16:報告会
城へ戻れば、伯爵一家は2階に、そしてエレクティアが帰還して4階にいる事が分かる。
事の顛末を聞かねばならない事から合流したのだが。ある部屋に入り込んで、ある生き物と戯れていた。例のグリフォンである。
趣味に合うのか、裸で抱きついているのだ。アルフォンスも同室している事から動揺している事だろう。その部屋へ乱入した。
「お帰りエレクティア。それで、結婚を控えた身なのに、素っ裸晒してるのは感心しないな」
『そんな事は良いのよ。この子の怪我を直した報酬としてこの子を譲ってと交渉するんでしょ? ぜひ確保なさい!』
これだけの状態だからそう言うだろうとは思ったよ。だけど嫁さんの裸をよそ様に見られるのは、俺としては勘弁してほしい。元々素っ裸族だから気にもしてなさそうだよな。その辺り学習してくれないかねぇ。
「あのですね。言い難いのですが。大変可愛がられておりますのでそれは無理かと思います」
「確かに治療しなければ死んでたが。対価としてグリフォンをくれって言うのはかなーり無理があるからな。交渉材料になりそうなのを確保して来たぞ。明日、あちらの陣へ行く用事が出来たからエレクティアも来るか?」
『いきます!』
これだけの醜態晒すほどだし、即答するかもなぁ。
「何時になく張り切ってるなぁ」
「あの。テリスト殿もお越しになるのですか?」
「そうなる。税収を後回しにするのは物理的に不可能だそうだ。そこで連合と歩調を合わせようと思ってね。管理下に置いた町をどの様に扱っているのか確かめたいんだよ」
「税金の計算が間に合わないのですね。それでしたらご案内しますが、帝都に押し寄せている部隊は如何なさるのですか? しかし、騎士たちが見当たりません。良く落とせましたね」
こっそり城に乱入しただけですけどね。突入して1時間も掛かって無いからな。ちょろすぎた。
「敵部隊は出かける際の駄賃に倒して行こうと思ってる。俺たちの戦力を言って無かったな。帝国に来てる戦力は俺の家族と使い魔だけだ。総勢8人と1匹だな」
「はい?」
「だからな。俺たちの戦力は8人と使い魔1匹だけだ」
「たったそれだけの人数で帝都を落としたのですか!」
『テリスト1人で帝国全部隊を相手取っても大丈夫なほどですよ。過剰なぐらいです』
流石に注意されたので何時ものマントを羽織りながら俺の傍に来てくれた。
『それで、交渉材料とは何を確保して来たのですか?』
「さっきまで商業ギルドに行っててな。なんでも後追い部隊として食料や医療関連の品を運ぶ予定だったらしい。それを丸々買い取って来た。後若干揃っていないそうだけど、そっちは後程城に配達してくれるそうだ」
『それは良い手ですね。戦争ともなれば食料確保に苦労します。攻め込んで略奪など行えば後の統治に響きますから彼方も歓迎されるでしょうね』
冬で食料の確保は難しいだろうからな。最高の交渉材料になると踏んでいる。実にいいタイミングだったな。
「そうはそうですが。帝国軍へ納入予定の物資を横取りとはうまい具合に事が運べましたね」
「だな。今日の夕食は期待して良いぞ。なんでも皇帝家族用に確保してた食材らしい品も買い取って来た。ちょろと何か作って来るわ」
「テリスト殿は調理も出来るのですね。流石です」
「そう言えば仕込みはした事あるけど味付けはしたこと無かったな。ま、どうにかなるだろ?」
『食材が無駄になるのは冒涜ですよ。嫁に任せなさい』
「食えなくなるよりはマシか、任せるわ。俺はでっかいプリンでも作るかな。一応材料は揃ってるし」
『スイーツだけは作れるんですね』
「うむ。ただな。素材が違うんで量が適当になるんだよね。ま、今更だろ」
嫁たちが協力して作ってくれはしたのだが、スーシーほどの腕がある訳でも無く、食材の良さを引き出せぬまま普通の食卓となったのは言うまでもない。
食後のデザートとしてあったかいプリンが振舞われたのだった。寒いから丁度良いだろ。作りたての特権みたいなものだな、普通は冷やすし。
皇帝一家に食事を与えたのかって? 知らんがなそんなもん。3日程度食事を抜こうが死なないだろ。水だけ飲ませておけ。
