マーテルの日常-朝(1)
ココガ村-ボロス宅
外はまだ薄暗いけれど、いつもの起床時間がやってきたみたい。
女「おはよう、あなた」
隣で寝ている夫を起こさないよう気をつけながら、私はベッドから起きる。
私の名前はマーテル=ボロス。
隣で眠っている人は、夫のパテル=ボロス。
朝、眠っている夫の顔を見て、私は自分が幸せであると再認識させられる。
パテルは良き夫であり、良き父でもある。
私の食事を「美味しかったよ、いつもありがとう」と必ず言ってくれ、仕事から帰って疲れているにも関わらず、家のことをよくやってくれている。
息子が小さい頃は、毎日必ず遊ぶ時間を作ってくれた。
大きくなった今でも、常に息子のことを気にかけ話している。
そんな夫を息子も心から尊敬している。
裕福ではないけれど、我が家は幸せで溢れている。
そんなことを、夫の幸せそうな寝顔を見るといつも思う。
マーテル「いつもありがとうね」
愛する人の寝顔をこのままずっと見ていたい衝動に駆られるが、やらなくてはならない事のため、私は部屋を後にする。
部屋から出て隣の部屋の扉をそっと開ける。
マーテル「おはよう、アスタ」
隣の部屋は、息子のアスタ=ボロスの部屋だ。
例のごとく、私は寝ている息子を起こさないように声をかける。
アスタはとても優しく正義感に強い子だ。
小さい頃は、いじめられている子を見ると放っておけず、仲裁に入っては怪我をさせられていた。
母としては、そんな息子の性格が災いして、いつか大きな事故や被害に巻き込まれてしまうのではないかと心配だったけれど、パテルは「お前は間違ったことはしていない。これからも正しい行いをしなさい」と言い聞かせていた。
そんな息子も、今年でもう20歳になる。
いつからか、父親の仕事を手伝うようになり、最近では夫も「もう一人前だ。1人でも大丈夫だな」と言い始めている。
2人の仕事は猟師だ。
大人になってから、イジメの仲裁でケガをすることはなくなったけど、仕事のケガは絶えない。
そんなこともあって、私の心配は尽きない。
今日も無事に、2人が帰ってこられるようにと願いながら、私は部屋の扉をそっと閉めた。
マーテル「さっ、私も自分の仕事をしなくちゃ」
そう自分に言い聞かせて、私はキッチンに向かい、2人のお弁当を作り始めた。