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12:先輩勇者の痕跡

 伯爵家の外へと出ると、ここの住人も放り出すのかと、帝都の住人が押し寄せている。身ぐるみはぎ取れば中古とはいえ古着屋へ売ればそれなりの金額にはなるからだ。

 その頃にはお隣さんの屋敷には、既に戦場荒らしとでも言うのか、気配探知から察するに、既に大半を奪い取れているであろう事が明白だ。

 俺たちの食事中には既に入り込んでいる者がいたからだ。

 表でカーラヘは資金を渡し。エレクティアには国旗を2本手渡し。俺は俺で国旗を別に取り出して掲げるのだった。

 伯爵家の中にはクインが護衛についているので大丈夫ではあるが。一応保護対象なのでエレクティアが告げるのを待つ事にしたのだ。

 エレクティアは旗を受け取ると収納し、直ぐに上空へと飛んで行った。単にジャンプしただけだ。頂点に着いた頃に龍化して俺が意図してお願いしたように告げるのだった。


『【グルァアアアア!】 私は皇国アヴァサレスより来たりし守護龍です。

 現帝国は3カ国より攻められている事を皆も知っていましょう。その1国である皇国アヴァサレスは皇帝とその家族を手中に収めました。

 しかし、現状は戦時下である事に違いはありません。ですが、生活には一切制限を掛けない事をお約束致します。また、戦時下である為に犯罪者への刑の執行を全て処刑とします。

 これより、略奪行為など行った者はその場にて処刑する事を宣言します。

 騎士、並びに衛兵、貴族たちには自宅謹慎を申し付けます。それらしい格好で出歩いていたならば敵対者として対処します。

 商業ギルド、並びに魔物ハンターギルドのギルドマスターの地位にいる者は速やかに城まで来なさい。政権樹立までの取り決めを取り纏めます。

 以上となります』

 帝都上空を1周して南へ飛び去るのだった。


 飛び去ったのを確認して俺たちは国旗を掲げて伯爵家を後にする。

 宣言したからには堂々と立ち振舞う。襲われるとすれば騎士に準ずる者たちだろう。これで堂々と見られていようと処刑出来る。

 元々は市民の憂さ晴らしも兼ねて処断をゆだねたのだが状況が変わったからだ。


 集まっていた者たちは解散した。処刑宣言し、その処刑する者が目の前にいたのだ。事へ及ぶ馬鹿はいない。好き好んで犯罪行為を行い、命は失いたくないものだ。

 それ以前に皇帝の家族が拘束された。それも戦争相手国の手に落ちたのだ。きっと処刑されるだろうと。

 これまで威張り散らし、何かあれば暴力をふるい、自身の罪さえ力でねじ伏せて来たのだ。この時が来るのを待ち望んでいた。その様な考えの者が大半だった。

 しかし、まだ完全に信用しきってはいない。どの様に国政を行ってくれるのか。この点が全くの不透明なのだ。

 上がりに上がっている税金。長年に渡る遠征の資金捻出の為にじわじわと税率を上げられ、裕福に暮らせている者は少ない。特権階級の貴族ならまだしも、商家といえども、その高すぎる税金で潰れなかったのが奇跡だったほどだ。

 これを改正し税金を下げてもらえるのか。その期待度は大きかった。改善しなければ暴動に発展するほどには。


 エレクティアと分れたテリストたちは午前中に寄った食料品店へと足を運んでいた。結構遠目で見えていたのだが、どうやら荷馬車が数台並び、店内へと荷運びしているらしい。どうやら買い付けた品を店内へと運び込んでいるようだ。

