0:うごめく者たち
管理キーワードですが、途中増やすかもしれません。
現在位置は元アジトのあった洞窟前であった。
いわずと知れた魔力結晶石を使い、魔物の強制ランクアップを行い、途方も無い人数を殺しめた組織に属する者たちである。
それも、獣王国担当となっていた7名である。元々は9名であったが。自分たちが起こしたスタンピートに巻き込まれ、2名は死んでいたのだった。
うち2名は話し合っているが、他の5名は周囲の探索へと向かっていた。何か痕跡が無いかと。
「どういうことだ? この惨状は……」
拠点としていた洞窟の崩壊所の話ではない。洞窟の通路に沿て、山肌まで崩落しているのだ。
「俺たちの事がばれたって事でしょ。それ以外に考えられないよ」
「いや。制圧するにしてもだな。崩落処の話では無いぞ、これはな」
テリストが行った新魔法の実験過程で完全崩壊させたのだ。その事を彼らは知らない。
「あの2人がいたんだよ。それを制圧、いや、ここまでやってのけれるなら一方的な虐殺かな。それだけ実力が突き抜けた人を寄越したんでしょ」
実際にはそれほど極端にレベル差は無く、精々が30程度の差だったのであるが。
「何処から情報が漏れた? いや分かってる。皇国以外にあり得ない事はな。皇国へ戻れば俺たちの名が取り締まりの対象になってるかもしれん。どうしたものか……」
「そうは思わないけどね。考えても見なよ、エルフ族が人為的に魔物のクラスアップをしていたと方々に知れ渡ったら国としての威厳が最悪に落ちるんだよ。それは無いね」
罪をでっち上げて国際指名手配されていない事から、現時点ではそれは無いと考えているのだ。
「仮定はそれで良いとしてもだ。誰がへまをした?」
「お金の工面をしていた伯爵様や魔石を確保していた雑貨店じゃないのは確かだね。片や支援要請でお金の工面をしていましたで何の騒ぎにもならなし。雑貨店の方は商品の仕入れをしていましたと答えれば何の証拠も無い訳でしょ。
侯爵様は舵取りだけで表にはまったく出ないからね。例え疑いを掛けられたとしても、証拠が無きゃ踏み込めないでしょ。そうなると実働部隊の2つのPTの内どちらかだね。
余計な仕事もしてたでしょ。返り討ちにあって品物を調べられたんじゃないの? 設置は投げ込むだけだよ。人が来ないか監視は怠らないはずだし、そっちの線が濃厚なんじゃない?」
皇国内の実働部隊である2PT。勿論顔見知りでもある。片方のチームは飛びぬけた実力がある事からSSSランクにまで登りつめ、金銭確保担当としても魔石確保担当としても優秀だった。
もう1つのPTはどうか。侯爵の依頼で邪魔者を排除するようになってからは、その味に酔いしれ、自らも適当な人物を襲い稼いでいた。その事を知っており、返り討ちに合ったと推測したのだった。
「ありそうな話だな。この有様ではもう二度と作れんだろうし、俺たちの目的は破綻したとみて良いだろう。肝心の図もこれでは奪い去られている事は間違いない。理論や解読は大体の所で分かっているが、魔方陣の構築を考えろと言われてもお手上げだぞ」
「確かにそうだね。また魔方陣の構築から始めろと言われても流石に嫌だよ。
そもそもさ。これだけの事をやってのける人物がSSSランクの中にいないのは分りきってるんだよ。それじゃ誰がやったのか。心当たりがあるとすれば一人しか思い浮かばないね」
大陸中を震撼させた一連のスタンピート騒動、国の垣根を超え、情報共有しなければ相当に厳しいと判断された事で、魔物ハンターギルド経由で大陸中の国へ情報が流れていたのだ。
規模、質(魔物の種類)から討伐者の情報、特に活躍した者の情報はその筆頭だ。末端の魔物ハンターギルドへ情報が流れるのに時間は掛るが、首都の魔物ハンターギルドであれば流された情報の収集には事欠かなかった。
