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戦鬼の王国  作者: 高嶺の悪魔
第三幕 城塞都市・レーヴェンザール攻防戦
119/202

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 ヴィルハルト・シュルツからの命令を携えたカレン・スピラ中尉は、予備隊の詰めている練兵場へと向かう途中でその指揮官、アレクシア・カロリング大尉と鉢合わせた。どうやら、南門の異変とともに予備隊を引き連れて中央広場へ向かおうとしていたらしい。

「カロリング大尉」

「副官殿か」

 カレンからの呼びかけに、アレクシアは警戒を解くように軍剣を手にしていた手を下げた。

 もう一、二区画進んだ先まで銃声が迫る中、戦場にはあまり似つかわしくない女性二人が敬礼を交わし合う。

「大尉、司令からのご命令です。予備隊は戦闘に参加せず、後方予備として市街中央広場で待機してください」

 そう伝えられたアレクシアは困ったような表情を浮かべた。

「了解したが、敵の足が思ったよりも早い。すでに第二区まで入り込まれているようだ。ギュンター大尉が防衛指揮を執っているというが、敵が多すぎて抑えきれていない。せめて、予備隊から一個小隊ほどを選抜して残していければ……」

 そこまで口にしたところで、アレクシアの声が銃声に掻き消された。

「予備隊指揮官殿!」

 少し離れた位置に居た彼女の副官、カナリス曹長が叫ぶように言った。カレンとアレクシアは弾かれたように道の両脇へと飛んだ。先ほどまで彼女たちが立っていた場所を、弾丸が唸りを上げながら飛び過ぎてゆく。

 見れば、〈帝国〉軍の軍装に身を包んだ男たちが数人、通りの向こうで射列を組んでいた。射撃を終えた彼らは、すぐに建物の影に隠れてしまう。

「ご無事か、副官殿!」

 〈帝国〉兵たちの隠れた物陰から響いてくる〈帝国〉語から、敵がもう一度射撃を行おうとしていることを聞き取ったアレクシアは、民家の壁を背にしながら道の反対側へと飛んだカレンへ向けて大声を出した。

「ええ、大尉こそ!」

 響いてきた返答に、アレクシアはほっと息を吐いた。カレンは民家の間にある、小さな路地の間に身を隠していた。

「司令には申し訳ないが、ここで応戦する! 貴女は、司令の下へ!」

「しかし……!」

 叫び返すように言ったカレンへ、アレクシアは心配するなというように言い返した。

「突出してきたのは少数だ。すぐに片づけて後退するから、貴女は急ぎ、司令に報告を!」

 それにカレンはわずかに躊躇した後で、通りに背を向けた。まさか敵の射線上に身を躍らせるわけにはいかない。

「ご武運を!」

 そう言い残すと、路地の奥へと消えた。それを見届けたアレクシアはさっと辺りを見回した。ここまで大きな通りに出ることは避け、路地を掻い潜るようにしてやってきたため、予備隊の中に先ほどの銃撃でやられた者は居ないようだった。

「曹長、予備隊の一部を残して中央広場へと向かえ。私はここであの敵を足止めする」

 アレクシアの命令に、カナリスが素早く従った。彼女が任されている予備隊は総勢八百名、増強大隊規模の兵力を持つが、その多くは志願してきた義勇兵ばかりである。下手に散開させて戦わせるには危なすぎた。

 彼女は残された兵たちを自分の声が聞こえる位置に集めると、装填を命じた。がしゃがしゃと弾を込める、やかましい音が通りに響く。

 カナリスが残していったのは、訓練でもそれなりに優秀な成績の者ばかりだったが、それでも装填を終えるまでの時間は兵によってまちまちだった。速成の教練しか行っていないのだから当然ともいえる。

 しかし、戦意には一切の不安も感じられない。

「よろしい」

 アレクシアは彼らへ頷いた。手にしている軍剣は、曇天の中でも白銀に煌いていた。彼女はそれを軽やかに振るうと言った。

「祖国を守護せんとここに集った瞬間から、諸君は騎士である。今こそ、訓練の成果を見せる時だ」

二話目。続きは来週!

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