表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/62

7:戦後処理の方針

 帰宅して早々に食事となり。結局は乖離島(カイリトウ)でお風呂に一切入れなかった俺たちは、長湯をして寛ぎの間に集まるのだった。


「テリスト、最後の確認よ。本当に処刑しなくて良いのね?」

「俺に任せるととんでもない事態になるが、それでも執行しろと言うなら受ける」

「完全に拒否しないのであれば任せます。どの様な形であれね」

「さいですか。しかし早かったな、場を整えるのが」


 帰りはすでに日が沈みかけていたのだが、テリストが【ライトボール】で照らしているのでよく見えたのだ。


「取り出して直ぐ並べるだけの状態で保管してありますから当然です」


 公開処刑するたびに1から作ってたんじゃ費用の無駄。そこで作り置きしていたのだろう。流石国ともなれば高性能のマジックバッグを確保してる様だ。


「で。肝心の事を詰めなきゃならんな」

「戦後処理の方向性ですね」


 当然だ。相手国の皇帝だろうと、その家族だろうと貴族だろうと根絶やしにするつもりだ。完全空白地帯になる。2カ国が攻め込んではいるが。俺たちの方がはるかに貢献する。相手の殲滅という意味では。

 貢献度順で言えば、皇国が最大規模の広大な土地を持つ事になる。ただ、飛び地になるのが最も懸念材料だ。そして、その土地を確保出来れば頓挫した液糖状態の麦芽糖作りの材料確保に目途が付く。町の有力事業として打ち立てればその恩恵を独り占めにする為に絶対に作成方法を流す者は居ないだろう。スパイがいなければとの但し書きが付くが。そういう意味では美味しい土地なのだ。


「後から割って入る新参者の位置になる訳だが。順当にいけば最高の戦果を上げられる。ただ、飛び地なんだよね。獣王国からジアラハルト経由で交易するか、それともアークサルト経由になるのか。相当な通行料を支払う羽目になるのは分りきってるだろ。どう舵を取るつもりだ?」

 正確には通行料では無い。運び込む為に成就させる人件費やその他もろもろ輸送費用だ。距離があるだけ割り増し料金で販売せねば赤字となる。利益は出るのだろうか……。

「土地の確保に関しては放棄するとした場合。テリストならどう対処しますか?」


 放棄するのか。確かに通信網の構築で魔物ハンターギルドに対して結構な権力を握る皇国ならば飛び地としても運用は可能だろうが、現在でもサルーンの仕事量は異常だ。そこで飛び地となればパンクする事は分かっている事からその選択肢も頷ける。

 だが難しいな。あらかじめ此方の確保枠を決めて。譲渡分に関して税収の数%を此方が貰えるように交渉するか、それとも作物に関して一定量を納めてもらう。もしくは格安で一定量を販売してもらう。そんな所だろう。ただ、現状の彼方の欲している内容次第で交渉の仕方が変わって来る。そこは文官に丸投げしたいのだが……。


「まず放棄前提では交渉出来ないな。確実にこちらが確保可能な地域を選定して認めさせる。戦果次第だが帝都含めてそこから南全域って所かね。帝都は確実に解放するから相手にはやれないし」


 そもそも全力で排除に力を注げば、8割程度は確保できると踏んでいる。俺たちが外交に出向いていたのは僅か1週間だ。その程度の期間ならば落とせても町一つが限界だろう。

 彼方の顔を立てる必要がある事から、その様な真似はしないがね。


「それでその後はどうするのです?」

「その前に皇国として欲するのが何なのか教えてくれ。そうでなければ前提条件が無しでは話せない」

「そうですね。寒い地域でなければ作付け出来ない農産物ではどうですか?」


 そうなると考えられる案は3つだな。税金か地域か全体かって選択が妥当か。


「現時点で俺の考えでは3つの案がある。

 1つ目。放棄する代わりにその領地の収益から数%の税をもらい受ける。それを全額なり一部なりを買い取り価格にて販売してもらい、その分此方へ売って頂く。簡単に言えばその納める代金分を物納させる。運搬者は此方の国の商人などだな。

 2つ目。譲渡するその地域に必要量のみ残して後は全て売ってもらう。この場合は通常価格で買い上げだな。ただし高くなる。だけど他所の国へも売れるから収支すれば確実に売り上げは上がる。

 3つ目。優先購入権を頂く、それも格安でだ。帝国内での総生産量から売却してよい量を出し、その内の割り当て分を多くとった上で買い叩く。

 なぜこの案だけ安くするのか、地域に限定してないからだよ。帝国全体を見ているからだ。通常価格で買い取れば単に交易ってだけで土地を提供する意味が無いからな。提供する分は安くしてもらう、それだけだ。

 1は無料で作物の値段に左右されるから量もそれなりだが安定してる。2は確保する土地面積次第でかなり変わって来る。3は交渉が難しいだろうな。あちらも国元へ送る事を前提にしてるはずだし、それなら最初から飛び地だろうとこっちで統治した方が良い」


「角を立てないように交渉するならば2番が妥当でしょうか。1は永久に搾取される形で反発を招きます。3は2国とも北方の地で食料が品薄です。きっと猛反発を受けるでしょうね」


