地獄
この世界は地獄だ。
闇。辺り一面を包み込む闇。
闇の中に村がある。
一見すると、住居が立ち並び、人が住んでいる形跡がある。
しかし、村は不気味なほどの静寂に満ちており、人の気配がほとんどない。
中央には、禍々しく蠢く球体が浮かんでいる。
その球体の側には、漆黒のローブを羽織り、深々とフードを被った、人の姿をした何かが立っていた。
その何かが呟く。
「貧相。所詮、片田舎の村なんてこんなものか」
右手には、ちょうど片手で収まる位の金貨や宝飾類がある。
闇のせいか、その手もまた漆黒であり、およそ人のものとは思えない。
そこから少し離れた位置に、血塗れで今にも命が尽きそうな男が1人、地面に這いつくばっていた。
男が、ローブを羽織った何かに問いかける。
男「お、お前が、みんなを。なんでこんなことを」
問いかけに反応する何か。
男の方を向き、ゆっくりと近づいた。
「意外。少しは頑丈なのがいたか。だが、、、」
そう言うと、男に向かって空いている左手を振り下ろす。
手からは、刃の形をした影が放たれた。
影は、男の背中に当たるや否や、「ざくっ」という鋭い音と、深く大きな傷跡を残して消えた。
男「うっ、、、かはっ」
吐血する男。
傷跡は、まるで大きな斧に切りつけられたかのように広く、止めどなく血が流れ出ている。
男の目から涙がこぼれる。
男「...さん....さ...ん....めん...」
聞き取れない位の小さな呟きをし、男は息絶えた。
「終生。無意味な人生だったな人間」
男が息絶えたことを確認し、何かはその場を後にした。
再び静寂が辺りを包む。
暗く止まった世界で、ただ球体だけが怪しく蠢めいている。
球体の蠢きが一層激しくなると、辺りの景色を黒く塗り潰していった。