3. VIPを召喚してしまいました。
こうして、あたしは、鳩たちに手伝ってもらい豆を分けて皮を剥き、ニコニコと料理を始めた。
すべての材料、使いやすい器具は魔法で取り寄せた。
唯一、電気はないから、炊飯器や電子レンジが使えないのが不便だけど……まぁ、慣れたものだ。
土鍋でふっくら炊いた豆ご飯も、テンション上がるしね!
香ばしいお焦げ!
イェェェイっ!
それから、トロトロ煮込んだトマトシチューと、ふわふわの豆入りオムレツ。コショウをたっぷり効かせた、鶏肉のソテー。
新鮮なラプンツェルのサラダ!
そして後は。
「召喚! 1人ぼっちの寂しい子~!」
いきなり召喚すると迷惑がられそうだけど、この子たちは大体、召喚して 「一緒にゴハン食べよ♡」 と誘うと喜んでくれる。
「ずっとここにいたい」 と言ってくれる子もいる。
申し訳ないけど、「ここは実は人喰い鬼の家でね……」 と深刻な顔で打ち明けて、帰ってもらってる。
……うーん。もっと、良い方法があればいいのにな。皆、幸せに暮らせるような。
ま、それはさておき。
今日はどんな子が来るのかな?
ワクワクしながら待っていると、ぼーんっ! キラキラ光る煙が立って、それが晴れたと思ったら、なんと!
超絶、イケメンだった。
カボチャパンツとタイツという、笑えるスタイル(といっても父も近所の貴族のおじさんも皆こんなのだけど。見る度おかしい)なのに、笑えないほどイケメンだった。
キラキラ光が出てるかと思った……好みじゃないけど。
そして。
分かりやすい、小さな王冠。
「えぇぇぇぇぇっ!?」 びっくりした。
「まさか、王子様?」
「いかにも。余はこの国の第一王子、ライツェントだ」
「しまった……!」
シンデレラに生まれた以上、一生出会いたくなかったバカ王子!
(だって惚れっぽすぎるし、それで国政左右とか靴1つ(または腕輪)で国中探させるとか、あり得なくない!? キモっ!)
あーどーしよ、詰んだ!
と、頭をガチで抱えるあたしに、王子はひざまずく。
「見ればなんと美しい……! 私と結婚して下さい!」
「いやだ」
なんてこった!
王子の惚れっぽさ、エクストリームジェットシューティングスター級!
出逢って3秒でプロポーズ!
しかも、即断られて、まじにガックリきてる! うなだれてる!
落ち込んでる……か、可愛いっ……
「と、とりあえずゴハン作ったの。た、食べる?」
どよーん、と暗く沈む空気をなんとかしようと、あたしは提案してしまった。
と、王子の顔がぱぁぁっ、と輝いた。
なんでだ!
可愛い!
好みじゃない、はずなのに!
ど、ど、ドキドキなんてっ! ちょっとしか、してないんだからね!
「いいのか? 嬉しいな。誰かと食事するなど、余は久々だ」
「……どんな生活送ってたの王子様」
「余のことは、ツェントと呼んでほしい……!」
うわっ、うっかりしてたら距離が近い!
何気に手を取られてる……!
何気に顔も近い……!
ちょっと待ってちょっと待って! もう、イケメン嫌いとか言わないから、許してーーー!!
心臓、口から出そうだよ!
「さ、冷めるから、食べましょ……ツツツツツツツッ!」
「なんだ、それは?」
「ツ、ツ、ツ、ツーーーーっ!」
ダメだ、どうしてもツェントだなんて呼べない!
「なるほど!」 また、ぱっ、と顔を輝かせるツェント王子。
「これは、見慣れぬ料理だと思ったが、ツツツツ料理というのだな!」
そのまま、指で鶏のソテーをつまんで、ぽいっとひとくち。
もぐもぐもぐ、と閉じた唇が大きく動く。
口の中で柔らかくなったらしい鶏肉が、ゴクッと喉を通っていく……
「………………!」 ほぉぉぉぉぉっ、と息を吐いて、ひとこと。
「美味い!」
こんな嬉しい 「美味い」 は聞いたことがない、と思った。
胸がドキドキするけど、なんだかその鼓動は温かくて優しくて、ちっとも嫌じゃない。
気づいたらあたしは、満面の笑みを浮かべていた。
「これはね、豆ご飯っていうの。美味しいよ!」
土鍋から直接、スプーンで掬って、ふうふう吹いて、口に入れてあげる。
「…………」 閉じたまま動く口が、そのままで、美味しい、っていってくれてるみたいな気がする。
「も、もう1口」
あーん、と口を開けるツェント王子の冠をとってテーブルに置き、あたしはツェントにスプーンを差し出した。
「お好きなだけ、どうぞ!」