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53:婚約報告

 今回は本人との了承が済んでいるとはいえ初対面で挨拶に行くのだ。クインやアウローラを連れて行くのは不味いと判断して皇宮にお留守番してもらっている。

 皇宮に残した理由は、デルフィアたちが交渉に失敗した場合には皇宮へ戦力を集中させて攻め寄せて来る恐れがある。その対処の為に残したと言える。空中戦ならクインはお手の物だし、何より龍王であるアウローラが居れば手を出す事を躊躇するだろうとの思惑の為だった。

 アンナが母親と住んでいる借家は東門から僅かに北寄りへ入った位置だった。騎士や衛兵が横暴だとしても守衛である事に違いは無く、安全面を考えて借りたのであろう事が窺える。その分、アンナの通勤に時間が掛かるが、外壁近くとあって料金的にも安いのであろう。

 軽くノックして入って行くアンナの後を追い入室したのだった。


「ただいま母さん」

(ようやく帰っていたようだね。依願退職したと魔物ハンターギルドから連絡が来たよ。どういう事だい。説明しに来な!)


 結構オカンな様だな。退職伝える次点で挨拶に来るべきだったが家族構成すら聞かずに放置していたのがかなり不味かった。そんな中、母親の待つ部屋へと入室したのだった。

 俺に不作法があり、失礼した事は確実なのだがこれは無い。俺が入室したと同時に後ろへ回り込み、首に刃物を添えられたのだった。


「アリサ。俺がすべき事をしなかったのが悪いからな。何もするなよ」

「わかってるわよ」

「ふん。自覚はある様だね。防具から相当な実力者だってのは分かるさ。しかし、こうも簡単にバックを取られてるようじゃ命がいくらあっても足りないさ。もっと実力をつけな。そうでなければ娘はやれないよ」

「えーと。言わせてもらって良いかな?」

「何だい」

「まだ婚約者だと説明してませんけど。勝手に決めつけて良いのか?」


 そう、婚約も結婚も何一つ声に出していない。そもそも、挨拶がまだなのだ。その状況で娘の結婚に対して意見を述べるのは異常すぎた。


「私の娘だよ、そこらの尻軽とは違うさ。男を連れて来るなら最低でも婚約する覚悟が無ければ連れて来るなと躾けてるさ。依願退職の内容も知っているからね。そこであんたが来た。簡単だろ。

 しかし、種族は聞いてなかったが猫人族とはね。アンナもやきが回ったのかい?」


 ふむ。帝国じゃ獣人族はそれほど良い目では見られてないようだな。その辺りは周囲に居る人の感情にも左右されやすい。俗にいう洗脳や刷り込みに似た所があるからな。

 本来ならば正すべき所ではあるが、今後時間がたっぷりある。その内見方も変わるだろう。


「母さん、本当にそう思ってるの? テリさんの事だからわざとそうさせたのよ。私にとって命の恩人でもあるんだからその辺りにして」

「……どういう事だい? 例の馬鹿貴族共々騎士や衛兵が一人残らず殺された事に関係してるのかい?」

「それはテリさんが関係してるけど、私は病気を治してもらったのよ。良いから母さん、拘束を外してよ。失礼よ」


 確かにそうだね。と拘束を外して椅子を勧めてくれた。飲み物は出たには出たが。勝手に入れろとばかりに急須や茶葉などを提供されただけだった。

 対抗して箱を取り出し、中からスイーツを取り出して台に並べた。

 これで面と向かって挨拶する事が出来る。何故か家に居るのに防具姿……やっぱり物騒なのかねぇ。実力は其れなりにありそうだ。と言うのも最適化された皮系鎧を着ているからだ。それすなわち金額が高い事を意味する。ただ、体型がモロに分かる訳で、娘の胸の大きさは母親譲りらしい。

 背の高さは俺と同程度だった。今は座っているので確実では無いが、せいぜい数cm程度の差だろう。そして、ハンター登録してる様だ。税金面を考えれば一番稼ぎやすくはある。安全面を考慮しなければであるが。髪はそれほど長くは無い。耳が隠れる程度なボーイッシュな感じだ。ただ、髪色が紫と馴染めない色ではあるが……。


「とりあえず自己紹介を。テリスト・ファーラル・アーレアルです。今の肩書は皇国軍副団長、実際の指揮権を保有って所ですか。後はそうですね。18歳です」

「ほう。皇国の英雄様じゃないかい。私はナヴァル・アンテローゼ。年齢は聞くんじゃないよ」


 あっさりと帝都を落としたからこそ、名前も売れてるのだろう。大陸中にスタンピートが発生した事から情報の共有も行われている。その関係から知りえているのかどちらかだろう。


「アレサリア・ファーラルです。アリサとお呼び下さい」

「わからないねぇ。うちの娘とでは身分が釣り合わない。本当に受けたのかい? 遊んで捨てる気じゃないよね」


 めっさ睨んで威圧感与えるとか、流石だな。この親がありこの子ありって感じだな。この心構えは好感が持てる。


「それはありません。既にサルーンに面通ししてますし結婚式に関しても5月1週1日と決定してます。こちらの都合がある為に期日はずらせません。国家として動く以上、そこは理解してほしいですね」

「サルーン……陛下にかい。それなら嘘を付けば国の対面に関わるねぇ。それならば信用は出来そうだ」


 サルーンの名を出したが、少し間があった。女帝である事を思い出して後付けした感じだったが、他国の事だ。各国の情勢は知っておいたが良いが、国を複数跨いでる為になじみが無いのだろう。

 この場で分からずに敬称を付けずとも罰するとかは一切考えてはいない。そこは実際に会う際、注意してもらえば良いだけだ。間接的にであるが、母親の位置になる事は事実なのだからな。