業務の一環として情報を流していたのだから嫌でも耳入る情報だったのだ。
「最初手の2つのスタンピートをほぼ独力だけで制圧し。しかも騎士数千名の囲いを突破して見事皇国への亡命を果たした。
その事からスタンピートが両面潰されたと思って調べてみれば、その亡命者がたった3人とあのボス猫だけで制圧したと来てる。そんな人物が此処へ来たとなればこの惨状も説明がつく」
そこには魔物のレベルは考慮されていないが、2度目のスタンピートの際、確実に1000体以上いた事ははっきりしている。防衛していたSSSランク2名でも可能と言えば可能だが、皇国のスタンピートを潰したその手腕から、確実にテリストが関わっているだろうとふんだのだ。
「テリスト・ファーラルにアリサと名乗る元魔物ハンターギルド受付嬢、そしてカーラ・グラグロス。そしてクインと名付けられたボス猫だね。
それにしても厄介だよ。ゴールドル共和国は獣王国と違って制圧にそれほど期間が必要では無かったよ。 そうなるとこの惨状を彼方のチームは既に見ているはずさ。俺たちも隣国なのは確かだけど監視していた期間が違うからね。何を言いたいのか分かるかい?」
各地に散った魔物クラスアップの実働部隊、その内ゴールドル共和国に赴いた者たちは既に確認していると言える状況から、あちらのPTは既に対処する為皇国へ舞い戻っている可能性がかなりの割合を占めるのだ。
「あの性格じゃ短慮起こして報復作戦でも練りそうだな」
「はぁ。まさにそれだよね。彼方は俺たちの名簿を持ってると考えて良いだろうね。いや、持っていると考えて動かないと死ぬね。
皇国内で調べれば誰が捕まって、捕まえた者まではっきり分かりはするよ。分かるんだけど戦力が違い過ぎるから即敗北する。だから絡め手を考えるはずさ。テリストの名が落ちる手をね。
それが大問題なんだよ。方々から聞こえる噂を総合するとテリストの脅威はその戦力じゃない。頭の切れようだ。
伯爵の暗殺者集団に宿屋がばれてるのに宿を変えずに返り討ちにしてるよね。あれはわざとだし。罠に填まったのは伯爵の方だよ。襲いやすい位置にいる様に見せかけて、実は逃げ込みやすい魔物ハンターギルドの傍から移動したくなかっただけだね。
そしてその恩賞を与える際にカーラ王女を嫁がせると判断を下してるのさ、力量だけなら貴族へ囲い込めばすむけど、それ以上の対応をした事からそれだけの人物だと評された事に間違いはないね」
「力量も半端じゃなく、その頭脳も侮れないっては分かったが、だから何が大問題なんだ?」
「少しは考えなよ。テリストは男だよ。さて、名を落とすのに一番手早くてテリストが何らかの犯罪を犯していると、情報の拡散を狙うなら何の犯罪にする?」
「そうだな。死人では証言出来んからその手は無い。とすれば。猫人族の男性に多額の報酬を与えて成済まし、傷害、窃盗、強姦当たりしか無いだろうな」
「そうなるよね。それが最悪の選択なんだよ。被害者に本人確認させてみなよ。直ぐに偽物の仕業とバレるよ。そうすると被害者が証言者になって加害者を探そうとするよね。それも近衛騎士が堅くガードした上でだよ。ついでにテリストが大半のスタンピートを潰した事を皇国民は知ってる」
「ちょ、ちょっと待て。なんで近衛騎士が動くんだ? テリストと接点が無いだろ」
「あのね。だから考えなよ。あれだけの戦力と頭脳の持ち主を皇国の女帝が逃がすはずないだろ。幸い結婚していないから嫁さんになってでも絡め取るね。そんな訳で、今ではテリストも立派な皇家の一員だよ。
