宿屋にて
リーシャに半ば無理矢理に連れられた先の宿はまるでどこぞの芸能人の屋敷のようなものだった。絢爛に飾り付けられた扉は見るものを圧倒し、おいそれと立ち入ることをためらうほどである。
「さあー、ついたよ!中にはいろ!」
「ちょっ!この宿…宿なのか?めちゃくちゃ高そうだけど!こんなところじゃなくても…」
「なーに言ってんの!おんなじ宿じゃないといろいろとめんどくさいでしょ?いいから入った入った!」
背中を押され中に入るとやはりきらびやかな装飾がなされた家具が立ち並び、思わず息を呑む。
「なにやってるの!部屋行くよ!こっちこっち!」
「ま、まって!」
どうやらこの少女は場の雰囲気に慣れる暇すら与えてくれないらしい。手を引かれ部屋に向かうとまたもやそこには立派な内装が広がっていた。もはや驚きすぎて驚けない状態である。
「改めまして、私はリーシャ・メニスカス!こう見えてもAランク冒険者だよ!よろしくね!トオルくん!」
「あ、ああよろしく。…ってAランク?」
「ん?もしかしてランクとかの説明聞いてなかったの?ランクはFからSまであって、私はその中のAランクなの!」
「それってもしかしなくてもすごいんじゃないか?上から二番目ってことだろ?」
「んー、まあそういうことになるかな!」
リーシャはふふんと鼻を鳴らし胸を張る。
豊満な胸が強調されいささか目に毒である。
「それでトオル君は?なにランクなの?あれ?でも試験受けてなかったよね?どうして?」
「あー、お金がなくてまだ仮登録なんだ。だからFランク…になるのかな?」
「そうだったんだ!言ってくれればお金くらい貸したのに!」
「いやさすがに見ず知らずの人からお金を借りるのは…ああでももう門のところで借金したんだっけ…」
「えっ!もしかして街に入るお金すらなかったの?よくこの街までこれたね!」
「あーまあなんとかな。だから明日からお金を稼がないと…」
「そしたらとりあえずお金貸すよ!入場料と登録はしちゃわないと!」
「いやでも悪いし…それに…」
「悪いと思うなら依頼を受けて返してくれればいいし!私は気にしないけどね。それにまだ見ず知らずとか言うの?少なくともお互いの名前は知ってるでしょ?」
そう言うとリーシャはすこし怒ったような表情を見せる。もっとも頬をふくらませたそれはただ単に可愛らしいだけなのだが。
「ああ、悪い悪いそうだったな。じゃあ…悪いんだけど借りてもいいかな?リーシャ」
「もちろん!」
そうして満面の笑みで彼女は笑った。
その笑顔に見とれているとリーシャは思い出したように言う。
「あっ!そろそろお風呂はいろっか!」
………え?