2. 異世界シンデレラ生活は順風満帆です。
「ちょっとシンデレラ! 呼んだら早く来なさい!」
太めの腰に手を当ててぷりぷりと怒るのは、義姉その2。
この人の名誉のために言っとくと、こちらの世界では豊かなお尻周りは美点だ。
ただし、ウェスト~胸はコルセットでできるだけ、キューッと絞った方がいい。
あたしみたいに天然に絞れた身体(毎日魔力使ってるせいで太れない)でない人は、大変なのだ。
そんなわけで。
「早くコルセット締めてちょうだい! できるだけキューッとよ!」
「内臓が歪むほど締め上げるのは、不健康ですわ、2の姉さま」
「黙りなさい!」 ごんっ!
あら、ゲンコツ。荒れてるなぁ……
うん、でも。こんなもの、トラックにひかれた衝撃と比べれば大したことじゃないもんね!
「お姉さま、ダイエットなどいかがでしょう。私と一緒に家事エクササイズをなさるだけで、The☆美バディー♡ になれると思いますわ」
「あなたったら! そんな賎しいことを、このあたくしにやらせるつもり!?」
うーん。偏見マックス!
家事楽しいのにな。
拭いてみるみるキレイになっていく床とか。
ちょっとした、カタルシィス!
なのにな。
少なくとも前世の無意味大量コピー取りより、よっぽど楽しいっ!
けれど。
この怒りっぷりでは義姉その2を説得するのは難しそう。
「仕方ないですわねぇ……」
タメイキついたら、ごんっ!
またゲンコツ。
「黙って言うこと聞きなさい!」
はいはい。
今度は、どうしようかしらー。
あ、そうだ。
手近にあったランプをひっつかんで、ハーッと息をかけてキュキュっとこする!
「出でよ! ランプの魔神! 普通の人サイズで!」
「はぁいーマスター♡」
出てきたのは、古代アラビア風の衣装に身をまとった、好みのフツメン!
(イケメン過ぎる人って悪いけど苦手なの)
ラッキィィィィ!
召喚成功! 召喚楽しい!
「マスター、1つめの望みはなんでしょう?」
「そうね、お姉さまのコルセットを死なない程度にキュゥゥゥゥっと、締め上げて差し上げて」
「えっ……」
フツメン魔神さんの黒い瞳が、『そんな用事で?』 と訴えている。
しまった!
つい楽しさに我を忘れて、虚しい仕事をさせてしまうところだった!
ごめん、ほんとごめん、フツメン魔神さん!
「えー、コホン」 咳払い。
「これはあなたの実力のほんの小手調べ。次にはキチンとした仕事を差し上げますから、ヨーロッパ風の魔法使いのおばあさんスタイルで来てくださいな」
「ヨーロッパ?」
「ナーロッパとか、ディ○ニーともいいますわ」
「?」
「…………。村の外れに追いやられて1人で暮らす、あのおばあさん風ですわ」
片目と片足がつぶれ、農作業もままならず厄介者扱いされているおばあさん。
杖をもって、常に黒いフードマントを身にまとった姿が、いかにも魔女っぽい人だ。
見た目にひかれて、時々クッキーを持っていっておしゃべりする。
この世界の色々なことを知っていて、薬草の知識とかもあるし、かなり親切。
追いやるなんてもったいない、のに。
まぁ、それはともかく。
「了解でぇす♡」
ランプのフツメン魔神さんは機嫌をなおし、義姉その2のコルセットをキュゥゥゥゥっ、と良い感じにしめて、「ではまたぁ♡」 と消えていった。
「…………! 気味の悪い子!」
義姉その2はひきつりつつ、また、ごんっ! とゲンコツを下さった。
?
毎日同じようなことやってるのに、よく毎日同じように気味悪がれるなぁ?
ある意味すごい。
「これ、シンデレラ!」
今度呼ぶのは義母だ。
「はぁい、お母様!」
この時間なら、たぶん夕食の支度。
でも、皆さんのオシャレ気合いの入れようからすると、今夜はどこかのパーティーにおよばれ、のはずだから……。
「この豆を、良いものと悪いものにわけて、それから皮を剥いてちょうだい! 全部よ!」
キタキタキタキターーっ!
グリム童話あたりのシンデレラ定番! 『お豆ミッション』!
盛り上がるぅ、フゥゥゥゥゥッ!
「はい、お任せくださいな!」
ニコニコOKだ。
うーん。前世のコピーとりに似た『意味のない仕事』のはずなのにっ!
この作業は好きなんだよね。
無心になれて、最終的には食べられる!
頭の良い鳩さんたちを召喚して、手伝ってもらったらすぐだしね!
今夜は義母たちがでかけたら、自分用に豆のスープをつくろう。
日本風豆ごはんもいいな。
あとは、豆入りオムレツ。
魔法で、前世から米やらコンソメやらケチャップやらガスコンロやら新鮮食材やらを取り寄せて、気の向くままに料理して、久々の『前世メニュー堪能パーティー』っ
正直言って、調味料なんて塩とハチミツとハーブとビネガーしかないような今世メニューよりよっぽど美味しいんだもんね!
見た目は素朴でも味はパーティーメニューより断然上。
フッフッフッフッ……最高だわ!
「では、行ってらっしゃいませー」
あたしはニコニコと、着飾って出かける義母と義姉たちを見送った。