「それでですよ。アンナとの結婚報告でもあるのですが、ナヴァルさんは俺の義理の母親になる訳です。俺の立場上、生活基盤は皇国です。希望されるなら皇都に引っ越しして頂きます。もちろん資金に関しては此方で用意しますが、土地付き家屋を買うにしろ新築するにしても一時宿屋に住んで頂く事になりますが、どうでしょうか?」

「それは有難いね。帝国には既に見きりをつけてるさ。本当に良いんだね?」

「此方から提案してるんです。後で言わなかったなど言いませんよ。一億リルだろうと使って頂いて結構です」

「ほう。思いっきりが良いねぇ。首に刃物を突きつけられようと一切動揺せず、甲斐性もあり、地位は並ぶべき者がいないほど、周囲への評判はすこぶるいい。最高の旦那を捕まえたねアンナ」

「それが……こちらのアリサさんも含めて相当な方々ばかりで、気後れしちゃって……」

「将来の旦那様はどんな方々を迎えてるんだい」

「それは俺から説明した方が良いだろうな。俺の経歴も含めてね」


 この説明が結構難航してしまった。俺の年齢を添えて説明した為に時空魔術スキルの説明など脱線しすぎたからだ。極めつけに体が入れ替わったときている。信じがたい話だが実在しているので信じてもらわなければならない。


「まさかアンナの婿になる方が帝国の被害者とはね」

「色々あるんですよ。色々ね。そんな訳で常識が抜けてる。アリサがいつも側に居てフォローしてくれてるんですよ。

 今回の戦争で皇帝もろとも家族ごと捕らえてますからね。後は連合と歩調を合わせて公開処刑すれば結着はつくってとこかな。それほど遠くない将来決着がつきますよ」

「高額になってる税率が低くなれば民は助かるね。勿論下げるんだろ?」


 そこに食いつくか、やはり地元に住んでる以上は離れようとも気に掛けるか。


「下げはしますが正確な数字までは出てませんよ。周囲の国に添う形で決まるでしょうね」

「それだと30から35%程度かね。それだけ下がれば安心だ」

「3国で話し合うので、その時に決定させるつもりですよ。今話した基準から上げるようならそっちも排除して構わんか……」

「テリの要望なら飲まざるを得ないわよ。良いから怒気を込めて言うのは止めなさい」

「すまないな。どうも此処の所イライラしてるもんでね」

「はいはい。折角用意したんだからスイーツでも食べて落ち着きなさい」


 ジャンボパフェのプリンをスプーンですくい。食べさせられたのだった。正直、食後にこの量はきついものが……。テーブルに出した俺が言うのも何だが。


「で、引っ越しは何時頃しますか?」

「そうだね。雪解けを待つ必要があるからね。早くて4月終わりだね」

「テリ。丁寧に説明なさい。移動に関してはテリの時空魔術で移動して頂きますから一瞬で済みます。挨拶回りしたりと時間が必要でなければ今日中でも構いません。どうされますか?」

「……大家やPT組んでいたメンバーにも挨拶が必要だ。引っ越しは明後日で良いかい?」

「此方の予定は開いてますからそれで良いでしょう。それで、マジックバッグが必要ですね」


 普通の肩掛けカバンを取り出して【エターナルエンチャント/収納Lv6】を掛け2つ作成した。1つはアンナようだ。渡していなかったからな。


「これに所有してる物を詰めて下さい。差し上げますので」


 と、差し出した。2人に手渡したのだ。


「……」

「? どうかしましたか?」

「まったくとんでもない御仁だね。経済にどれだけ影響力のある方だい。年甲斐もなく惚れちまったよ」


 また何を言い出すのかと思えば。突拍子も無い事言い出したよ。これ以上嫁さん増やしたくないんですけども。どうなるんだろうな俺の嫁の数……。


「母さん、何を言ってるのよ。それは失礼よ」

「年齢だけが問題なら、先ほど説明にあったヴァルサル様に頼めば解決だろ。さっきから目線が下がってるからね。テリストは童貞だろ。手取り足取りお教えするさ」


 ぶっ! 要らんわ! 俺の初めてはアリサと決めてる!


「お断りする。俺の初めてはアリサと決めてるんでね」

「ちょっとテリ、何を初対面の人を相手に言ってるのよ!」

「……確かにデリカシーに欠ける言葉だったな。すまない」

「そうだね。娘婿に対してかける言葉じゃなかった。すまないね」

「あ、そうそう。ご近所への挨拶も含めてですが。皇国へ行く事は伏せて下さい。過分に警戒されても困るでしょうから」


 国に仕えている者を排除したとはいえ、攻め込んだ皇国へ行くとなれば内通者かと疑われる恐れがある。身分を隠し、ハンターに扮している者がいないとも限らないのでそこを指摘したのだ。たかだか引っ越し程度で、トラブルを招く様な事は避けてほしいからこその指摘だった。


「確かに、今の時期に他国へ行くとなれば疑念を抱かれるね。行先は告げず済ませるとしようか」

「テリ。そんなに心配なら泊って行けば良いじゃないの。後で後悔しても遅いんだから」


 一理あるな。アンナもレベルが上がりたてで体の使い方に違和感が出てるだろうからな。ちょっと体を動かすか?


「良いね。それなら魔物ハンターギルドで婿殿の実力を見せてもらうかね」

「うーん、ならそうするか。カーラたちにも伝えておかないとな。ちょっと行って来るわ【ゲート】」

 何の説明もせぬままにゲートを開いたものだからビックリさせてしまった。其方のフォローは後に回してさっさと移動する。彼女らは何処にも行かず寛いでいたので丁度良かったと、今後の予定を伝えたのだ。カーラはついて来る事になりナヴァルさんとお互いに自己紹介を済ませて魔物ハンターギルドへ向かうのだった。






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