表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/62

8:外交

 この日は皇宮敷地内へと入る門が全開にされている。それもそのはず、処刑台は皇宮の建物入り口から僅か20m程度しか離れていない。近くまで一般市民が入れるようになっているのだ。

 昨日帝国への宣戦布告と同じく処刑が決定したにも関わらず、見える範囲で鮨詰め状態だ。何時の間に広報したのやら。

 今回の事を説明するサルーンは3階のバルコニーから話すのである。同じく俺も嫁さんも同じく同席している。

 先ずは宣戦布告する事が告げられ。その後に罪人として連れ出されて罪の説明をし処刑へと移行する。


「さ、テリストの出番ですよ。好きな様に処刑なさい」

「了解。鑑定持ちはいるか? 手を上げてくれ」


 元勇者2名とアリサにルーシー、龍族の2名って所か。後は騎士と文官だな。


「俺が手を上げたら対象を鑑定してスキル欄の抵抗を確認してくれ。それじゃ行って来る」


【フライ】を使い、バルコニーから飛び降りて対象に付与する【エターナルエンチャント/火抵抗Lv1】と【エターナルエンチャント/風抵抗Lv1】だ.

更に上書きが可能かどうか【エターナルエンチャント/風抵抗Lv2】を追加で付与する。早速手を上げて鑑定してみた。

 鑑定するとこうなった<永続火抵抗Lv1><永続風抵抗Lv2>と。上書きは可能、そしてきっと付与したスキルは育たないのだろう、そう考えた。


 さてと刑を執行しますかね。俺が引き受けたものだから断頭台は撤去されて単なるお披露目するだけの台になっている。

 対象は猿轡をはめられ、後ろ手に縛られ、足首を縛られている。

 足首を持ち上空へと飛び。ジャイアントスイングの様に脇には固めないがその場で回転し、徐々に角度を変えて縦回転へと変え、斜め上50°程度でぶん投げる。


「さてさて。いっちょ刑を執行しますかね【炎よ還元し、圧し圧し爆散焼き尽くせ、フレイムバースト】」


 エクスプロージョンの火魔法版だが、発動キーワードが適当でも発動したのだった。飛んで行く速度より魔法の速度の方が圧倒的に早く。結構な高度で着弾したのだが。その爆圧はすさまじいものがあった。熱風が到達するほどに。

 肉片すら残らず。灰が落ちたかすら不明だ。嫁さんどころか騎士も一般の観戦者も声1つ出さずに固まっているのだった。その隙に引っ込みましたとも。余計に注目はされたくは無いのだよ。

 さてさて。部屋へ戻ってアイスクリームでも作りますかね。いや、熱いと追い出されるか……。

 一先ず休憩と部屋へ戻るのだった。

 そして、当然の様に嫁たちから突っ込まれるのだ。


「テリスト。何ですかあれは?」

「だから処刑だろ、爆散させた。終わり」

「あ、あきれてものが言えませんわ」

「なら言うなよ」

「平常運転ですわね」

 呆れてますと目頭を押さえている。だから先に言っておいたのだが伝わってなかったのか。


「目の前で処刑するのかと思いきや、グロさが少なくて結構でしたが。あれはありませんよ」

「だから言っただろ。受ける前にとんでもない事になるって、それで鑑定したか? どう思う」


 追及される前に話をずらす。言い寄られても済んだ話なので追及のしようが無いが。


『特殊な表現になっていたな。あれではスキルが育たないのではないか?』

「試した事が無いから断定は出来ないけど育たないと思う」

 付与で切っ掛けを与えたら、それ以降育てるのが楽とかありえない。俺の苦労が反映されている気がする。

「それでも火傷はしなくなるし感電しても麻痺しないんだから試す価値はあるわね」

「その為に死刑囚を対象に実験したのですね」

「カーラ正解だ。今後スキルが成「サルーン陛下、皆様方申し訳ございません。バーナル王国とカリース連邦からの使者の方が参られております」


 ちっ。かぶせて来たか。重要でなかったからまあ良いが。


「魔物ハンターギルドへ出向されている方ですか?」

「左様です」


 魔物ハンターギルドは中立のはずだが、その辺り本当に曖昧だよな。各国の持ち味に浸食されていると見るべきか。帝国へ行った際に利用するつもりだが、この辺りを念頭に入れて対処する方が望ましそうだな。