 当然店舗に入りきる量では無い事から倉庫にでも運び込んでいるのだろう。そこへ俺たちが到着し店舗へと入るのだった。


「おばちゃん。なんだかすごい量だね。例の約束を果たしに来たよ」


 それはそこに運んでおくれとか采配していたが。俺が着た事からそっちは放り出して此方に来てくれたのだった。


「その防具から唯者じゃないとは思ってたさね。どうやら約束は守られたようだね」

「勿論だよ。それじゃ何処でします? 外でしても良いよ。騎士が着ても排除するから」

「見世物としては最高さね。外でしようかね」


 そう言いながらギロっと例の第一皇女を睨みつける。他にもお客さんは居るのだが、此方を優先する様だ。

 睨まれた本人はビクビクしているが、アリサが後ろ手に拘束しているから動くに動けない。そのまま外の通りの中央付近へと場を移した。


「あんたの乗った馬車の交通を邪魔したと言って惨殺された娘の仇さね、覚悟おし!」


 いうが早いか、利き腕であろう右手で第一皇女の横っ面を叩いたのだった。それから左右に顔がぶれる。1発目を皮切りに両手で交互に張っているのだ。

 第一皇女は悲鳴も上げずに我慢しているようだ、が。これが気に入らなかったのか最終手段に手を出した。生活魔法の火種で衣服に火をつけたのだ。

流石高級品の衣服だ。対燃焼抵抗でもあるのか、炙っている分には火が付くのだが、生活魔法を止めると直ぐに鎮火する。

 そこで、事もあろうに外の外装では無く。内側に羽織る服に火をつけたのだ。其方は対火性は無かったようで、一気に燃え盛り、火だるまとなった。

 アリサは手を放して離れ、客や、その場に居合わせた者は何事かと遠巻きに見守っている。燃えているのが人だと分かって、生活魔法の水生成を使い消そうとする者が現れた。そして鎮火した。


「あ、あんたら何を考えている! 人に火をつけて燃やすなど悪質にも程があるぞ!」


 容認したのは俺だし、ここは俺が出るべきかね。


「確かにそうだな。この場面だけを見ればだが。火をつけた本人の娘さんがこいつに殺されてな。報復したんだがそれは不味いのか?」

「ならば、こんな仕打ちをせずとも警備兵にでも突きだせば済む事だろう。違うか?」


 ま、普通の一般市民が加害者であったならばそれで事は済むが。権力振りかざして罪を握りつぶす集団のトップに居るような奴だぞ。

 難癖付けたと突きだした方が殺されそうだよな……。


「そりゃ無理だな。仮に平常時だとしても、娘さんを殺したのは第一皇女だぞ。突きだそうとした時点で逆に殺されるだろ。そうだよな?」

「ほ、本当に第一皇女なのか……」

「その通りさね。だからこそ皇国の方が連れて来なければ報復さえできやしなかったのさ」

「だそうだぞ。あんたが代わりに第一皇女をやり玉にあげれば、罪を償わせる事が可能だったか?」

「む、無理だ。すまなかった。事情を知らずに口を出すべきじゃなかった」

「そんな訳だが、今死なれては困るんでな【クリーン】【ハイヒール】 さて、こんなもんだろ」


 見た目がボロボロになったが構うまい。本来なら今すぐにでも殺したい所ではあるが、殺すなら皇帝からと決めてるからな。

 これ以上注目を浴びても宜しくない。立たせてマントを羽織らせるのだった。


「それで。頼んでた品って今運びこまれてるこれ?」


 何分箱詰めされていたり、樽だったりで中身が見えないのだ。何を取り寄せて来たのやら。しっかし、10万リルを渡したとはいえ、これだけの品を半日も掛からずに集めるとか。結構やりな手なおばちゃんみたいだな。


「全ての品がそうさね。中には以前召喚された勇者様が考案なさって加工した品もあるさね。それと農業分野にも手を出されてね。水田と言ったかね、そちらで育成されたうるち米とかもち米と命名された品もあるさね」


 帝国での食事は底辺も底辺だったからな。喧嘩売ったし、その程度の食事だったのだろうが、ここに来て元の世界の食事をと考えた勇者が居たのか。それで食事を再現する為に尽力したのだろう。ただ、そうなると聞きたい事が有るんだよな。


「ふむ。今の皇帝って召喚した勇者を全員戦争へ送り込んでますよね。それが出来たのって先代の皇帝の代って事ですか?」

「その通りさね。先代のシャーロット様はお優しい方でね。技術面での国力向上に尽力なさってたのさね。当然勇者様とも交流があってね。それはもう家族ぐるみで交流があったのさね」