話がずれたね。さて、テリストを貶めようとする人物は皇国にいないんだよ。守護神の様に崇められてる人物なんだから当然だよね。さて、そんな人物を敵視して名を落とそうとする者は誰でしょうか?」
「お、俺たちだな」
バレバレなのである。仮にテリストが皇家の一員になっていない場合でもテリストを保護するだろう。
確かにその功績を羨み嫉妬する者はいるだろう。だが、絶対に敵対などはしない。もし、その手を考え、実行したら、囲い込むべく動く国家上層部が黙ってはいない事は明白である。
皇国に住み込んでもらう為にも全力で敵対するものを排除するはずだ。そう、生活しやすい環境を与える事で、皇国に根付いてもらう為に。
「そう、報復を考える人物は俺たちの組織に属してる者以外には皆無なんだよね。頭の切れるテリストなら直ぐに分かる。誰が犯人なのか、苦情が来た時点で即ばれる。
本当なら理由が理由だから大っぴらには調査出来ないけど。調査する理由を与えられるんだから大っぴらに調査出来るよね。女帝の旦那が名を落とされた。十分に大義名分は立つんだよ。
後は簡単だよ。女帝が奥さんなんだから町の出入り口では全員が鑑定されて、歩きだろうと馬車だろうと船だろうと脱出手段は全て潰される。
もちろんセントラルでも全員が鑑定されるし、魔物ハンターギルドへ登録していないかの調査も即座に実行される。
ハンターであった場合には利用経歴を調べられ。町の隅から隅まで念入りに調査される。捕まるのは時間の問題だよ。後は捕まって拷問されて洗いざらい情報を抜き取られて処刑コースだね。
で、皇国に戻りたいかい?」
「ま、待ってくれ。最後に一つだけ確認させてくれ。あの馬鹿連中はそんな事もお構いなしに行動に移すと思うか?」
「思うからこそ注意喚起の為に話してるんだよ。確かに褒められた事はしてないと自負はしてるよ。だからと言って命を預けて来た仲間を死地に行かせたくないじゃないか。だから理解できるように順を追って話したんだよ」
「そ、そうか。お前が仲間に居てくれて本当に命拾いしたな」
「ただ。他国の魔物ハンターギルドへ情報が流れるだろうね。一部が動いたのか全部が動いたのか、そこまでは彼方も予想が出来ないからね。ただ言えるのは、ついでだから全員に罪を着せて国際指名手配にするだろうと予想は出来る。
此方の打てる手は、ハンター業は即時止めて、荷の卸先を雑貨店などに直接売るしかないね。そして固まっていると悪目立ちするから分散する事。そして住民として暮らす為に家を購入しなきゃ駄目だね。そちらの購入した書面を身分証代わりにしないと正式な身分証は作れないって事だよ。鑑定された時点で捕まるからね。分ったかい?」
「……。それしか手が無いのか?」
「断言できるよ。ない」
魔物ハンターギルドで荷を降ろせば、その際に人名が確認される。それは売却した品と量かから各個人へランクアップの為のポイントが割り振られるためだ。
指名手配されていた場合、その時点で御用となる。それを避ける為には直接雑貨店などに売却するしか手は無いのだ。
「そうなると時間勝負だな。俺たちが偽名で家を購入できるか、それともお尋ね者になるのが早いか。遅ければ種族から鑑定を強要されかねん。この場の調査は捨て置き。獣王国側では目立つからゴールドル共和国に潜伏するぞ」
「良く出来ました。時間勝負だよ。さっさと切り上げで移動を開始しようか。他のチームも気がかりだけど、何より自分たちの命を守ってこそでしょ。
ここに集まるのは彼方も知ってるからね、監視対象になってるのは確実だよ。後の者には悪いけど情報を残してあげるのは自分たちの首を絞めてしまうからね、何も残さずに行くよ」
探索に出た者を呼び集め。ゴールドル共和国への移動を即座に開始して説明を行うのだった。