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密着!ファンタジー警察24時~世界の平和と秩序を守る!知られざるファンタジー警察の内面に迫る~

作者: あかし瑞穂

*ルポ風パロディです。軽い内容です。ツッコミどころ満載です。


 ――ファンタジー警察。それは、数多く存在するファンタジー世界の闇を日夜捜査し、ファンタジー世界の秩序と平和を陰ながら守り続けている正義の組織である。

 この物語は、そんなファンタジー警察に密着し、知られざる彼らの活躍を記録したものである――


***


 ――けたたましい轟音と共に、閉ざされた白の扉は破壊された。複数の男たちが、部屋の中になだれ込む。あっという間にこの部屋は、黒ずくめのスーツ姿の男たちに占領された。

「なっ、なんだ貴様ら!」

 何もないがらんどうの部屋の中央に鎮座している大きな水晶玉。その水晶の前に胡坐をかいて座っていた銀色の長髪の男が、赤い瞳を侵入者に向けた。先頭に立っていた黒いスーツの男が、深々と頭を下げた。

「――異世界、デリトロール。その創造神が貴方、に間違いありませんね?」

「だったら、なんだってんだよ? さっさとここから出て行けよ!」

 スーツの男は、さっと懐から巻紙を出し、それを広げて『神』に見せた。神は立ち上がり、信じられないといった風に赤い目を見開いた。


「――貴方に『世界崩壊』の嫌疑がかけられています。署までご同行願います」

 他の男が二人、神の両脇に立ち、腕を持った。

「なにしやがる! 放せっ!」

 神が暴れるたび、白い和服の袖が揺れた。だが、拘束する腕が外されることはなかった。巻紙をまた懐に仕舞った男が、無線機のような物を上着のポケットから取り出した。

「――デリトロール創造神、確保いたしました。転移願います」


 ふぁん……と音が鳴ったかと思うと、部屋中に白い光が満ち溢れ――そして光が消えた時、部屋の中には水晶玉しか残されていなかった。  


***


 ――異空間に存在するファンタジー警察本部には、本日も様々な世界の神が拘留されていた。


「……ふむ」

 部下からの報告書を読み終えたファン警部(仮称)は、目の前のパイプ椅子に座る『神』を見た。長い銀色の髪に赤い瞳。白装束に近い服装をした整った顔立ちの男(に見える)。不機嫌そうな表情を浮かべ、片肘ついてファン警部を睨んでいた。

「……貴方は自分が創造した世界『デリトロール』において、時代を混在させた罪が疑われています」

「……あ?」

 じろりと睨む神に、ファン警部は穏やかな口調のまま話し続けた。

「まず、貴方の世界は、地球でいうところの『中世』がベースになっていますね。石造りの城に城壁、人の移動は徒歩と馬車、武器は剣と槍と弓……そうそう魔法も使えましたか」

「普通だろうがよ、よくある世界ってやつ?」

 神らしからぬ言葉遣いにも、ファン警部は顔色一つ変えなかった。灰色の机に報告書を置き、神を冷静に見つめる黒い瞳には、冷静な光が宿っていた。

「魔法体系に若干乱れが……西洋魔術と東洋魔術が入り乱れていますね。悪魔召喚の魔法陣に漢字ですか。中華風に見えますが、悪魔の名前はベルゼブブ……聖書由来ですね」

 ファン警部が細かい指摘をすると、神はあからさまにイラついた様子を見せた。

「ったく、一々うっせーんだよ、黒服野郎が」

 黒服野郎、と言われたファン警部の服装は、確かに黒づくめスーツだった。ファンタジー警察に所属する職員の大半が、黒や紺といった色合いの服装だ。目立たないためと言われているが、真偽のほどは定かではない。

