王都の日々 1
お待たせしました。
賜暇の一日目。ヴィルハルトが目を覚ましたのは、すでに正午も超えた時刻であった。
体調はすこぶる悪い。当然と言えば当然で、昨晩遅く、というよりも、今朝早くまで飲んでいた酒が胃の辺りで滞留し続けている。目を覚ました後も、とてもではないが寝台から起き上がる気にならず、ヴィルハルトはもう一度、瞼を閉じた。
浅い眠りの中で、走馬灯のような夢を幾度となく繰り返し、ようやく気分が落ち着いてきたのはすっかり日も暮れようとしている頃だった。
「まあ、やっと起きてきましたね」
水を貰おうと階下へ下りたヴィルハルトを、リサ・ウィンター夫人が優しく睨んだ。
「久しぶりのお休みとはいえ、そんなにぐうたらしてばかりではいけませんよ」
小言を言いつつ、彼女はてきぱきと食事の用意を始める。どうやら、ヴィルハルトが起きてくるのをずっと待っていたらしい。
「軽いものでお願いします。その、まだ」
「はいはい。分かっています」
酒が残ったままの胃を気持ち悪そうに撫でて言った彼へ、ウィンター夫人はまったくと微笑みながら頷いた。
彼女が用意してくれたのは、洋餅に葉野菜を挟んだものと、塩気の強いスープだった。二日酔いの身には特に後者が嬉しく、ほのかに潮の香りがする澄まし汁の中には貝の身が沈んでいた。
「そうそう。お休みの間に、軍の方が来ましたよ。まだお休みですと言うと、これを残していきました」
気だるげに洋餅を咀嚼しているヴィルハルトに珈琲を用意しながら、ウィンター夫人が思い出したように一枚の紙片を彼へ手渡した。
ヴィルハルトが二つ折りにされたそれを開いて中を確認すると、そこには二日後、軍務省人事局へ出頭せよと書かれていた。彼はさして興味もなさそうにそれを一瞥してから、放り捨てるように机の上へ置いた。
まったく。休みも一日目だというのに。
そう溜息を吐く。同時に、自分のより知らぬところで何かしらの事態が動いていることを把握して、一抹の不安のようなものが彼の胸を過ぎった。すぐにどうでも良くなる。
どうにでも、なるようになると開き直ったのだった。
どの道、軍人である自分は命じられてしまえば従うより他にない。
続きは来週。