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戦鬼の王国  作者: 高嶺の悪魔
第四幕 王都
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王都の日々 12

 残る数日の休暇をヴィルハルトはだらだらと過ごした。

 カレンが毎日、軍の最新情報やディックホルスト達から新部隊に推薦されている将校の考課表などを持ってやってきたが、彼はそれに見向きもしなかった。

 日がな一日をぼうっとして過ごし、陽が沈めば酒を飲み始めてしまうヴィルハルトにしびれを切らしたのか。

「中佐殿」

 教会へ行ってから三日目の朝。カレンが真面目な顔で、彼の読んでいた冊子を取り上げた。

 冊子はカレンと同じく毎日のようにやってくる弟のハルディオが置いていったものだ。

「いい加減、真面目に部隊のことを考えてください」

 迷惑そうな顔をするヴィルハルトに、彼女は叱るような声とともに推薦された将校たちの考課表の束を差し出す。それを興味も無さそうに一瞥した彼は、紙巻を一本取り出して火を点けた。

「まだ休暇中だ」

 紫煙とともにヴィルハルトが吐き出したのはそんな一言だった。

 それを聞いたカレンはほっそりとした鼻を膨らませて彼に迫る。

「失礼ですが。中佐殿には可及的速やかに実戦投入可能な部隊を編制せよとの命令が下されているはずです。であれば、休暇如何を問わず……」

「分かった、分かった」

 ことさら面倒そうに煙を吐いてから、ヴィルハルトは差し出された考課表をぱらぱらと捲る。一通り、目を通し終えた彼はそれを机に置くと言った。

「よろしい。全員取ろう」

「そんな簡単に……」

 あっさりと決めた彼の態度に、カレンが眦を吊り上げる。

 次にその口から飛びだすであろう小言を遮るように、ヴィルハルトは口を開いた。

「ディックホルスト大将やレーヴェンザール大佐から推薦されている将校なら、能力的に問題はないはずだ。彼らも、俺の癖は知っているだろうからな。それに」

 そこで言葉を切った彼は、ゆっくりと紫煙を吐き出してから、紙巻を灰皿に押し付ける。

「実際使ってみるまで、レーヴェンザールで一緒に戦った者以外は信用できない」

「信用」

 彼の言葉をカレンは憤然と繰り返した。

「信頼、ではなく?」

「ではない。もちろん」

 ヴィルハルトは当然のように頷いた。

「それは俺が彼らから勝ち得なければならないものだ。それに君、逆に尋ねたいのだが」

 鋭い目つきがカレンを睨んだ。

 休暇中は努めて表に出さないようにしていた、彼の素顔が露わになる。

「君は肝心な決断を部下に頼るような男の下で戦いたいと思うのか」

 ぐっと、何かを飲み込むようにカレンは下唇を持ち上げた。

 ヴィルハルトの言い様はあまりにも明け透けであり、彼の部下に対する考え方に対して素早く反論できるだけの言葉が彼女の頭の中には無かった。

 それでも何かを言い返そうとカレンが口を開けたのと、外から扉が叩かれる音が部屋に響いたのは同時だった。


「失礼します、あの、シュルツさんにお迎えの方がいらしてます」

 小さく開けた扉の隙間から、ウィンター夫人が窺うように顔を覗かせた。

「迎え?」

「はい」

 不審そうに訊き返したヴィルハルトへ、彼女が頷く。

「クロイツ商会からいらしたと。随分大きな馬車に乗っておられますわ」

「すぐに行く」

 ウィンター夫人の言葉に、ヴィルハルトは得心のいった顔で立ち上がった。

「ちゅ、中佐殿?」

 渡りに船とばかりに、素早く身支度を整えて部屋を出ようとしたヴィルハルトをカレンが呼びとめる。

「あの、まだお話が」

「俺は終わった。これから、古い友人との会食でね。君ももう帰っていいぞ。ウィンターさん、弟がもし来たら、今日は遅くなるから帰るようにと伝えてください」

 カレンに素っ気なく応じてから、丁寧な口調に切り替えた彼がウィンター夫人に小さく会釈をする。それにうら若き未亡人は万事了解といった笑みで頷いた。

「はい。楽しんできてくださいな」

「それでは」

 言うが早いか。カレンを置き去りにして、ヴィルハルトはとっとと部屋を出ていった。

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