「そのあたりは、まあ良しとしましょう。魔法については元々が創作のようなものですからね。ある程度は混在も許されます……ですが」

 ぎらり、と光ったファン警部の目力に、神が一瞬息を呑んだ。

「……この、レーザー砲や反重力エネルギー船はいただけません。おまけにロボットスーツまで出てくるではないですか。これではまるでSFです」

「いーじゃねーかよ」

 神がぐいっと身を乗り出し、ファン警部のネクタイを掴んで上目遣いに言った。

「大体、俺は『神』なんだぜ? あの世界は俺のモノなんだよ。世界をどうしようが、俺の勝手だろ」

 ファン警部ははあと溜息をつき、神の白い手を掴んで机の上に下ろさせた。神の睨みにも全く動じた様子もなく、ファン警部は話を続けた。

「ええ――あの世界は、貴方の創造物です。あの世界の権利は貴方にある、それに間違いはありません。ですが」

 ファン警部の声に凄みが増した。神が少し身を引いた。

「――どのような世界にも『ルール』が必要です。それがない世界は、いずれ崩壊します。そして我々の組織は『世界の崩壊』を阻止するために存在します」

「……っ」

「貴方の世界は、このままではあと数年で崩壊をきたすでしょう。中世時代に近未来の武器がある、その説明が不十分ですから。これでは、『その武器がその時代にある必然性』を証明する事は困難です」

 バン! と神が両手を机について立ち上がった。

「俺がいいって言ったらいいんだよ! 神が決めた事に、外部がとやかく口出しするなよな!」

 ファン警部の視線が神の赤い目を貫いた。警部は手元の資料にもう一度目をやり、そして神を見上げた。

「では、貴方は現状を改善する意思はない、と。そういう事でよろしいでしょうか?」

「ああ、そーだよ! 判ったら、さっさと俺を元の場所に戻せよ!」

 こんこん、とノック音の後、扉が開いてこれまた黒ずくめの男が取調室に入ってきた。

「……ファン警部。この世界からの陳情書になります。やはり、現場はかなり混乱しているようですね。魔力と磁力、電力をどう扱えばいいのか、各国の首脳陣が右往左往している、と報告が」

 渡された書類の束をぱらぱらとめくった後、ファン警部は男に頷いた。

「ありがとう、タジー警部補(仮称)。これで証拠は揃った。さて……」

 ファン警部は神に向き直った。神がうっと息を呑み、少し身を引いた。

「……貴方には色々と学んで頂かねばならないようですね。少なくとも、貴方の世界を破滅させない程度の知識は身に付けて頂かないと。貴方の世界の生き物――ヒューマロイドだけでなく、ドラゴンや魔人達からも、これ以上混乱をきたすような知識を世界に投下するのはやめて欲しい、と陳情が出ています」

 神の顔が引きつった。頬骨の辺りが一気に赤くなっている。

「なっ、なんだと!? あいつら、俺を何だと思ってやがる! 俺が全ての神だって事判ってんのか!?」

「ええ。だからこそ、ファンタジー警察に届け出があったのです。自分達では、創造神に歯向かえない。そう思ってね」

 ファン警部が目くばせをすると、タジー警部補は頷き、神の腕を掴んで手錠をはめた。

「――ファンタジー時間、十時二十一分。容疑者逮捕。これより『調律室』に連行します」

「放せっ! 俺は神だってんだろ! こんな事許されると思ってんのか!!」

 暴れる神は、あっさりとタジー警部補に取り押さえられた。どうやら神は体力はないらしい。ファン警部は立ち上がり、後ろ手に拘束された神を憐れむように見た。

「ここでは、神も容疑者の一人に過ぎません。貴方の世界以外で貴方の権限は通用しませんよ」

 タジー警部補がファン警部に会釈をし、神の肩を掴んでそのまま引き摺るように歩き出した。

「さ、行くぞ」

「は、放せっ! 俺は、俺はあっ……!」

 ――騒ぎ立てる神の声が次第に遠くなる。ファン警部はふうと溜息をつき、書類を小脇に抱えて取調室を後にした。


***


「このような『神の調律』は、よくある事なのですが?」

「まれに、という程度ですね。大抵の神は矛盾点を指摘すると、その世界を補正するためのルールや状況を追加してくれるのですが。あくまで『俺が創ったのだからそれでいい』とおっしゃる神もいらっしゃいます」

「『調律』とはどのような事をするのですか?」

「ファンタジー世界の常識をもう一度学んでいただきます。その上で、世界が崩壊しないように、アドバイス等を実施しています」

「神についてはどう思われますか」

「世界を創り出した偉大な存在です。我々は神の権限を軽んじているわけではありません。神が創造したもう世界は、神の物である。これはファンタジー警察職員一同が肝に銘じている事でもあります。ですが、神が秩序を乱し、世界を混乱させてしまう事もあります。それ程に、神の力というのは厄介なものなのです。何でも出来るがゆえに、逆にその事が自らの世界を崩壊に導いてしまう……」

「我々の使命は、崩壊する世界を一つでも多く救う手助けをする事。あくまで主役は神なのです。我々が世界そのものに介入する事は許されておりません。神自ら、世界の崩壊を防ぐ方向に舵取りをする、それが正しい道だと思っています」

