いけたらいくね!
まただ……また、この夢――
何回目だったかな? フツーの夢なんて目が覚めるとほとんど覚えてないし、覚えてても、怖い夢とかちょっとだけエッチな夢とかくらいなのに、この夢は、全くリアリティが無いのに妙にリアルと言うか、見始めた頃はなんだか面白くって、何回目かまでは数えてたんだよね。あー、もうそれすら覚えてないや。今夜はどんな夢かな? いつも同じ夢じゃあないのかって? 同じだよ? 初めて見た時からこっちに向けられてるメッセージはずっと同じ。でも、シチュエーションが違うの。初めのうちは……あ、意識がハッキリしてきた。子気味の良いメロディーも聞こえる。そろそろ……始まるみたい――
「お休み中にゴメンナサイ! ドリームショッピングのお時間です!」
今夜はそう来たか。
「いきなりなんですけどー、はあ、なーんか最近……異世界行けてないなあ……なーんてこと、ありますよねえ!?」
ねーよ。
「そんな貴女に! 貴女だ・け・に! 今晩ご紹介させていただく商品はあ……なんとー……こちら! ジャジャン! 異世界に行ける券~!」
ものすごい真っ直ぐど真ん中に投げるなあ。こんなの逆に手が出ないよ。
「これを使えばあっと言う間! バイバイ現実! ハジメマシテ新世界! 貴女の理想にコンニチハ! しかも! しかもですよ!? 今ならなんと! 全知全能スキルもついてくる!」
ええ……
「あー、分かります。貴女のお気持ち、よーく分かります!」
分かってくれるんだ。
「気になるのは、お値段……ですよね?」
違うんだよなあ。
「こちらの異世界に行ける券。通常ですと命と引き換え、だいたい死んでいただかないとご購入いただけないので・す・が! 今晩はなんと特別プライス! お電話いただいた貴女だ・け・に! 無料! つまり、タダでご進呈させていただきます!」
なんだろ? 初めのうちは、逆光ピカピカさせながら、貴女は選ばれたのです。って感じだったのに、ここ最近のヤケクソ感よ。この前の泣き落としもひいちゃったなあ。
「あ! 早速のお電話ですね! はい! お電話ありがとうございます! ドリームショッピング、注文受付センターでございます!」
電話鳴ってなかったよね。
「で、さあ……行かない? 異世界」
ビックリした。いきなり素に戻らないでよ。
「楽しいよ? 異世界」
行かないってば。この夢、毎度毎度うまく動けないし喋れないんだもんなあ。ガツンと言ってやりたいのに。ゆっくりと首を横に振るのがやっとだよ。
「強情だなあ。この世界、そんなに良いの?」
良い悪い……は、分かんないけど、満足はしてるかな。
「引きこもりのくせに」
うっさい。ただの引きこもりと一緒にしないで。
「そうよねー……貴女、色々持ってるもんねー……」
そうだよ。わざわざ異世界なんかに行かなくても、こっちはまあまあの人生イージーモードなんで。だから諦めてよ。
「ここまでして諦められるわけないでしょ? こちとら何万回誘ってると思ってるのよ?」
はい? 何万? 百回もいってないと思うんだけど。
「今回はね。その前に何回もリセマラしてんの。現界ガチャも合わせたら天文学的数字ってやつになってると思うわ」
え? え? どう言うこと? リセマラ? ガチャ?
「あー、それは分かりやすく言っただけ。私がやってんのは、この次元のこの界隈で言うところのソシャゲよソシャゲ。そんな感じってこと」
そ、そんな……この世界がプログラムだったなんて……
「違う違う。プログラムなんかじゃあないよ。ここはこっちで言うところの三次元で貴女は三次元人。で、私は……えーと、四、五、六……十一次元の十一次元人。オッケー?」
いや、ノーオッケー。
「勉強したら? 英語」
余計なお世話。
「それで話戻すけど、まあ、十一次元にも色々あんのよ。やって良い事とか悪い事とか。理解も納得もしなくていいから、大変なんだなあ。くらいに思っててよ」
大変なんだなあ。
「でもね? 時間が無限にあって、行ったり来たり出来る私でもね? そーろそろ我慢の限界ってやつなの。分かる?」
分かんない。だいたい、なんでそこまでこだわるのかなあ。他いるでしょ? 異世界に行ってみたい人なんて、それこそ山ほど。
「いや、アバターの見た目は大事でしょ? だから貴女なの。ルックスだけでも人生イージーモードの美少女の貴女じゃないと」
は?
「ちょっとカワイイくらいじゃダメ。全然自慢出来ないもん。私は最高の姫プレイがしたいの。山田かつてないほどちやほやされたいの。そのために私がどれだけ因果律をいじったか……こちとらバレたら死ぞ」
そんな理由で……承認欲求モンスターめ。どうやったら十一次元と連絡とれるんだろ? バレないかなー。
「でも安心して、もうバレてるしバレてない。これは私個人の意思であると同時に、十一次元全ての総意でもあるの。勿論私は死ぬけど元気に生きてる。そう言う世界だから」
もう何言ってんのか分かんないんだけど、アナタの世界が変わってるっては分かったわ。
「アナタなんてやめてよ。私と貴女の仲じゃない」
仲と言えるモノはほぼ無いと思うけど。
「そうねー。私の名前は有るけど無いから、イレブンとでも呼んでちょうだいな。私も名前で呼ぶから」
夢の中じゃなかったら、意味不明すぎて頭痛くなってそう。あ、でも性別は有るんだ。イレブン女の子だもんね。
「ん? 有るけど無いよ? カワイイからこうしてるだけ。ち〇こ生やす?」
は!? え! や、やめて!
「なんで? 興味あるんでしょ? ち〇こ」
ないよ! あるわけないでしょ!
「え? でも夜な夜なパソコンでこそこそやってるじゃない」
何で知ってるの! じゃなくて! 知らない! 何のことか分かんない!
「お年頃だもんねー。まあ、それにしてもさ……むっつりすぎない? ふふふ」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
「……ははーん。はい! 生えました! 今、生えました! すっごいの! すっごいの生やしました! ふふふ、近くで見る?」
いい! 見ない! 見たくない! だからこっちに来ないで!
「じゃあ、異世界行こっか?」
い……いかない……
「はーい! では徐々にスカートたくし上げながら、じりじりと距離を詰めさせてもらいまーす! 拒否権は……夢の中なので勿論ありませーん!」
やーめーてー!
「それでは、池多良育音ちゃん!」
起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ……起きろおおおおおおおおおおおおお!
「異世界、行くよね!?」
い……
「い?」
いけたらいくね!
「ダメでーす」
いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ!