13:接触
帝国軍から俺たちの発見は非常に困難だ。上空のそれなりの高度で飛んでいる事に加えて気配遮断と魔力操作による体外への漏れを極力制限しているからだ。
尤も。【フライ】の使用中であり、それなりの実力があれば違和感を与える事に違いは無いのだが。何にせよ視認による確認は不可能に近い事は確実だ。
帝国軍を確認しつつも北上すると、キメラか何かに騎乗して帝国の騎士3人と空中戦をしている所に遭遇するのだった。
「ふむ。あれは何だろうな? キメラか?」
「いえ。グリフォンでは無いでしょうか。人が乗ってる辺り。偵察に来た連合軍の方だとは思いますが。どうされますか?」
確かに顔が鳥だな。そうかもしれない。
「如何すると言ってもな。獲物の横取りは宜しく無いし。そもそもグリフォンなら3人程度は余裕じゃないのか? ドラゴンを除けば空中戦では最強だと思うんだけどな」
そうはいっても流石に魔法使い3名同時相手はきついのだろうか。回避に徹しているようで攻撃はあまり行っていない。それ処か、不利ならさっさと離脱すれば良いのだろうが、そう易々と逃がさない様にと回り込みながら連携して魔術を放っている。
「鳳凰などの聖獣らしき種族もいますからそうとは限らないと思いますが。それよりもどうされますか?」
グリフォンならお近づきになりたいな。ピンチになる様なら助けて恩を売るか。そもそも連合所属なら顔を合わせておくのも損のない選択だしな。
「接近して危なそうなら助けるか。このまま接近するぞ」
「はい」
彼方の更に高い高度から接近し、逃げようとする方向とは逆側から観察する。どうもグリフォンが負傷しているらしかった。体の3ヵ所程から体液が流れ出ている。人と同じ赤では無く青紫色に近いだろうか。
そして俺たちの見守る中、下方向から乾いた【パン】との音が聞こえたと思えばグリフォンからまたも体液を流す箇所が増え。とうとう墜落し始めたのだった。
助けるぞの一言で済ませ、空中戦を仕掛ける3人の兵士を【ディメンションカッター】で刻み、ヤヨイをグリフォンに乗せて。下に回り込んで連れ去ったのだった。
1日程度の移動距離を飛び、戦場より離れた俺たちは平原の中央部に着陸していた。気配遮断のみを解き、その背に乗っていた男性と相対するのだった。
「あんたは無事みたいだな?」
「窮地を助けて頂き有難うございます。あの、失礼ですが、何か治療する手段をお持ちではありませんか? この子を見殺しにして戻れば殺されてしまいます」
ふむ。助ける気満々だが少しは相手から褒美を受け取りたいな。
「報酬に関しての話し合いをしたい所だが……そうも言ってられないようだな。鑑定させてもらっても構わないな?」
「え、ええ。治療に必要とあれば」
出血程度であれば良いが、さっさとほじくり出して傷を塞がないと死にかねないからな。
「ヤヨイ、鑑定しろ。HPが危険水準に達したのなら教えろ。どうも着弾した何かが中に入ってそうだからな」
「……。あ、あの。テリスト様、早く治療しなければ非常に不味い状態です。毒も受けています」
唯でさえ出血してHPが減ってる様子な上に毒も受けていたら二重の意味でHPが削られてるな。手早くしないと本気で不味いか。
「チッ。手早くいくぞ。体内から取り出すのは後だ。着弾箇所だけ特定しておく」
ミスリルのナイフを取り出して。着弾場所を中心として毛を剃り【クリーン】で体内に入っているであろう異物にまとわりつく毒を排除し【オールキュア】で毒を中和し【グレーターヒール】で傷を完治させた。
ぐったりと横たわていたグリフォンだったが、元気に立ち上がり俺に顔を近づけてすりすりとして来る。が、完了では無いんだよね。
目の前に立たれると流石にデカイうえにカッコいい。頭は鷹で体はライオン、それに翼が一対の出で立ちだ。全高はクインより少し低いだろうか。3m前後だと思われる。
「はぁ、助かりました。言い値では支払えないかもしれませんが。治療に見合う金額をお支払いすると誓います」
「いいえ、まだです。また毒の状態異常になりました。体内に入った異物を取り除かない限りこの子に命はありません」
いうが早いかグリフォンは地響きを建てて横倒しに倒れるのだった。どうも体内に入った物質が毒物みたいだな。完全に毒を消したが、時間経過による毒の汚染が加速しているようだ。
延々【オールキュア】を掛けるって手もあるが、異物が体内に入っているならば、化膿して体調が悪くなることは必至。無理やりほじくり出すほか無さそうだ。
「うーん。どうも入った品そのものが毒の塊だったのかもしれないな。ちと荒療治が必要か【オールキュア】【ハイヒール】 さて、じっとしていてくれよ。手元が狂うと殺すかもしれないからな」
戦闘の位置からして着弾した個所から斜め上方向に入り込んでいるはず。体外から押して大体の位置を把握するとサクッとナイフで切り裂き、手を突っ込みほじくり出すのだった。
かなり暴れたが、ヤヨイが力でねじ伏せて強引に治療を施した事から完治するのだった。
そのせいで俺はグリフォンに警戒されてしまった。せっかく仲良くなれたのに、治療が必要だったのでしなきゃならず。踏んだり蹴ったりである。
ほじくり出された異物は弾丸だった。それも粘土にシャドウスネークの毒を混ぜ込み焼き固めた物だと判明した。
「戦闘中にパンと音が鳴ってたよな。絶対に勇者の知識の産物だろ」
「その様ですね。銃器を開発したのでしょう。無煙火薬は無理だとしても黒色火薬でしたら確実に素材が揃いますので」
「だな。炭はそこらで作れるし。硫黄は火山がある事から掘れるし。硝石に至っては尿があれば作れるらしいし。その手の技術持ちが召喚されたって事だろ」
「お助け頂き有難うございます。あ、あの。お二人はどの様な関係の方ですか? 申し遅れました私。現在連合軍に所属しています偵察部隊副隊長のアルフォンス・レーゲンシャトウと申します」
やっぱりか、それなら顔つなぎも必要だったことから丁度良いな。
「そう言えば治療が急務だったことから挨拶が遅れたな。皇国アヴァサレス所属の副団長をしているテリスト・ファーラル・アーレアルだ。隣は俺の嫁さんでヤヨイな」
「ヤヨイと申します」
「え……」
驚愕に目を見開いている。突然会ったと思えば突然参戦した国の副団長だもんな。
「とりあえず身分なんて気にするな。それで大丈夫か? こんな毒物を撃ち込んで来る連中だが、手立てはありそうか?」
流石に火縄銃の様に前から詰め込み式では無いと思われる事から、結構な連射が可能と思われる。それがどの程度あるか分からないが、1丁しか使っていない事からそれほど数は無いと思えるが、油断させるための偽情報を掴ませる為かもしれないので安心は出来ない。
「あ、はい。前面を重装部隊で阻めば何とかなるとは思います。思いますが、同じ攻撃手段が多数そろえられていてはかなり苦戦するものと……皇国の方々と我々で挟撃とは参りませんか?」
共同戦線構築は構わないのだが。ここであまり恩を売り過ぎると戦功を奪い過ぎるんだよな。此方の判断より相手方に判断をゆだねるべきかな。そこを考えて依頼して来るだろう。
「可能か不可能かで言えば可能だな。ただ、不味いんじゃねえの? 俺たちが手柄を取って良いの?」
「あははは、国としては痛手でしょうが、命あってこそですよ。死んだらそれまでですから、少々の手柄と引き換えなら命を取ります」
「少々ねぇ。俺たちって既に皇帝の家族を確保してるんだよね。それでも少々で済むと思うか?」
頭が追い付いていないのか。呆然自失といった感じに表情が無表情へと変わった。
「……。あ、あの。それは誠なのでしょうか。副団長の地位にある方へ聞く問いではありませんが、是非教えて頂きたいものです」
「嘘は言ってないよ。今日到着して城を強襲した。他の領地に関してはまだ手だしをしていないが、明日から南部を平定する予定だ。
それとジアラハルト方面に張り付いている部隊は現在攻略中だ」
「ま、まさに鬼神のごときご活躍ですね。貴重な情報を有難うございます」
情報の質から言えば、かなり質のいい情報だろう。何せがっちり四つん這いで組み合った場合に、相手を揺さぶる情報を流せるんだからな。
「其方からの情報をもらいたいな。現在はどの様な状態で。救援に向かってる連中と接触時期は大体で良いから分かってるか?」
「越境して現在、2つ目の町を攻略中です。後方からの援軍があれば此方の不利となりますので偵察していた次第でして。まさか見つかって戦闘を仕掛けられるとは不覚でした。数は少ないようですが。乗馬のみの部隊を編成しているようでして4日後程度には接触予定でしょうか」
