マーテルの日常-朝(4)
アスタ、パテル「ご馳走様でした。今日も美味しかったです」
マーテル「はい、お粗末様でした」
朝食を取り終えた2人は、揃って私にお礼を言ってくれる。
これは2人のお決まりらしい。
私は3人分の食器を洗いはじめる。
2人は、いつも綺麗に私の作った食事を食べ切ってくれる。
朝ご飯もそうだが、お弁当と夕ご飯も決まってである。
2人は、「美味しいから自然と食べ切っちゃう」なんて言ってくれるけど、量を多く作ってしまった日でも残さず食べてくれるので、本当に有り難い限りである。
マーテル「洗うのも自然と楽しくなっちゃうのよね」
思えば、2人が美味しく食べる姿が見たくて、よく作りすぎてしまうのかもしれない。
食器を洗い終え、私は2人の横に腰を掛ける。
何やら最近の狩りについて話をしているようである。
そんなアスタを見ていると、ふと昔のことを思い出す。
正義感の強い子だけど、決して力が強い訳ではなかった。
小さい頃は、イジメられている子を見ると放っておけない子で、いつも止めに入っていた。
でも結局、自分が泣かされてしまい、イジメられていた子にも心配されるなんてことがよくあった。
そんな泣き虫だったアスタが、今では父親と仕事のことで真剣に話し合っている。
親として、真面目に育ってくれたのは嬉しいけれども、あの頃の小さいアスタはもういないと思うと、少し寂しい思いもある。
アスタ「...さん?母さん!」
マーテル「え!?何?」
突然、アスタの声がし私は現実に戻された。
アスタ「最近、山に動物が少ないのは魔物の影響だって話をしていて、母さんはどう思うって聞いたんだけど返事がないから...」
パテル「どうしたんだい?大丈夫?」
いけない。
2人にいらぬ心配をさせてしまったらしい。
マーテル「ごめんなさい!違うの、ちょっと考えごとをしてて。パパと仕事の話をしてるアスタを見てたら、昔の小さかったアスタはもういないんだなー、成長したなーって」
私がそう言うと、2人は呆気に取られた顔をした。
マーテル「ほら。小さい頃のアスタは正義感が強かったけど、ケンカは強くなかったから、よく泣いてたでしょ」
そう言うと、パテルが「あははは」と笑い声を上げた。
パテル「そうだね。昔はよく、悪い子に泣かされてたりもしたからね」
笑いながら言うパテルとは対照的に、少しムスっとした顔で「昔のことでしょう。今はもう泣くことなんてないから」とアスタは言った。
マーテル「アスタ、ごめんね」
アスタ「まあ、いいけどさ」
アスタに謝る私をよそにして、パテルはまだ笑っていた。