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15:物資の横ぬき

 戦闘らしい戦闘も数えるほどしか発生しておらず。帝都の町は混乱とはかけ離れ、おびえた様子の人はいないようだ。

 それでも城の周辺だけは、ぽっかり空いたスポットの様に近寄る者は皆無だった。

 温厚そうなおばちゃんを捕まえて、金貨を1枚握らせてから情報を貰った。

 魔物ハンターギルドの位置と商業ギルドの位置をだ。行商する者は安全の為にハンターを雇い入れる事が多い。その為に両者の建物はごく近い場所に建てられていた。

 そして、税金を納める都合からか、城から歩いて10分程度の位置に構えていた。

 帝都の町並みは木造建築物が多い。南に丁度良い切り出せる場所がある事から、建築資材確保の容易な木の家が多いのだろう。

だが。高層の建物を建てるのに木だと都合が悪いのか、3階建てである両ギルドは石材製だ。俺とカーラは商業ギルドの門を潜るのだった。


 場違いな服どころか防具姿の俺たちは何かと目立つ。各所に設けられているテーブルにはいくつもの椅子が並べられ、交渉でもしているのか、交渉を中断してでも俺たちに目線を向ける者が多かった。そんな中、受付へと話しかけた。


「すまないが時間を貰えるか?」

「ようこそいらっしゃいました。商業ギルド帝都支部所属のキャサリンと申します。どの様なご用件でしょうか?」

「ギルドマスターの次席の者に取り次いでくれ。皇国の団長であるカーラ・ファーラルが赴いているとな」

「あ、あの。交渉などでしたら、マスターの職に就いている者が城へ赴いておりますが……」

「奴か。奴は税の減額を具体的な数字で示せとしつこくてな、話にならんから殺したぞ」

「ヒィッ……」

 後ろに椅子事倒れ込み、そのまま後ずさりし始めた。

「何もしないよ。相手が一般人ならな。そもそもだ。俺たちに税率の決定権などは無い。具体的な数字をしつこく聞き出そうとするから手を出さざるを得なくなった。

 意味は分かるか? 3カ国攻め入っている次点で1国では返答できない事だという事は理解してくれよ」

「も、申し訳ありません。す、直ぐにご案内します」


 ビクビクしながらも3階にある一室へと案内された。


「(コンコンコン)こ。皇国の騎士団長様がお見えです」

(マスターはどうしたのです? とりあえずお入り頂け)

「そ、それでは此方です」


 入室すると上座を進められ、カーラを座らせて俺は後ろに立った。


「ギルドマスターの補佐を務めております。サンザ・サルドールと申します。して、マスターがお伺いしたと思いますが。お会いしませんでしたでしょうか?」

「遠征部隊の団長を務めております、カーラ・ファーラルと申します。お見えになられましたが、皇国にとり、不利益となる事への返答を強要された為処刑しました。事情としては…………」


 経緯を含めて説明したのだった。


「1国で返答出来る質問ではありませんね。戦争中でもあり此方がどうのと言う事は差し控えさせて頂きます。それで、お越し頂いたという事は何か手を打つおつもりでしょうか?」

「驚かれないのですね。皇帝家族を押さえたとはいえ。まだ滅んだ訳ではありません。それでも此方の要望にお答えいただけるのでしょうか」

「それは今更ではありませんか? 守護龍の方がいらしてる時点で滅びたも同然です。いくら騎士の力を束ねようとも対処は不可能でしょう。そもそも皇帝が人質では、彼らは手も足も出ません」

 現状認識が早くて助かるな。最初から頭の固いマスターより、此方の方と交渉すればよかったのか、今更だが。


「でしたらお願いします。税収を一時的にストップして下さい。政権樹立前に税に関しても話し合いますので。決定後に回収する方向でお願いします」

「……それは厳しいですね。そもそも一月分ずつの集計でも手一杯なのです。それを数ヶ月分纏めてとなりますと、処理能力を完全に上回ります。此方の事情も考えて頂ければと思います」

 計算が正確になされているかの確認作業は随時行えば良いのだが、税率が変われば再計算が必要か。その分業務に支障をきたして無理が出ると。休日返上させる訳にもいかんしなぁ。