 皇国内にある魔物ハンターギルド本部だからこそ可能な事だが、各国の大使館などは存在しない。そんな施設を作ろう物なら早晩に諜報機関に早変わりするからだ。そう言う意味では皇国は厄介な組織を内に招いているとみて良い。

 中立として送り込まれた者が、国からの要請で使者に早変わりしてる時点でお察しだろう。ま、俺たちが極端に強くなっている事から、情報が抜けたとしても実行に移せる国は存在しないとは思うが。


「二階の会議室へお通しなさい。ハーンス室長とバーニング近衛騎士団長も呼びなさい」

「はい。円卓の間で宜しいでしょうか?」

「そうですね。人数的にも入ります。そこで宜しいでしょう。移動しますよ」

「そういう事なら、俺は調理場に行ってアイスクリームでも作っとくかな」


 この手の会議は丸投げで良いだろ。俺が入るとどうも話がややこしくなる傾向だし、俺は実行部隊に入れればそれで十分だ。


「馬鹿な事を言ってないで来るのよテリ」


 アリサとカーラのコンビに両脇を抱え込まれて連れて行かれるのだった。逆向きに引きずられて行くので踏ん張れずに逃げれないのだ。そもそも、同程度の力量の為に逃げられないのだが。

 彼方は1階の応接室からご案内となり。俺たちの方が早く到着して待つのだった。一番奥がサルーンで両隣はハーンス室長とバーニング近衛騎士団長の席だ。そしてさらに両隣は守護龍の3名でその横が俺。そこから嫁になった順番で割り振られて座るのだった。

 そして相手方が到着してお茶とお茶菓子が運び込まれてメイドたちが退室し、話し合いの開始となる。


「サルーン陛下におかれましてはご機嫌麗しく。突然の申し込みにも関わらずお時間を頂き誠にありがとうございます」

 やっぱりと言えば良いのか見知った顔だ。名前は知らないが……。

「前置きは宜しいですよ。今回皇国の参戦に関して異議あり、と言った所でしょうか。どうですか?」

「お気づきならば話は早いですな。横合いから獲物を奪い取る所業は見過ごせません」


 そうだろうな、確実に勝てそうな相手なのに、横合いから突かれてはうま味が皇国へと渡ってしまう。それも相手の戦力は全て彼らの国の兵士たちが受けるのだ。抗議するのは当然なのだ。

 俺は参加したくなかったんだと表現する為に、お茶を啜り。茶菓子をバリバリと音をたてて食すのだった。会議? そんなこと知らんよ、を行動で示す。


「それでは屈辱を受け、そのまま放置しろとおっしゃるのですね。それは国政への干渉です。お二人共に皇国を愚弄されるおつもりか?」


 そう、此方は対外的な面子を潰すのか、と相手に突き付ける他ない。拒否された事による威厳の損失。それは拒否した2国へと向く事になる。国家間に亀裂が入るが、どう取り繕い、参戦させない様に説得するのかが見ものだ。

 あっさりと食べ終わり。量が量で足りないからとでっかいパフェを取り出して食べるのだった。

 誰も俺の事など気にもせず、そのまま会談は続くのだ。


「そう熱くならずに。どうですかな、我々に代理を任せたとして観戦なさっては」


 それでは弱すぎるな。此方は引かないだろう。いっその事抱き込み、連合所属に組み入れて共同戦線の構築、これが彼方にとって最も利益を上げる方法だ。気が付くか分からないが。