適当な部屋の品を全て収納して、皇宮の寛ぎの間の様に場を整えて皆で集まるのだった。
「とりあえず報告会といこうか。分かってる範囲でザックリ言うと魔物ハンターギルド方は大丈夫だろうが問題は商業ギルドの方だな。税収面をどうして良いか分からない。そこで対策として連合の方へ明日顔を出す。
そこは彼がいるんで顔つなぎは大丈夫だ。
で、敵部隊だが帝都へ向けて3部隊来てる。到着予定は明後日だが、向かうついでに叩いて行く。
連合の方へは残り9部隊確認してるが。それが向かてる。それとは別に高速移動部隊が向かってるらしい、そちらとの接触予定は4日後だそうだ。
次はエレクティア頼む」
『わかったわ。帝国は砦で籠城戦する気構えで誰一人として砦より先には行っていませんでした。後方から急襲した形ですが、物資も全て回収したので時間が掛かったのです』
「遺体もか?」
『もちろんよ。放置したらアンデッド化してしまうもの。適当な所で焼いて埋葬してきました』
火葬が行われたのなら問題無いだろう。が、放置するとアンデッド化するて相当だな。嫌な世界だわ。
「順当だな。サーシャ、報告を頼む」
「地図は荒いのしか無かったです。それよりも勇者召喚の儀式を書面化した本が見つかったですよ」
地図があったのは助かったが、勇者召喚の書物か……また厄介な物を書物にしてるんだな。
「ほう。後でリカに渡してくれ。けっこう未練がある様だし何かしら調べてくれるだろ」
「了解です」
「召喚の間も潰さなきゃならんが此方の手の内だしその内で良いだろ。カーラ、連合へ向かう者と城に留まる者以外で、帝都から南の主要都市を潰して回れるか?」
「それは良いですが、2つマジックバッグを作って下さい。遺体と領主の資産と別々にしておきますから」
後程の事を考えたら分けておく方が得策か。遺体の火葬は時間が出来次第にしないと足り無さそうだしな。
スキルの上書きが出来る様なので、以前作った低レベルの品をLv6に上書きして渡した。
「伯爵一家は2階にいるようだがどうしたんだ? 4階に来ないのか?」
「皇帝家族が住んでいた4階で生活するのは気が引けるそうですよ。客間のある2階で十分だそうです」
「了解した。地図を見せてくれ。山、川、街道。町の位置が分かれば後はどうとでも成る。上空から行けるからな。そんな訳でクインはカーラの方を手伝ってもらえるか?」
『背に乗せて運べるからの。地上を走っても行けるが流石に被害が出そうではあるからその方が良いじゃろう』
「そ、その子話せるのですね」
「だな。名前はクイン。俺の命の恩人で相方で使い魔と複雑な存在だ。
さてと、決める事も決めたし一度帝都を見回ってから寝るかな、という前にだ。皇帝連中はどうしてる?」
「あのままでは凍死しますもの。ベッドを並べて寝かせておきましたわ。明日辺り牢にでも放り込みますわね。あのままだと手足を切るしか無くなりますもの」
血液の流れを止めるのは30分が限度だったか? たしか、それ以上血流を止めたら壊死するんだったか? その時はその時で切れば良いだけだ、問題は無いな。
「任せる、例え死んでいようと判別可能な頭部だけあれば事足りるからな」
このタイミングで地図を受け取り広げてみるのだった。
主要都市と言えそうなのは6つか。帝都を中心として、東に1、西に2、西のそれぞれ南方に2、帝都に近い方から更に南に1の合計で6都市。後は比較的規模が小さいのが5つか。
北側はこれらから合わせれば若干少なく主要都市4に規模が小さいのが5か。
「おし、覚えたからもう不要だな。明日はカーラ、指揮するだろうから持っとけ」
「あ、あの。もしよろしければ見せて頂いても宜しいでしょうか?」
「……うーん。軍事機密に直結する情報だからな。うちの団長と交渉してくれ。そんな訳で行って来るわ。クインは明日結構働かなきゃならないから休んでていいぞ」
「テリ待ちなさい。あんた1人だと何をやらかすか分かった者じゃないからついて行くわ」
「まあまあ、その前に寝る準備だけはしておかないとな。俺たちだけ別の部屋が良いだろ。深夜に帰るのが確実だし、起こすのは忍びないしな」
お隣の部屋にベッドを準備して出かけるのだった。