ひゃっ……!?」
いや追突だからね!
ナデナデじゃないからね!?
それでも。
「あ、あ……すまん。他意はないんだ!」
真っ赤になる王子、もう可愛すぎる!
惚れやすさんだけど、純粋なんだなぁ……どうしよう、すごく好きかも。
慌てて引っ込めた手の上に乗るのは……
「これは、王家に代々伝わる魔法のアイテムだ」
王子の手のひらにあるのは、小さな、ガラスの靴。
あたしは思いっきり、キョトン、となってしまった。
……は? どゆこと?
王子は真剣な瞳で囁いてきた。
「エラ……そなたに、受け取ってほしい……!」
ご、ごめんツェント王子!
きっと、超ロマンティィック! な感じにしたかったんだと思うんだ!
あたしも、本当なら、瞳潤ませ顔を赤らめ、感動に胸を高鳴らせて声を詰まらせたりしてあげたい!
で、でも。
ワケわからなさすぎて。
「はぁぁぁぁぁっ!?」
あたしの口から出たのは、呆れたようなツッコミだった……。
さて、仕切り直して。
味噌汁のダシと味噌の香りに思わずニッコリ、そしてホカホカできたての赤飯(偶然だからね!)で口をもぐもぐさせつつ、その合間に王子が説明してくれた所によると。
「王室では代々……」 なぜそこで詰まって目を泳がせるんだねツェントさん。
「その、あの、よ、よ、よ……」
泣きたいのかな?
お顔が、真っ赤。
「よめっ!」
「ああ!」 納得いった。
「夜目が効くようになるアイテムね! ……でもそれないと、王子、帰り困るんじゃない?」
王子を召喚した後は、魔法使いのおばあさん風ランプの魔神にお城の部屋までコッソリ送ってもらってる。
王室の秩序と平和を守る、大事な任務だ。
「ちがう!」
ブンブン頭とを横に振る王子。
イケメンなのに、どうしてこう可愛いんだか。
「え? じゃあなに?」
「よ、よめになる女にはっ……代々、このガラスの靴を渡すことになっているんだっ」
なんと、どうやら。
まさかの前倒しプロポーズをされているらしい。