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告白  作者: 桜餅
1/3

卒業

■シチュエーション

高校卒業を間近に控えた通学


■登場人物

・沙彩

 本作の主人公。子供の頃から、幼馴染みの亮一に恋心を頂いているも、告白出来ずにいる。


・亮一

 主人公の幼馴染み。沙彩の事が好きだが、

 沙彩の照れ隠しの行動を自分に興味がないと思い込んでおり、告白出来ずにいる。

「――はぁ。もうすぐ卒業かー。なんだかあっという間だったなぁ……」


寒さでかじかむ小さな手を擦りながら、女の子がそう呟く。


肩まで伸びたしなやかな黒髪に時折、小さな雪が掛かっては溶け、掛かっては溶けをを繰り返している。

家を出てすぐの時は髪が濡れるからと嫌そうな顔をしていたが、傘を差すのも億劫でどうやら諦めたらしい。


「それだけ学校生活が楽しかったって事だろ?」


女の子より頭ひとつ分ぐらい背の高い中肉中背の男の子がそう答える。


「そりゃあそうだけさー。なんか結局何もしてない気がしてさー。亮一もそう思わない?」


大きくて綺麗なエメラルドグリーンの瞳で亮一を見上げて首を傾げる女の子。


「何かしたかと言われると特別な事はなにもしてないけどさ……」


その姿は初めて女の子にあった男は、まるで小動物のようでとても可愛らしいと、思う程であったが、

その姿を見慣れている亮一に取っては何気ない日常のひとつに過ぎず、普段通り答える。


「ほら、やっぱり亮一もなにもしてないじゃない。あーあー卒業までに何か楽しい事ないかなー」


「はぁ……受験も終わったんだし、やろうと思えば、何でも出来るだろ」


「んー。なんでもって、たとえば?」


「そうだな……旅行に行くとか、何かスポーツ初めてみるとか……そうだ」


「ん~? なんか思いついたの~?」


「紗綾って一応クラスの男子の中でも人気あるんだから、これを気に彼氏でも作ったらどうだ?」


「……むぅ……なんでそこで彼氏なのよ……」


紗綾が小さな顔を膨らませて、突然ムスっとする。


「いや、なんとなく……」


「ふん。そういう亮一こそ彼女は作らないわけ?」


「まぁ……好きな子はいるけど……脈なしだし……」


「えっ……? 亮一って好きな子、いるの……?」


「おい、なんでそこで信じられない物を見たような顔するんだ」


「えっだって……そんな素振り全然なかったし……ほ、ホントにいるの……?」


「……いるよ。本当に」


亮一がゆっくりとそっぽを向く。

その顔はほんのり赤く染まっており、恥ずかしそうに見えた。


「そ、そうなんだ……。同い年? どんなの子なの? 可愛い?」


紗綾が恐る恐るそう問いかける。


「えっ……まぁ。同い年で元気で明るくて、思いやりのある子だけど、ちょっとだけ我が儘、かな?」


「見た目は……普通に可愛い……よ。うん……」


「そっか……でもそんな子うちの学校にいたかな……私が知ってる子なの?」


「……知ってるか知ってないかで言えば、知ってるよ……」

少し困惑した表情でゆっくりとそう答える。

その後にお前の事だよと呟くが、小さな声は冷たい風にかき消されてしまった。


「私の知ってる人……う~ん。ダメ。分かんない。教えてよ亮一~」


こなれた様子で亮一の腕に抱きつき、お願いする。

亮一にお願いをする時はいつも腕に抱きつくのが紗綾の日常だ。

これをされた亮一は少なくとも、今までお願いを聞いてくれなかったことはないからだ。

自分の好きな子に抱きつかれて嬉しくない男はいないし、お願いを聞いてあげたくなるのも必然だが、

紗綾自身はまったくそのことに気が付いていない。


「……言ったとして、絶対に笑わないって約束してくれか?」


「……うん。大丈夫。絶対笑わないよ。だから教えて……?」


「……すぅーはぁ……」


亮一が静かに深呼吸をする。

亮一に取っては、脈のない告白であり、結果が分かりきっているだけに覚悟のいる告白であるが、

それをこれから聞く当の本人は、まさか自分が告白されるとは思っておらず、深刻級するのをを見て、大げさ過ぎと笑っていた。


「……俺が好きなのは沙彩、お前だよ」


覚悟を決め、はっきりとして声でそう伝える。


「……え? えっ……?」


まさか自分の名前が出てくるとは思ってもみなかった沙彩が突然の告白に困惑し、立ち止まる。


「あ、あはは……もうやだなぁ亮一。冗談を言うならもうちょっとマシな冗談にしてよ~」


絶対に笑わないという約束を忘れて、自分を落ち着かせるために笑顔を見せる。


「っ……俺は、本気だぞ。ずっと、沙彩の事が好きだ」


「亮一……」

真剣な表情の亮一を見て、冗談ではないことにようやく気が付いた沙彩が正気を取り戻した。


「なんで……なんで私、なの……? 可愛い子ならクラスに一杯いるでしょう? なのになんで……」


私なの……? と言いたげな表情を浮かべる。