 もし共闘となれば俺が画策している帝都襲撃も、3国連合による成果の一つとなり、皇国の分け前を多く振らずに済む。そもそも後出しじゃんけんでは無いが、その事を指摘して割り当てを絞る事も可能だ。皇国の面子を潰さない程度であればとの注意書きが付くが。


「今回だけの事が原因だとお思いか? 此方には異世界より拉致された被害者が2名もいるのですよ。その様な状態で観戦など出来ようはずもありますまい」

「ですが。戦後処理はどうなされるおつもりか? 3カ国も交えてでは纏まるものも纏まりませんぞ」

「それこそ外交官のお手並み拝見と言った所でしょう。違いますか? それとも、その程度すら締結する力量の方がいないのですか?」


 ほう、けっこう突っ込むな。その程度の話し合いで締結する事など簡単でしょうと言い放ったのだ。これでは相手は引くに引けないだろう。

 交渉能力が皇国より低いですと言ったも同然になるからだ。

 見栄を張るならば乗っかるしかないが、どう出るかな?


「これはこれは手厳しい。しかし、強引に参戦なされば横合いから奪ったと見なされますぞ。それこそ国益を損なうのでは無いですかな?」


 別の視点で突っ込むには良い手だがこれも弱すぎるな。参戦表明の処刑をされる前に来るべきだったな。事が済んだ後にその様な事を言われても引くはずがない。タイミングを見誤ったな。残念ながら。


「被害者2名をも皇家へと迎え入れておきながら、何も手を下さず高みの見物するのとどちらが国益を損なうでしょうか? それこそ臆病者と罵られましょう。それこそ国としての恥です」

「これは弱りましたな。何を言われても参戦なさるおつもりか?」


 参戦表明してなお、参戦しないのと指摘された横合いからの参戦、よりどちらが恥になるのか。そこは比べなくも無いだろう。

 よって、どんな指摘をされようとも参戦は確実で後には引けないのだ。


「帝国の者を処刑して一歩も引かぬ覚悟を示しました。交渉に来られるのでしたら昨日のうちに来るべきでしたね。お分かりですか? 昨日お知らせした時点で交渉に来なければならなかったのですよ。参戦せず高みの見物を決め込めば。こちらが嘘を付いたとも取られる。お二人ならばおわかりでしょう? それすら分かりませんか?」

「確かに。その点は此方の落ち度でしたな。皇国からすれば既に火蓋は切って落とされていますか」


 ただ、目的をたがえてはならないのだが。その目的は皇帝とその家族の処刑であって土地の確保では無い。そこを交渉とは出来ないのかね? ちと聞いてみるか。


「なぁサルーン。引く事ってできるんじゃないか? 皇帝の家族を生きたまま捕らえて全員を引き渡してくれたら別に行かなくても良く無いか?」

「テリスト殿、それは無理ですぞ。よしんば全員捉えたとしましょう。此方で処刑せねば勝利宣言が出来ぬのですよ。その交渉には乗れませんな」

「なるほどな、そういうものか。すまないな、戦争の経験が無いのでその手の情報を頂けるのは正直助かる」

「どう話し合おうともお互いの対面が掛かっておりますし。引くに引けない状態だと確認できました。この事を国元へ報告させて頂きますぞ」

「お願いします」


 さて、国の威厳に関しての話が纏まったのなら、これからは俺のターンで良いだろ。ちょっと話に潜り込ませてもらいましょうかね。


「でだ。お二人はすんなりと勝てると思っておられるのか?」

「当然でございましょう。長年にわたるジアラハルトとの戦争にスタンピートの被害と相当に打撃を受けております。確実に落ちましょう」


 馬鹿だ。馬鹿すぎて話にならん。ちょっといじめるか。


「それはちょっと甘く見過ぎですね。其方の国では戦争経験者は多いのですか?」

「そんな訳ありますまい。訓練はつんでおりますが未経験者がほとんどですぞ」


 だろうな、その言葉が聞きたかった。さて、口調を変えて威圧感を出すべきだな。


「なるほど。帝国は長年戦争ばかりしていたんだ。対人戦闘にかんしては実績が上で慣れている。不慣れな者の集団で対抗しようとするなら相当に被害が出るぞ。その点は理解してるよな?」

