1. シンデレラに転生しました。
「あぅぅぅぅ……終わらないぃぃぃ……」
あたしは呻きながらコピー機を監視し続けてる。
横につまれてるのは、書類の山。
コピーは機械がしてくれるが、一応マル秘書類だし、誰かがそばについてなきゃならない。
というか、この電子書類全盛時代になぜに紙。謎だ。
そして誰だ。銀行は残業が少ないとか、休みがとれるとか言ったやつ。
いや騙されたあたしが悪いんだけどね。
ホイホイと就職してみたら、古い体質の地銀。
窓口に出るのは美人で気が利く女の子、あたしみたいに普通で地味でコミュ力低い子はひたすら内部で事務処理だ。
15時に窓口をしめて18時までに為替処理と『締め』って呼ばれてる……1日のお金の出入りを合わす業務、かな……を、行う。
それで帰れるかっていうと。
後はひたすら営業さんたちのお手伝い。
こんだけのコピー頼んどいて 「早く帰れよ」 って、なくない?
営業さんたちは働けば業績にも成績にも繋がれば表彰もされる立場だろうけど。
こっちは裏で、ひたすら地道にコピー機監視!
大好きな小説とかで、死ぬまで働く社畜SEのこと読んで涙したことはあったけど。
毎日毎日、無意味としか思えない、何の評価もされない作業を延々と繰り返すのって。
紛 れ も な く 拷 問 。
だよね?
「明日でもいいんだから、早く帰れよ」
笑顔のイケメン営業マン。
イケメンだからって騙されないぞ。
明日たまった分のコピーと書類整理は、誰がやるんだい?
「……ふーっ……今日もひたすら虚しかった……疲れた……」
毎日無事に済ますことが目的のルーチンワークと、ひたすら自分が埋もれる穴を堀り続けるかのごとき残業。
社畜SEほど酷くはないかもしれないが……彼らはまだ、世の中の役に多少なりともなっている。
「あたしも……SEになって……血反吐出るまで働いて、過労死したい……」
なんて、病んだことを考えつつ、通勤路の商店街を歩いていた時。
道の真ん中に、黒猫が、いた。
トラックが、きていた。
猫たん、身がすくんで動けないパターン。
……………………
………………………キキキキキキーッ!
……………………。
あたしは。
とっさに道に飛び出て、猫たんをかばっていた。
ずどんっ、という感じの、物凄い衝撃。
それから、変な角度から夜の商店街を彩る街灯と、驚いて立ち止まっている人を見た。
がんっ、と頭が道に打ち付けられた。
……血かな?
温かい何かが、身体から流れていく。
寒い。
でも、痛くないから、いいか。
猫たんがそばで鳴きながら、瞼を舐めてくれたのがわかった。
……猫たん、無事だから、いいか。
生まれて初めて、何かの役に立った感。
幸せだな。
……あたしは、最後にそう思った。
※※※※※
「ねぇー、シンデレラ!」
あたしを呼ぶのは一番目の義姉。
なんとラッキー!
あたしは、シンデレラに転生したっ!
美人だ!
しかも何故か、魔法が使えるっ!
……どこの国のシンデレラだろう? もしかしたら、かなり誰かの創作入ってるシンデレラかな?
だって、グリムのシンデレラなら舞台は中世ヨーロッパでなきゃいけない。
シンデレラにあれこれくれるのは、植えた木に遊びに来てくれる鳩さん(か小鳥)たちだったはずだし……?
ま、いいや。
魔法が使えるなんて最高! 異世界! ファァンタジィィィ!
もしかしたら、ドラゴンとかエルフとかともそのうち会えるかも!? ワクワク。
死んで良かった、イェェェイっ!
(だからあたしをひいたトラック運転手さんが、無罪放免になってますように! ひかれちゃってホント、ゴメン!)
ただし、魔法が使えない義母と2人の義姉には妬まれている。
ま、いいや。
持てる者は持たない者に妬まれる。
普遍の真理。
だって、美人で魔法が使える女なんて。絶対、同性から見て嫌われて当然じゃない?
だから、義姉その1が目の前で普通のお顔を醜く歪ませていても (ちょっとニコっとしとけば可愛いのに!) あたしは、ニッコリ優しくしてあげられるのだ。
気持ちはすごく、分かるからね!
前世で報われない女の子で良かったわ! 今世でも優しくいられる!
「ちょっとシンデレラ! 部屋の掃除、サボったね! こんなに汚して!」
いやそれは、あたしが掃除した後で義姉その1自身が散らかしたんでしょうに……ま、いいや。
だって魔法が使えるんだもんね!
「はい、1の姉さま」
ニコニコと指パッチン!
あっという間に、散らかった服や小物はスルスルとクローゼットに。
か・い・か・ん♡
もう一度、今度は某サマンサちゃんのように、口をキュキュキュっ!と左右に動かす。
あっという間にキレイになって、ベッドにセッティングされるシーツと毛布。
はぁぁぁぁぁ♡ スッキリ♡
「この隅に埃がたまっているわ!」
「はい、お任せくださいな」
今度はぁぁぁ……
「出でよっ! 家小人っ!」
召還だよっ♡
「きゃあっ」
義姉その1は腰を抜かしているけど、可愛いよ?
オッサンの顔したちっちゃい子たちがワラワラとあちこちから湧いて出るんだから!
「君たちありがとう! お掃除ヨロシク」
「かしこまりーですのだー」
「ありがとう! 報酬は?」
「家小人は報酬なんか、いりませんーのーだー」
どうやらプロトタイプの子たちらしい。
「じゃあ、前払い!」
1人捕まえて、小さな小さなほっぺたにチューしてあげたら、手足をバタバタさせながら真っ赤になった。
可愛い! 幸せ!
さてと、次は………。
「ちょっと、シンデレラ!」
義姉その2、だ。