いつもの沙彩なら言葉に出すところだが、想い人からの突然の告白で怖くなり、言葉に出来なかった。


「他の誰でもない、沙彩が好きなんだ」


「元気で明るくて、思いやりがあって……勉強が苦手で、我が儘でイラっとする事もあるけど、」


「でも、そういう所も含めて可愛くて、何より一緒に居て楽しいと思えるから」


「そんなの人、沙彩以外いないんだ」


「亮一もばか……褒めるのか、貶すのかどっちかにしてよ……」

亮一の真っ直ぐな言葉に恥ずかしくなり俯く。


「ごめん……。でも、本当の事だからさ……」


「えっと……ありがとう……」


「ど、どういたしまして……?」


お互いどう答えて良いか分からず、適当に返してしまう。


「と、とりあえずこの話しはおしまい! ほら、沙彩、早くしないと遅刻するから急ごう」

早口でそうまくし立てると、イソイソと歩き出す亮一。


「っ……ま、待って亮一!!」


「な、なに……?」


バカにされると思い、亮一が恐る恐る振り返る。


「まだ、返事、してない……その、告白の……」


顔をほんのり赤くしながら、指を弄る沙彩。

その仕草がとても愛らしく見えて、亮一は改めて沙彩の事が好きなんだなと感じた。


「い、いいよ……答えは分かってるし……ごめ――」


「ッ……バカ! バカ亮一! 何が答えは分かってる、よ! なんにも分かってないくせに!!!」


目元に涙を溜めて、大声でそう叫び、感情を爆発させる。


「亮一なんて別に格好良くないし、背もそんなに高くないし、成績も運動も普通だし、なんの取り柄もない奴だけど!」


今まで伝えたくても伝えられず、何年も何十年も溜まっていた想いをぶちまけていく。


「だけど、だけどッ! 私は、そんな亮一の事がずっと、ずっと好きなの!! どうしようなく大好きなの!!」


それはまるで食べ出したら止まらないお菓子のように次々と言葉になっていく


「私は、私はずっと……亮一の事が好きだったのッ!! でも、恥ずかしくて、言えなくて……ずっと、ずっと亮一から言ってくれる事を待ってた!」


「やっと……やっと、言ってくれたと思ったら、あっさり引いちゃうし、亮一のバカッ!!!」


自分達がいる場所が通学路であることも忘れて、感情にまかせて口早に叫ぶ。

目元に溜まっていた涙がこぼれ落ち、いくつもの筋を作り、頬を流れ雪と混じっていく。


「沙彩……」


まさか両思いだったとは想いもしなかった亮一はその場に立ち尽くす。


「バカァ……バカ亮一……」

止まらなくなった涙を子供の様に指で拭くが消えるどころかどんどん溢れてくる。


「……ごめん、沙彩」


ゆっくりと、だけどしっかりとした足取りで沙彩に近づき、優しく抱きしめる。


「今まで気付かなくてごめん……本当にごめん……」


囁くように何度も。ごめん……と繰り返す。



「ぐすっ……謝らないでよ……バカ……」


嬉しい気持ちと、子供の様に泣きじゃくる自分に困惑した気持ちで、沙彩も抱き返す。


――それから何分経っただろうか。一瞬とも思えるその時間を終えて、落ち着いた二人がゆっくりと顔を近づけ、口づけを交わす。


「沙彩……」


「亮一……」


お互いに惚けた顔を向け合う。そして――


「……ぷっ……くくく。ちょ、ちょっと、亮一なんて顔してるのよ! あはははは!」

さっきまでの甘々しい雰囲気はどこへやら、突然沙彩が笑い出す。


「う、うるさいな! 沙彩も変な顔してるだろ!?」

顔真っ赤にした亮一がそう叫ぶ。


「はぁあ? なんで私が変な顔するのよ!!」


「鏡で自分の顔見てみろよ! 凄いにやけ顔してるぞ」


「そ、それをいうなら亮一だってさっきから気持ち悪いぐらいにやけてるでしょ!!」


「そんな事!! ……いや、もういいや……。なんか疲れた……」


「……うん。そうだね……ねぇ亮一、腕、組んで、良い?」


「なんだよ突然。いつもならお構いなしに組んでくるくせに」


「う、うるさいなぁ! なんか恥ずかしいのよ! 察してよ!」


「そんな……理不尽な……まぁいいけど」


「やった! ……えへへ……」


長年の想いが伝わり、子供の様に甘える沙彩。


「ったく……」


呆れたような、だけど、とても嬉しそうな表情で抱きついている彼女を見て、笑顔になる。

それと同時に、亮一がどれだけ沙彩の事が好きなのかを改めて思い知った。


「あっ……予鈴……」

冬の湿った空の向こうから、授業開始五分前を知らせる鐘の音が微かに聞こえる。


「さすがに間に合わないな……」


「まぁたまにはいいでしょ? 仲良く遅刻しよう?」


「そうだな」


イタズラッ子ぽく笑う沙彩を見て、微笑み返す。


ゆっくりと、少しずつ通学路を歩いて行く。

今までより距離の縮まった通学は二人にとって、とても幸せな道に思えた――


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