「確かにその問題もありますね。どうしますかテリクン?」

「うーん。弱ったな。そこを考えてなかった。連合はどんな対策をするんだろうな。そもそも戦時下で税金の回収なんて可能なのか?」


「皇国から来られた皆様の手腕で混乱も起こらずに占領されましたが。本来であれば民は逃げる為に余裕も無く途方に暮れている事でしょう。税金の事など考えられる事態ではありません」

 そりゃそうだ、資産のどうのこうのじゃなく、命が危ぶまれる事態だ。相当に接近されていると知れ渡れば逃げ出すのは当たり前だよな。税金? そんなの考える余裕なんてある訳が無い。

 それじゃ回収しないって手もあるが、独断で決めると後が厄介そうだな。彼に頼んで話の分かる人物を紹介してもらうか、その方が後々厄介じゃないな。


「普通はそうだよな。それじゃ連合と足並みをそろえるか。カーラは明日、偵察部隊の彼と一緒に向かって挨拶ついでにそこら辺を聞いて来い。クインに乗っていけ。俺は予定があるんで行けないわ」

「団長が直接赴いてどうするのですか? 指揮権は団長にあるのが普通ですよ。現地に居なければならない人が離れては良く無いでしょう。ここはほら、テリクンが適任ですね」


 提案した俺に回って来るのか……。ま、確かに誰が指揮してるんだ。可笑しいだろって話になるな、実際は俺が指揮しているのだが、それを相手に教えてやる義理は無い。ここは次席の俺が行く方が相手にとっても良いのか。


「すまないがサンザ殿。この件は一度連合とも話し合って決める事になる。皇国だけの問題では無いのでね、独断で決める訳にはいかん。近日中にまた寄らせてもらう」

「はい、お待ちしております。

 元マスターから物資に関しての話を聞かれましたでしょうか?」


 元か……。死んでるから元なのは間違いないな。ただ、物資に関しては一言も聞いていない。カーラは聞いたのだろうか?


「カーラどうなんだ? 何か話してたか?」

「税制面の話ばかりで、他の案件は聞いておりません。どうかなされましたか?」

「皇帝は既に戦争に先だった物資を買い集めるようにと食料や消耗品などを発注され、すでに大半が集まっております。後続部隊として後追いさせる決定がなされておりました。

 消耗品は医療関係の品ですので、引き取られなければ需要がありますのでどうとでも成りますが、食料品に関しては長期保存可能な品も勿論含んでおりますが、腐る品です。できますれば皆様にお買い上げいただきたいのです」


 引き取り手は無事か不明な上に支払元が廃業だものな。卸先が無いと……。

 本来なら願っても無い提案なんだよな。本来ならだ。俺たちは家族でもって攻めている事からほとんどの物資は必要無い。それなら買い取って連合の方に回すか? 彼方も元々余裕が無さそうだし、現地で交渉して売ってもらうにしても軍団1つ分はとてもじゃないけど無理だろう。運んでやるか。


「それって代金未払いか?」

「左様です。今月の税金は来月計算が成されます。そこから差し引く事となっておりました」

 それだと税収が不明だから税金で相殺も不可能な訳だな。

「なら買い取るわ。腐らせたら、それこそ生産者に顔向けできないからな。で、総額いくらだ? 今すぐ支払う」

「結構な額ですが本当に宜しかったでしょうか?」

「大丈夫だ。数千万リルでも問題無く払える」

「ありがたい事です。それと大変申し訳ございませんが。もう一つ買い取っては頂けないでしょうか? 皇帝のご家族用にと高級な品を週に2度、一月先まで発注してあります。先の分はキャンセル可能ですが、来週分まではぜひ引き取って頂きたく」


 高級な品ねぇ。他者には高額の税金を支払わせておきながら自分たちは贅沢三昧ってか。反吐が出るな。やっぱ殺しに来て正解だな。

 拷問ついでに殺してやる。


「キャンセルしても先行き不透明なご時世では売れにくいか、面倒だからその1月分も纏めて持って来い。物自体はあるんだろ?」

「鮮度が落ちる品はございませんが、お酒など保存の利く品であればございます」

「なら日持ちしない来週までの分と保存の利く品だけは買い取るわ。総額の計算を頼む」

「有難うございます。少しお時間を頂戴いたします」


 こうして計算された額面ぴったりに支払い。各方面の倉庫に保管してある物資共々受け取り城に戻った。

 残りの品はその都度城へ配達となった。不在の場合も想定し、勝手に入って良いから入り口脇にでも置いといてと頼んでおくのも忘れない。

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