「警察のアドバイスを受け入れない神もおられますが?」

「我々のアドバイスを生かすも殺すも神次第。神が受け入れる気がなければ、それまでです。我々も『必ずこうしろ』と押し付けているわけではなく、『このままでは世界が崩壊する可能性がある』、と示唆しているだけです。まあ、先程の神は態度に目が余るものがあった事と、神の世界からの陳情書が切羽詰まっていたために、強硬策を取らざるを得ませんでしたが」

「ファンタジー警察から、神に何か一言を」

「貴方の創り出した世界を大切にして下さい。世界に目を向ければ、何が必要で何が不必要なのか判るはずです。不必要な物を与えてしまえば、必ずや世界の秩序が乱れます。我々は、創造した世界が末永く存在する事を望んでいます。そのために、日夜努力を怠らず、職務に励む所存です」

「本日はお忙しいところ、ありがとうございました」


 ――以上、ファンタジー警察捜査一係 ファン警部のインタビューでした


***


「ファンタジー警察には、どのような苦情が多く寄せられますか?」

「そうですね、大半が『イメージに合わない』との苦情になります。ファンタジー世界の多くは、地球の中世をモデルにしていますが、中世に存在しなかった文化や技術を発現させてしまった場合に、全体の秩序が乱れてしまうとの危惧感から依頼が多くなるのでしょう」

「例えばどんな苦情が?」

「詳細は申し上げる事は出来ませんが、例えば単位が違う、という苦情もよく見かけます。紙幣の単位や長さ、重さ、速さといった単位から、年月日といった時間の単位まで様々です。ですが、すべての単位を創造してしまうと、逆に理解しづらい世界になる事もあります。例えば『人の背丈ほど』といえば、大抵同じ高さになりますが、『エンドロポッポ(その世界固有の生物)が背伸びしたぐらい』といっても、その世界の者以外には訳が分からなくなります。一々説明するのも時間がかかりますしね」

「ふむふむ(頷き)」

「ですから、『世界の秩序』を乱さない程度であれば、多少は他世界の文化が混ざっていても構わない、と考えています。あまりに厳しく取り締まると、神の創造心を鈍らせてしまい――遂には世界を放置するようになってしまうのです。それは我々の望むところではありません」

「では、あくまで世界を導くのは神主導であり、ファンタジー警察はその手助けをする、という位置づけなのですね」

「ええ。また、神を攻撃する生命体から神を守る事も我々の仕事です」

「え!? 神を攻撃するという事が可能なのですか!?」

「神は自分が創造した世界から攻撃を受ける事はありませんが、別世界――例えば別の世界の神から攻撃を受ける事もあるのですよ。『その世界が気に入らないから直せ』といった類の思念が、神に届くこともあります」

「神が神を、ですか。そのような事があるのですね」

「ええ。それが原因で、世界の創造が出来なくなる神もおられます。我々はそのような事態にならないよう、神からの苦情・相談も受け付けております」

「神のメンタルケアサポートもされているとは! 幅広く活動されているのですね、ファンタジー警察は」

「これも皆、世界の平和と秩序を守るためですから。我々は誇りをもってこの職務に取り組んでおります。皆様にも、是非我々の活動をご理解いただき、ご協力頂ければと願っております」

「視聴者の皆さん、ファンタジー警察は私たちが愛する世界を守るため、こんなにも努力を重ねておられる事、どうかご記憶に残していただきたいと思います。本日はありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 ――以上、ファンタジー警察捜査一係 タジー警部補のインタビューでした


***


 ――さて、皆さま。今夜は知られざるファンタジー警察の一面をご覧頂きました。私が感動したのは、皆さん真摯に世界を守るために取り組んでおられる事でした。

 ファンタジー世界は、創造神の心一つでその行く末が左右される世界です。創造神自ら迷路に迷い込んでしまう事もあれば、他からの思念によって世界を放棄してしまう事もあり得ます。だからこそ、ファンタジー警察は、そのような神にも救いの手を差し伸べているのです。

 もし、あなたの周りに、迷える創造神がおられましたら、一度ファンタジー警察にご連絡を。必ずや彼らは、力になってくれるはずです――世界を守るために。


 ――これからのファンタジー警察の活躍をお祈りし、このレポを終了とさせていただきます。ご静聴、ありがとうございました。

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