結構早く攻め込んでいたんだな。俺たちが参戦するより1月はまでは経過していないだろうが1週間程度は経過していそうだ。
最南端の部隊が帝都を越えて北の位置にいた事からそれなりの期間は経過しているとは思ったが。救援に向かっている部隊を叩きさえすれば、後は時間の問題で結構早くに決着がつきそうだな。
「なるほど。兵站部隊をを連れてないとなると。先の先鋒は場を整える為かな。救援にしては人数が少なすぎて飲み込まれて不利だものな。時間稼ぎの部隊か」
「斥候部隊と考える方が正しいでしょうか」
そんな所だろうな。有利な場所を押さえて防備に徹する。その状態で後方から来る本体を待つ。これが最も有力って所かな。
「ふむふむ。徒歩との速度差から後続部隊が到着するのに6日か7日程度は余裕がありそうか。帝都にも一部隊来てる様だし戻りの駄賃に叩くかどうするか。そこは皆と相談するとして、レーゲンシャトウ殿。治療代金を頂きたいな。グリフォンは1体しかいないの?」
「その口調ですと。グリフォンを御所望ですよね……」
ま、ダメもとだけどね。代わりの使い魔なんて居ないだろうし。代わりに別のを召喚してもらうって手もあるけど。
「うむ。代わりの子が必要との事なら竜の召喚用魔方陣があるからそれを渡しても良い」
それを聞いて俺の両肩を掴み勢いをつけて話し始めるのだった。
「ま、誠ですか! あ、いえ。すみません。この子は団長所有の使い魔なので話を通す事は可能ですが。あの、うちの団長はかなり手癖が悪いと言いますか。戦闘狂な一面がありますので。決闘を申し込まれる可能性があります。
ご覚悟が無ければその、他の報酬に変えて頂く事はできませんか?」
「あの。テリスト様にその様な助言をされては……」
決闘は助言なのか? まぁ、決闘を2度経験して、いずれも相手の資産をぶんどった事は認めるが……。
「あのな。助言じゃなくて忠告だぞ」
「テリスト様にとって助言ですよね?」
「それを言われると辛いものが……」
高々決闘程度でこの子が我が家に来るなら安いってもんだよな。
「帝国を平定した後、3カ国で顔を合わせなければなりません。話は通しておきますのでその際に直接交渉なさってください」
「了解した。それで、相当に血を流したぞこの子。飛んで帰れるのか?」
『クルルルウッ!』
言葉を理解しているのか顔を横へ振っている。どうやら体調万全では無いらしい。出血するわ、毒を受けるわ、俺が斬り割いて弾をほじくり出すわで相当にHPを削ったから当然ではあるな。
「だそうだぞ」
「はぁ。弱りましたね。近場で夜営と言っても何も持って来ていないのですよね」
「ふむ。とりあえずこれだな」
弱ってるなら魔力を補給させれば体調の回復も早いだろう。魔石大はMP保有量が2000以上なので大げさすぎる。そこで魔石中を取り出した。
「魔石からMPの補給は可能か?」
近づくのだが後ずさりされる。仲良くしたいのに正直凹む。いや。デルフィアに【グレーターヒール】を掛けた時の様に魔力も完全に補給させてるはずだったか?
種族が違う事から補給できると断言はできないが、どうなのだろう。
「食べるのが大好きなのでそちらから補給してまして、基本的に受け取らないのですよ」
「なるほど。変わってるな。生肉は食べるか?」
「逆に言うと生肉以外食べません」
ご主人様の懐に痛い生き物だな。破産するんじゃねえの? この大きさだし。連合トップの実力者のようだから給料は高そうだ。ただ、成功したハンターには負けるよな。それでも飼うには経済力に余裕が無きゃ絶対に飼えないだろ。大丈夫なのかね? その飼い主。
「食費が嵩みそうだな……」
「はぁ。そうなんですよね。そのせいで団長は何時もお金の工面に苦労されてます」
苦労で済んでるなら良いじゃないの、破産しそうだよな。一日に200kg程度は食べるんじゃないのか、この巨体だし。
「ならこの際食べれるだけ食べろ。準備してやる」
獣王国の調理場よりかっぱらって来た調理用の台を取り出して、下級ドラゴンの肉を取り出し、食べやすい大きさへ切り横へと切り分けてやる。
俺への警戒心など忘れたかのように真横に来てがっついて食べるのだった。
2塊目に突入してしばらくした頃、もう食べれないのか、食べるのを止めたのだった。
『クルルルー』
顔をスリスリと懐いてくれた。胃袋ゲット! 案外チョロイ性格で良かった。