 今の皇帝とえらい違いだな。そのまま交流を続けていれば大陸一の技術国になってるだろうに。欲むき出しで他国に手を出さなければ国力で突出出来ただろうにな。

 それが今じゃ処刑される身になるとか、人生何があるか分かったもんじゃないな。


「シャーロット? 女帝ですか?」

「女性につける名だけどね。まごう事無く男性さね」

「ふむ、やっぱり技術提供していた勇者は。今の皇帝になって戦争へ駆り出されたの?」

「それは無いさね。付き合いがあって、その性格も看破されてたのさね。代が変わったとたんに西の国へ出奔したのさね。

 ただ、ファムー王国で活動したとは聞いた事が無いのさね。海を渡りサフール群島連合に渡ったとの噂さね。それっきり話を聞かなくなったからね。目を付けられない様に自重してると言われてるさね」


 ほう。流石技術だけ見れば中世ほどの世の中に日本から拉致されたと思しき勇者。人物鑑定眼を持ち合わせていたと見える。それだけの人なら下手に技術投入すれば、また変な輩から注目されるとふんで、質素につつましく暮らしているかもしれないな。

 俺みたいに力を得て、何者にも阻害されないほどの力量を得ればそれほど気にせず生活できそうなのに、流石、逃げ出すのに躊躇しない考えの持ち主って事だろうか。


「へえ。利用される前に離れられてラッキーだな、その勇者さん」

「テリ。もしかして、戦争が終わったら行くとか言わないわよね?」


 行きたいのはやまやまだが。何分俺の立ち位置だと行きにくいんだよね。そもそもファムー王国辺りから船で行けるのだろうけど、許可を貰わないと行けそうにないし、サルーンの許可も必要になって来る。

 結婚式を控えてる身だから、結婚式後ならどうかなって所だろうか。


「どうするかな。何歳で召喚されたかによるけど50歳近いだろ、話が合うとは思えないし、そうだな、暇がある様なら行ってみるのも一興か」

「その位の齢だね。会えたのなら現状の帝国の事を伝えてほしいものさね」

「俺の立場だと他国へ行く許可が下りるかどうかが一番の問題だなぁ。行く事が出来て会えたら伝えますよ」

「それじゃ商品の説明をしようかね」


 やっと本題へと移ったのだった。

 醤油、味噌、ソースにマヨネーズが調味料として小樽に詰めてあった。味噌とマヨネーズは見知った味だったがソースは樽ごとに味が違っており、結構幅広く使えそうだ。

 醤油に至ってはそのまま魚の煮つけしろとでも言うべきなのか、過分に砂糖を投入してあり、とても醤油とは言いたくない品だった。煮つけする分にはそのまま使えて手間いらずであろうが……。

 香草類はこれまでも購入したのだが、なんと生姜らしき品が箱詰めされている。ただ。見た目の色合いが紫色なので、何とも表現に困る品ではあるが。

 そしてうるち米ともち米だ。既に精米してあり箱詰めしてある。これは味が落ちそうだ。そして何故か種籾まで用意してあった。僅か10kg程度ずつだが、温暖な皇国なら年3回植えられそうだ。

 そして米を使った清酒か。それと何の果物を使った品なのかさっぱりだがブランデーも樽ごと購入したようだ。

 そして魔物のドロップ品のでっかい蟹だ。横幅だけでも2mある箱に1匹しか入っていない。陸甲大蟹と鑑定で出た事から近場で取れる物と思われる。

 これ、白金貨1枚ではとても仕入れれるとは思えないのだが。どうなのだろうか。


「これ、予算オーバーしてない? 酒樽事買うとか結構値が張りそうだよね」

「一部後払いさね。白金貨を出しなさった事から買えると踏んだんだがね。どうかね?」

「全部買うよ。国元に居る皆にも食べさせてあげたいからね。勿論手数料も支払うよ。俺だと手配すら出来ないからね」


 いやはやラッキーだな。これだけ幅のある品ぞろえを買いに行くとなれば結構な手間だ。少々割高でも全く問題無い。


「テリ。買うのは良いわよ。だけど食料だけでも相当な量を確保してるでしょ。そろそろ買うのを止めないと、一生かかっても食べきれないわよ」

「いやいや、珍しいのとか食べたいでしょ。どうせ大量に買い込んでも腐らないんだから気にすること無いって」

「皇国に来る前からこんな調子なのです?」


 サーシャの突っ込みも鋭くなって来たな……。四六時中こんな調子じゃないってば。


「魔族国に行く事になってからね。特に亡命からこっち、かなり溜め込むようになったわ」

「あー確かにそうかも。敵陣のど真ん中で孤立しても良いようにと結構な量を作ってと頼み込んだからな。その時の料理がまだあるぞっと、それ処じゃないな。さっさと支払いを済ませないと荷馬車が動けない。おばちゃんおいくら?」