 それを選んじゃいかんよ。良し悪しなんて選別せずに、案があるだけ提示しただけだぞ、当然地雷もある。


「サルーンには悪いが、それは最悪の選択肢だぞ」

「テリ、中途半端に説明しないで最後までなさい。それ、テリの悪い癖よ」

「そうか? 俺は考える力を皆にも身に着けてほしいからこそ、半端に提示して考える余地を与えてるんだがな。それでも聞きたいか?」

「良いから話しなさい!」


 ぷっつんまではして無いがちょっと顔が赤くなってるな、仕方ないか。


「2つ目で説明したようにその地域で賄える分以外を売ってくれって事だよ。当然帝都も含まれる。相手は喜んで飛びつき了承するだろう。なにせ、帝都以南だけの生産量で帝都の民を養うって事だ。

 それは帝都を含まずに北側は一切南側へ売らずに済む。帝都へ持って行かずに好きにして良いと解釈が取れる。農産品の生産性に乏しい帝都を相手が全部負担するんだ。名案だろ? ただし、相手にとってはな。

 この場合。3つの提案をしたが、一番お手頃なのは1だ。自動的に割り振られて農産物がもらえるからな。

 確かに相手にとって負担ではある。だが、皇国へ帝都以南を全て取られてみろ。1リルの儲けすら出ない。だけど一部の税金を支払う事で永久に自分の土地が、それも広大過ぎる広さが手に入る。この点を考え無しに蹴る様な相手なら。そもそも交渉する価値が無い相手だと断定できる」


 その時は飛び地だろうと実効支配するしかないけどな。


「それだと交渉の余地が更にありますね。相手に帝都を与えた上で2を選択すればどうですか?」

 おいおい。敵対国を増やすなよ。

「確かにそれなら此方にうま味があり過ぎる。ただな、それも悪手だぞ。ついでだから話すが、相手がその思惑に気が付かずに飛びついてみろ。後から食糧事情があまり改善しない事に気が付くだろう。

 きっと交渉で罠に嵌めて俺たちへ食料を渡さない気だったのだな、と思われる。敵対国が増えるし、そんな交渉をしたと周囲の国も当然ながら知る事になる。現帝国とはいかずとも警戒されるから止めておけ」


 それを聞いたサルーンは顎に手を添えて悩み始めた。



「……。テリストも交渉の席に立ち会いなさい、良いですね?」

 なるほど、それも良い選択だな。ただ、彼方が馬鹿すぎた場合はとことん追い詰められるぞ、あっちが。まぁ、国益損なわない程度には手加減するつもりだが。

「まぁそれが良いかもね。ただ。現地で顔を合わせる事になるぞ。現実だけ突き付けて戻れば良いのか?」

「皇国がどの地点までを解放したのか確認させて一筆書かせなさい。それを元に交渉の席へと移りましょう」

「偽名を使われて偽物でしたって事になったらどうなるんだ?」

「外交においてその様な事をすれば宣戦布告に等しい行為です。後は分かりますね?」

「なるほどね。その時は帝国の全てを実効支配に切り替えると。だけどさ、それって下手すると相手国へも雪崩れ込む必要が出るぞ。4カ国分を統治するのか?」

 サルーンの返答ならば即座に敵対する事になる。それすなわち俺たちが攻め入るって事だ。当然の事ながら確実に国は落ちる。4国統合とでも言えば良いのか、当然その管理はサルーンがする事になる。無理だな、管理が。


「……良いですかテリスト。絶対に今回は彼方の国と揉めないで下さいよ。そんな事態になったら手に負えません」

「そりゃそうだ。体が後3つ欲しくなるよな」

「はぁ、アレサリア。何かあればお任せしますから実力行使してでも止めて下さいね」

「任せて下さい」

「なぁ。俺って信用ない?」


「わかってて言ってるのよね? 以前約束を破って地方領主を処刑したでしょ」

 無理やり騎士を説得してその場で殺したな、確かに。

「あー。処刑したな、確かに」

「それでテリスト。ゲートは使えるようになりましたか?」

 乖離島(カイリトウ)のダンジョンでは大活躍した時空魔術だが、戦闘面は主にデルフィアとエレクティアの独壇場だった。敵の数に対して俺はそれほど戦っていないのだ。それはスキルレベル上げに関してはそれほど育てていない事を意味する。


「まだだな。もう1つ上げなきゃ使えない。ヴァルサル様を連れて行くか。その方が楽だな」

「お年なんだから止めて頂戴。この戦争中に上げなさい。良いですね、厳命ですよ」

「街中の連中には使わないが外の連中になら良いだろ。分かった、上げておく。それもだけどカーラは上げてるのか?」

「え? ええ。3に上がってますよ」

 微妙だなぁ。

「……」

「テリストを見習って上げられませんか? カーラ」

「主武器が弓なので使う機会が無いのです。距離が長くなれば消費MPが跳ね上がるのでどうしても燃費が悪くてですね」

「確かにそうですね。申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらずに」

「さてと、決める事も決めたし寝るかな。お休みです」

「そうね。寝ましょうか」


 ゾロゾロと寝室に移動するのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