第17話 休息の1週間(3日目竜也編)
今回は珍しく視点を変えて竜也の視点です。
俺はあと5日間も休憩をしていては優斗に全く追いつけないことを悟って家を出た。優斗には山にでも籠るといったがそんなことをしても一人で強くなれる確証はもてなかった。しかし宛がないわけでもなかった。その方法は優斗が初めのころ行っていた武術を身に着けることだ。俺は付け焼刃の攻撃と魔道具に頼り切った技に執着をしていた。でも、それでは全く戦いの中では意味がないことであることを昨日痛感させられた。
「まずは俺の戦闘スタイルに近い空手、柔道、ボクシングあたりから攻めていこう。」
(ボクシングは武術じゃないって?強くなれればなんだってやってやるさ!)
そう意気込んで俺は同情破りの勢いで町の道場を片っ端から訪ねて行った。
しかし、多少なりともあのサファイアに修行をつけてもらっていた俺に教えられるほどの実力を持った人にはなかなか巡り合うことができなかった。いい勝負をするその道場の師範がいたとしてもやはり最後に勝つのは俺のほうだった。そんなとき、ふと俺の後ろから声がした。
「君かい?今日一日でこの町の道場の大半の叩きのめしたという小学生は。」
その男は帽子を目深にかぶり、ボロボロの甚平を着ていた。見たところそこまで力があるようには見えなかったが隙がなかった。
「そうだけど、おじさん誰?」
「おじさんとはひどいな。僕はこう見えてもまだ二十代前半なんだけどね。」
「ごめんなさい。あまりにも老け顔だったから。」
「言ってくれるじゃないかこの坊主。」
そうは言いながらもそのおじさん(お兄さん)はまだこちらの様子を窺っているようだった。
「それでなんのよう?まだこれかた行かなきゃいけないところがあるんだ。」
「それは新しい道場に乗り込むのかい?」
そう聞いてきたので素直に答えることにした。
「そうだよ。もういいだろう。」
「なぜそんなことをするんだい?道場に恨みがあるわけではないだろう?」
「ないよ。俺はただ強い人を探しているんだ。俺が強くなるために。」
「それは見逃せないな。僕もこの町の道場にいるんだ。仲間を見捨てるわけにはいかない。坊主強くなりたいんだったな。なら町のど真ん中にある読心流武術・十六夜道場へ行ってみろきっと強くなれる。」
そういうとおじさん(お兄さん)は歩いて去ってしまった。角を曲がったとこを追ってみたがすでにその姿はなかった。
あのおじさんを不安に思いながらも十六夜道場を訪れた。そこは町の中心にありながらも周りには何もなく、とても大きな道場とは言えず、またとてもみすぼらしかった。こんなところが道場なのか、本当に自分を強くしてくれるのか心配になりながらも門の扉をたたくことにした。
「頼もう!!この道場が俺を強くしてくれると聞いて尋ねてきた!面会を求む!」
そう叫ぶと扉は不安な音を立てながら開いた。するとそこには…
「やあよく来たね。僕がこの道場の師範代十六夜喜一だよ。」
さっきまで話していたおじさん(お兄さん)が出てきた。その人が師範代ということに驚き口をあんぐり開けたまま静止してしまった。
「何をそんなに驚いた表情をしているんだい?言っただろう?ほかの道場は仲間だと。」
「いや言ったけれども、それは門下生仲間だとてっきり。師範代ってそんなにおじさん、じゃなくってお兄さんは強いの?俺に稽古をつけられるくらいに。」
「少なくとも付け焼刃の戦闘しかできない君よりははるかに強いと思うよ?そして僕ならば君を今の何倍も強くすることができる。それも短期間でだ。」
「なんでそんなことがわかる。お前の前では一度も戦っていないはずだ。」
純粋な疑問を投げかけたが喜一が答える様子はなかった。喜一は中へ入っていき、俺に向かって手招きするしぐさをした。俺はそれについていくしかなかった。
場所は変わって道場内の広間の様な場所に出た。外見はそこまで大きいようには見えなかったが中はそれなりに広いようだった。
「さぁ。じゃあ君の実力を見してもらおうか。僕の仲間を倒したその技を。」
そういって部屋の中央に立ち仁王立ちになっていった。
「構えないとは余裕なんだな。」
「君程度なら構えるまでもない。さぁ日も傾いてきた。そろそろ始めよう。」
「ならこっちから行かせてもらうぞ!」
そういって喜一に飛び掛かり渾身の右ストレートを放った。しかしその拳はかすりすらせず俺の体は喜一を通り越していた。そして後ろに裏拳を繰り出すもやはり当たった感触はない。
「なんだい?この程度なのかい?」
「そんなわけあるかよ。これは様子見だ。これから本気を見せてやる。」
そう意気込んではみたものの最初の1発は現在巣の自分がだせる最速で最大の威力の1発だった。ならば道
場破りでは一度も使わなかった本気を出すしかなかった。
《変身!!!》
そう叫ぶと俺の周りを炎が包み込み纏わりついた。その様子はまるで火竜を従える炎神の様な見た目と言われている。腕に巻き付いている竜の紋章からは大きなエネルギーがあふれだし、目の色も紅に染まっている。
「さぁ第2ラウンドだ。」
この後の俺の動きはさっきとは全く異なる速度攻撃の重みである。………………はずだった。
「ほらほら、まだ一度も俺に攻撃を与えられていないぞ坊主。」
そうすでに戦いが始まってから30分は経過している。その間ずっと俺は攻め続けていた。それも一切の間髪を入れずに。しかし喜一には1撃たりとも入っていなかった。それどころか俺は呼吸が荒れているにもかかわらず喜一は息ひとつ切れていなかった。
「これが僕と君の実力差、そしてこれが師範の編み出した読心流武術だ。」
「結局、、なんなんだ、、、。その読心流武術ってのは、。」
俺は呼吸を整えながら聞くのが精いっぱいだった。そんな中喜一は静かに語りだした。
「読心流武術というのは、僕の父十六夜喜助の編み出した対人戦闘用武術だ。この流派は読んで字のごとく相手の心を読んで無駄なく攻撃を避け、会心の一撃を相手に加えることを目的としたものだ。君の攻撃は単調で思考も通り一辺倒だったからねすごく戦いやすかったよ。君は強くなりたいんだよね?君にこの読心流武術を会得してもらうために来てもらったのさ。」
「なぜ俺だった。ほかにも門下生になりたい奴はいくらでもいただろう。」
喜一は冷静にそして冷酷に答えた。
「あいつらにこの武術を学ぶ資格はない。しかし君にはなにか守りたいもの、やらなければならないことがあるのだろう?だから君に声をかけたんだ。どうだろうか。ここで学ぶ気はないかい?」
「断る理由がないな。お願いするよ。」
「じゃあ日も暮れてきたし今日はここまでにしようか。明日また来てくれるかい?」
「予定が入らない限りきちんと来ますよ。それじゃ。」
そう言って立ち去り振り返ると喜一が手を振って送ってくれていた。
明日からまた訓練を再開して早く優斗に追いつかなきゃいけないんだ。そう心に決めて家路についた。
更新が遅れてしまい本当に申し訳ありませんm(_ _)m
愛想つかさずこれからも読んでいただけると幸いです。