6.ゲームヒロイン佐藤桜ーヒロインサイド
「僕の奥さんをよろしくね。桜さん」
メインヒーローの光条秋人くんが私に微笑みかけた。
警戒していたのに、ふいに微笑みかけられて顔が熱くなる。
多分、私はゲームと同じように真っ赤になってボーッとしている。
ああ、どうしよう。
好きにならないようにしてたのに。
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突然ですが。
私は乙女ゲーム『バイオリンの恋人〜恋のワルツにのせて』の世界に転生した。
頭がおかしい人だと思われるかもしれない。
だけどだけど、聞いて欲しい。
私は生まれてから高校になるまで、人よりちょっとバイオリン好きな女の子だ、と自分の事を思っていた。
コンクールに出るとライバルっぽいお嬢様がいるし、幼馴染が都合よく伴奏してくれる。友達もビオラをやったりしていた。
ビオラをやってる友達のなっちゃんは、いつも私の事を心配してくれる。私も恋の相談を受けたりとかして仲がいい。
恋についてはイマイチ分からないのだけどね。
恋を知ればもっとバイオリンの演奏にも幅がでるかも。
私は色々恵まれている充実した毎日を送ってる。
そう、思っていた。
それが、音楽に力を入れていて大学進学も有利な緑ヶ丘高校を選んで分かった。
ここは『バイオリンの恋人〜恋のワルツにのせて』の世界だ、と。
入学式で、新入生代表を務めるライバル令嬢天上薫子さんを見た。
そして、前世に一生懸命プレイしたゲームを思い出した。
前世に楽器は演奏できなくて、でも音楽に憧れてて屈折していた。
「そうね、桜さんの方が素晴らしいと思うわ。………それでよろしくて?」
頭にゲームのライバル令嬢の台詞が蘇る。
イベントでコンクール優勝が失敗した時の台詞。
ゲームと同じだと思いながらも、まさかと思う。
自分が今まで一生懸命生きてきた世界がゲームの世界。
私は入学式の中目立たないように小さく頭を振った。
違う。
私の妄想だ。
前世とかゲームとかあるはずない。
友達がサポートキャラと同じ名前だって、幼馴染がサブヒーローと同じ名前だって、もともと居る人に私の妄想を当てはめただけ。
第一、メインヒーローの光条秋人くんが見当たらない。
新入生代表は光条秋人くんだった。
そんな人見当たらない。
ほら、妄想だ。
いきなり変な妄想なんかしちゃって、私は。
私は安堵のため息をついた。
前世の記憶の私の妄想であるゲームの中で一番好きだったキャラクター。
優しくて苦しみながらも婚約者ではなく、ヒロインを選んでくれる。
ヒロインの為だけのピアノ伴奏がロマンチックだった。
エンディングは、ヒロインのバイオリンにのせてピアノ伴奏してくれる。
夕日が差し込む音楽室が素敵だった。
私はゲームのエンディングイラストを思い出した。
ファンディスクでは結婚式に………。
「桜、ちょっと桜っ」
「えっ」
「百面相やめなよ」
隣の席の河合菜月ことなっちゃんが私の肩を揺さぶった。
「入学式集中しなって」
「あっ、ごめん」
ヒソヒソ声にヒソヒソ声で返す。
私はなっちゃんに頭を下げつつ、前に集中する事にしたのだった。