7.ゲームヒロイン佐藤桜ーヒロインサイド2
予想外に、秋人くんが転入して来てから。
ずっとずっとあまり関わらないように注意してた。
なのに、この前の練習室で微笑みかけられただけで好きになってしまった。
柔らかいふわっとした優しそうな笑顔が素敵だった。
授業開始前の教室の自分の席に座る。
なんかフラフラした。
光条くんの笑顔を真近で見てから。
光条秋人くんの笑顔が頭から離れない。
頭の中がぽやーっとして、世界が薄くピンクがかってみえる。
重症だ。
自分がこんなに惚れっぽいとは思わなかった。
それとも、ヒロインだからなのだろうか。
バイオリンを弾いても時々光条くんの事を考えてしまう。
だめだめ、音楽祭の曲の事を考えないと。
えーと、春の譜面春の譜面。
あっ、そういえば、光条秋人くんは名前に秋が入ってるんだ。
秋かぁ。
「最近、桜ってばバイオリン良い調子じゃん」
なっちゃんこと菜月ちゃんが笑顔で私の肩を叩く。
私はというと、今日もチラチラと秋人くんを見たり見なかったりして過ごしていた。
ダメだ、あれは人のもの。人のもの。
「そうかなー? 自分ではまだ譜面の読み込みが甘いかなって。なっちゃんこそこの前に明くんと合わせた時良い感じだったね」
「明くんは置いといて。肩から力が抜けて「春」的な感じに仕上がってきたと思うよ」
「えっ、そう?」
うんうん、と頷くなっちゃんに首を傾げる。
薫子さんと比べて、まだ私のバイオリンは全然だ。
薫子さんの正確さ作曲家の意図(譜面の指示や曲想や時代背景)の反映、薫子さんの技巧。
何をとっても私は不十分過ぎた。
私だって練習してるのだけど、薫子さんには追いつけない。
この前のコンクールも2位は当然だった。
薫子さんを押しのけて一位になる自分が全然想像できない。
「ねっ、肩の力抜いて」
「わっ」
なっちゃんが突然両手で肩を叩いてきた。
結構すごい音がして、周りの人が見てきた。
「春でしょ、やるのは。CDみたいに弾くロボットみたいな人の事考えないで。桜の良さは全然別物なんだから」
「なっちゃん………」
「私は桜のバイオリンが好き。信じて」
真剣な眼で私を見るなっちゃん。
いつもなっちゃんには助けられてきた。
サポートキャラだからとかじゃないと思う。
昔から友達のなっちゃんは、真面目で真っ直ぐで私の事をいつも考えてくれていた。
なっちゃんのビオラもそんな感じの音を立てる。
この前のコンクールでも、私が薫子さんを気にしてるのを感じとって、私の事が心配で騒いでしまったのだ。
後から、何であんなに大騒ぎにしてしまったのだと後悔していた。
とにかく、薫子さんに対して私が不安定だとなっちゃんまで不安定になる。
「ありがとう、なっちゃん。私もなっちゃんのビオラ好き」
なっちゃんに笑ってみせると、なっちゃんもほっとしたように笑った。
「おい、百合繰り広げてんなー。あっ、桜。英辞書借りるから」
他のクラスから来てる幼馴染の明くんが、私たちの雰囲気を叩き割る。
なっちゃんが明くんを見てわたわたした。
明くんはニヤニヤしながら、英語辞書を振ってクラスを出て行った。
明くんはピアノ以外にはデリカシーがない。
なっちゃん、そんな明くんの後ろ姿見てぼーっとしてるのはどうかと思う。
ちょっとだけ思うだけだけど。