「20万リルで良いさね」

「白金貨で良い? それとも1枚は金貨にしとく?」


 金貨の方が使い勝手が良いらしいので白金貨1枚は金貨100枚で支払いを済ませ、納入した品も込みで、指定品を全て収納して食料品店を後にした。

 食料もだが、今回は何といっても以前に呼び出された勇者の足取りを聞けたことがなによりの朗報だった。時間が出来次第に行ってみたいと思う。

 ただ、船なんだよなぁ。また船酔いすると考えたらげっそり痩せそうだ。寝る時以外は船の近くで飛んで行こうと心に誓うテリストだった。行ければだが。

 

 それからテリストたちは城に戻って来た。直ぐにジアラハルトに張り付いていた部隊の位置確認に行きたかったのだが、城を解放したと伝えたようなものだ。帝国の国旗が翻っているのは非常に不味い。

 帝国は今も健在ですよと城が主張してるような状態だ。速やかに皇国の国旗を掲げる必要がある。

 帝国の国旗は城に3本設置してある。内2本は竿ごと回収し、中央部に翻る国旗を回収して皇国の国旗へと挿げ替えた。

 破損されない様にちょくちょく見回りしてくれとの言葉を添えてヤヨイと共に飛び立つのだった。

 本人の談だが。高所恐怖症克服の為に自力で飛びたいとの事だったが。それも最初のうちだけで、震えていたので諦めさせた。


 とりあえずは上空という立地を生かして探す事にする。対象は少なくとも1000人規模の団体で移動してるはず。そして、町を奪われない様に移動速度の速い先発隊を送っているはず。豆粒程度の大きさであれば発見できるはずと考えていたが考えが甘かった。

 街道沿いも多くの森を通っている事から遮蔽物とかして見通せないのだ。

 ただ、町の位置だけは良く分かる。魔物の支配する土地が版図の大半を占めている事から、町を建築するのに外壁が欠かせないので目立つのだ。

 ジアラハルトとの戦は相当に長い年月を要している。その分補給物資を運ぶために街道はそれなりに手入れをされているはず。結構な道幅があり、馬車ですれ違う事が可能で、尚且つ南北に走る街道と選択肢を狭め、道沿いに北上すればそれほど時間は掛らずに移動する部隊を発見する事が出来た。


「テリスト様。あれは、一部の最後尾に位置する部隊が帝都へ向かって来ているようですが……」

「だろうな。他の部隊と距離が開いてる事からそうだろう。きっとエレクティアのあれが聞こえたんだろ」


 

 最後尾の部隊も既に帝都を離れて北上していたのだ。大半の者は歩きで、各部隊で兵站部隊を包括してるようで。それらしい馬車がそれぞれの部隊の最後尾をついて行っているのが見て取れる。


「宿場町の位置から察するに、歩きで2日程度でしょうか」

「そうだろうな。あれは接近された時に叩けば良いとして。先頭がどのあたりかねぇ。騎馬と馬車だけで構成された高速部隊がいるはずだ。そっちを補足するぞ」


 この世界の主要街道沿いで、尚且つ重要度の高い街道沿いには馬車での移動1日間隔で小さいながらも宿場町がある。

 それほど外壁は頑丈では無いが、宿泊客が見込める事から、独自にハンターを雇い入れて防備を強化し、利便性を高めているのだ。

 もちろん国家からのお墨付きを得た上でだ。取りっぱぐれない税収先が増えるので許可を出さない手は無い。貴族は派遣してはいないが。取り仕切る商人を据えて管理運営しているのである。

 最後尾に位置する部隊の確認は出来た。後は連らなる部隊を視認しつつ北上するばかりとなった。





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