「はははっ。勿論ですとも」


 動揺したか、なら好都合。一気に畳みかけようか。


「その上でだ。勇者を勇者足り得る立場まで引き上げる為に、奴らはスキルの取得法を確立してるぞ。下手な騎士より数段上の技術者集団な訳だ。下手すると普通の騎士より3倍は活躍するかもな。それに人を殺してもレベルは上がる。それだけ精強だって事だ。

 更に、今回負ければ国が滅びる事を奴らは知っている。死ぬ覚悟で一兵になるまで引かずに攻撃して来るぞ。本当に勝てるのか?」


「も、勿論ですとも。心配はご無用です」

 見栄を張るか。それならちょっとばかり彼方の顔を立てる風に見せかけて脅すか。

「ふむ、サルーン。俺たちの参戦を一月位先に延ばすぞ。お2人の国がどれほど精強なのか是非とも帝国を相手に証明して頂こう。なーに、皇国は形だけ参戦させて頂きましたと言える程度の活躍で丁度良いだろ」


 両国の被害が莫大になるが、それはそれで此方は痛くもかゆくもないからな。


「はははっ。テリスト様もお人が悪いですな。わが国で落としてしまった場合には貴国の立場が危うくなりますぞ。直ぐにでも参戦なされた方がよろしいと愚考いたします」


 そう来るだろうと予想はしていた。これで此方も都合よく動けるな。


「その点は心配なんだよな。やっぱり参戦した方が良いか?」

「勿論ですよ。ぜひ参戦なされた方がよろしい」

「いやいや。それほど我が国の事を考えて頂けるとは感謝いたします。ぜひ参戦させて頂きたい」

「無論です。歓迎いたしますぞ」


 これで良いだろ。落としどころとしては最高の位置を掴めたな。


「許可して頂き感謝します。それでは明日に移動開始しまして参戦しますとお伝え下さい」

「はい。必ずやお伝え致します。我々はこの辺で失礼いたします。お時間頂き有難うございました」

「此方こそお出でいただき感謝します。バーニング。お見送りを」


 バーニング近衛騎士団長先導の元。2人は退室した。


「ま、あんなもんだろ。ぜひ参戦してくれだってさ。これで横槍じゃなく。許可を頂いた上での参戦になった訳だ。堂々と帝都を奪い取れる」

「はぁ。初めから交渉をテリストに任せるべきでしたね」

「いや。国益に関してはサルーンが説明した方が良い。それかハーンス室長のどちらかだな。新参者の俺が言うより説得力がある。

 それに、戦力に関しての説明なら実力者が説明する方が説得力がある。説明する内容で適任者がいるんだよ。今回はうまい具合になった。それだけだな」

「テリスト。お願いですから対外的な事もその様に振舞えないのですか?」

 あきれ顔で言われるが仕方ないのは仕方ないんだよ。


「……。あのね。流石に俺でも完璧に何でもこなせる訳無いでしょうよ。これだけは言っておくぞ。こっちの常識は最悪って言えるほど知らないからな。彼方の常識とこっちの常識を混ぜ合わせて対応してる事を覚えててほしいな」

「何処へ行こうともテリストはテリストなのですね。はぁ」

「そこ! ため息つくなよ。そりゃ変わりようが無いだろ。俺は俺なんだからさ。

 さて。部屋に戻ってアイスクリームでも作るかな」


 小太刀に付与した時点で追い出されたのは言うまでもない。穏やかな日は過ぎたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